Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#21 二人の間

 

 

 

 

 

 

 いつもの業務を終えた21時30分。着替えて外に出ると寒いと感じた。ついこの前まで汗ばむ気温だったと言うのに、季節というものは本当に変わり目が一瞬で分かりづらいものだ。

 

「あら、お疲れ様」

 

 練習着に身を包んだすみれさんは、冬の季節を感じていた僕と違って多くの汗を流していた。

 僕がバイト中も、神社の目立たないところでスクールアイドルの練習をしていた。しかも、こんな夜遅くまでと言う時間がここ最近ずっと続いている。

 

「大会近いんだよね」

 

「そうよ」

 

「応援行くから」

 

 練習に精を出していている…だけならまだ良いのだけれど、少し思い詰めた顔をしているのが最近気になっている。

 彼女達のスクールアイドル活動のことは、事詳しく詳細を把握しているわけではない。僕ができるのは、応援することだけであって、そこにズカズカと入り込む余地はないしそんなつもりも無い。

 ただ、かのんがスクールアイドル活動を始めて、初めてのイベントの時に、歌えない事に悩んで自分を追い詰めていた時と同じような顔をすみれさんはしているので、ずっと気になっていた。

 

「ねえ」

 

「?」

 

「圭太は、私たち5人の中で誰が一番センターに相応しいって思う?」

 

 その突然の質問が今のすみれさんの思い詰めたような、何かに追われているかのような表情と関係があるのだろうかと、深掘りしていると、すみれさんは、いつものベンチに座ってタオルで汗を拭きながら隣をトントンと優しく叩いた。

 座ってという身振りを察して、僕はすみれさんの隣に腰掛ける。

 

 

「センターって、真ん中で踊って歌う人の事だよね」

 

「うん」

 

「うーん」

 

 相応しい、というと選ばれなかった人たちが逆説的に相応しく無いという事になってしまうけれど、それは絶対にないと、僕は思ったことを正直に伝えた。

 

「皆んなかなあ」

 

「はぐらかすんじゃないの」

 

「だって本当だもん」

 

「そこはかのんや千砂都の方がいいって言っといた方が丸く収まっていいんじゃない?」

 

「そう?」

 

「ほら、幼馴染だからって理由でこんな面倒な質問終わらさられるでしょ。聞いたあたしが言うのもなんだけど」

 

「すみれさんセンターやるの?」

 

「エッ」

 

 虚をつかれたような表情をするすみれさんをみて、何となく質問の意図と最近の思い詰めた顔をしていた理由を察した。

 

「よかったね」

 

「えっと…」

 

「センター、やってみたいって言ってなかった?」

 

「そうだけど」

 

 やっぱり、あの時のかのんと同じだなとそこで確信が持てた。要は、自信が持てないのだろう。

 

「楽しみにしてるね」

 

「どう思う…、私がセンター」

 

「いいんじゃない?」

 

「軽いわね…」

 

「だって本当にそう思ってるんだもん」

 

 嘘偽りない。本当にすみれさんがセンターなら、きっと良いパフォーマンスになる筈だと確信を持って言った。

 僕の目を見るすみれさんは、その言葉の真偽を探っている様だったので、僕はすみれさんの瞳を見つめ返した。

 

 暫く見つめ合って、すみれさんの方から目を逸らすと、

 

「ありがとう」

 

 そう一言言った。

 

「楽しみにしてるね」

 

 さっきまで練習していた影響か、顔の血色が少し朱ばんでいるすみれさんの横顔を見ながら、少しでもすみれさんの悩みが解消される一存になれたらと。僕はそう言った。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 ラブライブ東京南西地区予選大会、と横断幕の掲げられた会場の外に出ると、予想もしない人に声を掛けられた。

 

「久しぶり!圭太くん!」

 

 クセ味のある茶髪を後ろで纏めた明朗快活な雰囲気を醸し出す聖澤悠奈さんと、

 

「久しぶり、圭太くん」

 

 紫掛かった黒字の長髪を真ん中で綺麗に分けた大人びた雰囲気を醸し出す柊摩央さんの2人もとい、サニーパッションのお二方だ。

 

「お久しぶりです、聖澤さん柊さん」

 

「もー!悠奈って呼んでって前も言ったよ?」

 

 明らかに、不満という表情を向ける彼女は、腕を組んで僕の半歩前まで詰め寄って来た。

 プンプンと聞こえるはずのない擬音が聞こえてきそうなほどに剥れる聖澤さんは僕が下の名前で呼ぶのを今か今かと待っている‥というより、そう呼ばないと返事をしてくれなさそうである。

 助けを求めて聖澤さんの後ろに立つ柊さんの方に視線を向けると、彼女は彼女で何か含みのある微笑みを僕に向けていた。

 

「……悠奈さん」

 

「よろしい!」

 

「圭太くん私は?」

 

 柊さんは意地悪げな笑みで僕を見る。

 

「摩央さん…」

 

「良くできました」

 

「揶揄わないで下さいよ…」

 

「いやぁー、圭太くんの反応が可愛いからつい」

 

 そう言って悠奈さんは可愛らしく舌を出した。

 

「かのん達なら、まだ会場にいると思いますよ」

 

 サニーパッションの2人がわざわざここに来る理由なんて分かりきっている。

 ついさっきまで行われていた、ラブライブというスクールアイドルの大きな大会の南西地区予選に出ていたLiella!のみんなに会いに来たという所だろう。

 

「あぁ、確かに今日、Liella!のパフォーマンスを見に来たのは事実だけど、会うのはまたの機会にしようかなって」

 

「どうして」

 

「次は多分ライバルとして、東京予選の前に会う機会もあるだろうから…。今は、皆んなかなり緊張して気も張ってただろうからまたの機会にしようって」

 

「次って…まだ結果でてないですけど…」

 

「あのパフォーマンスなら大丈夫。地区予選は突破だと思うよ」

 

「私もそう思う」

 

 今日のLiella!のパフォーマンスは、サニーパッションのお二方からのお墨付きだそうだ。

 僕もLiella!のパフォーマンスが1番いいと感じたけれど、僕では素人目に加えてLiella!を応援しているという主観的な目も入っているので、こうやって実力者のお墨付きがあるとすごく心強い。

 

「あんな難しいお題なのに、歌もダンスもレベルが高かったし、なによりセンターのすみれちゃんがすごくよかった」

 

「新しく入ったポニーテールの子も良かった」

 

 摩央さんのその言葉に悠奈さんがすかさず反応した。

 

「葉月恋さんだね!可愛いよねぇあの子!」

 

「お二人がそう言ってくれてるの、きっと皆んな喜びますよ。サニーパッションさんは、昨日でしたよね、予選」

 

「そうだよ!見てくれたの?」

 

「はい。配信でですけど」

 

「嬉しい!」

 

 そう言うと悠奈さんは僕の両の手を握って上下に激しく揺らす。やっぱり、この人のコミュニケーションの取り方は独特だ。

 

「どうだった?」

 

 摩央さんは、悠奈さんに手を握られ激しく揺らされている状態の僕に構わず優しく微笑みかけている。

 

「どう…とは?」

 

「質問の通り。私たちのパフォーマンスどう感じた?」

 

 求められている様な質問内容の答えが素人の僕に出せるかは自信がない。けれど、そんな事は摩央さんも100も200も承知の上だろうから、ありのまま、感じた事を話すことにする。

 

「可愛くて、美しかったです」

 

「ふふ、ありがと」

 

「それと…」

 

「?」

 

「見惚れてしまいました。本気で」

 

 事実、サニーパッションの後のグループの事は忘れてしまうくらいに、衝撃を受けた。

 

「圭太くんからの愛の告白だよ!摩央!」

 

「録音しておけば良かったかしら。言質にもなったのになぁ」

 

「本当の愛の告白だとしても、摩央さんまともに取り合わないでしょ…」

 

「分かんないよぉー?もしかしなくもないかもよ?」

 

「こういう事、言われ慣れてるでしょうに…」

 

「そんな事ないよ?どうして?」

 

「摩央さんも悠奈さんもすごく可愛いから」

 

 2人とも口を半開きに僕を見つめている。

 え、何かおかしなことでも言っただろうか。

 

「うーん、天然でこれだったらヤバくない摩央」

 

「都会ってみんなこうなのかしら」 

 

 僕の顔を眺めながら2人とも同じ様に腕を組んだ。

 

「何の話ですか…?」

 

「圭太くんのそういう素直なところが素敵だなって話ですよ」

 

「ありがとうございます…でいいんですかこれ」

 

「もちのろん!」

 

 そう言って僕のことを笑って褒めてくれる悠奈さんと摩央さん。

 

 こんな可愛い笑顔を向けられて、こんな事を言われると世の男というものは即落ちである。

 多少自分に自信のあって、それなりに華のある人生を送ってきた人ならば、「あれ、僕に気があるのかも」なんて思う人もいるだろう。だけど僕みたいな何の特徴も取り柄もない男からすれば、「これは社交辞令だから調子に乗るなよ僕」と自己暗示をかけることなんて容易いのだ。

 そういうものは、妄想の中だけの事象であることなんて分かっている。

 

 まぁしかし、こうやって簡単に笑顔一つで人の胸をときめかせられるというのは、やはりサニーパッション恐るべし。パフォーマンスだけでなく、こうやって多くのファンを虜にしてきているのだ、ファンサービス一つとっても超一流である。

 

「あ、連絡先交換してくれない?」

 

「はい?」

 

 突然の摩央さんの言葉に反射的にそう返してしまった。

 

「誰のですか?」

 

「圭太くんの連絡先です」

 

 一瞬、聞き間違えたのかということと、僕のではなく他の誰かの連絡先という2つの可能性が発生したので質問を返してしまった。

 けれど摩央さんは間違いなく、僕の連絡先と言った。

 

「え、本当に僕のですか?」

 

「うん、ダメかな?」

 

「いえ、とんでもない。僕のでよろしければ…」

 

 僕は携帯を開けて、メッセージアプリを起動する。

 自分の連絡先のIDを表示すると、既に読み込みの準備をしていた摩央さんが僕の携帯から読み取った。

 

「私も!私も!」

 

 そう言って携帯を突き出してくる悠奈さんも、僕の携帯からそれを読み取る。

 するとすぐに、2人の連絡先が僕の方にも追加されていた。

 

「メッセージするね!あと、遠慮なく私にもメッセージして来てね!」

 

 悠奈さんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

 

「は、はい」

 

「私も大歓迎」

 

 摩央さんもそう言って笑ってくれた。

 

「困ったことがあったらすぐ連絡してね!何でも大歓迎だよ!恋の相談でも!」

 

「ありがとうございます。でも残念ながら恋なんてものには僕には程遠いですね」

 

「え?いや、圭太くんそれは…」

 

「?」

 

 そこまで言うと、悠奈さんはじっと僕を見た。何かを考えている様だっただけれどそれが何かは分かりそうにもなかった。

 隣の摩央さんも僕の事を見ている。それも悠奈さんと同じで何かを探るような目をしていた。

 

「摩央ー、これってさ」

 

「何と言うか、あの子達気の毒ね」

 

 暫くして何かに気づいた様で、2人で濁しながら確認を取り合っている。

 

「圭太くん、罪だねぇ」

 

「え、何の話ですか?」

 

 全く何の話か理解できない僕は2人の顔を交互に見ることしかできなかった。

 

「これはこれで面白くない?」

 

「こら、人のあだ事を面白がるんじゃありません」

 

「でも気になるでしょ?」

 

「…それはそうだけど」

 

「ほらぁ!摩央だって一緒だよ!」

 

 そんな風に僕には到底分かりそうにない内容の話を、楽しそうで無邪気な表情で盛り上がっている2人。

 

 そんな彼女達とその場で別れるまで、学校でのことやLiella!との関係の事などを、2人の間で僕はどうしてか興味津々に根掘り葉掘りと質問攻めに合っていた。

 

 

 

 

 

 

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