Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#22 雨のち晴れ

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴鹿くーん。起きなさい」

 

 顔を上げると、英語の先生が眉を下げて僕を見下ろしていた。

 

「珍しいわね。夜更かしでもした?」

 

 そう言い放って窓際の1番後ろに座る僕の席からゆっくりと離れていく。

 寝起きの脳が覚醒していくにつれ、授業中という時間に僕は眠りこけていたことに気づいた。

 周りのクラスメートからは「怒られてやんの」とでも言う様に数名が僕をみていた。

 

 「やっちゃったなあ」と心で反省しながら、窓の外に視線を送った。

 午後14時を過ぎた時間。太陽は雲に隠れてしまって外はパラパラと雨が降っていた。昨日の夜から降っているそれは、降ったり止んだりを繰り返して、校庭の砂に幾つもの水たまりを作っていた。つまるところ、今日一日もお日様を拝んでいない。

 

 しかし、そんな天候も関係なく今日、千砂都たちLiellaは、見事地区予選を勝ち進んで東京予選出場が決まった。

 昨日から今日のラブライブ地区予選結果発表が気になってあまり眠れていなかった。それが原因で、苦手な英語の授業中に眠くなってしまったわけなのだが。

 

 次の東京予選を勝ち抜けば、Liellaは全国だ。

 口にすれば簡単なのだけれど実際はそうは行かない。東京予選に来るのは、あのサニーパッションも同じ。そして、そのサニーパッションばかりに気を取られている訳にもいかない。サニーパッションやLiellaと同じ様に、地区予選を勝ち抜いてきた猛者達が東京予選に集まって、たった一つの全国への椅子を奪い合うのだ。

 Liellaが頑張ってきたのは知っている。だからこそ、報われてほしいとも思うと、1か月半も先の予選に気もそぞろになってしまう。

 

 そんな事を考えている僕に構わず、授業はさらに先へと進んでいた。

 苦手な英語がさらに分からなくなってしまうことは分かっているけれど、今日はLiellaが地区予選を突破した安心感のせいで真面目に授業を受ける気が起きなかった。

 幸いに、今日はバイトがないので、学校が終わればすぐ家に帰って眠ろうと考えている。

 やる気の起きない授業で気を紛らわす様に、ぼーっと暫く窓の外を見ていると、5限目の授業が終了するチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 

 その後もいつも通り、6限目の現代文を受けて、いつも通り学校を後にする。

 大降り、とまではいかないどうせ降るならもっと振れよと言いたくなる様な微妙な雨足にうんざりしながら、傘をさして原宿駅を出る。

 

 土日は人でごった返す原宿も、平日のこの時間ともなると案外疎らだったりする。

 しかし、どうにも今日は一日中眠くて体が重い。

 今日のラブライブ地区予選の結果発表が気になって昨日の夜に眠れなかったというだけでなく、太陽光を浴びることのできない陰鬱な天気も影響している気がする。

 

 大きな欠伸をしながらトボトボと歩き、竹下通りの真ん中付近で、ふと携帯を見るとメッセージが来ていた様だった。

 時刻は昼過ぎくらい。昼休みも昼食を食べた後は昼寝してしまっていたので気づかなかった。

 千砂都やかのんから、内容は律儀に予選突破したという報告だった。「おめでとう」と返し、携帯電話をポケットに仕舞うと、誰かに強く袖を引っ張られた。

 

「ちょっとお兄さん」

 

「へ」

 

 反射的に振り返ると、知らない女性が僕の袖を掴んで立っていた。

 心なしか少し怒気を含んでいる気がした。

 

「な、なんですか」

 

「これ、落とした」

 

 そう言って渡されたのは大変見覚えのあるひよこのキーホルダーだった。偽装恋人関係が終了した後、「イルカのキーホルダーも貰ったからそのお返し」と、僕があの日水族館ですみれさんに渡したもののお礼も込めてということで頂いたもの。

 

「ありがとうございます。大切なものでして、どこで落としたんだろう…」

 

「原宿駅。私の前を歩いてたらポロッと落としたから、拾ってたらお兄さんを見失いかけて、追いかけてきた」

 

「わざわざすみません」

 

「で、見つけて何度も呼びかけてるのにぼーっとしてて反応が無かったから、掴んで止めた」

 

 あまり表情は変わらず淡々と僕に諭す様に説明してくる女性。それでも若干、声質に喜怒哀楽の怒が含まれている様にも聞こえる。

 

 その女性は、青いショートヘアに赤い瞳。同じ赤いリボンのセーラー服の上に薄手の茶色いカーディガンと、出立ちは学生の様だった。

 何処かで見覚えのある制服だなと思うと同時に、この辺の高校なら、結ヶ丘が真っ先に浮かんだが、制服が違うので除外した。と、そんな事は置いておいて。

 

 非常に申し訳のない事をした挙句、僕の今日の怠惰な気も悪さしてこの人に大きな迷惑をかけたのは事実。

 ここは、何かお礼をしなければならないと思った。

 会って間もない男に、何かお礼するよなんて言われたら、気味悪がられるかもしれないけれど、それで断られたらその時はその時で良いとして、しっかりと誠意を持ってお礼をするのが常識だ。

 

「あの、良ければ何かお礼をさせて頂きたいんですが…」

 

 そう言うと、ジッと赤い瞳で僕の顔を凝視すると少し間を開けて、

 

「なら、喉が渇いた」

 

そう言って、竹下通りを抜け、すぐ近くにあったカフェに行く事になった。

 

 

 

 

 

 お待たせ致しました

 そう言って運ばれてきた二つのコーヒーカップと、ひとつのモンブランケーキ。

 店員さんがそれらを机の上に並べてくれると、お辞儀をして僕らの机から去って行った。

 

「ありがとう、モンブランまで」

 

 カフェに入ってメニューを見ていると、物欲しそうにジッと一点を集中して見ていたので、聞いてみるとモンブランが好物だと言う事なので、コーヒーと一緒にそれも注文をした。

 本人はコーヒーだけで良いと遠慮していたけれど、それでさっきまで怒っていたのが紛れればと思って注文をした。

 

 お礼と言っても、見知らぬ男とカフェに入る事を希望してきたのは少し驚いたけれど、彼女も学生で、僕も制服を着ていたので学生だと踏んで、悪い事は出来ないだろうと思ったのかもしれない。僕としては、形ある例ができて良かったと、少し安堵する。あのまま、お礼はいらないと怒りながら帰られたら、少しモヤモヤしていただろうから。

 

「頂きますって、その前に自己紹介がまだだった」

 

 フォークをぴたりと空中で止めて思い出した様に僕を見た。

 

「外苑西中学校3年、若菜四季」

 

「え、外苑、」

 

 彼女の口から出たその名前に思わずそう途中まで反駁してしまった。

 そう、外苑西中学校は僕や千砂都やかのんが通っていた中学校だ。彼女を初めて見た時に、どこかで見覚えのある制服だと感じたのはそのせいだ。

 何故気づかなかったのだろうと、今振り返っても無意味な事を考える。

 

「恵比寿高校1年、鈴鹿圭太」

 

 何故か、学校名まで教えてくれたので、僕も高校の名前と自分の名前を同じ様に自己紹介する。

 

「よろしく」

 

 そう言って、僕に手を差し出してくるので、恐る恐る手を取ると、優しく握り返してくれた。

 

「あと、さっきからずっと私に敬語だけどお兄さんの方が年上だから、もっと砕けて話してほしい」

 

「そう…ならそうしようかな」

 

「でも、初めて会う人にちゃんとそうやって礼儀をきっちりできるのはお兄さんすごいね。私は得意じゃないからすごい」

 

「だって、年上かもしれないし」

 

「だから、こうやって2人でカフェに入ろうって思えたのもある」

 

「さいですか…」

 

 突然の褒めモードに少しだけたじろいでしまう。

 だってさっきのさっきまで怒りモードだったもの。

 

「私は何となく気づいてた。お兄さん高校生って」

 

「そうなの?」

 

「そんな制服ここじゃ見ないし、なんとなくだけど」

 

 そこまで言ってようやく、若菜さんが持った手でずっと空中にぶら下がっていたフォークをモンブランに入れた。

 それを頬張ると、彼女の目元が少し柔らかくなった気がした。最初は大人びていて表情が少し読み取りづらいなと思ったけれど、美味しいものを食べると表情が緩んだり、こう見るとやっぱり年相応な顔をしている。

 

「お兄さん、この辺に住んでるの?」

 

「うん、中学校も若菜さんと同じ、外苑西中だったよ」

 

「なら、先輩だね。先輩って呼ぶ事にする」

 

「好きなように呼んで」

 

「なら私は後輩。お兄さんは後輩って私を呼ぶべき」

 

「先輩はまだしも、後輩って人に対する呼称初めて聞いた」

 

「おかしいかな」

 

「まぁ、そう呼んでほしいならそう呼ぶけど」

 

「……、やっぱりいい。普通に名前で呼んで」

 

 呼ばれるところを想像したのか、読み取りづらい表情ながらに目元を下げて少し嫌そうな顔をしているのを見るに、後輩と呼ばれる事を想像していたのかもしれない。

 

 コーヒーカップを口につけると、口内にほろ苦い味が広がり鼻腔をコーヒー独特の香りが漂う。

 アイスコーヒーじゃなく、ホットが飲みたくなる季節になった。今までこう言う店では冷房がガンガンに効いていたのに、今では少し店中が暖かく感じるほどになっていた。

 

 暫く若菜さんはモンブランとコーヒーを行ったり来たりしていると、思い出したように僕を見て話す。

 

「先輩に相談がある」

 

「どうしたの」

 

「先輩、国語得意?」

 

 呼び慣れない、先輩という言葉に少しの恥ずかしさを覚えていると、若菜さんは鞄から問題集を取り出して開いた。そこには入試問題対策と大きく書かれていた。

 

「そうか、受験生だもんね若菜さん」

 

 中学3年の11月中頃ともなると、受験シーズン真っ只中。僕も通ってきた道だ。

 

「うん。長文読解が苦手。教えてほしい」

 

「理系科目がお得意で?」

 

「うん。数学と理科が得意」

 

「長文読解か。苦手ではないけど、教えられるかなぁ」

 

「先輩は文系?」

 

「どっちかと言うとね」

 

「何が得意」

 

「国語と数学はそれなりには。理科はてんでダメだけど」

 

「じゃあ教えて」

 

「教えられるかなぁ」

 

「先輩頭いいでしょ?」

 

「どうしてさ」

 

「恵比寿高校って、公立だし進学校」

 

「僕そんなに頭良くないよ」

 

「でも、受験は受かってる」

 

「まぁ、親にめんどくさいから姉弟で同じところ行けって言われて、その姉弟に教えてもらったからなぁ」

 

「姉弟って、お姉さんいるんだ」

 

「そ、双子の姉。似てないけどね」

 

 そんな事を話しながら、問題集の国語の長文読解を読む。

 

「文中の虫食いの並べ替えとかは大丈夫なの?」

 

「うん。文法とか、そう言うのは大丈夫だけど、構成をまとめたりとか掘り下げたりとか、登場人物とか作者の気持ちとかそう言う記述系が分からない」

 

「なるほどなぁ」

 

「教えてくれる?」

 

「上手く教えられるかわからないけど。構わないよ」

 

「ありがとう」

 

「ちなみに高校、どこ受ける予定なの?」

 

「結ヶ丘女子高校ってところ」

 

「え…」

 

「結ヶ丘女子高校ってところ」

 

 まさかの名前が出てくる。

 かのん達、Liellaが通っている高校だ。

 

「家から近いの。あと、メイが行きたいって」

 

「メイ?」

 

「私のクラスメート」

 

 友達と一緒のところというのも理由という事だろう。

 まぁしかし、結ヶ丘って確か私立だけど進学校だから、高い偏差値だった筈だ。

 この時期にそこを目指しているという事は、この子も頭はいい方なのだろう。

 

「とりあえず、もう一度弔文を読んで解いてごらん?」

 

「うん」

 

 そう言ってシャーペンを持つと、問題集に向かい合った。

 ひょんな事から、年下の女の子の勉強を見る事になった僕は、今日の朝から感じていた眠気と体の疎さは、若菜さんとの会話ですでに吹き飛んでしまっていた。

 

 

 それから1時間、問題集と向き合っていると時間は18時を回ろうかとしている所だったので、これでお開きという事になった。

 

 カフェを出ると、冷たい風が体を刺激する。

 隣の若菜さんも少し寒そうにしている。

 

「先輩ありがとう」

 

「いや、お礼はこっちが言わないと」

 

 事実、すみれさんからもらった大切なひよこのキーホルダーを無くしてしまうところだったところを、若菜さんが拾ってくれたのだから。

 

「先輩、彼女っているの」

 

「え、何急に」

 

 急に予期しない質問に少し驚いてしまった。

 なんだかこの手の質問を最近よくされる気がするのは何故だろうか。

 

「彼女いるの?」

 

「いないよ…」

 

「なら、大丈夫か」

 

 そう言って、携帯電話を若菜さんは取り出して、

 

「連絡先教えてほしい」

 

「え、僕の?」

 

「他に誰がいる…」

 

「構わないけど、どうして」

 

「迷惑じゃなかったら、また勉強教えてほしい…」

 

 若菜さんは僕の顔を伺うように、少し上目で僕を見るると、続けて話した。

 

「私、友達あまりいなくて教えてくれる人がいない…。先輩が迷惑じゃなければ…だけど」

 

 若菜さんの声は徐々に小さくなっていく声。

 

「構わないよ。僕で良ければ」

 

 そういうと、わかなさんはコクコクと頷いた

 

「ありがとう先輩」

 

 僕のひよこちゃんを拾ってくれたという恩もあるし、何より中学も一緒で、行こうとしてる高校が千砂都やかのん達と同じというところに、何か切っても切れなそうな縁を感じたのも事実。

 少しの間二人で話していて、表情の読み取りづらい少し不思議な雰囲気を感じる子だけれども、嫌な感じのない良い子だと感じたので、僕自身も悪い気はしない。

 二人で携帯のメッセージアプリと連絡先を交換する。

 

「もし彼女さんがいたら申し訳ないって思って。だからさっき彼女がいるかどうか聞いた」

 

「生憎、そんな人はいませんねぇ」

 

 持っていた携帯をポケットに仕舞うと、若菜さんはひらひらと手を振った。

 

「また連絡するね」

 

「うん」

 

「先輩ありがとう、またね」

 

 

 そう言って、くるりと踵を返して歩いていく。

 僕も少しの間、若菜さんのその背中を見たあと、日が暮れた帰路に着いた。

 昨日からずっと振っていた雨は、いつの間にか止んでいた。

 

 

 

 

 






四季ちゃん、書いてて楽しいっす。
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