12月25日。土曜日。
今年もあと数日もすれば終わる。そんな、年の瀬を迎える前にある大きなイベント。その名もクリスマス。
クリスマスというと、大切な人と一緒に過ごす特別な日と言うイメージがあるけれど、僕にとってそんな愛し愛される人なんて大層な人は居ない。
しかしながら今日という日は、そんないつもの惰性のクリスマスと違って、僕の中で大きな催し事があるのである。その名もラブライブ東京予選。
ほんの半年も前は、「ラブライブ?スクールアイドル?なんか聞いたことはある」程度の知識だったのが、僕の友達であるかのんや千砂都がそれを始めたことをきっかけに、その魅力を知ってしまった。
そして、そのスクールアイドルグループ「Liella!」のメンバーにはかのんや千砂都以外にも、かのんをスクールアイドルに導いてくれたクゥクゥさん、時の運で友人になれた葉月さん、バイト先知り合えたすみれさんと言う僕の大切な友人たちがいる。
今思えば、その人達は偶然にも僕の古き友人のかのんや千砂都と同じ学校で同じスクールアイドルグループに所属しているのだが、これはスクールアイドルと言う因果があったからなのかもしれない。しかし、「いやいやただの偶然かもよ?」と言われれば、「そうかもしれない」となってしまう。
じゃあもし、スクールアイドルというものが無ければ僕と葉月さんやすみれさんクゥクゥさんのとの出会いは無かったのだろうかと考えたところで、そんなパラドックスは考えるだけ無駄だなと辞めることにした。これが必然か偶然かなんて心底どうでも良い事だ。
そんな彼女達「Liella!」が今日東京予選に出場するのだ。僕としては、大切な友人たちが全国という舞台をかけて戦うのだから応援せずにはいられない。
もう何日も前から気もそぞろで、予選に出場するグループの情報やパフォーマンス動画を見たりとどうにも落ち着かない。
心春と父が野球で毎日のように巨人軍を熱心に応援している気持ちがわかった気がする。
兎に角、勝って欲しい。そう言う気持ちなのだ。
そんな東京予選を夕方に控えた今日。
肌を刺すような外の寒さとは違い、心地よい暖かさとコーヒーの香りが漂う気慣れたカフェ店内で今日も午後から僕は若菜さんの勉強を見ていた。
「先輩ここ教えて」
そう言って若菜さんはシャープペンシルで問題を指す。
僕はいつものように試行錯誤しながら若菜さんに解き方を教えると、コクコクと頷いてまた問題に取り掛かった。若菜さんは地頭が良いのか、ぼくの拙い説明でもすぐに理解してくれるので、この子は頭が良いんだなとこの勉強会で何度も感じた。
勉強会も進み、夕方になる時間。そろそろ、ラブライブ東京予選が始まる時間になる。
「先輩、今日の夕方用事あるって言ってたけど大丈夫?」
勉強もひと段落して、新たに注文したコーヒーを飲みながら、若菜さんはそう僕に言う。
「うん、ここで終わるって言うか携帯で配信見るだけだから」
「配信?」
「そう、ラブライブっていうスクールアイドルの大会があるんだけどね、その予選が今からあるんだ」
「え、ラブライブ?」
「うん、知ってるの?」
「うん、メイが好き」
そう言って若菜さんは、少しはにかみながらモンブランにフォークを入れた。
前にも聞いたことのある名前だなと、若菜さんとの過去の会話を振り返る。
「確かクラスメートって言ってた子だっけ」
「そう」
そんな話をしながら僕は携帯で配信サイトを開けると、1組目のグループがパフォーマンスを始めたところだった。
「先輩、私も見たい」
じっとそれを眺めていると、若菜さんが興味津々に僕の携帯を見ていたので、机の真ん中に横向きに置いた。
「見たことある?スクールアイドルのパフォーマンス」
「うん、メイとイベントに行ったことがある」
「レベル高いよね。プロみたい」
やはり、東京の地区予選を勝ち抜いて来ただけあって、1組目からレベルが高い事が素人目にも分かる。
「お兄さんも好きなんだスクールアイドル」
「見るようになったのはほんと最近だけど。友人がスクールアイドル始めて、そこからね。今日の予選にも出ててこの後パフォーマンスするんだ」
「すごいね。そのお友達さんのグループ名はなんて名前なの?」
「Liellaって名前だよ」
「え、Liella?お兄さんの友達って結ヶ丘なの?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、メイがすごくファンで」
「その言葉、聞かせてあげたい…」
そうしているうちに、1組目が終わる。次がLiellaで、その次の次があのサニーパッションだ。
配信が切り替わり装飾されたステージが映し出された。
「次のグループはLiella!です」としかいの女性が言うと、曲が始まる。
「頑張れ…」
そう思わず口に漏れてしまう声もお構いなしに、曲が進んでいく。
Liella!のパフォーマンスは僕が今まで見た来た彼女達の中で一番と自信を持って言えるほどに完成されていた。
〜
「先輩、今日もありがとう。またね」
そう言って、いつも通り手を振って若菜さんと別れる。
今日一日、朝からずっと降っている雪の影響なのか、いつもより寒く感じる。
雪と相まって夜の煌びやかな竹下通り付近とは打って変わり、東京予選のLiellaの結果は惜しくも2位だった。
パフォーマンス後に行われるインターネット投票は、僕も参加してLiellaに投票した。若菜さんも協力してくれたけれど、結果は1位では無かった。
1位はサニーパッションで、彼女たちが2年連続で東京代表として本大会に勝ち進む事が決まった。
実際、やっぱりサニーパッションのパフォーマンスは凄かった。見るものを虜にすると言う魔法にでもかけられたかのようなあの表現力。1位でも納得のものだった。
かと言って、かのんたちがそれに劣っていたとは思わない。
かのんも千砂都も、すみれさんや葉月さん、そしてクゥクゥさんだって、それぞれ想いは違えど目指した場所は同じで、それに向かって悩みながら努力をして来たの見て来た。
あんなに苦しんで、それでも前を向いて頑張って来たと言うのに、結果という結末が、現実を突きつけて終わる。
自信を失ってほしくない。
また、かのんが歌えなくなったらどうしようだとか、そんな事が頭をよぎる。
「悪く無かった」「惜しかったね」それ言うのは簡単だ。それで「そうだったね」の一言で終わるほど、単純なものでもない筈で。
なら、結果を受け入れて諦めるしかないのかと言うと、そう簡単なものでもない。
それでも、やるせない思いを持ち続けて行くしかない。
これが現実だと、受け止めるしかできない。
携帯を眺める。
かける言葉とか、何か言おうかとか、そんな無粋なことを考えていると、一件のメッセージが来た。
「次は、絶対に負けない」
その一言だけのメッセージに心が救われた気がした。
重くのしかかっていた気持ちが軽くなった気がした。
彼女達は、Liellaはこれからも続いていくのだと、そう思うと嬉しくなった。
今日、彼女たちは一歩を踏み出したのだ。
それが大きいのか小さいのかは分からないけれど、しっかりと地に足をつけた一歩を踏み出した。
今日も明日も、進んでいく。
変わらずに、振り向かずに、前だけを向いて、前へ前へと一歩ずつ。
弱々しく雪が舞い降りてくる空を見上げると、大きな月が覗いていた。
今となっては懐かしいとすら感じる今日までの記憶を思い出す。
4月の、葉月さんやクゥクゥさんとの出会い。
かのんが大勢の前で歌った代々木のイベント。
すみれさんとの偽装恋人関係。
千砂都の決意。
そして、そんな彼女たちが惜しくも散った東京予選。
そんな日々は思い出になって、今日も流れていく。
そんな年が、もうすぐ終わる。
〜
春が桜を咲かせている。
新芽の匂いが新しい出会いを予感させる。
一年が過ぎ、また新しい一年が始まる。
募り募って拗らせて、大きく肥大化した想い達が、形となって動き出す。
波瀾の一年が動き出す。
次回 波瀾の第二章