Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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第2章 波瀾と交錯と
#25 愛とか恋とか


 

 

 

 

 

 嵐千砂都は夢を見た。

 夢と言っても、非現実のものでもない、昔の懐かしい記憶だ。

 

 千砂都が小学生の低学年くらいの頃…。

 自分に自信が持てなくて、友達も数えるほどしか居なかったあの時。

 かのんの背中ばかりを見て、かのんに守られてばかりいた、そんな頃。

 

 ほんの数ヶ月も前に、偶々テレビで見たプロのダンサーのダンスを見た事がきっかけで、単純に見惚れてかっこいいと影響されて、それからというもの時間があれば見様見真似で公園で1人で体を動かしていた。

 足や手を交錯させたりステップしたり、最初は出来なかったことが出来るようになって、1人で嬉しくなって、そうやって1人でしていれば誰にも見られないし迷惑をかけないと、それでいいんだと思ったし、それで充分に楽しかった。

 

 

 周りが紅葉に色づき始めた季節だった。

 昼下がりの日差しが降り注ぎ、風が心地よい日。

 千砂都は、かのんと遊ぶ時以外は決まっていつもの様に、1人で家の近くの公園で、見よう見まねでダンスをしていた。

 

「嵐さん、ダンス好き?」

 

 急に声をかけられて「ヒィッ」という情け無い声が漏れてしまった。

 振り返ると、知った男の子。

 名前は鈴鹿圭太。

 その顔を見て、少し安心した。

 かのんの友達で、かのんの家の近くに住んでいる、同じ年の同じ小学校の男の子。

 この子は前にかのんを介して知り合った。

 こんな私に、いつも話しかけてくれる上に、私を揶揄って来たりする子じゃないと知ってるからと、千砂都はすぐに警戒心は解けた。

 

 彼の格好は、所々ズボンや服に泥がついていて、お鼻にも泥がついているけれど…。

 

「あっ、ええっとこれはただ遊んでるだけと言うか…」

 

 千砂都は彼の質問に答える。

 

「前から知ってたんだ、この公園でよくダンスしてるの見かけてたから」

 

「そ、そうなんだ」

 

「1人で、でもすごく楽しそうに踊ってるのも知ってるよ」

 

「……」

 

 見られてたと思うと恥ずかしい。

 

「でも、どうして?嵐さん、本当は足だって早いし運動できるでしょ」

 

「え」

 

「前にほら、かのんと3人でカブトムシ取りに行った時、スイスイ木登りしてたし」

 

「そんな事ないよ…、あれはたまたま…」

 

「どうしてそれを人前で出さないの?こんな狭い公園で1人で踊って…勿体無いよ、人気者になれそうなのに」

 

「私はいいよ…、かのんちゃんみたいに強くないし、みんなの前だと緊張しちゃうし、自信もないし…。」

 

「前から思ってたんだけどさ…、ダンス始めてみたら?」

 

「え…?」

 

「遊びじゃない、本物のダンス」

 

「私には無理だよ…」

 

「ぼく、学校でも嵐さんより綺麗に楽しそうに踊ってる人見たことないよ?」

 

「…」

 

「この前の運動会で踊ってた人たちよりも、嵐さんより楽しそうに綺麗に踊ってた人は居なかったけど」

 

「でも、それは…」

 

「嵐さん、君は多分はすごいよ」

 

 嘘を言っている…なんて到底思えないその真っ直ぐな目が印象に残った。

 

「緊張するの…。みんなに見られてると…」

 

「僕だって緊張するよ?この前の劇だって大した役じゃないのにガチガチになったよ?」

 

「そうなの?」

 

「一緒だね」

 

 そう言って笑ってくれた。

 そんな彼の顔を見ていると、思わず千砂都は本心が口からこぼれ落ちた。

 

「私、強い人間になりたいな」

 

「きっとなれるよ」

 

「そうかな」

 

「なれるさ」

 

「だといいな……」

 

「でも、そう思うならもっともっとダンス上手くなって、自分に自信をつけなきゃね」

 

「できるかな」

 

「できるさ」

 

 そう言ってくれるその言葉は、何の根拠もなかったけど、それでも千砂都の心に深く深く染み渡った。

 やってみようと、思えた。

 

「なんでそんなドロドロなの?」

 

「さっきそこの茂みに猫がいて追いかけてた」

 

 千砂都はその子の泥を叩いて落としてあげようと、手が伸びたところで、夢から醒めた。

 

 

 

 

 

 

 夢から醒めたと同時に、夢の中で伸びていた手が現実でも伸びて止まっていた。

 けたたましく鳴るアラームをそのままその右手で止める。

 リビングに出て、朝食の準備をする。

 炊飯器に残った最後の一杯分のご飯をよそい、鍋に入った味噌汁を火にかけて食卓に移動した。

 テレビをつけると、朝のニュースが流れる。

 

 千砂都の両親はすでに仕事に出ている。

 春休みなのでいつもよりはゆっくり起きられる訳だが、チンタラしている余裕はない。

 この後、いつもの如く練習が待っている。

 テレビを横目に朝食をかき込み、鏡面前で慣れた身支度を整える。

 パジャマから制服に着替え、練習着の入った鞄を手に持ち、千砂都は外に出た。

 

 まだ寒さが残る3月の末日。

 コート、とまではいかなくても何かアウターに羽織りたい程の気温。しかし、いざ着てみると少し暑かったりすると言うなんとも気温調節の難しい気温である。

 

 目を瞑ってでも歩けるほどに通い慣れた道。

 向かう先は学校。

 通りかかった公園にある針時計を見ると、9時半を指している。いつも朝はこの公園で時間を確認するのが習慣だ。

 この時間ならそこまで急ぐ必要はなさそうだと、少し歩く速度を緩めた。

 

 千砂都とこの公園とも長い付き合いだ。

 千砂都が小さい頃からあって、いつも遊んでいた公園。

 夕方の5時になるとチャイムが鳴る時計が立っていて、気持ち程度の遊具と砂場がある。

 

 今日見た夢にも出て来た公園だ。

 

 千砂都は今更なんであんな夢を見たのか分からなかった。

 偶々なのか、気まぐれなのか。しかし、夢というものはその見る人の精神状態が大きく影響していると聞くと、やっぱりそうなのかと納得してしまう程に、ここ数年の千砂都にとっての大きな悩みでもあるのだ。

 

 鈴鹿圭太、千砂都の意中の人。

 いとも簡単に、言葉巧みに千砂都を恋に落とした朴念仁。

 

 特にこの一年は、その恋愛感情に頭が振り回された。

 理由は、"不戦の約束"を解除したから。

 取り合わない奪い合わない。

 その鉄則は、千砂都とかのんちゃん、そして圭太との3人が築いて来た関係というものが破綻する恐れから守るためのものだった。

 一度だけ、中学2年生の時に圭太に好意を抱いた同学年の女の子が居て、圭太の靴箱に恋文を入れているのを目撃した為に、その恋文を圭太に見つかる前に回収して、2人が結ばれるのを阻止するという手回しを施したことがあるが、あれは後の後悔と罪悪感に押しつぶされそうになったので、もうそんな卑怯なことはしないと決めたのだけれど。

 

 しかし、高校生になって、千砂都たちとは別の高校に進学してしまい、圭太の学校での様子も分からなくなった上に、仲のいい女の子の友達なんかもできてしまう可能性だってある訳で。

 挙句、階段から転げ落ちた見ず知らずの恋ちゃんを助けるというヒーローじみた行為をしたことがきっかけで、私とかのんちゃんでその不戦の約束を解消せざるを得ない事態にまでなってしまった。

 

 それに加えて、圭太とすみれとの恋人疑惑。

 結局、色々と理由があっての偽装関係だったということなのだけれど、その時はもう脳がキャパオーバーしてまともに日々を過ごせなかったのを思い出す。

 

 そんなことが続いたせいで、圭太のことを考える時間も増えた日々になってしまったが故の、今日の夢だったのかもしれないと千砂都は結論を出した。

 

 しかし、いざ不戦の約束を解除したからと言って、何か出来たかといえばそうでは無いのが悲しい現実。

「好きだよ」

 なんて千砂都自身が直接的なことも言えるはずもなく、ただ日々が淡々と過ぎていくだけ。

 かのんも、見た感じ一緒の様なのだけれど、かと言って余裕綽々としているわけにもいかない。

 恋は、確実に圭太に友達以上のものを抱いている。

 偽装関係で圭太に助けてもらったすみれは、そうは見えないけれど心の内は分からない。すみれは、そう言う内面的なものは表に出さず隠すのが上手い子だしと、千砂都は考えた。

 クゥクゥちゃんは…、無いと信じたい。一応知り合いだし、連絡先とかも交換しているらしいけれど、深い関わりがあるのかも分からないし。

 

 かのんは、どう思ってるのだろうか。

 圭太とLiellaのみんなが仲良くしてくれるのは嬉しいけれど、痴情になってくると話は変わると千砂都は苦慮する。

 Liella以外にも、圭太が他の女の人といとも簡単に恋人になんてなってしまう可能性も無くはない。

 

 

 そこまで考えて、学校に着いた。

 

 今日も今日とて、千砂都の1日がまた始まるのだ。

 

 

 

 

 

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