Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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「久しぶりだね、先輩」

 

 そう言う若菜さんが着ている制服は、もう何度も見慣れた結ヶ丘の制服。

 しかしながら、そこに新鮮さが感じられるのは、彼女がついこの前まで中学生だった証である。

 

「久しぶりってほどでも無いような気がするけど」

 

 前回会ったのは、1ヶ月ほど前。

 目指していた結ヶ丘に合格した事はメッセージで報告を受けていたのだけれど、合格のお礼がしたいといつもの喫茶店でアップルパイをご馳走してもらったのが最後だった。

 

「1ヶ月も前なら久しぶりに含まれる」

 

「そうかなぁ」

 

「だって前は毎週会ってた」

 

 そう言ってさっきまで僕を睨みつけていた赤髪の子の横に立つと、その子の肩に手を置いた。

 

「この子、メイ」

 

「なんだよ、知り合いなのかよ四季」

 

 メイと名乗る子はその若菜さんの手を不服そうにヒョイっと払った。

 

「さっき神社で張り込んでた時に言ったよ?」

 

「そんなこと言ってたっけか?」

 

「敵意剥き出しで見張ってて私の話聞いてなかった」

 

 張り込んでた、と言う聞き捨てならない言葉が聞こえて来たのだけれど。

 この子は一体何なのだろう。

 何の理由で、僕を張り込んで後をつけて、縄張り争いの猫のように敵意を向けてくるのだろう。

 そう考えていると、街灯に照らされた若菜さんを見てある変化に気づいた。

 

「若菜さん、ピアスつけ始めたの?」

 

「うん、高校デビュー。似合ってる?」

 

「うん、似合ってる」

 

 両耳についている赤いピアスが、街灯に照らされ輝いている。

 ピアス、怒られないのだろうか。

 私立の進学校だからその辺は厳しそうな印象を持っていたのだけれど、案外寛大なのかもしれない。

 だとするなら、結ヶ丘は今の時代に合った素晴らしい学校である。

 

「そんな話はいいんだよ、お前らどう言う関係だ?」

 

 赤髪の少女は僕たちの会話を断ち切り、腰に手を当ててまた僕を睨んでいる。

 

「だから、先輩」

 

「それは聞いた。毎週会ってたってのが気になるの」

 

「勉強教えてもらってたの。受験勉強」

 

 若菜さんがそこまで言うと、赤髪の少女はまた僕を一瞥する。

 

「なんか、前そんなこと言ってたっけか」

 

「あのー、」

 

 話が逸れていきそうになるところで、僕は目の前の2人の話を遮った。

 

「なんだよ」

 

 メイという名前の赤髪の子は、不服そうに僕を見上げる。

 

「君は僕に一体何の用事なのかな…と」

 

「アッ?!そうだよ!」

 

 そう言うと、僕との距離を一気に詰めて睨みつけた。 

 

「平安名さんと、どう言う関係なんだ!」

 

「だから、さっきも言ったように…」

 

「ただのバイト仲間ならあんな親しくしたりしない筈だ!」

 

 納得いかないというより、納得するもんかとでも言わんばかりに唸り声まで上げている。

 

「平安名さんのあんな顔、ライブでも見たことねえのに!ずるい!」

 

「君は、彼女の友達?」

 

「はっ?!」

 

 そう言うと驚いた表情で後退りした。

 

「そ、そそそそんな友達だなんて、そんな」

 

「?」

 

 さっきとはまるっきり様子が違う事に少し戸惑う。

 じゃあ一体なんなのだと、疑問だけが深まっていく。

 

「私が、平安名さんと、友達なんて、もしなれたらなんて事は考えたりはするけど、うへへ……」

 

 どうやら1人の世界に入っていってしまったらしく、僕の質問の回答が返ってこない。

 どうしたものかと考えていると、1人の世界に入り浸る赤髪の少女の横にいた若菜さんが、質問の回答をくれた。

 

「ファンなんだ」

 

「え?」

 

「前言った、クラスメートでLiellaのファンがいるって。それがメイ」

 

「あ、」

 

 確かに言っていた。

 喫茶店で、Liellaの東京予選を一緒に見ながら、クラスメートにLiellaのファンがいるということを言っていたのを思い出した。

 

「メイ、名前くらい名乗らなきゃ失礼だよ」

 

「ハッ」

 

 どうやら、若菜さんの言葉で1人の世界から帰って来たようだ。

 

「悪い取り乱した。私は米女メイ」

 

「鈴鹿圭太です…」

 

 そう言うと手を差し伸べて来た。

 睨まれたり威嚇されたりしたのに、こう言うところはしっかりしているらしい。

 僕は軽く米女さんの手を取った。

 

「本当に、バイト仲間だけの関係か?」

 

「バイト仲間というか、友達として仲良くさせて貰ってるって感じかな…」

 

「う、羨ま…、じゃなくて」

 

 米女さんは若菜さんの方をチラッと見る。

 

「友達であんな距離感近ぇのか?」

 

「私とメイ、距離近いよ?」

 

「そう言われるとそうかもだけど、平安名さんは女で鈴鹿さんは男だぜ?」

 

「私に分かるわけない」

 

「ほら、やっぱり怪しい」

 

 そう言うと、鋭い目付きをまた僕に向ける。

 

「でも、先輩は怪しい人じゃない。私は知ってる」

 

「そりゃ、四季は知り合いだからな」

 

「だから、先輩が言ってる事は嘘じゃない。あの金髪の人とはただの友達って事。メイが考えるような関係じゃない」

 

 その言葉を聞いてか、米女さんの眼光は少しずつ穏やかになっていく。

 舐めるように僕を見ると、こくりと頷いた。

 

「分かった、信じるよ」

 

 その言葉にホッと胸を撫で下ろす。

 このまま、信じてくれなくてずっと突っかかられても困るのだ。

 

「でも、友達だからってあんまりイチャイチャするなよ?」

 

「い、イチャイチャなんてしてないよ!」

 

「このご時世、スクールアイドルの恋愛ネタなんて一瞬でインターネットで拡散されんだからな!」

 

「え」

 

「別に、スクールアイドルが恋愛禁止なんてルールは無いけど、応援してる人の中にはそう言うの許せねぇってなる人もいるくらい、スクールアイドルってのは人気コンテンツなんだ」

 

 そう言うと、人差し指を立てて続ける。

 

「Liellaメンバーに彼氏疑惑、なんて投稿されてみろ。よからぬ奴がこれ見よがしに炎上させやがるんだから。そんで、節度のねぇ奴に特定なんかされて見ろ。怖いぞ」

 

「今日のメイだね」

 

「なっ!?私は炎上させたりしてないだろ!た、確かに気になって後つけるような真似はしちまったけど…。その、悪かった」

 

 そう言って米女さんは頭を下げる

 

「だ、大丈夫だから、頭あげて」

 

「ありがとう」

 

「謝れて偉いねメイ」

 

「お前は私の親か」

 

 そう言って若菜さんにツッコミを入れると、また僕の方を向いた。

 

「Liella、彗星の如く現れて東京予選であのサニパに次ぐ2位だったんだからな。最近知名度爆上がりなんだから、少しは気をつけたほうがいいぞ?」

 

「ありがとう、そうするよ…」

 

 僕がそう言うと、今度は若菜さんが僕に質問をする。

 

「先輩、去年言ってたLiellaに友人がいるって話、それがあの金髪の人なの?」

 

「金髪じゃねぇ、平安名すみれ様だ」

 

「ごめんメイ。先輩、それがあの平安名さんなの?」

 

 的確に米女さんが名前を正した。しかも様付きで。

 

「もちろん、すみれさんとも仲良くさせてもらってるけど、それ以外にも…」

 

「なっ、!平安名さん以外にもまだ、Liellaのメンバーと知り合いがいるってのか?!なんで!羨ましいいぃ……」

 

「えっと…」

 

「まさかあの、澁谷さん?それとも嵐さん?」

 

「その…」

 

「なぁ、こんな事しておいて頼むのもどうかと思うんだけどさ!私、クーカーって名前の時から推してたんだ!」

 

「今度会ったら言っとくよ…きっと、喜ぶよ…」

 

「あぁぁ…なんて幸せな。そんなことで喜んでいただけるなんてぇ!」

 

 睨みをきかせていた時とは打って変わって、今度は喜びのあまりか顔の表情が蕩けている。

 

「なぁ!スクールアイドル、好きか?」

 

「え、うん」

 

「推しは勿論、Liellaだよな?」

 

「そりゃあまぁ」

 

「よし来た!なぁ、アタシとメッセージ交換してくれ!」

 

「え、なんで…」

 

「Liellaのこと、もっと話そうぜ!!私と同じLiella推しで、しかもLiellaのメンバーと交友のある同志なんてこの世に鈴鹿先輩だけだしさ!私の知らない事もきっといっぱい知ってるんだろうなぁ…。メンバーの誰と誰がカップリングでとか、あんなことやこんな事があったとか尊みの深い話とかさ!」

 

「か、カップ?」

 

「ほらほら!」

 

 そう言って、携帯を僕に向けると、子どもがおもちゃを強請るようなキラキラした目付きを僕に向ける。

 助けてと若菜さんの方を見るけど、若菜さんはこくりと頷くだけでなにも言ってこないのを見るに、交換してやってくれと言われているようだった。

 

「Liella、応援する仲間として、一緒の推し活仲間としてさ!仲良くしてくれよ!」

 

 こんな屈託のない光輝いた目を見て、断れる人がいるのなら教えて欲しい。

 でもまぁ、若菜さんの友達でもあるみたいだし、悪い人では無さそうだ。

 Liellaを本気で応援してくれている人で、そう言う意味では、僕と同じ推し仲間という事にもなる。

 ちょっと、変わった子だけど…。

 

 なら、別に断る理由なんて無いじゃないか。

 

 

「よろしく……」

 

 

 今日、僕に同じLiellaを応援する仲間ができた。

 

 

 

 

 バイト先である穏田神社に着くと、すみれさんが既に巫女服に着替えて掃き掃除を始めていた。

 

「あれ、今日練習の日じゃなかった?」

 

 確か、いつもなら今日のこの時間はまだ練習をしている時間だった筈である。

 暗くなる前に帰って来て、そこからバイトを共にするという流れなのだけれど。

 

「今日、というか当分練習は早めに終わるようになったから」

 

「そうなんだ」

 

 彼女の表情、声色、これらを全て加味して、これ以上は踏み込まない方が良いと僕の神経がそう言っている。

 何か、あったのだろうという想像でしかないけれど。

 いや、もしかしたら、ただすみれさんの気が偶々立っていて特に何の問題も無いのかもしれない。

 

 そのまま僕はすみれさんの横を通り過ぎて、事務所の中に入る。

 ロッカーで慣れた作業で作業着に着替えると、タイムカードを切って、時間を記入すると、箒を持って外に出た。

 

 すみれさんは、さっきの位置で一切動く事なくぼーっと地面だけを見ている。

 僕はすみれさんとは少し離れて、お賽銭箱周辺の掃除する事にした。

 

 暫く作業をしていると、ふと、目線を感じたので振り返ると、真後ろにすみれさんが腰に手を当てて僕のことを時って見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「別に」

 

 機嫌が悪い、と言うわけでは無さそうなのだけれど、どうにもいつもとは様子が違う。

 すみれさんは、ぼーっと僕の後ろで作業を眺めていて、どうにも居心地が悪いので、

 

「そう言えば」

 

 と、思わずすみれさんの気を逸らす。

 

「昨日、すみれさんのファンに会ったよ」

 

「そーなの?」

 

 少し呆けたようになっていたすみれさんが、話に食いついて来てくれた。

 

「うん、かなり熱烈な子でさ、昨日ここですみれさんとバイトしてるのを見られてて、色々と勘違してたらしくて問い詰められちゃった」

 

「勘違い?何の勘違いよ」

 

「すみれさんと仲良く話してたのを見て、僕たちのこと、恋人関係が何かだと思い込んでたみたいだよ」

 

「そう…」

 

 さっきの食いつきとは打って変わって、何故かトーンダウンして、俯いてしまった。

 

「もちろん違うって否定したから大丈夫だよ?」

 

「……」

 

「すみれさん?」

 

「え?あぁ、そうなのね」

 

 貼り付けたような笑顔を僕に向ける。

 なんだかむず痒いのはどうしてだろう。

 何か、すみれさんのとても重要なサインを見落としていそうな気がしてならない。

 そのサインを見落とせば、取り返しがつかなくなってしまうような…。

 

 見落とすまいとそれをすみれさんの表情や今までの言動から探っていると、すみれさんが口を開いた。

 

「私たちって、そう見えるのかしら」

 

「え、なにが?」

 

「さっき言ってた、恋人とか、そう言うふうに…」

 

「どうだろう」

 

 昨日のことがあった手前、無い、とは言い切れないのが現実である。

 ただ、スクールアイドル活動をしているすみれさんにとって、そう言った勘違いをされてしまうのはマイナスにしかならないのは事実である。

 

「すみれさんはスクールアイドルしてるから、僕と居る事で変な噂流されたり勘違いされたりしたら良く無いしなぁ」

 

「……」

 

「もしそう見えるんなら、気をつけたほうがいいかもね。スクールアイドルしてるすみれさんに迷惑が掛かっちゃうかもしれ───

 

 

「迷惑なんかじゃ無いわよ」

 

 すみれさんは僕の言葉を遮って、さっきとはまるで違う声量でそう言った。

 少しの怒気と戸惑いを含んだようなその声に、僕は何も言えずに、え?と聞き返すしかできなかった。

 

「別に、迷惑なんかじゃ無いわよ」

 

 もう一度、今度もしっかりと僕に向けてそう言い放つ。

 

「そ、そう?」

 

「むしろ……」

 

 そこまで言って、口を閉じた。

 僕と顔と地面を何度も目で往復して見ている。

 

「どうしたの?」

 

 僕のその言葉にすみれさんは、

 

「……別に、なんでもない」

 

 そう僕を一瞥して言うと、さっきまで掃除していた場所まで戻っていってしまった。

 気を損ねた、と言う感じでは無さそうなので、そこは安心したけれど、それでもやっぱり今日のすみれさんの様子は少し変だと、改めて確信した。

 

 何か、すみれさんの重要な変化やサインについての心当たりが無いことに、これは僕の考え過ぎであって欲しいと、願うしかできなかった。

 

 

 

 

 

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