Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#32 spiral

 

 

 

 

 

 

 

「圭太さんって、好きな人とか居ますか?」

 

 私の目の前に座ってメロンソーダを啜る圭太さんは、唐突なその私の質問に目を丸くしている。

 先程まで弾んでいた空気から、唐突にしんとする空気に変わって、話が違うじゃないかと、私、桜小路きな子は心で悪態をついた。

 

 私の質問の意図を読み取ろうとしているのか、丸めた目をそのままに、少し首を傾けて私を見ている。

 そりゃあそうだと、私でも思う。

 何の脈絡もなく、急にこんな事を聞かれれば反応に困るのも当然だろう。

 

 私以外の、夏美ちゃん、メイちゃん、四季ちゃんは、じっと黙って彼の回答を待っているが、話し合いの中では、ラフに自然に聞き出そうと言う事で、話を弾ませてくれる予定だった筈なのに。

 

 

 

 

 遡る事数日前。

 それも、ここのファミレスでの出来事だった。

 

 

 

 

「先輩達が痴情のもつれでギクシャクしてるだぁ?」

 

 ファミレスの窓際の席で、メイちゃんがオレンジジュースを飲みながらいつもより大きな声を出した。

 

「呼ばれて来てみれば、そんな話かよ…」

 

 そう言ってメイちゃんは夏美ちゃんを睨みつける。

 夏美ちゃんは、意に介さずと言った感じで、話を続けた。

 

「どうにも先輩達に、奥歯に何か詰まってるみたいな感じがしません?ねぇ、きな子」

 

「えッ」

 

 ぱちっと私に向けてウインクをする。

 その様子を見た、メイちゃんと四季ちゃんが、私の方へと視線を集めた。

 あんまり、巻き込まれたくない、と言うのが本音だった。

 いやだって、今ですら、メイちゃんに睨まれ、四季ちゃんも、見透かしたかの様に私をまじまじと見ている視線に、冷や汗が止まらない訳で。

 

 穏田神社で、先輩達の恐らく圭太さん絡みの痴情のもつれのギクシャクとした関係をこれ以上悪化させないため、そしてあわよくば解消する為にと、名を打って一年生で話し合いをしようと言う事に夏美ちゃんとなった訳なのだけれど。

 

「ま、まぁ」

 

 そう肯定せざるを得ないのは、確かに先輩達、名前を上げるならば、かのん先輩、千砂都先輩、すみれ先輩の3人の妙な空気感というものを感じてしまっているからである。

 

「前に、先輩に相談した」

 

「おい、四季」

 

「だって、本当のこと」

 

 四季ちゃんとメイちゃんが、私たちの知らないところで、何かあった様なそんな話を始める。

 

「以前Liellaに加入した当初に、千砂都先輩達に共通の話題として出そうとして、先輩の名前を出した時に、一瞬動揺した様な空気を感じたから、それが気になって、先輩が誰かとそう言う関係なら教えといてほしいって、言った」

 

「そしたら?」

 

 間髪入れず夏美ちゃんが聞き返す。

 

「特に、そう言う関係じゃないって」

 

「それも結局気のせいって事で話は終わったんだよ」

 

 メイちゃんが付け加える様に、オレンジジュースを啜りながら言う。

 

「それより、四季とメイが先輩と面識ある事に驚いてますの」

 

「私の先輩だから」

 

「む、私の…とは聞き捨てなりませんの」

 

 夏美ちゃんは、明らかに不服そうに四季ちゃんを見ている。

 そう言えば、四季ちゃんもよく圭太さんの話をするけれど、前からの知り合いとかだろうか。

 

「だってそうだもん」

 

「私の先輩でもありますの」

 

「さっきまでの話は何処行ったんだよ」

 

 歪み合う2人をメイちゃんが静止する。

 

「そ、そうでした。詰まる所、何かギクシャクしている事…それに先輩が関わっている事は恐らく間違いないですの」

 

「だから、何でそんな事…」

 

「勘ですの」

 

 夏美ちゃんのその理由に、メイちゃんが頭を抱える。

 分かる、分かるっすよメイちゃん。こんな大事な事を、勘の一つで確定付けしてしまうバカバカしさ。

 

 でも、

 

「その、勘って言うの…夏美以外に私もきな子も当てはまってるって事でしょ?」

 

 そう、四季ちゃんの言う通り。

 ただの思い過ごし、だけで終わらせて良いものなのだろうかと言う疑問がついてしまうくらいには、違和感というものを感じてしまっているのだ。

 

「本当にそう思うのか?」

 

「勘違いで、あって欲しいけど」

 

「……」

 

 四季ちゃんのその言葉に、メイちゃんは何か考え込む。

 少しだけの時間を空けて、沈黙を破った。

 

「その話、信じるよ」

 

「じゃあ…!」

 

 夏美ちゃんが、次にと話を進めようとするのを、メイちゃんは待てと静止する。

 

「難しく考え過ぎだ。確かに、鈴鹿さんへの好意とか、その辺でちょっともつれてるかもしれないけど。考えてもみろ、普通こんな事起きたら、ちょっとギクシャクするなんて程度じゃ済まねえ話だぞ?」

 

 確かに、そうだ。

 恋というのはそれほどに恐ろしく、禍々しい。

 

「私たちが勘づく程度で済んでるのは、先輩達がお互いを想いあってのことなのか、何かしらの"話し合い"が行われたのか、それは分からないけど…何かがあることは事実だ。それを、野暮に引っ掻き回すのは無しだ」

 

「それはメイに賛成」

 

「でも…」

 

 と、夏美ちゃんがそういうと、こくりとメイちゃんが頷く。

 

「それをずっと引き伸ばしたままってのも嫌だというのも分かる。こっちだって気づいちまったからには、気も使うしな」

 

「だから、私から提案がありますの」

 

 ここで本題ですと、待ってましたと言わんばかりに夏美ちゃんが机に手をついた。

 

「先輩に、好意が向いている事に気づかせますの」

 

「というと?」

 

「これから先、先輩が千砂都先輩達からの好意に気づかずに時が進めば余計に恋心が拗れて厄介になりかねませんの」

 

「つまりは、促して、圭太さんに自覚させるって事っす」

 

 これが、私と夏美ちゃんで穏田神社で話し合った事だ。

 

「とーする?メイ」

 

 少し考えて、メイちゃんが話す。

 

「分かった。確かに、このまま鈴鹿さんが鈍くて先輩達の思いに気づかずに行くのは、先輩達の心的に良くないしなにより、可哀想だ。ただ、」

 

 そこまで言うと、私たちを順番に視線を向けて、

 

「促すだけだ。それ以上は私たちがする事じゃない」

 

 そう続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店内に響き渡る音が鮮明に聞こえるのは、私たちの会話が止まってしまっているからなのかもしれない。

 

 和気藹々とした流れの中で、自然に質問する流れで、私もその流れを何とか汲み取ってしたけれど、肝心の盛り上げ役3名が口籠もってしまい、こんな状態になっているのだ。

 

 話が違うじゃないかと、心中で文句を垂れるけれど、もう時は戻す事はできないのだから。

 

「どうしてそんな質問?」

 

 当たり前の返答が返ってくる。

 

「えっと、ただ気になったからというか…」

 

「……」

 

「先輩、ほら、恋愛話というのが気になるのは女子高生の性の様なものですの!」

 

 ようやく、と言っていいタイミングで、夏美ちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「僕の恋沙汰なんて聞いて何の得があるのさ…」

 

「私は気になる…」

 

「えぇ…」

 

 四季ちゃんの言葉に、圭太さんは驚愕の表情を見せた。

 

「んー、そんなこと言われてもなぁ」

 

 煮え切らない、と言うより何かを言い渋っている様にも思えた。

 他人の心底を混ぜ返して良いものなのだろうかと、辞めておけばと少し後悔する。

 一度、土俵に立ってしまっては引こうにも引けないのでどうしたものかと考える。

 

「皆んな、何してるの?」

 

 静まり返っていた私たちの空気を切り裂くのは、よく聞き慣れた声。

 驚いた私たちは、その声の方を一斉に向いた。

 特に、圭太さんは、びくりと体を震わせる。

 

 千砂都先輩と、かのん先輩と、すみれ先輩が、ドリンクバーのジュースを片手に私達の机の横の通路に居る。

 

「せ、先輩」

 

「珍しい組み合わせだね。一年生と圭太って」

 

「あ、うん」

 

 千砂都先輩の声に、圭太さんが声を震わせた。

 動揺している。

 それも、"ある人"を一点に視線を向けて。

 

「学校の帰りにたまたま会って」

 

 そんな嘘をつく。

 私たちを慮ってか、自分のためなのか。

 

「……そう」

 

「せ、先輩達はどうして?」

 

「ただの雑談をしにきたって感じだよ」

 

 重い空気を察したのか、優しく纏めようと少し上擦った様な声になっている。

 

 この集まりの意図を探る様に、3人の先輩達は私たちを一瞥する。

 その目は、かのん先輩の言うただ雑談をしに来た、と言うには到底無理がある雰囲気だ。

 

 圭太さんは、俯き気味に机をじっと見つめている。

 何か気まずそうで。

 

「あんたたち、今日はせっかくの休みだから、早めに帰って身体を休ませなさいよ」

 

 すみれさんの一声の後、じゃあねと先輩達は手を振って、違う席に向かって行った。

 

「例えば、そう言う人が居たとして…」

 

 圭太さんは、3人の先輩達が去ってから掠れた声を震わせた。

 

「その気持ちに真っ直ぐになってしまうと、変わってしまう関係もある」

 

 ふと、夏美ちゃんと目が合った。

 彼女も、気づいたのかどうかは分からない。

 

 

「その人にも、好きな人だっているんだから」

 

 

 きっとそれは、一点視線の先に居た、千砂都先輩の事を言っているのだ。

 

 

 

 

 

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