Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#38 切望

 

 

 かのんのお誘いから2回ほど夜が明けた。

 デート、という言葉に昨夜はあまり眠れずあくびを連発しながら午後の授業を終えて放課後、原宿駅の改札を出た。

 

「私とデートをしてほしい」

 

 デートという言葉をあれこれ調べてみた。

 どの文献にも男女が個人的関係を深めるためだとか、色々な言い様は出てくるが最終的には、恋人同士の行為や将来的な恋人との交流…という様な恋愛感情を含んだ意味で締められていた。

 

「揶揄われてるだけだよね」

 

 どちらの理由にせよ、今の状況でかのんと出かける様な事は出来ないのは事実。

 あれから千砂都とも話せていない。

 

「独り言ですか?分かりますよ、クゥクゥも一人暮らししてから独り言が増えました。家でよく1人で喋ってます」

 

 お待たせしましたと運ばれてきたホットココアとレモンパイが並ぶ。

 僕は学校帰りに偶然クゥクゥさんと出会って、カフェに連れてこられた。

 元々今日はオフで、ラブライブの東京大会用の応援グッズを僕に渡そうと僕の家に来る予定だったらしい。

 

「このレモンパイまじ美味です」

 

 フォークで器用に一口サイズに切ると、美味しそうに頬張っている。

 クゥクゥさんに、相談してみようか。とも考えたけれど、千砂都との事を知らなければ本末転倒だと飲み込んだ。

 大事な大会が迫っているのに、余計な僕が乱すわけにもいかなかった。

 

「クゥクゥがこのカフェに圭太さんを連れてきた理由分かりますか?」

 

「え、このレモンパイが美味しいからじゃ」

 

「クゥクゥそんな食い意地張ってねぇですよ」

 

 クゥクゥさんはフォークを机に置いてホットココアを一口含んだ。

 

「口実ですよ。グッズを渡してその流れで2人で話がしたかったから」

 

 持っていたカップをコースターの上に静かに乗せる。

 

「千砂都とかのんとは話をしたの?」

 

「え?」

 

 クゥクゥさんの言葉に反射的に聞き返す。

 

「何で知ってるの?って顔…。クゥクゥには全部お見通しですよ?」

 

 可愛らしい垂れ目の瞼を指で両目とも上げると、ニヤリと僕を見る。

 僕は言葉を失う。

 あれからまだそれ程日も経っていないのに。

 

「それで、話はしたのです?」

 

 僕は首を横に振る。

 それを見たクゥクゥさんは、何も言わずにココアを飲んだ。

 この話をするために、僕をここに連れてきたのだろう。だからこそ、僕のこの返答にクゥクゥさんから何か言われるかと身構えていたけれど、そんな様子は無かった。

 

「怒らないんですか?」

 

「何をです?」

 

「東京大会も近いのに、僕のせいで…」

 

 そこまで言うとクゥクゥさんはカップを置いて話す。

 

「別に、練習はいつも通りですよ?いつも通り皆んな真剣に取り組んでます」

 

 その言葉に少しホッとする。

 

「ひょっとして、叱られたい?」

 

 クゥクゥさんはコテンと首を倒す。

 その目に僕は目を下げた。

 

「圭太さんはあれです。女心を全く分かってません」

 

 クゥクゥさんは再びフォークを手に取る。

 

「千砂都やかのんが決めた事。クゥクゥにとやかく言う権利も筋合いもありませんが、まぁずっと女々しくギクシャクされるのも困ったさんになるので、一言アドバイス」

 

 レモンパイにフォークを突き立てる。

 

「何事も一方通行や自己中心はダメです。ちゃんと、話をしなさい」

 

「僕は、ちゃんと自分の気持ちは伝えて……」

 

 そこまで言って止まった。

 言葉が出なくなった。

 千砂都と話をしなくちゃとは思っていたけれど、何を話すのかなんて決めてもいなかった。

「何も分かってないね」

 その言葉がずっと引っかかって。

 

 僕は自分の気持ちを押し付けていただけだ。

 千砂都に寄り添ったつもりで、自分勝手に決め付けて逃げていただけだ。

 千砂都の気持ちにどれだけ踏み込めたのか。

 かのんの気持ちにどれだけ気づいてあげられたか。

 

「会話って、自分の気持ちを伝えるだけじゃないんです。相手の気持ちも言葉も分からないと会話じゃないです」

 

 3人は幼馴染なんでしょ?

 と締めくくられた最後のその言葉に胸が締められた。

 

「千砂都とかのんにちゃんと会って話して。でも本当のことをかのんに伝えたら、もう喋ってくれないかも」

 

 レモンパイを食べるクゥクゥさんはにっこりと笑って言う。

 

「その時は、慰めてあげます」

 

 僕は少しぬるくなったホットココアを口に含んだ。

 

 

 

 クゥクゥさんと別れた後、少し本屋に立ち寄っている間に街は突然の雨に降られた。

 折りたたみの傘も持ち合わせていなかった僕は走って帰るか、いつ雨足が弱まるかも分からないものに賭けてここに滞在するかで迷っていた。

 

 迷いに迷って走って帰る事を決めて、水滴の世界に足を踏み出した瞬間、後ろ袖を引かれた。

 

 驚いて立ち止まり振り返ると、にっこりと笑みを浮かべた夏美ちゃんの姿。

 

「奇遇だね」

 

「そうです。って、言いたいところですが実は心配で後ろから見てましたの」

 

 え、どこから?と聞きたかったけれど、ニコニコの夏美ちゃんを見ていると質問しづらかったので飲み込むことにした。

 

「良かったら送りますの」

 

「え、いいよ。走って帰ろうと思っていたし」

 

「もう、こう言うのはありがとうございますって素直に受け取っとくのがモテる男ですよ?」

 

 そう言って大きめの傘の半分を僕に差す。

 2人で一本の傘に入りながら帰路に着く。

 

「さっきクゥクゥ先輩と何話してたんですの?」

 

「え?」

 

「あの路地曲がったところのカフェ。レモンパイが美味しいんです」

 

 何故そんな事を知っているのか。

 と言うか本当にどこから見ていたのだろう。

 夏美ちゃんはえらくご機嫌なのか足取りも軽やか。

 

「今度の東京大会観に来てくださいね」

 

「そりゃあもちろん」

 

「ふふ。いつもの先輩達目当てじゃなくて、私目当てで見に来てくれてもいいんですよ?」

 

 そう言って微笑む。

 暫く歩いて、夏美ちゃんは交代と言って、僕が刺していた傘を取り、夏美ちゃんが持つ。

 

「で、クゥクゥ先輩と先輩はなんの話を?」

 

「やっぱり気になる?」

 

「珍しい組み合わせだなぁって思っただけですの」

 

 夏美ちゃんの歩く速さが少し早くなった気がした。

 僕は夏美ちゃんの歩幅に合わせてついていく。

 

「もしかしたら、僕の言葉で傷つけてしまったかもしれない人がいて」

 

 夏美ちゃんは前を見ている。

 今度は真剣に、僕の話を聞いてくれている。

 

「その人とどうやって、こう上手く話せばいいかと悩んでて。また、自分の気持ちだけで、その人も僕に思っている事を言ってくれるかも分からなかくて」

 

「千砂都先輩?それともかのん先輩?」

 

「え?」

 

「その人って、千砂都先輩とかのん先輩ですの?それとも両方?」

 

 この前のすみれさんと言い今日のクゥクゥさんと言い、どうしてこう話してもいない事がバレてしまうのだろう。

 知られると迷惑かけるから黙っておこうって話だったのに。

 

「どーしてそう思うの?」

 

 夏美ちゃんは、僕を一瞥して

 

「勘ですの」

 

 そう言って、笑うと、

 

「私からもアドバイス」

 

 そう言って、傘から飛び出す。

 僕は慌てて夏実ちゃんの元に駆け寄ろうとしたけれど、どうやら通り雨だったらしく、雨はもう止んでいた。

 

「先輩が、千砂都先輩と、それからかのん先輩とどうありたいのか、それだけちゃんと伝えれば大丈夫ですの」

 

 夏美ちゃんはそう言って笑う。

 2人の言葉は一貫している。

 何故こうも簡単な事が出来ないのだろう。

 きっと、僕が勝手に壁を作ってしまっていたから。

 これは紛れもない自分勝手。

 

 ただ正直に、言葉を交わすことを躊躇っていたに過ぎない。

 

 夏美ちゃんはそんな僕の真上を見上げて小さくでも、はっきりと呟いた。

 

「先輩、月が綺麗ですの」

 

僕は釣られる様に見上げる。

 薄い雲の向こうに、確かに綺麗な三日月が恍惚と輝いていた。

 

「先輩」

 

 僕は空から夏美ちゃんへと目を写す。

 

「私は何があっても先輩の味方ですから。どーんと構えて話してきてください」

 

 そう言ってにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 




更新遅くなって申し訳ありません。
果林さんのssと二刀流になってしまっていますが、こちらも進めていきますのでよろしくお願いします。
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