Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#4 現状ディストラクション

 

 

 

 

 玄関の靴を見て、今日は僕以外が僕より先に帰って来ていることを確認した。お父さんのガビガビの革靴に、お母さんのスニーカー、そして"あれ"のローファー。

 お父さんのガビガビの革靴とお母さんのスニーカーは綺麗に恥に並べられているけれど、ローファーはそうでは無かった。

 

 恐らくついさっき帰ってきたんだろう。

 いつもなら、「いい加減靴くらい並べれる様になりなさい」と小言を言いながらお母さんが脱ぎ散らかした靴を並べるはずだから、それが成されていないと言う事は、本当に、ついさっきと言ったところだろう。

 反面教師、と言ったところだろうか、僕はそんなことを言われるのは嫌なので並べて端によける。

 

 左手のドアを押し開けると、リビングの灯りが僕の身体に降り注いだ。真っ暗な外から帰ったばかりのせいで目がその光を拒絶して思わず細める。おかえりぃと言う聞きなれたお母さんの声に続いて、お父さんの声も聞こえる。

 

 

「ただいまくらい言いなよ。」

 

 テレビの前のソファに寝転がる…なんて可愛らしいものじゃない。背もたれに足を上げて仰向けにスマホを触りながらそう言う人物は、ブラウスのボタン全開でキャミソールが見えている上に、下は下着一枚…いいや、別にオブラートに包む必要なんてないや、パンツ一丁で生足をひけらかして寛いでいた。

 

 鈴鹿心春、一応僕の姉である。

 

「無視かよ」

 

「……ただいま」

 

「それでよし」

 

 こちらを一度も見ることなくスマホに熱中する心春に背を向けて、夕刊を読む父の上にある時計を見ると午後7時を指そうとしていた。

 

「先にお風呂入ってきたら?」

 

 お母さんが台所で作業をしながら僕を見て言う。

 

「え、僕より先にこれに言った方がいいんじゃない」

 

「言ったわよさっき」

 

 もう一度振り返って見るとさっきの状態から微動だにせず同じ体制でスマホを触り続けている。

 

「なにしてんの」

 

「みりゃわかんでしょ、メッセージ返してんの」

 

 なんなん、そんなに齧り付くほどにメッセージ返すほどの量があるってことなの?僕そんなに友達いないからわかんない。

 

「それより、バイト始めたんだって?」

 

「うん」

 

「カフェ?」

 

「なんでカフェ?」

 

「違うの?ほら、あそこ。かのんちゃんのところ」

 

「違うよ」

 

「てっきりそうだと思ってたよ。あぁそう言えば昨日かのんちゃん見かけたっけ。なんか走ってた、体操着で」

 

 恐らく今日僕が出会ったのと同じ、スクールアイドルの練習か何かだろうと推測する。

 

「じゃあどこでバイトしてんのさ」

 

「別にいいじゃんどこでも」

 

「えー、教えてよ」

 

「神社よ神社」

 

 僕たちの会話を聞いたお母さんが口を挟んできた。

 余計な事を言わんでいいのにと心で悪態をつく。

 

「え、神社?!」

 

 そう言って心春が起き上がる。

 

「どこのよ。」

 

「何で言わなきゃなのさ」

 

「何で教えてくれないのさ」

 

 なんか言いたくない。

 場所を言って突撃なんてされてみろ、何を言われるか分かったもんじゃない。面倒くさいし鬱陶しいこの上ない。

 

「ご飯できるから」

 

 そうお母さん言う言葉で、話を逸らせたとホッとしながら僕は心春に背を向けると台所へ足を向けた。

 

 

 

 

「あんた今日一回帰ってきて私服でどこ行ってたん」

 

「別にどこだっていいじゃん」

 

「さっきから教えてくれないのは何なの。反抗期?」

 

 食事を終えて風呂から上がるタイミングが悪かったのか、2階の僕の部屋の前で心春とばったり邂逅してしまった。心春はだぼだぼのTシャツにショートパンツを履いている。

 

「うるさいなぁ」

 

「減るもんじゃないしいいじゃん」

 

「カフェだよ」

 

 そう言うと、何かを諭しましたとでも言わんばかりの憎ったらしい表情で手を叩いた。

 

「仲良いねぇあんたたち」

 

「別にいいじゃん」

 

「いや、うん。その時はしっかりと応援してあげるからさ。彼女できたら教えてな」

 

「何の話さ」

 

 彼女なんてできる筈も無いだろうに。それは1番この目の前にいる僕の"片割れ"がわかってる筈だ。

 

 外はね気味の癖っ毛を背中まで伸ばした茶髪の髪。本来は僕と同じ黒の筈だけれど、中学の時にぐれたのか知らないけれど染めてからそれ以降ずっとこの茶髪だ。右目の下に黒子があり、目は垂れ目。僕とは似ても似つかない、ずぼらな女。

 

 僕の片割れ、"双子の姉"、名前は鈴鹿心春。

 

 似ても似つかないと言うのは、二卵性双生児だからで、世の認識の双子とはだいぶかけ離れたものになってしまっている。初見で僕らを双子だと見抜けた人は僕の記憶上誰1人としていない。

 子どもっぽい顔と言われる僕と、どこか大人びた雰囲気のある姉。姉なんて呼んだ記憶は数えるほどしか無いけれど。

 性格も顔も違うけど、これでも僕の片割れなのだ。

 

「それよりも自分の方はどうなのさ」

 

「わたし?」

 

「生徒会に入ったって聞いたけど」

 

 しかも僕と同じ高校に通っているという面倒な事象付きなのだ。何を血迷ったのか、生徒会なんかに入って真面目ぶっている。中学の時に突然茶髪にして、心春がそっち路線?!!なんて思って少し、少しだけね、ほんの少しちょっぴりだけ心配した、と言うよりしてあげたんだけど、お母さんなんかは「女の子だからねぇー」なんて気にも留めない様子だったので、阿呆らしくなって僕も気にする事をやめた。

 

 ずぼらでガサツで気も強い、何だけれど成績だけは良いと言う教師達からすれば面倒この上ない厄介な存在であるし、お母さんもお父さんも「人に迷惑かけなければ何でも良い」なんて放任主義で育ってきたから

 

 気にする様子もないし、もうどすることもできない。

 

 弟くんは真面目だね?なんて優しい表情で言われるのは良いけれど、成績はこいつの方が上という事実。

 心春に張り合うなんて気は一切持った事ないし、姉が優秀だから…なんて劣等感を抱く性格じゃ無い…と言うより、僕が何の特徴もない普通よりちょっと下くらいの人間だと言う事を骨の髄で理解しているから何も感じない。

 もしかしたらちょっと強がったかも。ほんとはもっと下の方の人間かも。

 

「何で知ってるの」

 

「校内の掲示板、新しい生徒会員のお知らせとか言って張り出されてたの見たからね」

 

 学校では、わざわざ僕たちは双子なんです!なんて大っぴらにする事も言う事もない。クラスメートや友達が、

「あれ、鈴鹿って同じ苗字じゃん。」

「うん、だって僕の姉だから」

と言う様な、別に隠すわけでも無い。聞かれたら答える知られたらそれでもいいスタンスで中学もやってきた。

 

 一つだけ面倒ごとがあるとすれば、この女、男女問わず結構人気があると言う事。

 

 容姿は大人っぽいそれでいて着飾らない上にハイスペックというのが受けるらしい。大人っぽい着飾らないハイスペック。そんな心春に男の人は、

「ふつくしぃ…」

で、女の人には

「かっこいぃ///」

らしいのだ。

 

 間違っちゃ無いけど抜けてるのがある。それはもうたくさん。

ガサツ、男勝り、ずぼらにぐーたら。こんなの見たら夢見る男女達は幻滅するんじゃね?と思って、中学時の心春のファンだった友達に言ってみたら

「なにそれギャップ萌え」

 

 とか言ってたので、その程度では心春の人気は落ちないらしい。

かと言って僕と同じで、そんなに友達を多く作ろうとかと言うタイプでもないし、興味がないことにはとことん興味ないも同じ。

そして最近その姉が一緒の高校に入ってからやけに僕の事を逐一知りたがるのだ。さっきのバイトといい今日のカフェに行っていたことと言い。面倒くさい。

 

「成り行きで」

 

「成り行きで生徒会なんて入るんだ」

 

「そんな事は置いといて、かのんちゃん元気なの?高校別々なっちゃったから」

 

「元気だよ」

 

「どこだっけ、高校。えーっと…」

 

「結ヶ丘女子。千砂都と同じだよ」

 

「千砂都ちゃん?あー、ねぇー…」

 

 ん、なんだか表情が変わって難しそうな顔をする。少しだけ眉間に皺を寄せて、眉をへの字にしている。

 あれ、千砂都とあんまり面識なかったっけ心春って。

 

「千砂都、覚えてないわけないだろう」

 

「うん。まぁそりゃぁ、ねぇ?」

 

 歯切れの悪さが気になる。

 かのんと心春って結構交流があった記憶あるし、かのんの口から心春の事とか出ていたから分かるけど、そう言えば千砂都と心春って深い交流ってあったっけ。

 いや、あった筈。だって中学だって同じだし何より、小学校時なんか一緒に遊んだりしてたし。

 

「千砂都ちゃんねぇ。元気してる?」

 

「え、まぁ。」

 

「そっかぁ。」

 

 そう力なく言うと腰に手を当てる。

 千砂都、心春とは違って優しいし何より超可愛い。笑った顔とか最高に可愛い。心春とは違うんだよ。心春、他所の見てくれは人気あるかもだけど、そうじゃないのさ。それだけじゃないのさ。

 女神なんだよ。心春みたいにずぼらでグータラじゃないし。って、これじゃあ心春を崇拝してる人たちと同じか…、いや待てよ、もしかしたら千砂都も僕の知らない超プライベートでは案外グータラしてたりして、何それ超可愛い、それくらいの欠点あった方がもっと可愛い。いや、なくても可愛いんだけれど。

 

「千砂都ちゃんはねぇ。なんというか…まぁ、圭太がいいなら良いんだけどね。」

 

 そう言って肩に手を置かれる。

 脈絡がない。分からん。

 

「私はかのんちゃんを推したい。」

 

 知らん。

 そんなん言うなら僕はもう既に推しだけど。

 かのんは天使だけど。知ってるかもだけど。

 歌超上手いんだからね。知ってるかもだけど。

 歌の女神様なんだからね。知ってるかもだけど。

 お顔も可愛いんだからね、ご存知かもだけど。

 スクールアイドルしてるんだからね。古参ぶっってやるんだ。だからかのんがアイドルやってる事教えてやんないもんね。

 

「なんかあったら相談に乗ってやるよ」

 

「え、絶対やだ」

 

「そんなこと言わずに、私は圭太の姉だからね」

 

 ドヤ顔で僕の顔に拳ひとつ分まで近づいて言う。

 シャンプーの香りが鼻腔を擽る。

 こんなに近くで見つめ合えるってのは、心春のファンには堪らないのだろうな。僕にとっては憎ったらしいの言葉しか出ないけど。

 なんでぃ、僕より数分早く下界に産まれ落ちただけなのに。くそう、取り出した産婦人科医め、名前知らないけどあなたですよ。何でこれを先に取り出したんですか?いや、心春が勝手に出てきたんだろうけど。もうそこから勝ち気な性格出てるっての。

「お前より早く産まれてやる」

って僕を押し退けて出てきたに違いない。ぐぬぬ、これで一生僕が弟で末っ子のままじゃないか。

 

「やだ」

 

「けちぃ」

 

「もういいだろ…」

 

 立ち話に疲れてしまった僕は、心春の手を払い横をすり抜ける。僕はそれどころじゃないんだ。明後日に葉月さんと行く御礼とやらに来ていく服装について考えなきゃなんだから。結局、かのんと千砂都にしつこく問い詰められて相談どころじゃなかったのだ。はぐらかして帰ってきたのだから、また一から考えなければ。心春に相談すると言う事も思いついたけど、秒殺でその思考は抹消した。

 

「じゃあおやすみ」

 

「あっ、ちょっと、バイト先教えてもらってない」

 

 その声を背に僕は自室のドアを静かに閉めた。

 

 

 

 

 

 

 葉月恋。

 その名前にかのんちゃんは苦虫を噛み潰した様な表情で、額に手を当てていた。

 あの日、圭太が歩道橋の下でその人物と邂逅しているのを目撃しだあの日。何やら"訳あり"な様子だった。

 どう言った内容かは知らない。聞こえなかったし、遠くから見ていることしか出来なかったから。

 ただ、何かこれから、圭太と葉月さんとで切っても切れない関係が生まれてしまいそうで。

 

 あの約束覚えてる?

 

 そう切り出すと、額に手を当てて俯いたかのんちゃんが私を一瞥した。

 動揺している、ということがすぐに分かった。瞳孔が開いて、眼球を左右に忙しなく振っていた。

 こくりと、間を開けて頷く。

 

 覚えてるよねそりゃあ。忘れるはずなんて…ないもんね。

 

 私達は、仲の良い関係でいたいと…。そう願って、考えて考え抜いて、妥協して妥協され、その契りを交わす事で、歪な感情という闇に蓋を閉め鍵を掛けたのだから。

 

 よりにもよって、あの葉月恋なのか。

 

 かのんちゃんが活動するスクールアイドル活動に釘を刺したあの人物。

 頑なにスクールアイドル活動を…生徒会長という立場から認めなかった彼女。理事長と言う大きな存在までもが間に入って、イベントで1位を取ることを条件に活動を認めるということで一旦は収まったけれど。

 

 どうして、そんな幼馴染のトラブルの胸中に居る人が、圭太にまで侵蝕して新たなトラブルを生み出してしまっているのか。

 

 単なる偶然か、それとも約束された必然なのか。

 後者ならば、発狂して床に頭を打ちつけて出血してしまいそうだけど。

 

 そして今日、圭太は女の子と出かけると言っていた。

 日時は今週の土曜の朝から。場所は…教えてくれなかった。誰と出掛けるとも吐いてくれなかった。

 でも、恐らくの見当はつく。

 多分、葉月恋さんだろう。

 

 だとするならば、あの約束はもう意味は成さない。

 一度だけ、去年に一度だけ、その契りを少しだけ解いて"手回し"を行ったことがあった。その時は急だった事で、かのんには事後報告という形になってはしまったけれど。

 けれど今回はそうじゃない。

 高校が違う、前の様に近くで見ている事も出来ない。

 

 けれど、その約束が無くなって仕舞えば、千砂都達の歪な感情がどの様に私たちの関係に影響してくるか分からない。

 でも、放っておけば、恐れる最悪の状況になり得る。

 

 圭太と葉月恋さんが邂逅したあの日。緊急的にかのんと話し合って出た答えは様子見だったのだけれど、この状況…もうそう易々と見ているだけではだめだ。

 

「かのんちゃん」

 

 カフェの入り口の前で歩く往来人を力なく見ている千砂都達。

 千砂都の呼びかけに彼女は、ゆっくりと私の方を向いた。

 

「約束は一度放棄して、私達は協力するべきだと思う。」

 

 目を開いたかのんはあの日の様に、瞳孔を開いた目で千砂都を見たり、地面を見たりと視線を上下左右に振る。

 

 動揺する気持ちも千砂都は分かる

 だって、それじゃあ残された自分達はどうなるのって話だよね。

 事情を、知る権利はある筈だ。それも正当な権利が。

 何があって、2人は繋がったのか。どういう目的か。

 

 それでも、願う事しか出来ない。

 この状況で、自分達に少しでも吉の方へと運が向くことを。

 

「そうだね」

 

 かのんは千砂都の気持ちも代弁しているかの様に力無く返答した。

 

 

 

 

 





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