Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#5 東京の夕焼け

 

 

「お待たせいたしました。」

 

 可愛らしいエプロンを着た女性のウェイトレスが運んできたのは、華やかなスイーツ達だった。

 竹下通りは苺スイーツ専門店。

 御礼という名のお出かけで葉月さんに案内された場所である。

 

「鈴鹿さん!来ましたよ!」

 

 当の葉月さんは、目の前に並べられたご馳走に瞳を光り輝かせている。

 

「これが定番の苺のショートケーキで、こちらが苺のバニラムースタルトに花苺のパイ、苺のプリンに苺のモンブラン…そしてこれが、苺だらけのミルクレープ!」

 

 一つ一つ指を刺して商品の説明をしてくれているけれど、興奮気味なのか早口でいくつか聞き逃してしまった。クールで落ち着いた風貌の葉月さんが無邪気に目を輝かせている。

 

「さぁ、どうぞ…!お召し上がりください!」

 

「あ、頂きます。」

 

 目の前にある苺だらけのミルクレープとやらにフォークを入れて一口サイズに整えるとそれを口に運んだ。

 

「美味しい」

 

「ですよね!良かったぁ…!」

 

 葉月さんは、安堵の表情を浮かべた。

 うん、本当に美味しい。こういうデザートって、それ相応のお店に来ないとありつけないから、すごく新鮮で美味しい。苺の甘酸っぱい味とミルクレープの生地が調和し合っている。心春、苺好きだったよなそう言えば。帰ったら教えてやろう。

 

 葉月さんもフォークを器用に使い、苺のモンブランを食べていた。

 目尻を下げて薄らと頬を紅潮させているのを見るに、葉月さんは苺が好きなんだということが一目で分かる。

 

「お口に合ったようでなによりです。私、苺が大がつくほどの好物でして、ここのお店の苺スイーツ、是非鈴鹿さんに味わって欲しかったんです。あの日の御礼になっていれば良いのですが…」

 

 そう言って上目で僕を見る。

 

「勿論です。すごく美味しいです、わざわざありがとうございます。」

僕がそう言うと、葉月さんは笑った。

 

 それにしても葉月さんはしっかりしていらっしゃる。

 自分自身の災いを偶々とは言え助けた人…しかも見ず知らずの人にここまでのもてなしをしてくれるのだ。たとえそれが義務的側面があったとしても、御礼と言ってもてなされる方は確実に悪い気はしないわけで。

 大人の教養…と言うのが正しいのかは分からないけれど、思い遣りや気遣いに心が配れる素晴らしい人だと思った。

 

「葉月さんは、大人ですね。」

 

「え?」

 

「こうやってもてなしてくれるし、口調や佇まいや雰囲気が、大人のオーラが出ていると言うか…、とても高校生には見えません。」

 

「そうですか?」

 

「はい、大学生…いや社会人でって言われても納得してしまいそうです。あ、勿論いい意味でですよ?」

 

「ふふ、わかってます。ありがとうございます。大人ですか…。まだ私なんて今年に高校に進学した若輩者です。」

 

 え、この人僕と同い年だったの?!

 てっきり年上だとばかり…。確かに年齢とかの話はしてなかったけど、これはたまげた。

 

「それに、大人といえるにはまだまだ色々足りないことだらけです。」

 

「と、いいますと?」

 

「私は、大切なひとからある大事なものを受け継ぎまして…それをもっと大きくしていきたいと思っているんですけど、中々にこれが力及ばずで。私だけではどうにもならないことや、知らない事ばかりで日々悩んでは失敗の繰り返しです。」

 

 葉月さんは少しだけぎこちない笑みを浮かべて、手に持ったフォークを置いた。

 

「大人ならば、もっと上手くやれるのでしょうか。」

 

 そう言ってケーキが並べらている空間を見つめている。

 

「どうでしょね。」

 

「え?」

 

「大人といえども、何かを成すには試行錯誤しての繰り返しだと思いますけど。」

 

「そう…でしょうか。」

 

「僕はそう思います。思い立って考えて全てうまくいく人なんてそれこそほんの一握りですよ。そうじゃなきゃ、大人は皆んな成功者って事になりますし。」

 

 うちのお父さんなんて仕事のことで悩んでたりもするし、お母さんだって失敗する事もあるし。

 

「でも、成そうとして失敗した事は、それは残念な事ですけど、学びにはなりますよね。」

 

「学びですか?」

 

「歴史の授業の、この選択をしてしまったから失敗だったという感じで学ぶ様に、あの時はこうせず違う考えで行動していたらどうなっていたかな、なんて考えたりするじゃないですか。それは成すために一つ選択肢が消えて失敗の可能性がひとつ消えた事にもなりますし、同じ過ちをしないための教訓にもなりますし。」

 

 喧嘩した原因が些細な事だったら、あぁなんて大人気なかったのだろうとか、あの時に謝っておけばとか、生きていく上でそんなのは付きものだ。心春とかと言い合いになったりした時とか、次はこうしておけばもっと早くに仲直り出来たんじゃないかとか。そう言ったことの繰り返しである。

 

「だから、そうやって大事なものを大きくしようって試行錯誤しているだけでも立派ですよ。僕なんて、ただ毎日惰性の様に過ごしてるだけですしね。」

 

 そう言って乾いた笑いを放つ。

 かのんのスクールアイドル活動や千砂都のダンスの様に、僕とは違ってそうやって何かを考えて打ち込めるものがあるというだけで、十分にすごい事だ。

 

「あ、ありがとうございます。なんだか励まされた気がします。」

 

「何か困ったら、友達なりに相談や愚痴を言う事も大切ですよ?」

 

「そうですよね。」

 

 葉月さんは僕の目を見て続けた。

 

「なら、私のお友達になってくれませんか?」

 

「えっ?!」

 

「私、世間知らずの若輩者である故、気軽に友達と呼べる間柄の人は居なかったので。その、これからも私とこうやってお話しをしてくれれば嬉しいというかなんと言うか…」

 

 そこまで言って少し口籠ると、葉月さんは僕の方に体を少し乗り出してきた。

 

「鈴鹿さんのお友達にならせて頂けないでしょうか!」

 

 力強く見つめるその瞳。

 こんなの、断る理由なんてないじゃないか。

 

「もちろん。よろしくお願いします。」

 

 葉月さんは目を輝かせて微笑んだ。

 

 

 

 僕に新しい友達ができた。

 

 年上の大人っぽいクールな印象だったその人は、実は同い年で好きなものにはとことん目がなくて、そして大切な人から受け継いだものを大きくしようと必死に打ち込んでいる、芯の強い女の子だ。

 

 

 

「あれ」

 

「あれれ」

 

「あれれれ」

 

 葉月さんと別れた後、帰路に着こうと歩いてあの歩道橋を通り過ぎて直ぐ、カジュアルな服装に身を包んだかのんと千砂都にばったり会った。

 

「奇遇だね」

 

「え、あぁそうだねうん。あはは。」

 

 千砂都の歯切れの悪い返答に少し違和感を感じたが、気にしないことにした。お互い休日の日、何をしてたって別に構いやしないじゃない。

 でも丁度よかった。今から2人の家にそれぞれ赴こうとしていたところなのだ。

 

「2人で遊んでたの?」

 

「遊んでたっていうか、」

 

 かのんが口籠り、僕から目を逸らす。

 聞いちゃ不味かったかな。幼馴染とは言え異性。女性2人に休日に何をしていたかなんて聞くのは無粋だったかもしれない。

 

「偵察」

 

「え、ちょっとちーちゃん…それは…ッ」

 

 かのんが驚きの表情で千砂都を見る。

 

「偵察?なんの?」

 

「代々木公園のステージ」

 

「え、ステージ?」

 

「そこであるスクールアイドルのイベントにかのんちゃんが出るんだよ」

 

 なんと初耳。

 それは是が非でも這ってでも行かねばならない。

 先程なぜか驚いていたかのんはと言うと、ホッと無でを撫で下ろしていた。なんで?

 

「実はこの前決まった事で、今月末に出場することになって…」

 

なるほど、そのイベント会場の下見というやつなのか。

 

「圭太には、隠してたわけじゃ無いんだよ?こっちもスクールアイドル関係のことでちょっとしたゴタつきがあって、落ち着いたら言おう言おうってしてたら言いそびれちゃって。」

 

「ゴタつき?」

 

 何か問題でも合ったのだろうか。と気になったのだけど、深く聞くのは辞めといた方が良さそうだ。

 

「実は…」

 

 あ、教えてくれるのね。

 と、あれやこれやと説明を聞く。要約すると、かのん達の学校の生徒会長が理由は分からないがスクールアイドルが嫌いで、学校の音楽及び部活動に必要ないと設立を突っぱねて、揉めに揉めて理事長なんて大きなものまでもが出てきて、結局はそのイベントで一位を取るということが条件となったらしい。

 

 そういえばかのん達の高校って今年から出来たとかだったっけ?

概ね、入学者を増やしたいから…的なことなのだろうけど、本末転倒な気がしなくもない。その生徒会長さんとやらは知らない人だけど。

 

「かのんなら大丈夫さ」

 

「もー、そんな無責任な」

 

「なんてったってかのんの歌は素晴らしいからね。それに千砂都がダンスも教えてくれてるんなら百人力さ。」

 

「猛特訓中!」

 

「次どうするかはその時考えればいいさ。今はとにかく、その目標に上向きに行かなきゃでしょ?」

 

「そうだけど…」

 

「そんな君たちに、差し入れがあるんだ」

 

 僕は手に持った紙袋から苺プリンなるものを2人に手渡す。葉月さんと行ったお店のものをお持ち帰りしてきた。

 

「プリン?」

 

「そうプリン」

 

「これって、」

 

「前説明した、今日お出かけに行ってきたところのお店さ。美味しかったから2人に差し入れをと」

 

 あの後、お土産を買って場所を移してカフェでコーヒーを飲んで談笑して解散となった。苺スイーツのお店は御礼という名目で葉月さんが僕の分のお代も払ってくれた。だから、という言い方はおかしいけれどその分、2人と家族の分でも買って帰ってきたというわけである。

 

「で、どうだったの?お出かけ、その、女の人って言ってたけど」

 

「どういう関係…?」

 

 おずおずとかのんが僕に聞く。

 

「友達だよ?」

 

「友達…」

 

「そう、友達」

 

 そう言うとかのんと千砂都は顔を合わせた。 

 

「「良かった…」」

 

「?」

 

 何故かは分からないけれど、2人はそう言って安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「じゃあねー!」

 

 そう言って離れていく千砂都に手を振って見送る僕とかのん。

千砂都達の予定も終わったらしく、それぞれ帰路に着くということで、僕とかのんの2人は家の方向が同じな為に一緒に帰ることになった。

 

「プリンありがとう」

 

「全然。めちゃ美味しいよそれ」

 

「今食べちゃお」

 

 かのんはプリンの蓋を開けると、プラスチック製のスプーンでそれを食べる。

 

「美味しい、甘いぃ」

 

「良かった」

 

 目尻が緩んでいるのを見るに口に合ったらしい。良かった。

 プリンを頬張るかのんを横目に無言で僕たちは歩く。こうやっていつもは3人で学校から帰って、途中で千砂都が別れて、そこから2人で歩いて帰ってたなと、数ヶ月前の中学生の時のことを思い出した。

 この前のはずなのに、すごく昔の様に感じるのは、きっと環境が変わってその変化について行こうとしているからだろう。

 こうやって、2人との時間も減っていってしまうのは寂しいと思う。でも、それは仕方のないことで、ずっと一緒にいられる訳なんて無いのも分かってる。

 

 だからこうやって、彼女達との時間を大切にして、2人の記憶に少しでも、僕のことが残ってたら嬉しいなんて考えたり。

 

 プリンを頬張るかのんと歩きながら、歩道の狭い道が現れる。

 若干僕の後ろ気味に歩いていたかのんは僕の横にぴたりとくっついて、何故か車道側を歩く。

 あれ、なんだか違和感を感じる。

 ずっと一緒に帰っていた時ってどうしてたっけ?

 

「かのん」

 

「んー?」

 

 もう食べ終わったのかプリンの容器を握っているかのんの肩に手を置いて、反対側に移動させた。

 

「え、あぁ。ん?」

 

「いや、こっち車通るし」

 

「あー、なるほど?」

 

 かのんさんや、無意識にそれをやっていたのだとしたらイケメンすぎやしませんかねえ。

 恐らく、かのんの妹のありあちゃんと歩く時の癖とかそんなんだろうなと。もしかしたら千砂都かもしれない。生粋の姉肌だから、危ないからという感じで普段はそうしてるのかな?

 

「ほら、僕男だし」

 

「なにそれぇ」

 

 かのんはけらけらと笑う。

 

「僕、心春と歩く時いつも歩道側なんだよなぁ。心春的には姉で僕が弟だからとか、そんな理由なんだろうけど男としてどうなの?って偶になるんだ。まぁでもそんな事心春に言ったら調子乗んなとか言われるし、多分心春は僕に余計車道側歩かせてくれないだろうから言わないけどね。」

 

 お前には1億年早いとか、絶対言われる。

 もうだって想像つくもん。

 

「心春ちゃんらしいね」

 

「あー、僕にも年下の弟とか妹とかいればなぁ。末っ子ってのがどうも…」

 

「圭太は末っ子だよ」

 

「え、なんで」

 

「末っ子って感じ」

 

「えー、なんか嫌だ」

 

「ふふ、だから心春ちゃんの気持ちわかるもん。お姉ちゃん舐めんなよってね」

 

 だから…とかのんが今度は僕の肩を掴んで歩道側にもどす。

 

「だからこうでいいし、そういうのは気にせずにさ。どっちが上とかじゃなくて、私たちは対等でいたい」

 

 そう男前すぎるセリフを言って、かのんは僕の腕を肘で軽く突いた。キュンしちゃう。

 

 言いたい事はわかるけれど、偶には格好くらいつけさせてほしいものだ。って、格好つけたところで格好良くなるとは限らないけど。

 かのんは、本当に長女という事も相まってか、芯も強いししっかりしているし、姉感が強い。それもかのんの魅力の一つだ。

 

「かのん」

 

「んー?」

 

「ライブ、楽しみにしてる」

 

「あー、圭太の前だと簡単にアガっちゃわずに歌えるんだけどなぁ」

 

「大丈夫さ。かのんなら」

 

「またそれー」

 

 

 そんな他愛も無い話をしながら帰路に着く。ふと空を見ると、空が橙色に色づき始めていた。

 

 僕の濃密すぎる休日の終わりが近づこうとしていた。

 

 

 





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