Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#6 歌声よおこれ

 

 

 

 

「圭太さんにプレゼントデス!」

 

 そう言うって、学校からの帰り道に角から飛び出してきたかと思えば、かのんと同じスクールアイドルグループのクゥクゥさんが2本の棒を持って僕に渡してきた。

 

「な、なんでしょうこれは」

 

「ライトです!」

 

「ライト?」

 

「はい!ペンライトと言います」

 

 渡されたものはペン型の懐中電灯だった。持ち手の柄の部分に何やらスイッチらしきものがついている。

 

「光りマスよ!クゥクゥの色とかのんさんの色に」

 

 押してみると橙色と水色に入れ替わる仕様だ。

 

「かのんさんのマリーゴールドカラーとクゥクゥのパステルブルーデス!」

 

「と、いいますと?」

 

「今度のライブで是非にとお渡ししに参ったまでデス!」

 

 ライブという言葉で、今までのやり取りの全てを理解した。

 月末に代々木公園のステージで行われるスクールアイドルのイベントのことで、そのステージに僕が行くだろうと見越してペンライトを事前に持ってきてくれたということだろう。

 

「ライブ、もうすぐですね」

 

 そんな事を言いながら僕等は雑踏から外れた路地に入り壁にもたれ立つ。

 

「グループ名はクーカーです!」

 

 クーカー、というその名前を聞いて咄嗟に浮かんだのがクゥクゥさんの頭文字と、かのんの頭文字を合わせた語呂なのだけれど、大事なグループ名に小学生が考えるような単純な事じゃないだろうと喉の奥に引っ込めた。

 

「クゥクゥのクーにかのんさんのカーです!」

 

 的中だった。

 

「当日楽しみにしてくだサイ!」

 

 自信満々に握り拳を作った。

 

「かのんは…」

 

「…?」

 

「歌えそうですか?」

 

 スクールアイドルを始めたと、かのんが言ってからずっと心配だった。

 人前で歌うことができなくなってしまったかのんが、一歩勇気を出して踏み出した。たくさん悩んでたくさん考えて、かのんは今の活動をしている筈だから。もしも、のことがあった時は恐らく相当のショックを受けてしまうだろうと思っている。

 

 クゥクゥさんは僕の質問の意図を少し考えて、まっすぐ僕を見て困った様に笑って答えてくれた。

 

「分かりません」

 

 クゥクゥさんは正直でいて誠実な人なのだとその瞬間で分かった。

目の前にかのんの行く末案じている人に、できると希望だけを見据える事もできた筈で、それでも現実的な事を言わなければならないと思ったのだろう。

 かのんと二人三脚で進む上で厳しい事も本人にも周りにも起きていく事は分かっているのだろう。

 クゥクゥさんだって、かのんの希望通りに上手く事が進んで理想通りに行けば1番良いと思っている。でも、そうじゃない可能性も少なくないから「わかりません」とはっきりと口にしてくれた。

 

「かのんさんは、頑張っていマス」

 

「うん」

 

「頑張りすぎで心配になるくらい」

 

 先日の夜も、バイトからの帰路の途中で走り込みをしているかのんを見かけた。夜の9時を回った所だった気がする。

 声を掛けて、無理するなよという事も出来たのだろうけど、きっと今のかのんにとってそれは正しい言葉では無い。

 でも、頑張る事は良いことだけど、頑張りすぎる事は良いことではない。

 それでも、事が終わって、もっと頑張ればと後悔してしまう事がかのんにとって1番怖い事なのだと思う。

 だから、その頑張りに水を差してしまう事はしたくなかった。

 

「ありがとう」

 

「え?」

 

「かのんの事をちゃんと考えてくれて」

 

 バツが悪そうに目を逸らすと、人が往来している目の前の歩道に目を向けて話す。

 

「クゥクゥは、かのんさん歌に一目惚れしたから。あの歌声を色んな人に知ってほしい」

 

「うん」

 

「圭太さん」

 

「はい?」

 

「もし、もしもかのんさんが思うような事にならなかった時、圭太さんはどうしマスか?」

 

 抽象的なその質問に、僕は考える間もなく答える。

 

「慰めますよ」

 

「おぉ」

 

「慰めて、パフェでもドーナツでも奢ってあげます」

 

「なるほど」

 

「で、次頑張れってそう言います」

 

「かのんさんの頑張りに対しての、責任を負うということデスね?」

 

「友達として、それくらいのことしかできませんけどね」

 

「十分過ぎると思いマス。かのんさんは、良いお友達をお持ちで」

 

「ううん。大袈裟だよ。良い友達なら、苦しんでいたかのんにもっと寄り添ってあげられた筈だから」

 

 かのんが長く苦しんでいた時に、僕は何もしてあげられなかったから。

 後ろで見ているとこしか出来なかったから。

 

「歌えると思いますか?」

 

 今度は僕がした質問をそっくりそのまましてきた。

 

「歌えるようになってほしいな、とは思ってます」

 

「なら、話してあげて下さい」

 

「え?」

 

「そっくりそのままの言葉で」

 

 クゥクゥさんは地面に下ろしていたリュックを拾い上げる。

 

「圭太さんが思うままの言葉で」

 

 そう言って可愛らしくウインクを一つ僕に向けると、また、と言ってクゥクゥさんは雑踏の中に消えて行った。

 

 

〜〜〜

 

 

 午後9時に今日もバイトを終えた。

「お疲れ様です」

 

「お疲れーって、何急ぎ?ちょっと話たい事があったんだけど」

 いそいそと帰り支度をする僕を見て、僕がアルバイトをしているここ、隠田神社に住む同年代のすみれさんが近づいてきた。

 

「今日はちょっと用があって。またでいい?」

 

「まぁ、いいけど…」

 

 なにやら訳ありそうな雰囲気を醸し出している。察する所、いつものスカウトされる為にはどうすれば良いかとか、そんな内容だろう。

 けれど今日は一刻も早く行くところがあった。

 

「じゃあまた」

 

 そう言ってローファーを鳴らして歩く。

 いつもなら帰路に着くためにここ隠田神社から表参道ヒルズを超えて神宮球場方向へと歩くのだが、今日は反対方向へと足を向ける。

 キャットストリートを超えて神宮六丁目交差点の高架下を抜けてファイヤー通りからコルネット通りを抜けていく。

 通りがかりにコンビニで飲み物を買い、渋谷区役所前交差点を渡り代々木公園欅並木通りを抜ける。

 

「いた」

 

 前情報通り、欅並木を抜けたイベント広場にかのんがジャージ姿で居た。

 クゥクゥさんと話した後、どこからIDを聞きつけたのかメッセージを送ってきたのだ。かのんはここ最近夜10時ごろまで代々木公園のイベント広場で自主練をしているとの内容で。

 

 話してあげてほしい。

 

 そう、かのんと同じスクールアイドル活動をしているクゥクゥさんに言われた事が頭に残っていた。それを見越して、僕にメッセージを送って来たのだろう。

 

 少し離れたステージの側でダンスの練習をしているかのんを見る。

 かのんが歌えなくなったのはいつからだったか。

 覚えがあるのは、昔に合唱でかのんがメインでソロの場面で緊張してしまい歌えなくなってしまった時からだと記憶している。

 あの時の、怯えた顔は今でも鮮明に覚えている。

 

 それでも歌う事が好きで、歌で皆んなを笑顔にしたいっていう夢があって、それはきっと今でもそうなのだろう。だからこそ高校受験で音楽家を受けて、また本番で歌えなくて失敗してしまっても、それでももう一度歌おうと頑張っているのだ。

 

 かのんはダンス練習を終えたのか、タオルで顔を拭き、今度は発声練習を始めた。

 かのんの声が街灯に照らされたイベント広場に響く。

 とても、綺麗だと思った。本当に素直にそう思える。

 かのんが歌えない主な要素は、恐らく人目なんだと思う。見られてるという意識が、重圧になってしまっているのかもしれない。

 

 時計を見ると時刻は9時半を回ったところを指してした。

 ここ最近、ずっとこんな時間まで練習をしているらしい。学校終わりに練習をして、解散してまた1人で練習をしていると。

 

 頑張りすぎだと思うのが本音。

 放っておいて仕舞えば、かのんがいつか壊れてしまうのではという懸念も出るほどに。

 こうなってしまっているのは、かのんがコンプレックスを克服したいから…という事だけでは無さそうなのは、以前聞いた条件というのが関係してそうな気はする。

 

 かのんはステージとは逆の方を見て歌の練習をしている。時間ももうすぐで夜の10時だ。声を掛けようか掛けまいかと悩む。

 やり過ぎだと、注意する事は簡単だ。

 でも、今までの失敗をなんとかしようと、一歩ずつ進もうとするかのんを見ると、それは余計なお世話になってしまいそうで。

どうしたものか…

 

「え」

 

「え」

 

 さっきまで向こうを向いていたかのんが、僕が居るステージの方を見ていた。

 夜の暗闇の中でストーカーの如くステージの側から覗き込んでいたのに気づいたのか、「え」という声と同時に僕と目が合って、僕の方へと歩み寄って来る。

 

「圭太、なんで居るの?」

 

「えぇ、いやぁえっと…すぐそこで買い物してて近くを通ったんだ」

 

「わざわざ駅超えて公園を通るの?」

 

「…」

 

 こうなる前にしっかりと話したい事や今の状況をどうするべきかを考えて精査してからくるべきだったと後悔した。

 

「そんな事より、こんな時間まで練習してるんだね」

 

「そんな事って…。私にとっては重要なんだけどなぁ」

 

 そう言ってムクれるかのんに、コンビニで買ったスポーツドリンクを渡した。

 ジッとそれを見つめるとかのんは受け取って、

 

「やっぱり嘘じゃん」

 

 と小さな声で呟いた。

 

 さてどうしたものか。

 話してあげてほしい、とクゥクゥさんに言われたは良いものの、何をどう話そうか。

 

「座ろうよ」

 

 そう言って、ステージの側に腰掛けて座った。

 かのんに続いて僕も腰を下ろす。拳一つ分だけの距離を空けて。

 

「こんな時間までって、言ったよね」

 

「え」

 

 想定外の言葉が飛んできた。

 かのんから、今の状況の話をしてきたのだ。

 

「私、頑張らないとダメだから」

 

 か細く絞り出した声は、僕の鼓膜を切なく刺激した。

 

 今の言葉で、確信したから。

 かのんが頑張る理由。頑張りすぎる理由。

 

「歌えないと、周りにがっかりされるし、自分に嫌気が差すから」

 

 周りと言った。

 周りとは恐らく、かのんの周辺。つまりは、かのんを応援してくれている人たちの事。

 

「でも、いつまで経っても歌おうとすると声が出なくて。ステージで歌う事を想像すると怯んじゃって。自分の部屋でなら歌えるのにって。」

 

 かのんが歌えなくなった理由。

 失敗の積み重ねがかのんの負の部分をここまで大きなものにしてしまった。

 好きなのに出来ない。これはとても辛い事だと思う。

 

「大勢に見られてると思ったら、緊張して脚がすくんで、心臓がバクバクして気持ち悪くなって…それで最後に自分が嫌いになる」

 

 震えながら、持ったペットボトルを強く握っている。

 

「だから、頑張らないといけないの」

 

「かのん、あのさ…」

 

「大丈夫だからッ!」

 

「かのん…」

 

「大丈夫、絶対今度こそ歌うから!」

 

 僕の言葉を遮って必死に否定をする。

 

「ちゃんと歌えるようになって、クゥクゥちゃんの期待に応えて、スクールアイドルを続けるの。応援してくれてるちーちゃんや圭太のためにも!」

 

 先ほどとは違ってボリュームの大きい声で話す。

 まるで自分に言い聞かせるように。

 

「だから、今だけはダメだなんて言わないで」

 

 僕がここにきた理由を、かのんはそう予測していたのかと理解した。

 ここにきて、もう夜遅いから練習は辞めろと止めに来たと思ったのだろう。

 千砂都やクゥクゥさんにも、心配をかけていると言う事も自覚している。

 

「私は、努力しないとダメなんだよ。人よりも何倍も何十倍も、何百倍も…」

 

 声が少しづつ小さくなる。

 視線を下に逸らして、アスファルトを見つめている。

 言うべきか言わないべきか。今のかのんをここまで焦らせて縛らせている理由を。

 本人も、気づいているけど、それを違うと否定してしまう事は、良い事なのか悪い事なのか。

 でも、これは僕だけじゃなくて、皆んなの総意だと確信できるから、言う事にした。否定せず肯定もせず、ただ真意だけをかのんに告げることにした。

 

 クゥクゥさんが言ったように、そっくりそのままの言葉で。

 

 僕の思う言葉で。

 

「かのんがそこまでになる理由って、それだけじゃないでしょ」

 

「え」

 

「大方、この前の話から察するに一位を取らなきゃスクールアイドルの活動が出来なくて、クゥクゥさんに迷惑がかかるとか、期待されてるのに失望されるのが怖いからとか、そんな所でしょ」

 

 かのんは目を開いてこちらを見ている。

 図星、だったのかそれとも今気づいたのかはかのんのみぞが知る所だけれど。

 

「かのんにとって、クゥクゥさんや千砂都が重圧になってるんじゃないかなってこと」

 

「そんな事…」

 

「あるよ」

 

 かのんは黙ってしまう。

 どうする事も出来ない状況が、かのんを苦しめているのだ。イベントで一位を取らなければ、スクールアイドル活動が無くなってしまう。

 かのん自身が傷ついてしまう分には構わないと。でもこれは1人だけの問題じゃないと。クゥクゥさんが誘ってくれたから、クゥクゥさんの側で熱意を何よりも知ってる筈で、千砂都の想いも知ってるから。彼女たちの夢とか希望とかが、自分の弱さで崩れてしまうかもしれないと、案じているのだろう。

 

「でもさ」

 

 かのんは目を逸らす。

 言われたくない事を言われると思ったのかもしれない。

 

「クゥクゥさんや千砂都、かのんの言う周りってのがかのんにとっては重圧やプレッシャーをかけるだけの存在だった?」

 

「え」

 

「歌えないと言う事を知ってまで、クゥクゥさんはかのんをスクールアイドルに誘ったんじゃないの?」

 

 あ、と言う表情をする。

 

「かのんが歌えなくても、それでもクゥクゥさんはかのんと2人でイベントに出るって言ったんでしょ?一位にならなきゃ、それこそ活動すらできなくなって言うのに」

 

 今日僕と話したクゥクゥさんは、素直で誠実で嘘をつかなかった。

 かのんが歌えるかと聞いた時、分からないと言った。

 心配する僕を前にしても嘘をつかなかった。

 

「クゥクゥさんは、期待とか夢とか希望とか、そんなものはかのんには託してない」

 

 少しきつい言い方になったかもしれないけど。

 僕の言葉で言おうと、言って欲しいとクゥクゥさんに言われたから。

 

「歌えないかのんに出来るって誘ってくれてたこと、この状況で歌えないかもしれないのに一緒にステージに立とうとしてくれてること、それはクゥクゥさんがかのんと2人で一緒に進んでいきたいって事なんじゃないかな。千砂都だって、似たような想いで練習を見てくれてるんじゃないかな」

 

 そこに気づけば、かのんはきっと一歩進める筈。

 

「だから、さっきも言ったように期待とか夢とか希望とか、そんなものはかのんの背中には乗せてないよ。ただ、かのんの周りはかのんのことが好きで、かのんの為にかのんと一緒に乗り越えて行きたいって、思ってるだけだと思うよ」

 

「そんな事」

 

「分かるよ」

 

「どうして」

 

「ソースは僕」

 

 かのんはぽかんと口を開けている。数秒見つめ合った後、かのんはまた俯く。

 

「でも、頑張らないといけないのは変わらないよ」

 

「うん」

 

「じゃなきゃ私はまた失敗してしまう。もっともっと頑張らないと…」

 

 だから、と勢い良く顔を上げたかのんのほっぺをつねってやった。

 

「別にダメって言ってない」

 

「ひへぇ」

 

「かのんが頑張りたいって思うなら、僕は応援するよ。他の人がダメって言っても」

 

「にゃら、にゃんで…」

 

「でもこの時間に1人で練習するのは危ないって意味だよ。変な人に声かけられたりしたらどうするの」

 

 つねる力を少し強めてやった。

 

「ひたい…」

 

「なんて言うの」

 

「ごめんにゃさい」

 

 素直に謝ったので離す。

 かのんはつねられたほっぺを触っている。

 

「だから、夜遅い時間に練習する時は、僕が近くに居てあげるから」

 

「いいの?」

 

「うん。バイト日も終わったらここに来てあげるから。こんな時間に1人で夜道歩いて帰るのは危ないよ」

 

 かのんは可愛いからね。

 変な人に目をつけられちゃ大変だ。

 

「で、帰ってすぐに休む事。当日に身体壊したら本末転倒でしょ」

 

「分かった」

 

 頷くかのんの表情がさっきよりは少しだけ柔らかくなっている。

 

「さ、今日はもう帰ろ」

 

 そう言って立ち上がる僕の袖をかのんは優しく引っ張ると、

 

「ありがと…」

 

 そう言った。

 

「なんのこと?」

 

「心配して、ここまで見に来てくれたの…嬉しかった」

 

 下を向いてるから表情は見えない。

 

「うん」

 

 そう言うとかのんは立ち上がった。

 

「あ、タオル向こうに置き忘れたままだった」

 

 そう言って先ほどまで練習していたところまで走っていく。僕はその姿を見ながらクゥクゥさんにメッセージを送った。

「話しました、ありがとうございました。」

とそれだけ一言

するとすぐ返信が返って来た。

「幸いでございます。」

そしてその後に写真が一枚。フリルのついた黄色い服に薄紫の大きなリボンをつけ、下を可愛く出したかのんの悩殺写真。

「ありがたき幸せ」

と返信して静かに保存ボタンを押すと、

 

「どうしたの?」

 

 と僕の顔を覗き込んでいた。

 

「なんでもない」

 

 そう言ってかのんと帰路に着いた。

 

 

 

 そこからはあっという間に月日が流れた。

 かのんは学校の後はいつも通りクゥクゥさんと千砂都のメニューをこなし約束通り、夜の練習は僕が近くで見る。僕がバイトの日は終わりにすぐ走って公園に行き、かのんの練習を側で見る。これの繰り返し。

 

 それから数日、イベントの日はすぐにやって来た。

 

 

 

〜〜〜

 

 イベント当日。

 僕は学校終わると急いで山手線外回りに乗って原宿駅で降り、代々木公園のイベント広場に向かった。

 かのんと夜練習していた広場は、閑散としていたその時とは違い多くの見物人がすでに居た。

 日が暮れかかり辺りが暗くなっているこの時間、多くの人が団扇やペンライトを持ってステージの前で待って居るのを見ると、スクールアイドルの人気度が伺えた。

 

「あ」

 

「え」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえ振り返ると、なんと葉月さんが居た。

 

「葉月さん。こんにちは」

 

「鈴鹿さんは…どうしてここに?」

 

 純粋に気になったのだろう。

 人も連れずにこんな場所にいることに。

 

「スクールアイドルのイベントがここであるんですよ」

 

「ええ、しってます。スクールアイドル…お好きなんですか?」

 

 何故か困った顔で僕にそう聞いて来る。

 

「好きっていうか、友達が出るので応援に」

 

「友達…、。えっと、どの高校の…?鈴鹿さんの学校のグループですか?」

 

「いえ、違います。別の高校で…、結ヶ丘女子高校ってところに通ってて…って」

 

 そこで僕は気づいた。

 以前、千砂都が来ていた結ヶ丘の音楽科の制服と、葉月さんが来ていた制服が同じだと言うことに。

 そう言えば、初めて会った時も、その後日にまた連絡先を交換した時も、この制服を来ていた。

 何故気づかなかったんだ…。

 

「葉月さん、その制服」

 

「はい、鈴鹿さんが仰る、結ヶ丘の生徒です」

 

 そう言って微笑む。

 

「お友達と言うのは、クーカーというグループの人たちですよね」

 

「え、えぇ。知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も…。そうですか、あの方たちのお知り合いでしたか」

 

 また、困った顔をして今度は目を伏せる。

 バツが悪そうな顔をすると、葉月さんは丁寧にお辞儀をして

 

「では、私はこれで。今度、カフェに行きましょうね。また連絡します」

 

 ぎこちなく笑って去っていった。

 

「こちらこそー」

 

 その後ろ姿に声を発して、ステージの見える場所まで移動する。

 人が先ほどよりも多くなった気がする。

 この中から、目的の人物を見つけるのは難しそうだ。

 電話をしようと携帯を取り出すと…、

 

「ういっすー」

 

 後ろから肩を叩かれ振り返ると、探していた人、千砂都が居た。

 僕を見つけてくれたようだ。

 

「ういっす。って、よく見つけられたね」

 

「当たり前じゃん。どこに居たって見つけるよ?」

 

「心強いことで」

 

「圭太」

 

「ん」

 

「緊張しすぎ」

 

「そりゃするでしょ」

 

「だよね」

 

「だって、あんなに頑張ったんだから」

 

「うん」

 

 かのんは頑張った。十分すぎるほどに。それは側で見ていた僕たちが身をもって証明できる。

 

「いつだっけ。出番。」

 

「もうすぐだよ。」

 

 カバンの中からクゥクゥさんに貰ったペンライトを出す。緊張のせいか喉が異常に渇いていることに気づいて、水筒のお茶を一気飲み干した。

 

「きた。」

 

「クーカー!!!」

 

 横で千砂都がかのんとクゥクゥさんのグループ名を叫んだ。

 ライトが点灯して、背中合わせのクーカーがステージ中央で立っている。

 自然とペンライトを握る力が強まる。

 その後、お姉ちゃんー頑張れーと言う聞き慣れた声が近くで聞こえた。恐らく、かのんの妹のアリアちゃんが来てるのだろう。

 

 緊張のせいかかのんの不安そうな顔が見て取れた。そして、クゥクゥさんも。

 いつ、曲が始まるのかと、手汗で湿った手でペンライトを握り締めていると、照明が落ちた。

 演出かな、と思ったけれど、ステージ上の2人が明らかに動揺していた。

 それを見た観客達がザワザワとし始める。

 

「かのん…」

 

 思わず口に出てしまった胸中の名前。

 かのんは頑張った。もう十分な程に。

 一生懸命ダンスも歌も、そしてこわくてこわくて堪らないのを我慢してステージに立ったことも。

 

 それを、僕等は知ってるから。

 

 横から光が放たれていた。

 千砂都がペンライトを掲げていた。

 不安に駆られるステージの2人を照らすように。

 僕も持っているペンライトをそれに続いて光らせる。

 すると、周りのお客さん達も続いてペンライトを掲げてくれた。

 次々と光るそれは、ステージを薄く、でも力強く照らしている。

 

 ステージの2人はそれを見て再び背中合わせになる。

 お互いに背負い支え合うようにも見えた。

 

 きっと、歌えなくても、また失敗しても、クゥクゥさんはかのんのせいだとか、そんな事は言わない。かのんを支えてくれる、心強い味方なのだから。それは千砂都だって同じで。

 

 観客だって、動揺する新人のグループに頑張れと言うように、安心してと言うように光を照らしてくれている。自分たちが応援する他のグループがあるにも関わらずだ。

 

 僕はそこでスクールアイドルの暖かさを身をもって感じた。衝撃と一緒に鳥肌が立ち上がる。

 スクールアイドルという文化が、歴史がかのんを照らす。

 180度、いやそれ以上。360度見渡したって、かのんが恐れるものは今は存在しない。

 かのんがこわくて仕方がなかった人の目が、今はかのんを支えている。

 かのんの敵なんてここには居ない。

 怯える必要もない。

 恐れる必要だってない。

 だって君には、一緒に歌いたいと言ってくれた仲間と、それを支えてくれた仲間と、それを応援してくれる人達がいるのだから。

 君は1人じゃない。

 ここに居るのは、皆んな君の味方だから。

 

 だから。

 

 歌え、かのん。

 

 力一杯に。

 

 今までの鬱憤を晴らしてやれ。

 

 その美しい歌声を響かせてやれ。

 

 ここに居る全ての人の度肝を抜いてやれ。

 

 君ならできる。

 

 だから。

 

 

 

 

 ────歌声よ響け

 

 

 

 

 

 

 






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