Liella!〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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#7 LOVE はじめました

 

 

 

 

 

 原宿駅竹下通り改札から外に出ると大粒の雨が降っていた。

 湿った傘を開けて竹下通りを歩く。

 有名チェーン展開のファストフード店の前で傘を閉じて中に入る。

 平日の夕方のせいか、人は疎らでそこまで多いというわけでもなかった。だから、入り口付近で背伸びをして目的の人物を探していると、

 

「圭太さん!こっちデス!」

 

 大袈裟すぎるほどに手を振っている人が僕を呼んだ。

 小さく手を振りかえして、その席まで歩き、腰を下ろした。

 

「遅れてしまってすみませんクゥクゥさん」

 

「いえ!お構いなく!」

 

 これまた難しい日本語をペラペラと話す。

 クゥクゥさんは、そう言うと、待ってたと言わんばかりに、大きなハンバーガーを頬張った。

 

「うみゃぁ」

 

「僕も何か頼もうかな」

 

 そう言って席を立ちカウンターまで歩くと、クゥクゥさんと同じハンバーガーとコーラを注文して席に戻る。

 クゥクゥさんは半分以上食べたハンバーガーをトレイに置いて、飲み物をストローで勢いよく吸っていた。

 

「頂きます」

 

 僕もハンバーガーを頬張る。うん、うまい。

 そうして半分ほど食べ進めると、トレイに置き、コーラで流し込む。そこで僕は本題に入ることにした。

 

「クゥクゥさん」

 

「はい!」

 

「かのんはその後どうですか?」

 

 あのライブの後がずっと気になっていた。

 かのんとクゥクゥさんは条件通り一位になれた、とはならず目標は達成できなかったけれど、特別新人賞という賞を受賞した。それが認められたらしく、学校でのスクールアイドル活動が公認されたという事は千砂都に聞かされたけれど。

 

「と、言いますと?」

 

「歌えてますか?」

 

 気になっているのはそこだった。

 目一杯かのんが振り絞るように出した歌声は、代々木公園のイベント会場にしっかりと響いていた。

 かのんは、歌えたのだ。

 大勢の観客の前で、多くの人の目の前で、しっかりと力強く。

一位にはなれなかったけれど、やり切った、という顔をしていた2人の顔が印象的だった。

 

 一位になったグループは美しく華やかで、見る人たちを圧倒するパフォーマンスをしていた。あのイベントに来ていた人たちの目的は殆どがそのグループだったのだろう、途轍もない盛り上がりだったし、僕自身、あの2人組のグループのパフォーマンスに大きな衝撃を受けた。これが、スクールアイドルのトップレベルなんだと実感したから。

 

 問題はその後。

 かのんは、その後も歌えるようになっているのか、そうでないのか。そこが気になっていた。

 

「大丈夫なのかなって。あれで自信がついて克服できてれば良いんですけど」

 

 そうして、それを聞くためにクゥクゥさんには時間をとってもらったという事だ。

 

「かのんが心配なんですね」

 

 今後、またこういうステージに立つ事が増えて来るだろうけど、その時にまた同じように歌えるようになってくれていればかのんはもう大丈夫なのだろう。

 でも、そうじゃなかった場合、またショックを受けてしまうかもしれない。

 クゥクゥさんや千砂都という存在がかのんにとって大きなものだと気づいたから、余計な心配にはなるかもしれないけど。

 

「圭太さんって、優しいんですね」

 

「え?」

 

「いい友達なんだなって、思いマス。肌で感じマス」

 

「大袈裟です。」

 

「そういう圭太さんがいるから、かのんはもう大丈夫です」

 

「?」

 

「圭太さんや千砂都という存在が居るという事に、かのん自身で気づいたからもう大丈夫デス」

 

 そう言ってハンバーガーをクゥクゥさんは平らげた。

 クゥクゥさんがそう言ってくれるならもう問題は無いのだろう。

 

「良かった」

 

「また何かあれば、すぐご連絡差し上げマス」

 

「ありがとうクゥクゥさん。かのんをよろしくね」

 

「任された」

 

 そう言って胸を軽く叩くクゥクゥさん見て、ほっと無でを撫で下ろす。

 そして、この後のバイトの養分とする為に、残ったハンバーガーを頬張った。

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 降り続ける雨にうんざりした気分で傘を開けた。

 バイト終わりの午後9時過ぎのことだ。

 湿気のせいか生暖かい気温という事もあって、気分がより下火になっていく。

 

 早く帰ろう。

 そう思ってさっさと着替えて神社を出ようとした時に、

 

「ねぇ、話があるんだけど」

 

 そう言って僕のリュックサックを掴んだのは、ここの住人で同学年の平安名すみれ。

 彼女も着替え終わったのか、緩めの七分袖のシャツにデニムという姿になっている。

 

「あ、あぁ。そう言えば前もそんなこと言ってたね」

 

「ちょっと、ちゃんと覚えててよ」

 

 だって、彼女の相談なんて、分かりきっていたから。

 どうすれば芸能事務所のスカウトを受けられるかとか、男の目線から見てどういう格好やキャラの方が芸能界でウケが良さそうかとか、その他諸々。

 もう何度も何度も同じような会話してたら、最近面倒くさくなってきたというのが本音なのだ。

 

「で、なに?スカウトの件でしょ。それなら…」

 

「そんな話じゃ無いわよ」

 

「え」

 

 適当にあしらって帰ろうかと思っていたが、思わずその場で固まってしまった。

 何違うの?

 

「あんた、恵比寿の高校って言ってたわよね」

 

「そうだね」

 

「公立の方よね」

 

「うん」

 

 そこまで言うと、すみれさんはスマホを操作してある画像を僕に見せてきた。

 

「この人、知ってる?」

 

 小さな画面に映る写真を覗き込むと、隠し撮りだろうか、見知らぬ男の人が写っていた。

 

「だれ」

 

「そう、関わりはないのね」

 

「でも、この制服って事は…」

 

「そう、あんたと同じ学校の筈」

 

 どこで撮られたかわからないけれど、周りの景色や人との比率で、背が高くかなりがっしりした体型の人だろう。髪の毛は金色気味の茶髪で、男としては整った顔の部類に入るだろうと言うような顔立ちをしている。

 

「この人がどうしかしたの?」

 

「付き纏われてるのよ」

 

「はい?」

 

「だから、言葉通り。私、気に入られたみたいで目をつけられてるのよ。彼女にならないかって言われたの。」

 

 彼女…。

 と言う言葉の意味を理解するのに数秒の間を要してしまった。つまりは、恋人同士にならないかと言う提案をされたと言う事だろう。

 

「いいんじゃない?」

 

「何も良くない」

 

「見るからにイケメンそうだし、悪い事じゃないように思えるけど」

 

「殆ど面識ないのよ?」

 

「へ?」

 

 想定外の言葉に素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「だから、殆ど話した事もないし会った事もない」

 

「な、中々…積極的ですねその人…」

 

「感心してる場合か」

 

 といって、脇腹をチョンと突かれた。

 

「付き合ってみたら?それが嫌だって言うならお友達から…とかでも」

 

「嫌」

 

「どうして」

 

「好みじゃないから」

 

「結構モテそうな感じなのに」

 

「モテそうな人はどうにも好かないのよ。私そういう人は全く好みじゃないの」

 

 変わってるなぁとは思ったけれど、人の好みなんて人それぞれだから、それ以上は言わないことにした。

 

「で、相談っていうのは?」

 

 なんだか厄介なことになっていると言う事は理解できたけれど、それを僕に相談したところでどうこう解決できそうにない気がするのだけれど。

 

「言っちゃったのよ」

 

「何を?」

 

「好きな人がいるからって」

 

「それで」

 

「付き合ってるのかって聞かれて、はぐらかしたんだけど…」

 

「嘘ついて誤魔化したってことね」

 

「そしたら」

 

「そしたら?」

 

「そんな人といるの見たことないって言われて」

 

「うん」

 

「咄嗟に、最近仲良くなったからって…」

 

「嘘に嘘を重ねたんだね」

 

「仕方ないじゃない…」

 

「それで?」

 

「また来るって言って帰ったのよ」

 

 話が見えてきた。

 僕に相談する内容というものが。

 

「制服見た時に鈴鹿くんと高校同じだって気づいて、名案が浮かんだの」

 

「嫌だ」

 

「ちょっとまだ何も言ってないでしょ」

 

「だいたい察しはついた」

 

「話は最後まで聞きなさいって習わなかった?」

 

 帰ろうとする僕のリュックサックにしがみついて唸り声をあげている。蝉か。

 

「大方、その人のことを学校で調べて欲しいとかそんな面倒臭いことでしょ?」

 

「違うわよ!」

 

「なら何さ」

 

「私と付き合いなさい」

 

「へっ?」

 

 想定の斜め上、それも途轍もなく上の回答にさっきよりも気持ちの悪い声が出てしまった。

 

「今なんて?!」

 

「だから、私と付き合いなさいって言ったの」

 

「付き合うって、え?」

 

「恋人になるって意味よ」

 

 この人何言ってんだと思ったが、本人は至って真剣な表情をしている。

 

「意味が分からない」

 

「付き合ってるってところを濁したけど、それ相応の人がいるってことになっちゃったから、もうそうするしかないのよ!」

 

「だとしてもなんで僕なんだ!」

 

「私、男の知り合いなんてそんなにいないのよ!」

 

「だったらなんでそんな嘘を」

 

「仕方ないじゃない!その場を収める為というか逃げる為だったもの!あの人、背が高くてガタイもがっしりしてるから圧がすごいのよ!俺の告白断るわけないよな、なんて顔してやがるのよ!」

 

 こーんな顔、と言ってその僕が会ったとない人の顔真似をされる。知らない。

 

「お願い!」

 

「そう言われてもなぁ…」

 

「この通り」

 

 そう言ってすみれさんは顔の前で手を合わせる。

 

「でも、そんな嘘いつまで続けるのさ」

 

「んー、相手の興味が無くなるまで?」

 

「いつなんだそれは…」

 

「とりあえず、1カ月とかかしら。私と鈴鹿くんが仲良くしてるところとか見たら諦めるでしょ。」

 

「どうだろう」

 

「恋人っぽい感じ出しとけば」

 

「そんなの出来るの?」

 

「え」

 

「僕、この方付き合ったことなんて無いけど」

 

「あたしも無いわよ」

 

「うそぉ、本当に大丈夫?」

 

「何とかするから。とにかく、お願い」

 

 如何にもこうにも厄介なことになってしまった。

 でも、同じ年代でバイト先が同じ…ていうかバイト先に住んでる子なんだけど、そんな今後切っても切れなそうな関係の子の頼みでもあるのだ。

 せっかく慣れてきたバイト先だし、辞めて一から探し直しというのも気が引ける。それなりに、すみれさんには良くしてもらってきたとも感じてるし。

 それに、いろいろと話がこじれてややこしい事になった時、言った通りにしておけばとなるのは、それはそれで嫌だ。

 だから、

 

 

「分かったよ…」

 

 その厄介事を引き受けることにした。

 

「え、ほんと?!」

 

「その代わり」

 

「なに?」

 

「一つ貸しだからね」

 

 そう言って僕は傘を開く。

 もう9時半だ。早く帰りたい。

 

「後で今後のこと連絡するからー」

 

「分かりましたよー」

 

 夕方より雨足が強くなっているような気がした。

さっきの話のせいで何だか今日は一段と疲れた気分の僕は、これからの事を考えながら、雨の中をゆっくりと歩いて帰路に着いた。

 

 

 

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