いつもの通い慣れた駅の前。
大降りだった雨は今は小雨でパラついているという表現の雨模様になっている。
梅雨が始まったのだろうか。
天気予報を事細かに見ているわけでは無いので、梅雨前線だとか低気圧だとかそんな難しい事は分からないけれど。
「お待たせ」
そう言って現れたすみれさんは、肩で上下に息をしている。
走ってきたのだろうか。
「別に時間通りだからいいよ」
「ちょっと、急な来客というか何というか…」
「来客?」
「見てはいけないものを見てしまった子がいてね。忘れてもらう為に100回頭を叩いて清めの水2リットルを掛けようとしてたの」
「え、拷問?」
「本当にする訳無いでしょ」
「話が見えないんだけど」
「同じ学校の子と少し話をしてたら長くなったのよ」
そう言って僕の隣に立って雨空を見上げた。
僕と同じでこの雨にうんざりしてるのか、困ったように眉を下げている。
「どこか入りましょ。作戦会議よ」
すみれさんは傘を再び広げて外へと歩きはじめた。僕はその背中を追う。
原宿駅表参道口から出てすぐの珈琲店に入る。
店員さんが注文をとりにきたので2人でアイスコーヒーを注文した。
「で、どうだったの」
「あぁ。一応、調べられる事は調べてきたよ。って言っても、僕の交友関係じゃそこまで詳しい事までは分からなかったけど」
アイスコーヒーが運ばれてきた。
ストローでそれを吸うと、苦味と同時にコーヒーの香りが舌を刺激する。
ジメリ気のあった嫌な感覚が少しマシになった気がする。
「新井先輩っていう人で、高校3年生でバレー部の主将」
「名前は知ってる」
「え、知ってたの?なら早く言ってよ…」
「告白してきた時に名前言ってたから」
「言ってくれてたらもっと調べやすかったのに」
多く無い交友関係を使って洗い出した情報なのに。
どうしてそんな事気になるのという友達の疑問を掻い潜るのにも頭を使うんだから、と文句言いいたくなったけれど話が進まなそうなので喉の寸前で飲み込んだ。
ややこしいのはこの後なのだ。
「聞きたく無いかもしれないけど、この人彼女がいるらしい」
「…」
「偶々仲のいい子でバレー部の友達がいて、その子の情報によると部活の帰りとかでよく、いまの彼女の悪口とか飽きたから別れようかなとか、そんなこと面白おかしく言ってるらしい」
「そう」
「でも評判自体は悪くなくて、やっぱり女の人の人気は高いらしい。何というか、よく掴めない」
「多分、仲の良い人たちの前や後輩なんかの前でそう言ってるんでしょうね。つまり情報が正しければ、その彼女の人も私も、新井先輩って人の都合のいい女ってことになるわね」
学生特有の黒さ。
特に、周りの目を常に集めるカースト上位の人たちの見てくれとか体裁とか、そう言う不確かで脆いもの。
僕の友達も、不快そうな顔をして教えてくれたけど、やっぱりその場では笑って誤魔化すしか無かったそうだ。
その場にいる人も、そりゃ別れるわ、とか知りもしない他人の彼女の事を悪く言って、自分の地位を守っている。
それが悪いこと…だとは思わないし、仕方のない事だろうけど、外から見れば良い気はしない。
「望み薄かもだけど」
「なによ」
「本気ですみれさんの事を好きになったって事ならどうするの」
「…」
すみれさんは何も言わずにアイスコーヒーを口にした。
考えているのだろうか、アイスコーヒーのグラスをジッと見つめている。
少しの間が空いて、気にならなかった周りの声や音が自然と耳に入ってきた。今、デザート30%オフキャンペーンが行われているらしい。
「でもやっぱり嫌よ」
すみれさんは表情も声色も変えずにまた話しはじめた。
「だって私その人のことよく知らないもの」
「お友達から…とかでも?」
「相性ってものがあるでしょ?何となく、会って告白されて、無理だなって思ったのよ。高圧的というか高飛車というか、プライドの塊みたいな話し方とか。諸々含めてね」
「相性ねぇ」
「まぁ、私自身が勝ち気で高飛車的、みたいなものだから」
そう言って笑った。
相性という言葉。
ずっとこれから先、友達として、恋人として、色々人との繋がりなんて形はあれど、それがまず第一前提で大切なのかもしれないと思った。
相性いいなと感じる事は無かったとしても、この人感じ悪いなというのは肌で感じるもので。
もし、僕やすみれさん…以外でも、かのんや千砂都との関係も、なんか合わないなと感じていたら、今の関係は築けていないだろうし。
「一目惚れって、言うのがよく分からないのよ。殆ど関わりない人を好きになる理由も。人それぞれそう言うものには形があるのかもしれないけれど、私は無理」
「モテそうな人は好かないってやつ?」
「紆余曲折あって好きになった人がモテる人だったというのは何も思わないけど、モテる人だからって理由で好きになるのはよく分からないの私は」
昨日の話。
モテそうな人は好みじゃないというすみれさんの言葉を思い出した。
「なんだか、薄っぺらいなって」
「薄っぺらいかぁ」
「人を好きになるのって、かっこいいからとか可愛いからとか、そんな単純な事なのかしら。私ってやっぱり変?」
「ううん。人それぞれだよ」
「ありがとう、そう言ってくれて」
そう言って笑って、アイスコーヒーを吸った。
すみれさんのグラスのアイスコーヒーは空になった。
恋とか愛とか、好きとか嫌いとか、そういうものは考えれば考えるほど答えが出なさそうな気がする。
結局のところ、どういう形であれ当人達が幸せならばそれで良いのだから。
自分が幸せな方、それがその人の答えなのだ。
「話が飛んだわね。とりあえず、明後日の土曜日デートよ。バイトないわよね」
「え」
突然のカミングアウトに思わず声が大きなる。
「恋人のフリなんだから、そこまでしなくても…」
「念には念よ。写真とかあった方がもしもの時の説得力にもなるでしょう?」
「抜かりないことで」
「行く場所は決めてあるから、目一杯オシャレしてきなさい」
また、服装を考えなくちゃいけない。
そう考えながら水滴がびっしりとついたアイスコーヒーを手に取って口にした。
作戦会議を終えて、珈琲店を出ると外はまだ雨が降っていた。
方向が別なので、ここでお別れかなと思っていたら、
「そう言えばあんた、スクールアイドルって知ってる?」
すみれさんから予想外のワードが聞こえてきた。
「知ってるも何も、友達がしてるんだよ」
「ふーん。結構やっぱり人気あるみたいね」
「そう言えば、すみれさんって高校結ヶ丘って言ってたよね?」
「え?そうだけど?」
「実は僕の友達も結ヶ丘で、そこでスクー…
「ゲッ!」
「うわっ、なに?」
すみれさんに腕を掴まれて引き寄せられたかと思ったら、道の脇に押し込まれた。
「良いからジッとしてなさい!」
「なになになんなのさ」
「ちょっと顔見知りがいたから…」
そう言って覗き込む様に見るすみれさんの視線を追う。
傘を刺した人が目の前を行き来しているのだが、そこで思わぬ人を見つけた。
「あれ、千砂都?」
「え、?千砂…って、あんたまさか」
間違いない。
ピンク色の傘の下、白基調の半袖の制服に赤の蝶リボン…夏服だろう、赤のの瞳に何度も見てきた両サイド二つに作られたお団子。あれは千砂都だ。
「知り合いなの?」
「知り合いも何も、友達だよ」
「澁谷かのん、唐可可…って名前は?」
「え、知ってるの?そうか、やっぱり同じ高校だし接点あったんだ!こんな偶然ってあるんだなぁ」
思わぬ出来事に少し声が大きくなってしまったと同時に、すみれさんの、あっ、と言う声が聞こえた。
「なに?」
すみれさんの方を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をして、前を向いていた。
僕はそれに反射的に釣られて同じ方を見ると、
「圭太…と、平安奈さん?ここでなにしてるの…?」
さっきまで向こうを歩いていた千砂都が、僕等の目の前に立っていた。
書き溜めがあるのでこの様に早い更新頻度になっています。書き溜めがなくなればまた不定期になります。
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