珍ェンソーマン   作:tubuyaki

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今回はちょっとシリアスに

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THREE WISE MONKEYS

一猿目 もう何も見たくねえ

 

 マキマに連れられたデンジたちが墓地に着くと、そこには墓の前でじっと立ち尽くす男の姿があった。

 背が高く背筋も伸びており、コートを着た上からも体格の良さが伺える。

 だが、どこかくたびれた感も否めない、そんな白髪交じりの男だった。

 

「彼は最強のデビルハンターだよ」

 

「とてもそうは見えんの!」

 

 パワーが端から失礼なことを言う中、デンジはどうでもよさそうに男を眺めていた。

 

「岸辺先生、例の新人たちを連れてきました」

 

「黙れ」

 

「……」

 

 男はおもむろにスキットルを取り出すと、ぐいっとあおった。

 そうして、相変わらず墓に向いたまま言った。

 

「もうそんな奴ら見たくねえ」

 

「先生……?」

 

「意味があるのか? 俺がいくら鍛えても、どうせ死ぬだろ」

 

 男の声色は、失意に染まっていた。

 

「俺が育てたらしばらくは持ち堪えるが、結局はお前の下で使い潰され死んでいく。

悪魔はその間にも次から次へと湧いて出てくる。キリがねえ」

 

 マキマはすました顔で言った。

 

「今回の彼らは面白いと思いますよ。お伝えした通り、一人は不死身で、もう一人はほぼ不死身です」

 

「能書き通りに行くほどデビルハンターは甘くねえだろ」

 

「だから先生に鍛えて貰うんです。それに、デンジ君はすごい特技だって持ってますから」

 

「特技……?」

 

 興味を惹かれたのか、男が振り返った。

 男の死んだような目がデンジの姿を捉えた。

 

「なんだ、特技って?」

 

「ほらデンジ君、アレやってみせてよ」

 

 デンジは、マキマに言い含められた通り、男に元気よく挨拶した。

 

「おっす、俺デンジって言います! 特技、やらせて貰いまァーす!」

 

 デンジはおもむろに後ろを向いてズボンをずり下げると、ウンと踏ん張ってケツからチェンソーをひねり出して見せた。ヴヴヴヴ とチェンソーがうなりを上げる。

 

「ほら先生、面白いでしょ?」

 

 男の目は死んだままだった。

 

「……何も面白くねえ。汚ねえもの見せつけんな。なおさら何も見たくねえ……」

 

 デンジの特技は、さらなる男の不興を勝ったようだった。

 落ち込んだデンジは、とぼとぼと降ろしたズボンを引き上げた。

 

「だがまあ、どんなバカでも何もしねえわけにもいかねえか…… いいだろう。お前たち二人、最高にイカしたデビルハンターに仕上げてやるよ」

 

「後は頼みます」

 

 マキマはそう言って、デンジたちをその場に残し、立ち去って行った。

 微妙な空気を残したまま、デンジたちと男は向き合うことになった。

 これから、二人を強くするための修業が始まる。

 

 ~岸辺、あるいは心折れかけた男 ~

尻ASS END

 

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二猿目 何も言いたくねえ

 

 マキマに連れられたデンジたちが墓地に着くと、そこには墓の前でじっと立ち尽くす男の姿があった。

 背が高く背筋も伸びており、コートを着た上からも体格の良さが伺える。

 だが、どこかくたびれた感も否めない、そんな大男だった。

 

「彼は最強のデビルハンターだよ」

 

「黙れ」

 

「……」

 

「もう何も言いたくねえ」

 

 マキマを黙り込ませたまま、男はそれきり何も喋らない。

 ずっと姫野の墓を見詰めたまま、振り向きすらしない。

 ただひたすらに立ち尽くしていた。

 

「…………」

 

「……先生?」

 

「…………」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

「コイツ、心が終わっておる」

 

 パワーがなんの遠慮も無しに言った。

 

 本当にそうだった。

 

 ~岸辺、あるいは心折れた男~

DISAPPOINTMENT END

 

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三猿目 聞こえねえ

 

 マキマに連れられたデンジたちが墓地に着くと、そこには墓の前でじっと立ち尽くす男の姿があった。

 背が高く背筋も伸びており、コートを着た上からも体格の良さが伺える。

 だが、どこかくたびれた感も否めない、そんな壮年の男だった。

 

「彼は最強の……」

 

「黙れ」

 

「……」

 

「どの面下げて俺の前来やがった?」

 

「……この度は、ご愁傷さまです。それで、新人二人のご指導を……」

 

ビダーン!

 

 静かな墓地に、その音はことさらよく鳴り響いた。

 男がマキマを思いっきりビンダした音だった。

 

「それがものを態度かぁー!!」

 

「先生、暴力はちょっと……」

 

ビダーン! ビダーン!

 

「こんなことされるとったのかー!!」

 

「……はい。すみません……」

 

「マキマが気圧されておるじゃとっ!?」

 

 威圧的に喋る男の前では、マキマがとても小さく見えた。

 デンジよりマキマとの付き合いが長いパワーにとっても、これは驚愕すべきことであるらしかった。

 

「それで先生、こちらが今回教育して頂く二人です」

 

 男がぐるんとデンジたちの方に向き直った。

 デンジたちは男の迫力にびくっと震えた。

 

「お前たち、質問だ。仲間が死んで、どうったんだ?」

 

「え、なんて……?」

 

「だから、どうおもってんだ?」

 

「どうおっ……?」

 

「ワ、ワシにも聞き取れんぞ」

 

「だからどうったかいてんだろうがー!!」

 

「あっ……」

 

「考まずにうたらどうなんだー!!」

 

「なっ……」

 

「どう思ってるのかからんじゃないかーっ!!」

 

「「……はい……」」

 

 デンジもパワーも、二人してしょんぼりした。

 

「先生はね、こんな風に戦闘だけじゃなくて口論も最強なんだ」

 

「口論というか、これもうパワハラじゃないか?」

 

ビダーン!ビダーン!

 と、すぐさま大きな音が立て続けに鳴り響いた。

 

「「  」」

 

 突如として振るわれた強烈なビンダに、マキマもパワーも言葉が出ない様子だった。

 

「公安だって馬鹿じゃないだろ。お前分かっていて見逃したな?」

 

「「……」」

 

「こんな事やっていとってんのかーっ!!」

 

「「……はい、すみません……」」

 

 相変わらず男が何を言っているのか分からないが、言われたマキマたちの心はへし折られかけているらしかった。

 

「おー、コワ~」

 

 デンジの口から心の声が漏れた。

 

 公安対魔特異1課 改め 公安対魔特異4課隊長 岸辺、御年53歳。

 典型的な昭和前半生まれのモーレツ男だった。

 

 

ら100点取ないのかーっ!!」

 

「「「……はい、すみません……」」」

 

 ~岸辺、あるいは怒れる男~

ANGER END

 

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殺滅破虐疹暗争躙核疫餓闇乱酷亡怖侵困魔堕悪苛腐癌崩鬼症比尾刹貧戦震獄蹂飢租唖恐銃狂病壊死

 

 

 

 

死猿目 もう何もしたくねえ

 

 マキマに連れられたデンジたちが墓地に着くと、そこには墓の前でじっと立ち尽くす男の姿があった。

 背が高く背筋も伸びており、コートを着た上からも体格の良さが伺える。

 だが、どこかくたびれた感も否めない、そんな背中をした男だった。

 

「彼は最強のデビルハンターだよ」

 

「とてもそうは見えんの!」

 

 パワーが端から失礼なことを言う中、デンジはどうでもよさそうに男を眺めていた。

 

「岸辺先生、例の新人たちを連れて来ました」

 

「黙れ」

 

「……」

 

 男はおもむろにスキットルを取り出すと、ぐいっとあおった。

 そうして、相変わらず墓に向いたまま言った。

 

「質問だ。お前たち、仲間が死んでどう思った?」

 

「どうって…… 別にィ?」

 

「死んだ! と思った!」

 

 早川アキにはとても聞かせられない答えだった。

 

「敵に復讐したいと思うか?」

 

「復讐ゥ~? 陰気臭いのは嫌いだね」

 

「ワシもじゃ」

 

 即答だった。

 

「お前たち、人と悪魔どっちの味方だ?」

 

「メシくれる方」

 

「強い方じゃ!」

 

 何ら悪びれること無く、二人は答えてみせた。

 だが、それに対する男の態度も、とんでもないものだった。

 

「お前たち…… 100点だ」

 

「あぁん?」

 

「お前らみたいなのは滅多にいない。すばらしい。大好きだ」

 

「……怖ぃ」

 

 理解を越えた男の態度はパワーすら慄かせた。

 

「お前たちは間違いなく良いデビルハンターになる。俺がお前たちを最高にイカした奴らにしてやるよ」

 

 マキマはそれを聞いて、二人の引き渡しが上手くいったことを確信したらしかった。

 

「それじゃあ後は頼みます」

 

「ええー、マキマさんもう行っちゃうのォー?」

 

「後は彼に鍛えてもらってね」

 

 マキマはデンジの願いをさらりと流した。

 残念がるデンジだったが、しかし意外なところから助け舟が出された。

 

「いや待て、マキマ。まだここにいろ」

 

「先生?」

 

 不思議そうに首をかしげるマキマの前で、ついに男は振り返った。

 男は見るからに顔を赤くしていた。

 墓の前で泣いていた…… という様子ではない。

 明らかに酒が入って、出来上がっていた。

 

「今まで俺も色々育ててきたが、魔人やその類を教えんのは初めてだ。どうしていいか分からん」

 

「先生の好きなようにやってください」

 

 マキマは何ということもなく言ったが、どうやら男には言葉の続きがあるらしかった。

 

「俺は悩んだ。一日中悩んだ。悩んでも何も思い浮かばねえから酒の力を借りることにした。浴びるように飲んだ。そうやって俺はアルコールにやられた頭で考えた。そして今…… 閃いた」

 

 男の息は、少し離れた場所に立っているデンジたちにも分かるぐらいに酒臭かった。

 

「マキマは最強の悪魔だ。最強の悪魔を倒せるデビルハンターは最強なわけだから、お前たちがマキマを何時でも倒せるようになるまで、俺はお前たちに狩らせ続ける」

 

「……ヘェあっ?」

 

 デンジの喉から変な息が漏れた。

 

「コイツ、頭が終わっておる」

 

 パワーがなんの遠慮も無しに言った。

 本当にそうだった。

 

「先生、それは本気で言ってるんですか」

 

「俺が手本を見せてやる」

 

ゴキィッと音が鳴った。

 

 マキマが首を変な方向に曲げたままぶっ倒れた。

 

「マキマが死んだ!」

 

「この人でなしぃイイ──!!」

 

 二人の叫び声にも関わらず、男は冷静だった。

 

「安心しろ。またすぐ起き上がる」

 

 マキマの体がビクリと動いた。

 驚愕の視線を向ける二人の前で、マキマはゆっくりと体を起こし、立ち上がった。

 折れ曲がっていたはずの首も、いつの間にか治っているようだった。

 

「……言いたいことは色々あります。けれど先生、分かっていますか……? これは、私に対する明確な……」

 

 全て言い終わるよりも先に、岸部が再び彼女の首をへし折った。

 

「このようにマキマはお前たちのトレーニングに最適な悪魔だ。再生力も最強だが、実は攻撃力もクソ強い。必死でやらねえとすぐ死ぬぞ」

 

「人の話を聞いてから……」バキィッ!

 

「いいかお前たち、マキマに行動する隙を与えるな。マキマが本気で攻めに回ったら、お前たちじゃ手も足も出ないからな。確実にお前たち二人とも絞められる。俺も絞められる」

 

「日本国民の命が……」ボキィッ!

 

 恐れ戦くデンジたちの前で、またも男はマキマを殺してみせた。

 

「本当は少しでも早く訓練を終わらせてやりたい。マキマが殺されるごとに罪のない日本人が一人ずつ身代わりで死んでいくからな。だが俺はお前たちを強くしなきゃなんねえ。こればかりはしょうがない……」

 

「!!!……」ゴキィ!

 

 呆然とする二人の前で、岸部はマキマを容赦なく殺し続けた。

 

「さあどうしたお前たち。早くやらねえと俺がお前たちを狩っちまうぞ……?」

 

「コイツ、本当に……!」

 

 パワーがドン引きした声を上げる中、デンジも混乱の極みにあった。

 

「(俺の大好きなマキマさんが……!)」

 

 なぜ、どうして……?

 デンジには考えても分からない。

 

 またマキマが岸辺にぶち殺された。今度はナイフで首を切り裂かれている。

 デンジが何かを言うより早く、パワーが動き出した。

 しかしそれは、マキマを救うためではなかった。

 

「マキマの雑魚! マキマの雑魚!」

 

 普段抑圧されている恨みを晴らすつもりか、パワーは嬉しそうな表情でマキマ殺しに加わった。

 まずは倒れているマキマの体を足で踏み砕くことにしたようだ。

 

「コイツ、本当にザコじゃ! こんなにも簡単に死におる!」

 

ギャハハハハッ!

 

「おい、デンジとか言ったか。お前も早く加われ。時間を無駄にするな」

 

 既にマキマの体から流れ落ちる血が、デンジの足元を赤く染め上げていた。

 パワーはマキマを足蹴にするのに飽きたのか、今度は馬乗りとなってマキマをタコ殴りにしている。

 パワーが拳を振るう度に、デンジの顔に血が飛び散った。

 

ウワハハハッ!

 

 マキマの返り血で顔を赤く染め上げたパワーが、豪快に笑い続けていた。

 

「デンジ、覚悟を決めろ。早くお前が強くならねえと、お前を拾ってくれたマキマが死に続けるぞ」

 

 それでもデンジは動けなかった。

 デンジが動けない間にも、パワーは容赦なくマキマを殺し続けた。

 パワーはもう普通の殺し方に飽きたのか、今度は腹から臓物を引きずり出すことを覚えたらしかった。

 とにかくマキマはおもちゃにされ、殺され続けていた。

 

「おい、デンジ」

 

「何もしたくねえ……」

 

 デンジは、そう言って放心した。

 何もすることが出来なかった。

 

ギャハハハハッ! ギャーッハハハハハッ!

 

 パワーの愉快そうな笑い声だけが、墓地に高々と響いていた。

 

 ~岸辺、あるいはネジを緩めすぎた男~

DEADLY END

 

 

 

 




ギャハハハハッ! アギャッ……!

パワーの声が止んだ。
デンジが目を向けると、そこには体に風穴を開けて倒れ伏すパワーの姿があった。
傍らには血塗れになったマキマが、冷たい目でパワーを見下ろしていた。

「これは命令です。人を殺す前に、まずは人の話を聞きなさい」

「……! ……!!」

パワーは何か言おうとしているものの、言葉が言葉にならず、口をパクパクさせている。
デンジはふと気が付いた。岸辺がいつの間にか居なくなっている。

「デンジ君……」

「はいッ……!」

デンジの背筋が、思わずピンと伸びた。

「これは命令です。最強のデビルハンター、岸辺を探し出して殺しなさい」

デンジの背中が、ぞくっと震えた。



「マキマさん、ガチギレじゃーん……」

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