ドジ踏んだりしないし、ムキになったりしないし、
やること全部がクールでミステリアスでなきゃいけないの
「チェンソーマン、チェンソーマン、チェンソーチェンソーチェンソーマン、
チェンソーマン、チェンソーマン、チェンソーチェンソーチェンソーマン、
チェンソ~♩ チェンソ~♪」
執務室に軽やかな、少し興奮したような声が響く。
「チェンソーマン~、最強~、最高~♩ チェンソーマン~、天才~、絶対~♪
服は着ないし、喋りもしない~♩ やること成すこと全部滅茶苦茶!」
「……」
「チェチェチェチェンソーマン~、チェチェチェチェンソーマン~♩ チェンソーマン、チェンソーマン、チェンソーチェンソーチェンソーマン、チェンソ~♩ チェンそっ……」
「……」
「……」
「……喋っていいか?」
無表情な岸辺の顔から、その心情を伺うことは難しかった。
「いつからいましたか?」
「ノックはしたんだがな。聞こえないようだったから勝手に入らせて貰った」
マキマはスンとした表情で言った。
「今起きたことを忘れなさい」
「……今起きたこと? もっと具体的に言ってくれ」
「質問です。私は今、何をしていましたか?」
「上機嫌で歌っているように見えたが……」
「……」
マキマは岸辺に顔を近付けて言った。
「これは命令です。私が歌っていたことを忘れなさい」
岸部は大きくため息を付いた。
「お前が一番よく分かっていることだろうが、お前の能力は自分より下だと認識した相手を支配するものだ。つまり精神的に優位に立たれた相手には通用しない。例えば人に知られたくない、恥ずかしい秘密を握られたりな」
「独りでいる時には誰だって歌ぐらい歌うでしょう。別に大して恥ずかしいことではありません」
「どうだかな。まあ、俺はお前がお国に育てられてた頃にどんなバカなことをやってきたのかも全部知ってるからな。そしてお前も、若い頃の俺の噂ぐらいは聞いて育ったハズだ。そういう積み重ねが精神的優位を生むんだ」
マキマは眼力を強めて岸辺に命じた。
「いいですか。私は今や特異4課のリーダーにして、内閣官房長官直属のデビルハンターで、あなたはその部下です。これは命令です。今見たことを胸の内に秘めておきなさい」
「俺がそういう肩書に縛られる男じゃないことはよく分かってるだろ。安心しろ。俺は別に噂を吹聴するタチじゃない。みんなにバラしてお前に開き直られるよりは、俺一人で知っておいた方が良さそうだしな」
それを聞いても、マキマが岸辺に向ける視線は微塵も和らぐことはなかった。
「前に似たようなことを言ったがな、お前が人間様の味方である内は黙っておいてやるよ。内は、な。ほら、今回の報告書だ」
岸部はデスクに書類を置くと、そのまま部屋を出て行った。
彼はスタスタと廊下を歩いていく。
ばん と大きな音がした。
岸部の足が止まる。
彼が振り返った先、扉の奥から、ばん、ばんと机を叩く音がこだましていた。