日本ダービーを終え、次の出走予定のレースは何にするか。通常であれば菊花賞前に一回挟む場合が多く直接菊花賞へ向かうパターンは殆どない。その一回挟むレースは秋の始まりのレースである神戸新聞杯、セントライト記念、京都新聞杯*1、京都大賞典*2などが挙げられいずれも重賞競走となる。また夏の札幌記念、函館記念なども視野に入ることもある。
だがサードプレジデント陣営はそのいずれでもなかった。
「次走はトラヴァースSを予定しています」
サードプレジデント陣営の顔役である旭川の発言に記者達は一瞬凍り付き、思考が止まる。そして騒然としはじめる。
「ご静粛に! 我々が何故トラヴァーズSを選択したかについて説明いたします」
記者達が困惑した理由のトラヴァースSとは一体どのようなレースなのかというと、米国で行われるGⅠ競走のうちの一つで、4歳に限定されるレースである。このレースは米国クラシック三冠と密接な関係にあり、三冠馬がこのレースを制すると米国四冠馬と呼ばれ、ワーラウェイのみが達成している。後の未来の日本でいうなら秋華賞設立後のエリザベス女王杯の4歳(3歳)限定版と言っていいだろう。
だがしかし日本の無敗の二冠馬が態々トラヴァースSに出走する意味があるのかと言われたらないわけではないがリスクがあまりにも大き過ぎる。
サードプレジデントが今まで走ってきたのは芝であり、トラヴァースSはダート。馬場が違い、しかも国も日本と米国で異なる。シンボリルドルフ等海外にうって出た馬は大勢いるがいずれも惨敗。厩舎をその国に転厩させたハクチカラのみが重賞を制したくらいには国外の遠征は無謀とされており、マイナスとマイナスをかけたらプラスになるが、無謀に無謀を重ねたらもっと無謀になるだけである。
そんな当たり前の事を何故やるのか? 記者達の疑問を晴らすべく言葉を発していく。
「何故我々がそのように決めたかと申し上げますと、サードプレジデントのダートにおけるスピードが余りにも速すぎるからです」
「つまりサードプレジデントはダートでこそ本領を発揮する馬だと?」
「はい、サードプレジデントは芝で走った時よりも明らかに速くなっており、このまま芝を走らせると負担がかかります。なので我々は敢えてトラヴァースSを選択しました」
「なるほど、しかし何故いきなり米国へ? 国内のダートを勝ってからでも良かったのでは?」
「国内のダートではまるで意味がないからです。それというのも米国のダートは文字通り土であるのに対して日本のダートは砂です。馬場的には日本の芝に近いといえましょう。ならば米国へ行き、米国のダートを走ることでより強くなれると考えました」
「ふむ、確かに言われてみればその通りかもしれませんね。それでいつから向かうのですか?」
「既に準備は出来ていますが、サードプレジデントの体調のことも考慮し、トラヴァースSの1ヶ月前から滞在出来るよう手配していますので6月の終わり頃になります」
「わかりました。ありがとうございます」
記者達は一様に納得した表情を浮かべた。だが次の発言で記者達が再び凍りついた。
「それとトラヴァースS以降の予定ですが結果次第ではそのまま米国に滞在してBCクラシックか日本に帰国して菊花賞かのいずれかを予定しています」
BCクラシックといえば米国でいう天皇賞秋のような歴史あるレースで世界最高峰と名高いダートレースでもある。ダート競馬先進国とは言えない日本の馬がそんなレースに挑もうとする発想自体記者達は思いつかなかった。
「それは本当なんですか?」
「えぇ、嘘ではありません。サードプレジデントの強さは間違いなく本物です。しかしダートで走らせるよりも芝で走らせた方が良いと判断した場合に限り三冠を取りに向かいます」
「しかし旭川先生、先程ダートの方が適性があると仰られていましたが、それでも芝で走った方が良いと判断する材料はやはり、あの2頭が絡んでくるのでしょうか?」
あの2頭、それはサンデーサイレンスとイージーゴアの2頭のことで今米国を賑わせてやまない存在だ。
「そのとおりです。サンデーサイレンス、イージーゴア共に強敵と呼べます。特にイージーゴアはセクレタリアトの再来とまで呼ばれ、サンデーサイレンスですら隙をついてしか勝利していません。仮にトラヴァースSでサードプレジデントが勝利したとしてもその差がないものであれば次勝つことは難しいでしょう」
「なるほど、しかし万一サードプレジデントがトラヴァースSで負けたら経歴に傷がつくと思いますが、そこらへんはどう思いますか?」
「負けるわけありませんよ。もし負けたとしたらそれは我々の見る目がなかったということです。この馬は絶対に勝ちます。それだけのポテンシャルを持っています。まぁ私がこんなことを言わなくても皆さんは分かっていると思いますけど」
「ははっそうですね」
そう言って記者達は笑い合い、場の雰囲気を和ませた。だが内心では誰もがこう思っていた。
(トラヴァースSが終わって、サードプレジデントが勝ったとして次はどっちなんだ?)
ダービーの後、サードプレジデントは牧場に戻って休養をとっていた。
「お疲れ様。本当によく頑張ってくれた」
創也は厩舎で労いの言葉をかけると気にするなと言わんばかりにサードプレジデント顔を舐めた。
「ははっ、くすぐったいよキャロ」
その後、しばらくじゃれあった後、部屋に戻った。
翌日、 いつものように朝の運動を終え、放牧地へと向かうとサードプレジデントと1頭の馬が対峙していた。
その馬の名前はナインティギア。サードプレジデントの半弟──所謂種違いの弟である。
ナインティギアはサードプレジデントとは異なりあまり人懐っこくなく、他の馬達に話しかけられても無視するか、噛みつくかのどちらかだった。
だがサードプレジデントと会って以降は大人しくなり、他の馬とも仲良くなり始め入厩に向けて順調に進んでいる。
「なあ、親父。あのナインティギアって美亜さんの所有馬なのか?」
「あれか? いやまあ、どっちかっていうと星崎社長が名実共にオーナーだな」
「美亜さんじゃなく社長が? あの人に馬を見る目があったのか?」
「そもそもお嬢様に競馬を教えたのは社長だぞ? 最低限の相馬眼はある」
「それはそうだけど……」
「とはいえ、サードプレジデントとは違ってすぐには活躍出来ないだろう」
「こんな骨格のいい馬なのに?」
「だからこそだ。明らかにこんないい骨格なのにそれを十分に扱える筋肉が足りていない」
「それなのに社長に売ったのか?」
「事情は説明したぞ? 古馬になってから活躍する可能性が高いということを踏まえた上で社長は購入したんだ。もちろんその見立ては間違っていないし、サードプレジデントほどじゃないにせよかなりの名馬になるだろうな」
創也の父の予言は当たり、後にナインティギアは古馬になってからメジロマックイーンやトウカイテイオーなどを破り、天皇賞秋連覇などGⅠ競走の舞台で活躍し続けることとなる。
「さて、そろそろ俺は行くがお前はどうする?」
「もう少しここにいるよ」
「わかった」
父は放牧地の柵を越えていき、その場を去ると創也とサードプレジデント、そしてナインティギアがその場に残る。
「さて、俺ももうそろそろいくか」
創也がそう言うとサードプレジデントが「俺に乗っていかないのか?」と言わんばかりに甘噛みしてくる。それを見たナインティギアが「仕事でもないのに正気か?」とチベットスナギツネのように半目で見る。
「もしかして乗ってもいいのか?」
──良いから黙って乗りな
サードプレジデントが創也に乗りやすい位置に移動すると創也が跨った。
「うはっ、久しぶりに鞍なしで乗ったけどこれはこれで快感だ」
創也がそう述べ足を使って指示するとサードプレジデントがゆっくりと歩き始め、調整していく。そして徐々に加速し──
「はいそこまで。鞍なしでガチで走ったら危ないからその辺で頼む」
加速する前にサードプレジデントを抑え、創也が降りるとサードプレジデントが創也の前に立ち塞がる
「駄目だ、おしまいだおしまい」
駄々をこねるサードプレジデントとそれを無視する創也。1頭と1人の対決が始まろうとしていたが意外な形でそれは終わる。
──随分兄貴はそこの人間に執着してるんだな?
ナインティギアがサードプレジデントと創也の間に割り込んで来たからだ。ナインティギアは走るのも嫌いだし人懐こいという訳でもない。しかし所謂ボス気質な所があり、その点はサードプレジデントと酷似していた。その為隙あらばボスの座を奪い取ろうとし何でもする。
しかしナインティギアがそんなことをするのはサードプレジデントにだけなのだが、そのナインティギアがサードプレジデントではなく、創也に肩入れしている。そのことにサードプレジデントは驚きを隠せなかった。
──どけ、弟よ! 俺の邪魔をするな
──退かぬ、媚びぬ、省みぬ! 俺の辞書に妥協はあっても撤退はない!
サードプレジデントもナインティギアも互いに睨み合い、今にも戦いを始めようとしていた。
──今のうちに行け、人間。お前が移動したいのはわかっているんだぞ?
ナインティギアとサードプレジデントが睨み合いながら移動するとその隙に創也は2頭に謝りながら立ち去っていった。
──酷いぞ相棒、あの場からいなくなるなんて!
その後、厩舎に戻ったサードプレジデントにめちゃくちゃ噛まれた。
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尚、次回更新は本日21時です
番外編は何が見たいか
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サードプレジデント産駒の活躍
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サードプレジデントのその後
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ナインティギアとクラフトボーイの活躍
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ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
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