朝日杯、皐月賞、日本ダービー、トラヴァースS。この時点で既にGⅠ競走4勝したサードプレジデントは一躍時の人と化した。
「ふふふっ、今日はパーフェクト。
既成事実を作るべく画策していたサードプレジデントだったが、その思いは叶うことはなかった。サードプレジデントがホテルのベッドでいくら待っていても創也が現れず、眠りについてしまったからだ。
「創也様のバカーっ!」
サードプレジデントの目覚めた朝の叫びがその場に響く。
そして帰国し、サードプレジデントはツンケンと創也に冷たく当たる。
「……サード、機嫌直してくれないか?」
「ふん! 知りませんわ!」
「はぁ……参ったな」
溜息をつくと、その様子を見ていた妹──ナインティギアはニヤリとした笑みを見せた。その視線に気づいた創也は嫌な予感を覚えた。
「いいのかい? 姉さん、そんな態度取って?」
「な、なんのことです?」
「このまま放っといたら創也の兄さんは姉さんに対してお義姉さんって呼ばないといけない立場になりかねないってことだよ」
「そ、そんなこと!」
「じゃあ創也の兄さん、私とデートしよっ!」
そういってナインティギアが創也の腕を引っ張ると、サードプレジデントも負けじと反対の手で引っ張った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなただけ抜け駆けは許しませんわ!」
「姉さんこそ! 昨日からずっと不貞腐れてばかりで迷惑かけてることわかっているんでしょ?」
「それは貴女も同じでしょう!? 無愛想、走るのが嫌い、ちんちくりんとウマ娘としては最悪ではありませんか! そんな貴女が創也様を独り占めしようなど図々しいにも程がありますわよ!」
「あーっ、いっちゃいけないこといった! 姉さんのバカァッ!!」
「貴女の口から出る言葉なんてたかが知れていますものね? お子ちゃまの貴女では大人の魅力溢れる私には敵わないことくらいわかりますわよね?」
「黙らっしゃい、THE・テキトー二世! 喧しく、節度がなく、マイペースで計画性がない姉さんは創也の兄さんの好みとは程遠いし! そもそも姉さんが──」
「はいそこまで」
ヒートアップしていく2人を宥めるように言うと、2人は我に帰ったのかハッとした後顔を赤らめた。
「あのな、お前達。俺が誰を選ぶとかそういうのを決める権利はないぞ? 俺は全員平等に接するつもりだ」
「でも……」
「それに2人は姉妹なんだから喧嘩するなって。ほれ、仲直りの握手」
創也に言われて渋々手を差し出すと互いに握り合う。
「すまない、姉さん」
「こちらこそ悪かったと思っていますわ。ごめんなさい、ナインティ」
「うん……それでさ、創也の兄さん」
「ん、どうした?」
「その……今度の休み、一緒に遊びに行かないかな?」
「ああ、構わないさ。その代わりしっかり練習してくれよ?」
「やった!」
嬉しそうな表情を浮かべると、サードプレジデントがそれを止める。
「待ちなさい、創也様は貴女のようなスーパーやる気なしなウマ娘にかまっている余裕はありませんの。ここは創也様が私を労うのが筋というもの。そうですわよね、創也様?」
「確かにサードのいうこともわからないでもない」
「でしたら──!」
「だがナインティも俺の担当ウマ娘で、先にナインティと約束したんだ。この外出が終わったらしっかり練習してくれるってな」
「このやる気なしは約束を反故しますわよ?」
「そんなことはない。担当ウマ娘を信じてやれずにトレーナーが務まるか」
「むぅ……」
「だから頼むよ。サードも次の休日は空けておいてくれ。皆で出かけよう」
そういわれてしまえば仕方ないと思ったサードプレジデントは渋々と承諾し、「絶対ですからね!」と言い残してその場を去った。
「……創也の兄さん、ありがとう。私を信じてくれて」
「気にしないでくれ。それより、これからもよろしくな。サードもきっとわかってくれるはずだ。また3人で出掛けような?」
「……うん!」
こうしてサードプレジデントとナインティギアのわだかまりは解け、再び仲良くなった。
そして、創也はサードプレジデントとナインティギアを連れて外出しているとサードプレジデントがナインティギアに尋ねた。
「貴女はどうしてそんなにやる気がないんですの? 貴女ならもっと活躍できるはずですわよ?」
「えぇ~、私は別にいいんだよ。だって走らなくても生きていけるもん。レースに出る意味がわからないし……」
「そんなのダメに決まってますわ。せっかく理事長が貴女を推薦したのに、その期待に応える気がないのですか?」
「姉さんはいいよね……美人だし、スタイルもいいし、運動神経抜群だし」
「そういう話をしているんじゃなくて、ですわ!」
2人の会話を聞きながら創也はふと、疑問を抱く。
「そういえばナインティは何故学園に入学したんだ?」
「私? そうだねぇ……お金かな?」
「お金が目的なら走ればもっと貰えるのに、何故走ろうとしないんだ?」
「んー、まあ……無駄に労力と時間を使いたくないからかな? 走るのは嫌い。わざわざ好き好んで走るのなんて馬鹿みたいじゃん」
「そうか、意外だな」
「意外って何が?」
「いや、ナインティのことだから『走るの大好き!』っていうタイプかと思っていたよ」
「走るのが嫌いだからこそ他はしっかりしないとね? 姉さんとは違って素質のない私なんかがデビューすら勝てるかどうか怪しいし」
「もしかして、諦めているのか?」
「うん。理事長にはそれ言ったんたけど【否! 君には秘めたる素質がある! 是非とも入学して自分と向き合って欲しい!】って言われてね。奨学金も給付型奨学金だから返さなくていいんだったら入学してみようかなぁって思って入ったんだ」
「そっか。人の言う事は鵜呑みにはしない方がいいが理事長の場合は何だかんだでその言葉通りになるからな。とりあえず来年まで頑張ろう」
「創也の兄さんがそう言うのであればやってみるか」
創也の言葉にやる気を出すナインティを見て、サードプレジデントは創也を見る。
(創也様ったら、いつの間にこんなに慕われるようになったのですの?)
内心嫉妬しつつ、3人は買い物を楽しんだ。
「創也様、私の次のレース──菊花賞はどのような作戦でいきますの? やはり先行策で逃げ切る方向で?」
「ああ、そのつもりだよ。お前の脚質的にそれが一番合っていると思う」
「ならば差し追込にするというのはどうかしら?」
「差し追込か……好きだなお前は。それもお前の末脚を考えたら悪くはないが、今度の菊花賞は京都レース場だ。淀の坂の鉄則をガン無視して逸走したデビュー戦を忘れたとは言わせないぞ?」
「そうでしたわ……私とした事が、つい先日の事なのに忘れてしまうなんて」
「それに差し追込は東京や阪神はともかく京都には向かない。何故だがわかるか?」
「それはコーナーの所に坂の上りと下りが存在し、タイミングを一つ間違えれば大きく減速してしまうからですわ」
「坂という着眼点はいい。しかし同じく差し追込のウマ娘が苦手とする中山レース場はコーナーではなく最後の直線にある。これらの二つの共通点は直線の短さだ」
「直線が短いとどんな不利を受けるんですの? 私、どちらも追込で走りましたけど勝ちましてよ?」
「そりゃサードがダントツに強いからそうなっただけで普通はそうはならない。差し追込のウマ娘は直線で力を出すことが多いが、その距離が短いとコーナーで力を出すしかない。だがコーナーだと直線よりも末脚が鈍ってしまい、他のレース場で勝てても京都や中山で勝てないってのはよくある。京都はコーナーで勢いが付きすぎてデビュー戦のお前のように外に膨れるか、慎重になりすぎる。中山は小回りでコーナーが得意なウマ娘しか有利に働かないってことなんだ」
「なるほど……ではどうすればいいんですの?」
「菊花賞は京都レース場で行われ、それを攻略するには二つ手段がある」
「二つ?」
「第3コーナーから第4コーナーにかけての坂までに先頭集団に取り付いて淀の坂の鉄則を守るか、逆に多少外に膨らむことを覚悟の上で坂の下りで加速してロングスパートをかけるか……このどちらかだ」
「どちらを選んでも大差はないんですの?」
「ところがそうでもない。圧倒的にほとんどのウマ娘は前者を選ぶ。坂の下りで外に膨らむ分スタミナを大きく消費してしまうからな」
「なるほど最後の直線で末脚に自信がある方なら前者を、そしてスタミナに自信があるなら後者を選択するということですか」
「差し追込が勝てない理由はそこにもある。前者は脚を溜め殺しして、後者はスタミナを使い切ってしまう。これが京都の難しさであり、攻略の鍵でもある」
「スタミナを温存しながら最終直線で一気に仕掛ける……確かに難しいですわね」
「ああ、ほとんどのウマ娘はどんな脚質でも2回目の淀の坂までに先頭を取りに向かうが、そこまでにスタミナを消耗するのも避ける。菊花賞はスタミナだけでなく心理戦も求められる。だから最も強いウマ娘が勝つなんて言われている」
サードプレジデントとナインティギアは創也の話を聞いて納得した。サードプレジデントは自分が負ける理由を知り、ナインティギアは少しだけ興味を持った。
そして菊花賞に向けての練習が始まったが、その練習の成果は菊花賞でサードプレジデントが第三の選択をしたことにより徒労に終わるのは余談である。それでもサードプレジデントらしいといえばらしいのだが。
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尚、次回更新は本日21時です
番外編は何が見たいか
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ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
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