89式和製ビッグレッド   作:ディア

18 / 113
第18話

 サードプレジデントが三冠を制した翌週、サードプレジデントの半弟ナインティギアがいよいよデビューを迎えた。

 

 

 

 ナインティギアの新馬戦は東京競馬場で行われ、そこで事件が発生した。

 

「おい、ゲートに入れ、入ってくれよ!」

 

 創也がナインティギアを押すがピクリとも動かずゲートの前で立ち往生していた。

 

「お前、そこまで走るのがイヤなのか?」

 

 ナインティギアの走り嫌いは創也の腕を持ってしても改善出来るものではなくこのようにゲートの前で駄々をこねるようにゲートに入ろうとしない。審査の時は何故かすんなりいったのだが、ここに来て駄々をこねてしまう。

 

「くっそ、ここまで来たら入れてくれよ……」

 

 ──やだね。ゲートの中は狭いし、いつまでも待たされる。開放されたと思ったら走るよう強要されることも知っているんだぞ

 

 ナインティギアが頑なにゲートに入らず、創也は一度降りてアイコンタクトを取り、鼻で笑う。そしてナインティギアが耳を後ろに伏せ、前脚で地面を掻いた。

 

 このナインティギアの行為は馬が興奮状態、特に激昂した時に行われ、いつ蹴られてもおかしくない状態であり、それに気づかない係の人間が近づき創也が注意しようとするも遅かった。

 

「ぎゃっ!?」

 

 その人間が蹴られ、短く悲鳴を上げるが幸いにもナインティギアはその人間に興味を持つことなく創也に対して睨みつける。そんな激昂したナインティギアに創也が一言付け加える。

 

「ナインティ、ゲートに入らない奴はバカにされるだけだ。あのおっちゃんに謝ってゲートに入ればお前がバカじゃないことを示せるんだ」

 

 機嫌こそ悪いが創也の言葉が伝わり、渋々創也を乗せ怪我した係の人間に頭を下げるとゲートに入っていった。

 

 

 

【さあ始まりました。新馬、8頭立てのレースとなります】

 

【注目はやはりこの馬ですね。アンバーシャダイ産駒、サードプレジデントの半弟ナインティギアです】

 

【いやー、それにしてもサードプレジデントも凄かったですけど、ナインティギアも楽しみですよ】

 

【そうですね、まずはスタートが大事でしょう。さあ各馬揃いまして……スタートしました!】

 

 各馬が一斉に飛び出し、その中でナインティギアは後方2番手に控えると、ナインティギアを包囲するように集団が出来上がる。

 

 ──つまらねえ、もうやる気しねえ

 

 馬群に囲まれたナインティギアがやる気を無くしてしまい、後方へと下がっていき、その動きに他の馬達が釣られるように下がっていく。

 

「おいおい……またかよ!」

 

 創也は呆れたように呟き、サードプレジデントが包囲された時を思い出す。あの時はサードプレジデントが素直に言うことを聞いてくれるから良かったものの、ナインティギアはそうではなくしかも既にやる気を失っている。

 

「仕方ないか……」

 

 創也はそう言い、ナインティギアに合図を送り、更にスローペースにするがそれでも徹底的なマークは外れない。逃げ馬を除く6頭がナインティギアを囲い、加速出来ないようにしていた。

 

「巫山戯るなーっ!」

 

「真面目にやれーっ!」

 

 当然騎手達は観客達の大顰蹙を買い、創也は怒りを抑えながらも手綱を握り締め、ナインティギアが耳を後ろに伏せ不機嫌さを隠すことができなくなっていった。

 

【ナインティギアが後ろから4頭に囲われ、厳しい展開になりました!】

 

 

 

 ──上等だ

 

「あ?」

 

 ──さっきから走れだの、走るな、だのと小賢しい

 

「ヤバいっ、あんたら逃げろ! ナインティが切れた!」

 

 ナインティギアが突如加速し、馬群の中に突っ込んでいく。僅かな隙間もナインティギアが煽り、前方の馬を怯えさせて無理やりこじ開ける。

 

「うわぁぁっ!!」

 

「きゃあああっ!!!」

 

【おおっと、ナインティギアが強引に前に出ていきました!】

 

【これは危険ですね。レースに影響しなければ良いのですが】

 

 ナインティギアが暴れまわり、最終コーナーを曲がり2番手に躍り出ると先頭から10馬身も離れていた。

 

 通常であればこのまま逃げ切られるパターンになるが、ナインティギアの魂に火がついており、それを許さない。

 

 ──後はてめえだ!! 

 

 そう言わんばかりに後ろで戦意喪失した馬をぶっちぎり、徐々に差を詰めていく。そして残り3馬身残したところで前の馬がナインティギアの直線上に向かっていく。

 

「くっ、右だ、右にズレろ!」

 

 向こうの馬は斜行したとはいえ進路妨害はしていない。このまま突っ込めばこちらの心象が悪くなる。幸いにも後ろの馬とは十分な距離があり多少斜行したとしても進路妨害にはならない。それ故に創也の判断は間違ってなかった。

 

 ──俺は例え虫の反逆すらも許さん! 前に馬がいれば退かすのが俺のやり方だ! 

 

 創也の指示に従うことなくナインティギアはそのまま真っすぐ走りヨレた馬にぶつかるがそれを弾き飛ばす。

 

【おっと、ここでナインティギアがぶつかりましたが、逆に弾き飛ばします!】

 

【これは危ないですね、どちらも無事だと良いのですが】

 

【そしてそのまま1馬身差をつけナインティギアが先頭ゴール。しかしこれは審議です】

 

 当然ながら審議対象になり、レース結果を待つのみとなった。

 

 

 

 ──ったく、後であのバカどもはお仕置きしておかねえとな

 

 ナインティギアが他の馬に対して威嚇すると馬達が震え上がり、怯えてしまう。

 

「お前は悪くないんだから、そんなに怒るなって」

 

 創也がナインティギアの頭を撫でるとナインティギアは耳を横に伏せ気持ち良さそうな表情を浮かべるが、ふとナインティギアの耳が何かを感じ取ったのかピクッと動く。

 

「どうした?」

 

 創也の問いには答えず、ナインティギアが音がした方を見るとそこにはナインティギアにぶつかってきた馬の騎手がおり、ナインティギアに近づいてくる。

 

 ──人間……俺に文句があるんだな? いいぜ、かかってこい

 

 ナインティギアはそう思い、その男を睨みつけ、威嚇する。そして次の瞬間、ナインティギアが前足を上げ、男の顔面を踏み潰そうとする。

 

「こら、やめろ」

 

 創也が止めに入るとナインティギアは渋々ながらその足を下ろし、鼻息を荒げながら男をじっと見つめていた。

 

「す、すまない……」

 

 男がようやく声を振り絞り、頭を下げるとナインティギアがその隙を見計らうが、創也に隙はなく止められてしまう。

 

「ナインティ今は許してやれ。お前がリーダーでありたいようにこのおっさんも一番にしてやりたかったんだろうよ」

 

 創也の言葉にナインティギアは納得いかないながらも大人しく従う。

 

「よし、偉いぞ」

 

 創也はナインティギアの首を優しく叩き、宥める。

 

「さてと、これで一つ貸しですよ。この貸しを返したかったら今後ナインティの邪魔はしないでください。もし邪魔をしたらナインティを止められませんからね」

 

 男に創也がそう告げると男は顔を青ざめながら頷いた。

 

「あ、ああ……」

 

「なら良かった。じゃあ、今度こそ本当に失礼します」

 

 創也はナインティギアを連れてその場を離れ、男はナインティギアとその主である創也の後姿を見ながら呆然としていた。

 

 

 

「おい、大丈夫だったか?」

 

 創也が旭川調教師の元へ向かうと、厩舎スタッフに肩を貸されながらやってきた。

 

「なんとかですがね。ナインティギアは不機嫌ですがそれでも一応宥められました。ですがテキ*1、その分実りのある収穫もありました」

 

「収穫?」

 

「えぇ、ナインティギアという馬がどれほど強い馬なのかというのがね。成長次第ではGⅠも夢じゃないです」

 

「そうか、調教走りしないタイプだったというわけか」

 

「現時点では。ただ言えることはナインティギアはあの時確かに本気を出していましたし、何よりも馬術の馬以上に真っすぐに無駄なく走れるんですよね。良くも悪くも気が強く強情、それが今後の課題になるでしょう」

 

「創也程の騎手がそういうなら間違いないか。レースを覚えさせればいいんだろうが、実際に使うとなるとそれはそれで問題だしな」

 

「ええ……消耗が激しいって訳じゃないんですが今回のレースで進路妨害してきた騎手を殺そうとしたりしてきましたからね。かなり神経質かつ気性難な馬です。米国のサンデーサイレンスみたいなものですね」

 

「そうだな。まぁエクリプスやセントサイモンも気性難だったと聞くし、あれほどの馬になるとそうなってしまうのも無理はないな。だが創也のおかげで助かったよ。ありがとう」

 

「いえ、専属の騎手なら当たり前ですよ。それでは僕はこれで失礼します」

 

 創也は一礼するとナインティギアの元へ戻っていった。

 

「さてと、とりあえず今日のところは帰るよ。また明日来るから、よろしくなナインティ」

 

 ナインティギアが創也に擦り寄ると創也はナインティギアの頭を撫でる。

 

 ──俺様は人間は嫌いだが貴様は別だ。撫でるのが上手いからじゃない。俺を止めるタイミングが抜群に上手いからだ

 

 ナインティギアがそう告げたような気がして、創也が撫でるのを止めるとナインティギアが厩務員に連れていかれる。なんだかんだ言いつつもナインティギアも創也の手によって素直になっていった。

 

 

 

 ──ぶち殺す! ぶっちぶちぶち、ぶち殺す! 

 

 翌日、ナインティギアが創也以外の騎手に乗せるとロデオの馬の如く大暴れし、騎乗する人間を振り落として殺そうとするため、ナインティギアに乗ることが許されたのは創也だけだった。

 

「やっぱダメか……」

 

「ダメみたいですね……」

 

 創也と厩舎スタッフが苦笑いを浮かべている中、ナインティギアは耳を伏せ威嚇する。

 

「テキ、どうやら創也でないと言うことを聞かないようです」

 

「仕方ない……創也、今日一日乗ってくれるか? その間にサードプレジデントの相手をしておく」

 

「分かりました」

 

 創也がナインティギアに乗り、旭川がサードプレジデントに乗るとサードプレジデントが驚愕に満ちた顔になり、ナインティギアがそれを鼻で笑う。

 

 

 

 ──NTRざまあwww

 

 そんな言葉が聞こえてきそうな表情をしていた。

 

 ──お前のお気に入りが取られて悔しいか? 

 

 ナインティギアがそう問いかけるとサードプレジデントが耳を伏せ、威嚇する。

 

 ──あばよとっちゃん! 飽きたら回収しておけよ〜! 

 

 そう言わんばかりにナインティギアが逃げ、出遅れたサードプレジデントはそれを追いかける。

 

「おい、止ま──」

 

「待て創也。せっかくだから走らせよう」

 

 創也はそれを止めようと手綱を操るがサードプレジデントに乗っている旭川調教師に止められてそのまま追いかけっこが続行。

 

 ナインティギアの走行能力はサードプレジデントに劣るものの、非常に小回りが効き、創也はもちろんその場にいた誰もが目を丸くするほどで特にV字のように曲がった時などは肝を冷やしてしまうほどだった。

 

 ──ふん、ざまあみやがれ。飽きたから降りろ

 

 そのうちナインティギアが創也を振り落としウキウキで馬房へ向かって追いかけっこが終わるとサードプレジデントのナインティギアへの殺気が凄まじく、他の厩舎の馬が怯えてしまうほとで創也が宥め終わるまで止まらなかったが殺気を受けたナインティギアは屁とも思わずむしろ他馬が脅えるのを見て呑気に飼葉を食べていた。

 

 ──他馬の幸せを犠牲に成り立つ俺の幸福……最高じゃねえか

 

 その日を境にナインティギアは創也を乗せてはサードプレジデントを煽るようになったがレース以外でサードプレジデントから逃げ切れない日はなかったと言われている

*1
調教師のこと。この場合旭川を指す




このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は明日0時です

番外編は何が見たいか

  • サードプレジデント産駒の活躍
  • サードプレジデントのその後
  • ナインティギアとクラフトボーイの活躍
  • ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
  • アニメ版ウマ娘世界のサード達
  • アプリ版ウマ娘世界のサード達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。