89式和製ビッグレッド   作:ディア

20 / 113
・今年最後の挨拶
≫次回は解説コーナーを実施するためこの前書きを借りて挨拶の方をさせて頂きます。というわけで挨拶実施します。

〜挨拶〜
読者の皆様、年末はどのように過ごしていますか? 私はこうしてこの小説を書き上げています。私のお年玉はあれが欲しいな、そう励ましの感想とか高評価とかお気に入り登録とか!そんながめつい作者ですが来年度もよろしくお願いいたします!


第20話

 BCクラシック勝者、サンデーサイレンス。この血統は言わずと知れた名種牡馬であり、日本だけでなく欧州の競走馬に影響を与えるほどの世界を股にかける大種牡馬となるのだがそれは後の世の話であり、現在は現役米国最強馬として君臨している。

 

 しかし世界最強ではない理由は唯一つ、それはサンデーサイレンスの他にイージーゴアをGⅠの舞台で破ったサードプレジデントという馬が日本にいたからだ。サンデーサイレンスは確かに凄まじい馬だが、世界最強馬を決めるなら間違いなくサードプレジデントが選ばれるだろう。それほどまでにサードプレジデントは強かった。

 

 

 

 このままでは納得がいかないサンデーサイレンス陣営はとあるレースに出走登録を決めていた。

 

 そのレースの名前はJC。今までサンデーサイレンスが走ってきたダートではなく芝のレースとなり、しかもダートで戦ってきた故か招待すら受けていない。だがそれでも出走登録したのには他に理由がある。

 

 それはサンデーサイレンスの良血とは言えない血統にある。サンデーサイレンスがこのまま引退したとして母系が重要視される米国で種牡馬としてやっていけるかと言われたら間違いなく不可能である。繁殖牝馬が集まらず、種付け料も安く見積もられてしまう。

 

 それならばいっそのこと日本に売り飛ばして日本の需要を高めた方が得策だ。そしてあわよくばサードプレジデントの陣営とのコネを作って置きたい。そんな馬主の思惑があった。

 

「ミス・ホシザキ、少しお話よろしいかな?」

 

 それをするべく美亜に近づき声をかけると美亜が微笑みながら振り返った。

 

「あら、どうされましたミスター。何か御用ですか?」

 

「実はだね、ミス・ホシザキが持っているサードプレジデントを我々に譲って欲しいんだ」

 

「お断り致しますわ」

 

 バッサリと即答し、にこやかな笑みを浮かべているはずなのに、どこか怒りを感じてしまう。

 

「まあ、一応理由を聞いておこうか」

 

「まず一つ、私にとって彼は家族同然の存在です。それをタダで差し出すなんてことはできませんわ。それに私の夢は世界一のサラブレッドを育てることですの。あなたがどれだけお金を積もうとも、私は絶対に譲れませんわ」

 

「ソーリー、言い方が悪かった。現役のサードプレジデントが欲しい訳では無いんだ。引退後のサードプレジデント、つまり種付けのリース交渉に来たんだよ。現役のサードプレジデントを譲って貰えるとは思えないからね」

 

「そうでしたか、ではその話を彼のオーナーである私に話すのは間違いではありませんか?」

 

「ノン、それは違う。彼のオーナーなら尚更話は聞いておくべきだ。サードプレジデントはあのセクレタリアトの子供なのは知っているね?」

 

「ええ、もちろん。しかしそれが何か?」

 

「血統的にいえばサードプレジデントは米国のダートで走る馬でサードプレジデントはそこでも結果を出している。つまりセクレタリアトに脳を焼かれた米国の競馬関係者なら誰もが思うはずだ」

 

 ──セクレタリアトの系譜を繋げるにはこの馬しかいない

 

「しかしサードプレジデントは日本で活躍した馬ですわ。そう簡単に譲る訳にはいきませんわ」

 

「だからリースなんですよ。ミス・ホシザキ。米国で一年、日本で一年という風に一年置きで種付けする拠点を変えていくんです。そうすれば血統の流出は抑えられますし、種牡馬の価値だって上がる。それに日本と米国、二つの国の血統が混ざり合った新たな馬が生まれるかもしれない。これはビジネスですよ、ミス・ホシザキ。我々にもチャンスを与えてくれないか?」

 

 言うことももっともだ。だがそれ以上に気になるのは彼らは何を対価にして来るのか、それだけだ。

 

「それで、私からサードプレジデントを奪う代わりに、何を差し出してくれるのですか? まさかとは思いますけど、サードプレジデントの引退式に出席させて下さい、とかじゃないでしょうね」

 

「そんなことではありません。私のサンデーサイレンスが引退したらミス・ホシザキが贔屓にしている牧場、月夜牧場にお預けしましょう。もちろん無期限で」

 

「イージーゴアならまだしもサンデーサイレンスのような零細血統で交渉出来るとでも思いまして?」

 

 美亜は思わず失笑してしまう。サンデーサイレンスは確かに超一流の名馬ではあるが、あくまでそれはサンデーサイレンス自身の話であり、サンデーサイレンスの子供が走るとは限らない。それどころかサンデーサイレンスの血統や馬体、気性難から見るに産駒がとても走るとは思えなかった。

 

「それもご尤もだ。ならばサードプレジデントのリース一年につきこの分だけ出そう」

 

 そう言って指を1本見せると美亜が尋ねる。

 

「まあ、たった1億円ですか? それじゃ話になりませんわ」

 

「10億円だ。1年で10億、2年で20億。3年なら30億支払おう」

 

「それに付け加えて、私達からのオーダーメイドの配合も受けて頂けますか?」

 

「オーケイ、もちろんだとも。リースしている間にもサードプレジデントの子が欲しいんだろう?」

 

「ええ、その通りですわ。では契約成立ですね」

 

 こうして二人の取り引きは成立し、二人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 そんな取引があったが、肝心のレースはというと、1番人気サードプレジデント、2番人気サンデーサイレンス、3番人気スーパークリークと人気が並んでいた。

 

 ここで補足すると1989年時点の古馬はまさしく混戦で、天皇賞春と宝塚記念を勝ったイナリワン、昨年の有馬記念馬にして毎日王冠でイナリワンを下したオグリキャップ、天皇賞秋でその2頭を一蹴したスーパークリーク、この3頭が日本古馬代表格であり平成三強と呼ばれていた。特にオグリキャップの人気は高く馬券こそスーパークリークに劣るがそれは仕方なくオグリキャップのグッズはまたたく間に売り切れてしまうほどで競馬を知らない人間でもオグリキャップを知っている人は大勢いた。

 

 そんな中、現れたのが父セクレタリアト母父バックパサーの無敗の三冠馬サードプレジデント。オグリキャップが雑草ならばサードプレジデントは高嶺の花と比喩されるくらいのエリートで、その実力と実績は誰もが認めるところで勢いのないオグリキャップやイナリワンでは太刀打ち出来ないと判断され、連勝しているスーパークリークやBCクラシックでイージーゴアを破った米国最強馬サンデーサイレンスが対抗に挙げられた。

 

 

 

【さあいよいよ競馬のオリンピックと名高いJCが始まります。今ゲートが開きスタートしました!】

 

 ゲートが開くと同時に一斉に飛び出し、とある馬が物凄い勢いで加速し一気にペースを上げていく。その馬は意外な事にサードプレジデントやサンデーサイレンスではなく外国のイブンベイという馬だった。

 

 日本の競馬場は治安が悪く、平気でカメラのストロボを入れたりする者がいるほど*1であり、しかもオグリキャップやサードプレジデントを一目見ようと来た観客もおりその分熱気も凄まじく、その熱気にやられたのがイブンベイが入れ込み、更にホークスターが競りかけていったものだから騎手が抑えつけても暴走とも呼べるペースで加速していったのだ。

 

「こいつはちとマズイな、サード。上げていくぞ」

 

 サードプレジデントに騎乗する創也がそう言うとサードプレジデントはぐんと速度を上げる。こんなハイペースの中、ペースを上げるなど自殺行為でしかないが、それは通常の競走馬に限った話でサードプレジデントは違い、馬場の悪い日本ダービーでこれよりも遥かに速いペースで走っていた。

 

 それ故にサードプレジデントのマークを外すことは出来ず、サードプレジデントの加速に伴い全頭のペースも速くなり、それに脅えたイブンベイとホークスターがさらに加速するという悪循環が巡り、1600mの通過タイムは1分33秒ととてつもないハイペースとなっていた。

 

 それでも創也がサードプレジデントにペースを上げさせたのは決して間違いではない。通常であればハイペースで先頭の馬からスタミナが尽きて脱落していくものだが、余りにもハイペースな場合は異なり追込が効かない事もあり、今回はそのケースに該当した。

 

【さあ最後の直線で先頭に立ったのは先頭はホーリックス、オグリキャップが並んできた! ホーリックスが逃げるか、逃げるホーリックス、外からオグリキャップ!】

 

 ホーリックスとオグリキャップの一騎討ち。例年ならば観客の誰もがそう思ってオグリキャップを応援しただろう。だが今年はそうでなかった。

 

【来た来た来たーっ! 米国最強馬が2頭の芦毛を飲み込んだ!】

 

 サンデーサイレンスが最短距離を利用し先頭に躍り出て、他の馬もそれに負けじと追い込んでくる。

 

【サンデーサイレンス、サンデーサイレンスだ! ホーリックスが2番手、オグリキャップ3番手だ!】

 

 ──ノロノロ走っているなら退いてくれ。こっちはてめえらの速度に合わせることはないんだからな

 

【サードプレジデントが来た来た来たぁぁぁっ! サードプレジデントだ! 日本が誇る無敗三冠馬が、和製ビッグレッドが芦毛の怪物達をも葬り去る!】

 

 サードプレジデントの加速力について来れる馬はこの世にいない。そう思わせるほどの末脚だった。

 

 だが、1頭だけは違った。

 

「それだよ、それがイージーゴアの完成形だ。サンデー! ぶっちぎってやれ!」

 

 その馬の名前はサンデーサイレンス、日本で雑草扱いされるオグリキャップ達ですらエリートに見える程に雑草扱いされてきた彼は不遇の時を乗り越え、そのエネルギーをこのJCで爆発させた。

 

【いやサンデーサイレンス、サンデーサイレンスが再び差し返す、サンデー来た! サードプレジデントを抜かせない!】

 

 ゴール目前でサンデーサイレンスが執念でサードプレジデントを抜かせまいとすると大歓声と悲鳴が鳴り止まなかった。

 

【サンデーサイレンスか、サードプレジデントか! 和製ビッグレッドか、アメリカンドリームか!? どっちだ、どっちだ!? 4歳馬が大接戦でゴール! 3着にホーリックス、4着にオグリキャップ、5着争いにペイザバトラーとスーパークリーク!】

 

 頭の上げ下げした場所でゴールし、写真判定となる。その結果は…………

 

【只今のレース、サードプレジデント号とサンデーサイレンス号の着順について審議しました結果1cmのハナ差でサードプレジデント号が先にゴールしていると判断し、サードプレジデント号を1着、サンデーサイレンス号を2着とさせていただきます】

 

 サードプレジデントが見事勝利を収め、観客は大いに沸き上がった。

 

「よくやったよサード、これでお前が世界最強馬として誇りを持って言えるよ」

 

 ──当たり前だろう相棒? 

 

 創也は手綱を引きながら労うと、サードプレジデントは嬉しそうな声を上げた。

 

「やっぱり、私の目に狂いはなかったわね。貴方がナンバーワンの馬よ、サードプレジデント」

 

 美亜はそう呟き、サードプレジデントと共に口取り式を始めた。

 

 その影で、サンデーサイレンスは闘志を燃やし、サードプレジデントの方をじっと見続ける。それはイージーゴア以上のライバルであるとサンデーサイレンスが認めた証であり、後にサードプレジデントに幾度なく挑戦し続けるライバルとなった瞬間だった。

 

 

 

『サードプレジデント』

・馬主 星崎美亜

・生産牧場 月夜牧場

・調教師 旭川誠

・性別 牡馬

・毛色 栗毛

・年齢 4歳

・戦績 9戦9勝

・朝日杯3歳S、三冠、トラヴァースS、JC

*1
1996年の秋華賞にエアグルーヴがその被害にあっている




このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は本日21時です

番外編は何が見たいか

  • サードプレジデント産駒の活躍
  • サードプレジデントのその後
  • ナインティギアとクラフトボーイの活躍
  • ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
  • アニメ版ウマ娘世界のサード達
  • アプリ版ウマ娘世界のサード達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。