というわけで次回更新はしばらくお待ち下さい。
それから二週間後、いよいよ有馬記念当日。サードプレジデントの今年最後のレースとなった。
JCでサンデーサイレンスとの激走を繰り広げ、未だ無敗の三冠馬サードプレジデント。単勝オッズはなんと約1.3倍という圧倒的な人気であった。
それというのも米国最強馬サンデーサイレンス、平成三強の3頭をまとめて撫で切り、4歳(満年齢3歳)ながらにしてJCを制している。これは先代の三冠馬シンボリルドルフですら出来なかったことでカツラギエース、英国のベッドタイムに先着を許している。
この時点でGⅠ競走6勝、しかも無敗となれば世界最高峰の競走馬といえここ10年振り返っても彼に敵う馬は世界で見たとしても数えるほどしかいない。
そんな状況だからこそ絶対に敗北は許されないし、鞍上の創也も負ける気など毛頭なかった。
「創也さん」
サードプレジデントの馬主であり、幼馴染でもある美亜が創也を呼び止めると、創也は軽く手を上げて応える。
「美亜さん、どうしました?」
「今日は勝ってくださいね。負ける姿なんて見たくないですから」
「ええ。サードプレジデントは負けませんよ。負ける要因があるとしたら騎手である私の責任です。それでも余程のことがない限りは負けませんよ」
「はい、信じています」
「ありがとうございます。必ず勝ちます。何せ勝利の女神がこっちにいるんですから」
創也が視線を美亜に向け、そう告げる。
「まぁ……お上手ですわね、創也さん」
美亜が微笑むと、創也は優しく彼女の肩を叩き、そのままパドックへ向かう。
「負けろーっ!」
「てめえなんかお呼びなんかじゃないんだよ!」
サードプレジデントに浴びせられる罵詈雑言。それというのもサードプレジデントは言わば良血のスーパーエリートであり、シンデレラストーリーとは程遠い存在だ。シンデレラストーリーは大衆から好まれ、特に日本人はその傾向が強く、オグリキャップやイナリワンが地方出身から成り上がった主人公であり、2頭は特に人気を集めていた。しかしサードプレジデントは彼らのファンから見れば突如現れたラスボスであり、悪役扱いされていた。
そのせいか、サードプレジデントは観客のブーイングを浴びていた。
「酷い罵声だな、サード」
──あんな鳴き声なんぞ無視しろ相棒
サードプレジデントの背中がそう語り、創也は小さくため息をつく。
「全く、お前は気にしていないのか?」
──俺は俺だ、他の奴らは関係ない
「お前らしい答えだな。とはいえ、馬券は正直だ。皆お前が勝つってわかっているんだろうな。もちろん俺もお前が勝つってわかっている側の人間だけどな」
そう言って創也はサードプレジデントと共にパドックを後にする。そして本馬場入場が始まり、各馬がゲートへと収まる。
【さあ、今年の中央競馬もいよいよ大詰めを迎えました有馬記念。GI競走6勝を挙げ、現在無敗の三冠馬サードプレジデント。この馬は果たしてどんな走りを見せてくれるのでしょうか。対するは芦毛の怪物オグリキャップと大井の暴れん坊イナリワン、そしてスーパークリークがその首を獲りにやってきました】
実況アナウンサーの言葉を聞きながら、創也はゆっくりと深呼吸をする。
「緊張していますか?」
「いいや、むしろ楽しみだよ。こいつがどれくらい成長したか確かめられるからな」
「ふふ、あなたは本当にサードプレジデントのことを想っているのですね。嫉妬してしまいますわ」
「美亜さん……」
「でも安心してくださいな。私は創也さんのことも応援しております」
そう言われ一息つく、創也。
「そういえば美亜さん」
「どうかしましたか?」
「サンデーサイレンスについて覚えていますか?」
「ええ、よく覚えていますわ。サードプレジデントに一番迫ったあの馬のことは忘れたくても忘れることが出来ません」
「そのサンデーサイレンスについてですが、ダートだけでなく芝でも走れることがわかった為、来年以降は欧州の凱旋門賞と日本のJCを視野に入れているそうです」
「そうなのですか? てっきりJCに来たからそのまま種牡馬入りするかと思っていたのですが」
「タイムも伸び、サンデーサイレンスはこれからという所です。美亜さん、我々も凱旋門賞狙いましょう」
「ええ、この有馬記念と天皇賞春を勝ったら遠征させてもらいます」
そんな話をしているうちにファンファーレが鳴り響き、有馬記念が始まる。
【さあ、各馬一斉にスタート! 好スタートを切ったのはなんとサードプレジデントです。続いて昨年の阪神大賞典でタマモクロスと引き分けたダイナカーペンター、その次にオグリキャップと続いています】
サードプレジデントがハナを切ると、それに続くようにダイナカーペンター、オグリキャップが続く。
【そしてスーパークリークは4番手あたりを追走。4番人気のサクラホクトオーは中団、イナリワンとヤエノムテキは最後方周辺にいます】
オグリキャップをマークするように追走するのがスーパークリーク、中団に昨年の朝日杯2着馬サクラホクトオー、最後方周辺にイナリワンと昨年の皐月賞馬ヤエノムテキがそこにいた。
「よし、行くぞサード」
創也がサードプレジデントに声をかけるが、サードプレジデントは動かない。
──まだだ。まだ速い
「サード……?」
創也はサードプレジデントの態度に疑問を感じている中、スタンドでは「行けーっ!」「負けろーっ!」という罵声が飛び交り、ブーイングが起こっていた。
「(全く、確かにサードプレジデントが負けることで利益になる奴らもいるが大人しく……はならねえか)」
競馬民の民度の悪さは創也も知っている。その為、ブーイングされることは当たり前で、いちいち反応していたら身が持たない。だからこそ創也は気にしないことにした。
【さあ早くも4コーナーに突入。先頭は依然としてサードプレジデント。6馬身離れて2番手にダイナカーペンターからオグリキャップ、そしてスーパークリークも上がってきた!】
──今だ。しっかり捕まっていろよ相棒
「よし、来た!」
サードプレジデントが前傾姿勢を取り、一気にスパートをかける。
創也が手綱をしごき、サードプレジデントがぐんぐん加速していく。
【逃げるサードプレジデントが加速〜っ! もがく後方を置き去りにした!】
サードプレジデントが後続を引き離す。だがそれでも後ろから追いすがる者が1頭。
【なんとサクラホクトオーが伸びて来た! サクラホクトオーが平成三強をも呑み込み、サードプレジデントに迫る!】
サクラホクトオーだ。サクラホクトオーは朝日杯のあの日から幾度なく破れ、負け続けた。しかしそれは今日、この瞬間の為にあったのだ。
サクラホクトオーがさらにスピードを上げる。その勢いは平成三強でも止められず、射程圏内へ突っ込んでいく。
【さあ、サクラホクトオーが徐々に迫る!】
サクラホクトオーの勢いは止まらず遂に3馬身差まで縮まる。
「な、何をしているサード!」
そして2馬身まで迫られ創也が鞭を取り出すとサードプレジデントが笑ったような気がした。
──これだよ、俺が待っていたのは
「え?」
鞭を叩く瞬間にサードプレジデントが加速し、創也は鞭を落としてしまう。それを拾おうにも拾えず、創也はそのままレースを続行することになる。
【サードプレジデント! なんとまた加速! 凄い末脚だ!】
サクラホクトオーとの差は3馬身、4馬身と徐々に広がり最終的には8馬身差でゴールした。
【そして今、サードプレジデントゴールイン!! 時計は何と2分29秒7! 2着のサクラホクトオー、そして3着争いのイナリワンとスーパークリークも従来であればレコードタイムを更新したでしょう。まさしく時計ブレイカー!】
ゴール板を駆け抜けた後、サードプレジデントはゆっくりと減速し、足を止めた。
──すまないな相棒、今回は闘志を燃やす為に俺の我儘を通してもらった。今度からは素直に従おう
創也に頭を下げるサードプレジデント。創也の指示を聞かなかった理由は唯一つ、燃え尽き症候群に近い症状が出ていたからだ。それをサードプレジデントは自力で、解決するために敢えて逃げ、このようにスリルのあるレースで闘志を燃やすことにした。
「そうか、そういうなら仕方ないなサード。凱旋門賞だのなんだのと決めてゴメンな」
──何、次のレースまでには闘志を取り戻してみせるさ。最高の景色をまた見せてやるよ
「ああ、よろしくな」
創也はそう答えると、スタンドに向かい笑顔で手を振る。するとブーイングをしていた競馬民達も次第に拍手をし始める。
【それでは本日の有馬記念を制したのはサードプレジデント! 鞍上は月城騎手!】
こうして暮れのグランプリレース、有馬記念は幕を閉じた。
『サードプレジデント』
・馬主 星崎美亜
・生産牧場 月夜牧場
・調教師 旭川誠
・性別 牡馬
・毛色 栗毛
・年齢 4歳
・戦績 10戦10勝
・朝日杯3歳S、三冠、トラヴァースS、JC、有馬記念
このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。
尚、次回更新は未定です
番外編は何が見たいか
-
サードプレジデント産駒の活躍
-
サードプレジデントのその後
-
ナインティギアとクラフトボーイの活躍
-
ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
-
アニメ版ウマ娘世界のサード達
-
アプリ版ウマ娘世界のサード達