89式和製ビッグレッド   作:ディア

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ウマ娘編は少し待ってくれ。もうちょいとだけ、宝塚記念が終わるまで待ってほしい!


第33話

 時は遡りアイネスフウジンが日本ダービーを勝った丁度その頃、サンデーサイレンス陣営はこれからのサンデーサイレンスの鞍上を誰にするのか非常に迷っていた。

 

 通常であれば今までの主戦騎手のままであるがその騎手はとある問題を起こしてしまった。コカイン使用、要するに薬物乱用である。騎手としての腕自体は悪くないどころかサンデーサイレンスを米国二冠にまで導いた優秀な騎手であり、それらに瑕疵はない。

 

 しかしコカイン使用により秋のBCクラシックとJCの二つのレースを棒に振ってしまい、その代わりに出た3人の騎手が候補として浮上していた。

 

 一人はペイザバトラー鞍上のM.C騎手。この人物はBCクラシックでサンデーサイレンスに騎乗し、勝利に導いているだけではなく、JCでペイザバトラーを勝利に導き、アメリカ競馬殿堂入りを果たしている。所謂スーパースターである。

 

 もう一人がサンデーサイレンスに一度騎乗した若き天才騎手G.A騎手。この人物は日本が誇る天才騎手と並ぶほど現地では話題になっていて勢いのみならばM.C騎手を凌ぐ。

 

 そして最後の一人はJCで鞍上になった騎手D.Pだ。この騎手はイージーゴアの主戦騎手であり、打倒サードプレジデントに燃えていてサンデーサイレンス陣営に鞍上を立候補し、サードプレジデントを追い詰めている。

 

 この3人の中で最も実績のある騎手はペイザバトラーのM.C騎手、最も勢いがあるG.A騎手、最もサードプレジデントを知っているのはイージーゴアのD.P騎手だ。

 

 この中で最有力候補はM.Cであり実績も申し分ない上にペイザバトラーは引退していて手空きの状態であったからだ。持ち馬がいるD.Pとは異なり相手がイージーゴアやサードプレジデントでもサンデーサイレンスに鞍上して相手にすることが出来る。

 

 しかしながら他の2名が優れていないかと言われればそうではない。特にD.P騎手は対サードプレジデントに特化しておりイージーゴアで15馬身差をつけられたものの、サンデーサイレンスでその差を鼻差まで縮めることに成功しており、最もサードプレジデント対策が進んでいると言っていい。

 

 

 

 だがサンデーサイレンスは超がつくほどの気性難であり、主戦の騎手ですら素直に乗るかどうか分からないのだ。事実ケンタッキーダービーでは左右にヨレてしまって危うく失格になりかけている。

 

「うーむ……」

 

 悩むオーナー。そして決断を下す。

 

「よし、決まったぞ!」

 

 それはイージーゴアの主戦騎手のD.Pだった。サンデーサイレンスのライバルであるイージーゴアが現役であるにも関わらずその決断をしたのは理由があり、それはイージーゴアの主戦騎手でありながら最もサードプレジデント対策が進んでいたからだ。

 

 そもそもサンデーサイレンスがJCに出走した理由は世界最強馬サードプレジデントという馬がいたからであり本来は日本で走らせるつもりは全くなかった。

 

 そのサードプレジデントの為ならイージーゴアとの出走を極力避けて走らせる必要があった。イージーゴアと走る等ということになればペイザバトラーのM.C騎手を鞍上にして、決着を着けておく必要があった。

 

 

 

 この選択は大正解だった。カリフォルニアンS、そしてイージーゴアを破ったクリミナルタイプをハリウッド金杯で撃破。特に故障らしい故障もせずそのまま8月に行われる特別招待競走アーリントンチャレンジC*1に向かっていた。

 

 

 

 だが当のサードプレジデント陣営は天皇賞春の後に出走登録したのはKGⅥ&QES。英国で行われる世界最高峰のレースの一つであり、欧州三大レースの一つに数えられていた。

 

 当初サンデーサイレンス陣営はサードプレジデント陣営が逃げたと思ったがそれは違う。

 

 確かにサードプレジデントは世界最強馬と言える存在だが、三冠を含め国内外GⅠ競走8勝しているが国際GⅠはトラヴァースSしかしていない。これには理由があり国内でもっとも格式高い八大クラシックと呼ばれるレースは国際競走ではなかった為である。国内のGⅠ競走が国際GⅠ競走となるのはしばらく後となる。

 

 

 

 閑話休題

 

 現状国際GⅠ競走7勝をしているサンデーサイレンスの方がサードプレジデントよりも成績は上であり、それに並び立てるようにしていると推測した。

 

 とはいえ、サードプレジデント陣営はKGⅥ&QESを終えた後は凱旋門賞とBCクラシックのみで全部勝利したとしても国際GⅠ競走は4勝しか出来ない計算になり、矛盾する。

 

「もしや……!? 間違いない、そういうことか!」

 

 サードプレジデント陣営の真の目的は世界最高峰のレースの完全制覇ということに気がついた。

 

 この時の世界最高峰のレースはKGⅥ&QES、凱旋門賞、BCターフorBCクラシック、JCとなっている。KGⅥ&QESと凱旋門賞はその歴史から、BCターフとBCクラシックは米国の最高峰レースという観点から、JCは競馬オリンピックと比喩されるほどのレベルの高さという観点があり、このうちJCは既にサードプレジデントが制し、KGⅥ&QESもそこまで強豪はおらず時間の問題である。

 

 この意図に気づいたサンデーサイレンス陣営は凱旋門賞とBCクラシックに出走登録した。

 

 かくしてサンデーサイレンス陣営は凱旋門賞で二度目、そしてBCクラシックで三度目になる挑戦状をサードプレジデント陣営に叩きつける事となる。

 

 

 

 

 

 そんなサンデーサイレンス陣営が奮闘する中、旭川厩舎は新しく入厩する馬を受け入れていた。

 

「よく来たなクラフトボーイ」

 

 ──よろしくね! おっちゃん達! 

 

 クラフトボーイが旭川を始めとした厩舎関係者に毛づくろいをする。厩舎関係者の頭は涎でベトベトになるがクラフトボーイに悪意はなく寧ろ逆で受け入れている証拠でもある。事実馬と馬とのコミュニケーションは毛づくろいをすることはその馬を受け入れているということでもあるからだ。

 

「ははっ、よろしく」

 

 頭をベトベトにしながらクラフトボーイを毛づくろいする旭川。通常馬から嫌われるはずの調教師の姿とは思えなかった。

 

 こんな人懐っこい性格なのでナインティギアによりストレスを溜めた厩務員達は癒されまくり、クラフトボーイは愛玩動物のような扱いを受け、クラフトボーイ自身もまんざらではなかった。

 

 

 

 そんなクラフトボーイだが馬達のコミュニティでやっていけたかというと、かなり上手くやれていた。

 

 通常ボス馬はサードプレジデントやナインティギアのように大柄で威厳があり、我が強いタイプの馬がなりやすい。ボス馬としても有名なシンボリルドルフなどはライオンなどと比喩されるくらいには我が強い。

 

 だがクラフトボーイは兄達とは異なり牝馬と間違えられるくらいに小柄かつ可愛らしい容姿をしている。擬人化したなら小柄な美少年にされていたであろうその見た目で、カリスマは兄達以上に兼ね備えていた。

 

 何よりもクラフトボーイがサードプレジデントやナインティギアに次いでボス扱いされたのは2頭が喧嘩した時に仲裁したのが余りにも大きい。

 

 

 

 ──もう、兄さん達! そんな喧嘩ばかりしているとボクも怒るよ! 

 

 ──すまん

 

 ──ああ? 

 

 ──ナイン兄さん? 

 

 ──ちっ、わかったよ。少なくともお前の前では喧嘩しねえ

 

 

 

 サードプレジデントもナインティギアも旭川厩舎だけでなく他の厩舎を含めた大ボスの2頭であり、それを仲裁したのだから、その発言力は無視できるものではない。

 

 また、その見た目にそぐわぬ賢さを持ち、様々な馬から慕われていたこともあり、馬達が困ったときに真っ先に相談する相手でもあった。

 

 そんなこんなでクラフトボーイは馬達に受け入れられていたのだが、ある意味ではトラブルが発生していた。

 

 クラフトボーイは何度もいうが牝馬に間違われるくらい小柄かつ可愛らしい容姿をしており、それは馬達から見ても同じである。そのせいでクラフトボーイは同性であるにも関わらず牡馬から性的対象として見られていた。

 

 幸いにも馬達の中でクラフトボーイは「もっとも怒らせたらいけない馬」という認識もあり、襲うようなことはしなかったが、それでも隙あらば触ろうとしたりする馬もいた。

 

 とはいえ人懐っこいクラフトボーイの方から毛づくろいをすることが多く、結果として魔性の女ならぬ魔性の馬として名を馳せることになり、クラフトボーイが姿を現しただけでクラフトボーイの方に目がいき、他の馬は集中出来なくなることが増えてしまった。牡馬で例外といえば兄達くらいのものだった。とはいえ、クラフトボーイ自身に悪気はなく純粋に仲良くしたいだけである。

 

 

 

 しかし他の厩舎からクラフトボーイに関する件で苦情が寄せられ、サードプレジデントのプール独占、ナインティギアの恐喝の苦情よりも遥かに多く、関係者達を悩ませることになっていた。

 

「どうしたものか……」

 

「それならサードプレジデントやナインティギアと一緒に調教をさせては? サードプレジデントもナインティギアもクラフトボーイに好意こそあれど性的対象として見ることはありませんし」

 

「なるほど。やってみるか」

 

 こうしてクラフトボーイはナインティギアやサードプレジデントと一緒のメニューをこなすようになり、結果的にナインティギアとサードプレジデントの喧嘩を抑止することになった。サードプレジデントとナインティギアを喧嘩の抑止力が増えただけでなく、ナインティギアとクラフトボーイが一緒にいる時に限りナインティギアが暴走することが無くなった。

 

 

 

 これはナインティギアにとって良い変化だった。

 

 ナインティギアはこれまで暴君として知られ気性の悪さのみならサンデーサイレンスと並ぶかそれ以上とも言われていたが、クラフトボーイが癒しになったことで改善され、創也以外の人間がナインティギアに騎乗しても5分程度なら振り落とそうとしなくなった。それ以上はナインティギアの気分次第だが。

 

 ちなみにナインティギアはクラフトボーイと会話をする際、他の馬に対しては威嚇するような態度を取るが、クラフトボーイに対してだけは穏やかに接し、ナインティギアの意外な一面を知ることになった。

*1
日本の重賞アーリントンCでもなければアーリントンミリオンでもない。因みに史実のオグリキャップ陣営は当初アーリントンミリオンにローテーションに含めていたが断念している




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尚、次回更新は明日0時です

番外編は何が見たいか

  • サードプレジデント産駒の活躍
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  • ナインティギアとクラフトボーイの活躍
  • ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
  • アニメ版ウマ娘世界のサード達
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