89式和製ビッグレッド   作:ディア

34 / 113
第34話

「何とかモノになりましたね」

 

 ゲート難を克服したナインティギアを見て創也が旭川に話しかける。

 

「ああ。これで宝塚記念は問題ないだろう」

 

「そうですね」

 

「後は……あいつだ」

 

「あいつとは?」

 

「サードプレジデントだよ」

 

「サードは大丈夫ですよ。あれだけ好調ならどんなレースでもいけます」

 

「それが障害でもか?」

 

「え? し、障害に出すんてすか!?」

 

「出さねえよ。確かに欧州──というか英国とか愛国は平地競走よりも障害競走の方が有名だがあくまでサードプレジデントは平地で走らせる。障害に出すくらいなら米国でハンデGⅠでも荒らしたほうがマシだ」

 

「それは確かに」

 

「サードプレジデントの次のレースはKGⅥ&QES。英国最高峰の平地GⅠ競走だ」

 

 

 

 KGⅥ&QES。欧州三大レースの一つであり、競馬先進国の英国の中でも最も格式が高いとされるこのレースにサードプレジデントが出走することになった。

 

 このレースはKGVI&QESは芝12F*1の平地競走なのだが、スタミナを喰らう重馬場かつ平地とは名ばかりの急坂。その坂の高低差は淀の坂で有名な京都競馬場の坂とは比較にならないほどの高低差で、スピード戦になることはほとんどなく消耗戦となることが多い。少なくともこの舞台で世界レコードは出ておらず、それよりも遥かに遅い2分30秒台でも勝ち時計となる場合もある。

 

 

 

「テキ、こう言ってはなんですがサンデーサイレンスのいる米国には行かないんですか?」

 

「それは今ではありませんわ」

 

 サードプレジデントの馬主である美亜が旭川の代わりにそう答える。

 

「美亜さん、いつからそこに?」

 

「つい先程ですわ。それよりも創也さん、何故米国に行かず英国のレース、KGⅥ&QESに出走するかわかりますか?」

 

「それは美亜さんが鰻のゼリー寄せとかいう英国のマズい飯を食べたい──冗談だから、美亜さん。その鞭を下ろして下さい!」

 

「全くもう! サードプレジデントをKGⅥ&QESに出走させる理由は一つ、サードプレジデントには世界最高峰のレースの完全制覇をしてもらいたいからですわ」

 

「完全制覇、ですか」

 

 

 

「ええ。私がこれを考えたのはサンデーサイレンスの生産関係者の方々とお話した時です。その方々は一年置きに種牡馬としてのサードプレジデントをリース──つまり現地で種付けしたいと要望がありました」

 

「それで引き受けたんですか?」

 

「口約束ですがね。詳しい契約内容は現在進めているところです。もしこのまま順調にいけばサードプレジデントは世界を股に掛ける種牡馬として活動することになりますが、国外では種牡馬としての価値はそこまで高くは望めません。何故だが分かりますか?」

 

「それは種牡馬として実績がないからじゃないですか?」

 

「違いますわ。日本の三冠は世界ではそこまで重要視されている訳では無いからです」

 

「そんなはずは──」

 

「桜花賞馬ダイアナソロンの母父ヒカルタカイは史上初の三冠馬でした」

 

「いやヒカルタカイは三冠馬ではなく、セントライトが史上初の三冠馬のはずですが」

 

「ええ……その通りです。ヒカルタカイが制した三冠は南関東三冠で、我々が定義する三冠──皐月賞、日本ダービー、菊花賞ではありません。ヒカルタカイが中央で有名になったのは天皇賞春で17馬身差、宝塚記念でレコードを出し、国内で最強と認められたからですわ。南関東三冠馬という称号はおまけでしかありませんわ」

 

「なるほど、つまり世界から見たサードプレジデントは国内という名前の地方で三冠を制したヒカルタカイのようなもので、世界的にはそこまで高くない。国際GⅠ競走のトラヴァースSでその強さを示しても1戦しかしていないから評価も現役最強という評価しかつけられないということですか」

 

 一応サードプレジデントの活躍でセクレタリアトの種付け料は爆上がりしていたのだが、それは言うだけ野暮である。

 

「ええ。普通の馬ならそれで十分何でしょうが、サードプレジデントは今は亡きセクレタリアト*2の産駒。セクレタリアトの代用ではなく後継たるには現在存在する世界最高峰のレース、KGⅥ&QES、凱旋門賞、BCクラシック、JCの4つのレースを制するしかありませんわ。JCはもう制していますから出走する必要がありませんが、それ以外はあります」

 

「そ、そうか! 米国にはセクレタリアト産駒の二冠馬リズンスターがいる! 今の成績だとリズンスターと無駄に争うだけなんだ」

 

「そう、向こうからしてみれば極東で活躍したサードプレジデントよりも本国で活躍したリズンスターの方が良いでしょう。サードプレジデントがリズンスターを上回る評価を得るには世界各国の最高峰のレースを制するしかないのです」

 

「なるほど、だから英国で最強のレースであるKGVI&QESで勝つ必要があるわけですね。そして、そのためにサードプレジデントを仕上げる必要があったと」

 

「そういうことですわ創也さん。米国で生まれた馬は欧州でも求められ、かの80年代欧州最強馬ダンシングブレーヴも元々は米国出身。ならば米国の血統で欧州の方々が好むような成績を残すことでリズンスターとの差別化も出来ます」

 

「そう来ましたか……」

 

 リズンスターは米国のクラシック二冠馬であり、バリバリのダート馬。しかしサードプレジデントは芝ダートともにこなせる万能馬。生産者からすれば世界各国で活躍させたいのであればサードプレジデント、米国内で活躍させかつ種付け料を抑えるのであればリズンスターを種付相手に選ぶことになる。

 

「サードプレジデントが世界最高峰のレースを制覇すれば、それこそサードプレジデントは米国だけでなく世界各国から需要が殺到しますわ。私の目的はサードプレジデントの血を継ぐ馬を少しでも多く増やし、私の惚れたサードプレジデントという馬が如何に偉大であるかを世界中に知らしめること。それが私の目標であり、夢ですわ」

 

「なるほど、美亜さんの夢は伝わりました。その夢を私の騎乗で叶えて見せましょう」

 

 創也がサードプレジデントの鼻先を撫でるとサードプレジデントが首を縦に振った。

 

 ──相棒。俺は誰が相手だろうが勝ってみせるさ。

 

 創也にはそう聞こえ、微笑んで見せた。

*1
約2400m

*2
セクレタリアトは1989年に亡くなっている




このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は来週18時です

番外編は何が見たいか

  • サードプレジデント産駒の活躍
  • サードプレジデントのその後
  • ナインティギアとクラフトボーイの活躍
  • ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
  • アニメ版ウマ娘世界のサード達
  • アプリ版ウマ娘世界のサード達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。