史上3人目となる三冠ウマ娘、ミスターシービー。彼女もまたトレセン学園の生徒であり、授業中や休み時間にグラウンドで走り回る姿はよく目撃されている。
「あれー? どこに行ったのかな?」
「どうかなされましたか? ミスターシービーさん」
キョロキョロと何かを探すミスターシービーに声をかけるサードプレジデント。
「失礼するよ」
ミスターシービーがサードプレジデントの顔を触り見つめしばらくすると「……違う」と呟いた。
「違うとはどういうことですか?」
「さっき運命を感じるウマ娘を見かけたんだけど見失っちゃったんだ。君の顔にその面影があったけど、君は違うみたい……あっ、あの娘だ!」
ミスターシービーがそう言ってそのウマ娘を追いかけると、そのウマ娘は逃げていく。ただしそのウマ娘は恋人に追いかけられるかのように笑顔で走っていた。
「待って~」と追いかけながら楽しそうに走るミスターシービーとそのウマ娘を見ながらサードプレジデントは笑っていた。
「うふふ。本当に面白い人ですね。ミスターシービーさんは」
「姉さん、そんなことを言っている場合か? ミスターシービー先輩が追いかけているのはクラフトボーイだ」
クラフトボーイはつい最近入学してきたばかりのサードプレジデントとナインティギアの妹でもある。故にナインティギアは明るい自分達の妹が何処かの誰かに騙されて良いように利用されてしまうのではないかと、不安に駆られてしまう。
「大丈夫ですよナインティ。あの子なら心配ありませんことよ。ほら」
サードプレジデントが視線をクラフトボーイに移すとそこには共に笑顔でいるクラフトボーイとミスターシービーがいた。
「捕まえた♥」
「アハハっ捕まっちゃった!」
「アタシはミスターシービー。よろしくね」
「僕はクラフトボーイ。こちらこそよろしくね」
「ところで、どうしてアタシから逃げたの?」
「楽しそうだったから!」
「楽しそうだったからって、面白いねキミ!」
明るくそう答えるとミスターシービーも笑わずにはいられなかった。
「そうだ! 一緒に遊ぼう!」
「良いの!? やったぁ! じゃあ鬼ごっこしよう! アタシが逃げる役やるよ」
「分かった! じゃあ10秒数えたら追い掛けるね」
まさしく二人は自由奔放、天真爛漫と表現すべき性格ですぐに意気投合して遊び始める。
「楽しかった! シーちゃん!」
「アタシも楽しかったよクラちゃん!」
年がかなり離れているのにも関わらず仲の良い二人。まるで姉妹のようである。
そしてクラフトボーイがこちらに気が付きサードプレジデント達に駆け寄ってミスターシービーの下に連れて行く。
「シーちゃん、この二人がお姉ちゃん達! こっちの赤毛の方がサー姉! こっちの黒い方がナイン姉!」
「この子の長姉サードプレジデントですわ、ミスターシービーさん」
「次姉のナインティギアだ。よろしく先輩」
「サードプレジデントって……ああアタシ達の後継者だ!」
ポンと手をつきミスターシービーが思い出す。ミスターシービーとサードプレジデントは互いに三冠ウマ娘であり、名前を知っていた。
「それにナインティギアって言ったら暴れん坊でしょ? 余の顔を見忘れたか! っていう決め台詞の」
「8代将軍様じゃねえよ!」
「ごめんごめん。でも重賞3つ勝ったんでしょ? 強いじゃん!」
「四冠*1ウマ娘に強いと言われても皮肉にしか聞こえねえよ」
「またまたぁ謙遜しちゃって」
「本当だっての。それに私はこの前の宝塚記念で負けたからそこまで立派なものじゃない」
本来この時期のクラシック級のウマ娘がシニア級のウマ娘に敵う訳がない。むしろ宝塚記念という舞台でよく2着まで食い込んだと絶賛されるべきである。
「まあまあ、とりあえず座りなさいな」
サードプレジデントがミスターシービーとクラフトボーイをベンチに座らせ、ナインティギアが飲み物を奢る。
「ターシービー先輩よ。礼を言うぜ。クラフトボーイと遊んでやってくれてありがとう」
「私からもお礼申しあげますわ。ありがとうございます」
「それはいいんだけど、読み方はミス・ターシービーじゃなくてミスター・シービーなんだ」
「なっ、そうなのか!?」
「うん。英語にするとMr.CB。だからミスター・シービー」
「そうか、知らなかったとは言え悪かったな。許してくれ」
「全然気にしなくてもいいよ。ただ、出来ればアタシのことはシービーと呼んでほしいかな」
「了解したシービー先輩」
「それで、ミスターシービーさんはクラ……クラフトボーイと運命を感じると仰っていましたが、どのような感じなのでしょう?」
「うん、一目見た瞬間ビビッときてね。クラフトボーイと一緒に居たいなって思ったの」
「そうなんですか。ではもし良ければミスターシービーさんのことを詳しく教えていただけませんか?」
「勿論良いよ! なんでも聞いて!」
「それならまずシービーさんの得意な距離は……」
こうして三人はミスターシービーに話を聞かせてもらう。ミスターシービーは話し上手でサードプレジデント達の質問にも淀みなく答えてくれた。
そんな時、ナインティギアの携帯電話が鳴り響き、電話に出ると「了解、今すぐ行きます」と言って電話を切る。
「悪い、姉さん。ちょっと用事が出来ちまった」
「どうかしましたか?」
「シリウスシンボリ先輩に呼び出されてな。野良レースの取締をしなきゃいけなくなったからちょっといってくる」
「シリウスシンボリさんと縁があるので?」
「ああ、ちょっとな」
「そうですか。気をつけてくださいまし」
「分かってるよ。じゃあ行ってくる」
そう言ってナインティギアが走り去っていくと、サードプレジデント達はミスターシービーに向き直り会話を続けることにした。
「へえ~あのシリウスとね……」
「ミスターシービーさんもご存知で? ダービーウマ娘というのは存じていますが」
「良くも悪くもアウトローな娘だね。毎日王冠だったかな? 欧州帰りのダンスを披露したら手や足が他のウマ娘に当たって出走取消させたのは記憶に新しいよ」
「それは何というか、随分と乱暴ですわね」
「でも、悪気はないのはわかっているし、何よりも嘘はつかないからアタシは嫌いじゃないよ」
「そうなのですか……ところで話は変わりますがミスターシービーさん、先代三冠ウマ娘──シンボリルドルフ会長とトゥインクルシリーズで三度共に走ったことがあったとお伺いしていますが、もし全盛期状態で貴女と会長が共に走るとしたらどうやって勝ちますか?」
「うーん、難しいことを聞いてくるねぇ。そうだなぁ……」
ミスターシービーは少し悩みながら答える。
「アタシが追込一辺倒であるのに対してルドルフは基本的に先行が出来る自在脚質。どんなレース展開になったとしてもルドルフはそれに対処出来るからね。それを警戒して逃げを打っても体力を消耗するだけで結局追い付かれる。そもそもアタシが前に出た時点で勝てる見込みなんてほとんどないよ」
「つまりどうしようもないと?」
「ううん、そういうわけでもない。あくまで一般的にルドルフは強いけど条件を満たせばそうでもなくなるんだ」
「それは一体?」
「1つ目は東京レース場であること。東京レース場は直線が長いから先行よりも差しが有利になりがちなんだ。ダービーを勝った時のルドルフだって先行じゃなく差しにしているし、アタシもこの舞台の方が輝ける」
「なるほど……他にはあるのですか?」
「2つ目は距離が短いほど有利ってことだね。2000mあたりなら有利になる。サードみたいにスタミナバカでもない限り考えなしに長距離でルドルフに挑むのは無謀だよ」
「私はそこまでバカではありませんわ」
「ごめんごめん、つい言っちゃった」
「全くもう!」
「さて話を戻すとして3つ目だけどハイペースに弱い」
「ハイペースに弱い?」
サードプレジデントが首を傾げる。あれだけミスターシービー自身がシンボリルドルフのことを自在脚質でどんな環境にも適応する完璧な存在と評価していたのだ。ハイペースに弱いとは到底思えなかった。
「うん、ルドルフが秋天で負けたのはそれが理由だし」
「あ……確かに!」
秋の天皇賞で敗北したシンボリルドルフが荒れに荒れまくりゴシップ記事に根も葉もない噂をばら撒かれたのはトレセン学園内ではあまりにも有名で、サードプレジデントはそれを調べていくうちにシンボリルドルフの敗因がハイペースだとわかったのだ。
「その3つの条件を揃えばアタシが断然有利の状態で走れるって訳。だから勝算はあるよ」
「しかし3つ目の条件はミスターシービーさんが自分でペースを作り出す訳では無いのですから、それは他人任せになるのではないでしょうか?」
「そうだね。どうしても勝ちたいのなら日本に馴染みはないけどラビットっていうウマ娘を用意することだね。そのウマ娘は同じチームの為にペースを作り出してくれる存在を使ってレースするのが一番理想的なんだけど、日本じゃ八百長扱いされて認められないから実質条件を満たせるのは2つだけだね。後は無理やりにでもそういう展開を作るしかないよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
サードプレジデントは考え込む。
「(脚質は違えど、ミスターシービーさんが空前絶後のウマ娘、会長が私だとしたら、そういう風に対策しますか。いずれ戦うことになるでしょうし……)」
そんなことを考えているとミスターシービーはベンチから立ち上がって言う。
「それじゃあアタシはこのへんで失礼するよ。また機会があれば会おうね!」
「はい! 今日はお話できて嬉しかったですわ!」
「ボクも楽しかったよ!」
ミスターシービーはサードプレジデント達に手を振りながら去っていった。
そして、サードプレジデントとクラフトボーイが寮に戻り、晩御飯を食べ終えると、サードプレジデントは自室のベッドの上で今日のことを振り返っていた。
「(ミスターシービーさんのお陰で色々と得るものがありましたわ。特にレースにおける心構えに関しては勉強になりましたし、何よりも勝てないなどと言っておきながらその目は勝利を見据えていた。本当に凄いウマ娘ですね)」
サードプレジデントは偉大すぎる母に負けまいと努力してきた。しかしどんなに努力しても母に追いつける自信はなく、サードプレジデントがお嬢様口調なのも母親に対するコンプレックスの象徴だ。だが、ミスターシービーとの会話で自分の中で何かが変わった気がした。
「(いつか必ずお母様に勝ってみせますわ。その為にももっとトレーニングをしなくてはなりませんね。明日も頑張りましょう)」
そんな決意を固め、サードプレジデントは眠りについた。
その後、サードプレジデントはKGⅥ&QESにて40バ身差の圧勝、未来永劫塗り替えられることのないコースレコードを更新し偉大なる母と肩を並べ、【ダートの母、芝の娘】と評されることになる。
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尚、次回更新は未定です
番外編は何が見たいか
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サードプレジデント産駒の活躍
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サードプレジデントのその後
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ナインティギアとクラフトボーイの活躍
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ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
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アニメ版ウマ娘世界のサード達
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アプリ版ウマ娘世界のサード達