89式和製ビッグレッド   作:ディア

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ウマ娘14

 そしてJC当日、三度目の伝説の幕開けとなるJC。1番人気と2番人気は当然の如く海外から高い評価を得た2人。

 

 3番人気は連勝を重ねてきたオーストラリアのウマ娘、4番人気がオグリキャップ、5番人気がナインティギアとなっているが上位2人が圧倒的過ぎてナインティギアはその他大勢のウマ娘としか認識されていなかった。

 

 

 

「随分舐めた評価してやがるな」

 

 和製ビッグレッドや空前絶後の英雄が世界レースを盛り上げたのは事実であるがこうもあまりに露骨だとナインティギアに限らず他の出走ウマ娘達も不愉快に感じる。

 

「まあ所詮世間の評価なんてこんなもんだ。ナインティ、落ち着いていけよ。お前にも勝ち目はあるんだからな」

 

「創也の兄さん……」

 

「そこそこそこぉっ! 近いですわよ! 至急離れなさい!」

 

 和製ビッグレッドことサードプレジデントが割って入り「しゃーっ!」などと威嚇する。まるで猫である。

 

「創也様も創也様ですわ! 私のことを何だと思っていますの!?」

 

「それは勿論大切な相棒で──」

 

「相棒で?」

 

「…………嫁だな」

 

「はいよろしい。これからは気を付けてくださいね?」

 

 ドヤ顔をナインティギアに見せつけるとナインティギアが鬱陶しさを隠しもせずサードプレジデントを睨み付ける。

 

 ナインティギアとサードプレジデントがバチバチと火花を散らし合っているとファンファーレが鳴る。

 

 ナインティギアは静かに構え、サードプレジデントは余裕綽々といった様子で待機している。

 

 

 

【今スタートを切りました! まず最初にハナに立ったのは米国の英雄──、続いてオグリキャップ、オグリキャップがこの位置】

 

 1番最初に先頭に立ったのは米国の英雄にして空前絶後。2番手以降に大きなリードをつけての大逃げ体制を取り最後のコーナーで息を入れて最後の直線で通常の追込ウマ娘並の末脚を爆発させるというとんでもないレーススタイルである。

 

 彼女が最も得意とする脚質であり、ウッドワードSではこれにより大差のレコード、凱旋門賞でも従来のレコードを上回るタイムで駆け抜け、BCクラシックではサードプレジデントに同着している。このレースのペースメーカーとして彼女以上の適任者はいないだろう。

 

【オグリキャップは2番手ですがオグリキャップとの差がどんどん開いていきます。しかしこのまま終わるか? いや、ここでさらに加速していく。後続を突き放していき、これはすごい。もう誰も追いつけないか!?】

 

「(確かに私は先行も出来るが前に出るのは他にいないのか? これでは実質的な逃げになる)」

 

 オグリキャップが困惑し、他のウマ娘達は2番手に出ることを諦めている。サードプレジデント以外のウマ娘が無理に競り合えば潰されてしまい、惨敗する。そのサードプレジデントも追込にかけていたこともあり楽に逃がしていた。

 

 

 

「(私と走ったことのあるウマ娘は国内のウマ娘だけじゃないとはいえそこまで多くありませんわね。私のライバルのウマ娘にイブビンティさんくらいでしょうか? 私が出るというだけで逃げるんですから、やってられませんわね)」

 

 サードプレジデントが最後方で控えながらぼやく。KGⅥ&QES2着のウマ娘も一応招待されていたがサードプレジデントの余りの強さにサードプレジデントの出走登録している凱旋門賞とJC出走を控えてBCターフに逃げ、そのままトゥインクルシリーズを引退した。

 

 それだけサードプレジデントは恐れられ、他のウマ娘やその関係者からは「生まれた世代を間違えた」とまで言われ、畏怖の対象となっている。

 

「ナインティ、貴女の実力を見せて貰いますよ?」

 

 獰猛な笑みを浮かべたサードプレジデントがナインティギアをマークする。

 

 

 

【1000mを通過してタイムはなんと57秒! 流石に速すぎないか!? そして大きく離れてオグリキャップ、ナインティギアがその後ろで控えています】

 

「この視線は姉さんからか。全く他のウマ娘にやったらビビるだろうに」

 

 先行集団でオグリキャップの真後ろで控えていたナインティギアが呟く。

 

【さあ、残り1000mとなったところで一気に来た! 一気に来たぞ! ここから追込をかけてきたのは和製ビッグレッド、サードプレジデント!】

 

「チッ、もう来やがった! だが想定の範囲内だ!」

 

 サードプレジデントが加速したと同時にナインティギアが仕掛け、加速する。サードプレジデントの加速力は誰よりも速く、仕掛けるのが遅れると命取りとなり、オグリキャップ達がその犠牲となった。

 

「あ、あぁ……っ!」

 

 オグリキャップ達が抱いた感情は絶望。これほどまでに速い加速についていけず、心がへし折れる。

 

 そんな中ナインティギアが汗だくになりながら本気を出してコーナーを曲がったところで先頭を捉えようとしていた。

 

「(ようやくやる気になったみたいですね)」

 

 サードプレジデントが感動しながらも加速していき最高速度まで達すると先頭のウマ娘に徐々に近づいていく。

 

【そして、ここに来てナインティギアが上がってきた! 先頭の米国の英雄に並びかけ、差しに行った!】

 

「悪いがあんたと併走させて貰おうか。ここから先は一人じゃ無理なもんでね」

 

「そこをどけ、そこはあいつの席なんだ!」

 

 ナインティギアと米国の英雄が互いに叩き合い、後方からやってくる赤い弾丸に向けて競り合う。

 

【なんと直線に入ってナインティギアと米国の英雄が壮絶な叩き合い! サードプレジデントはまだなのか!?】

 

 

 

「お待たせ致しましたわ。私が和製ビッグレッド、サードプレジデントですわ」

 

 その自己紹介が観客席の脳内に響くと共にサードプレジデントが一気にナインティギア達を捉えに向かう。

 

【残り100mを切ってサードプレジデント! サードプレジデントがやってきたぞ!】

 

 湧き上がる大歓声の中、ナインティギアと米国の英雄がサードプレジデントの存在に気づく。

 

「まだ終わってないんだよ!」

 

「邪魔だあああっ!!」

 

 2人の怒号が響き、それに呼応するようにサードプレジデントが加速し、2人を容易く抜き去る。

 

「ここで終わりですわぁぁぁっ!」

 

【先頭はサードプレジデントだ! 先頭はサードプレジデント!】

 

「させナイ! 俺はお前を倒すのにここまで来たんダ!」

 

【米国の英雄が粘る! 空前絶後の渾名は伊達じゃない!】

 

「あんただけがライバルじゃねえ! 勝つのは私だ!」

 

 ナインティギアがオグリキャップのお株を奪う地を這うフォームそのものに切り替わり更に加速する。

 

 先日の菊花賞でメジロマックイーンがそれをして逆転勝利したのを見て取り入れようとしたが加速力が増す代わりにあまりにも危険な為に残り50mという限定条件であったがそれでもこの加速力は心強かった。

 

【ナインティギアだ、90式ライフルがジャイアントキリングなるか!?】

 

 三つ巴の戦い、ほんの一瞬でも気が緩めば負けてしまう。3人が必死の形相でゴール板を目指して走る。

 

「長い間、お疲れ様でした! 世代交代を受け入れてさっさと殿堂入りして引退しろ! あんた達の世代はもう終わったんだよぉぉぉっ!」

 

「なら、最高の殿堂入りで終わろうじゃねえか! 俺の尻を拝んでおくことだな!」

 

「ふざけないで下さいまし、誰にも勝利を渡しません!」

 

【三者横一線並んでゴールイン! ジャイアントキリングか、米国の英雄か、和製ビッグレッドか……これは全くわかりません!】

 

「あがっ!?」

 

 ゴールと同時に疲労のあまりバランスを崩したナインティギアが転び、倒れる。幸いにも受け身を上手く取っていたこともあり、五体満足の無傷で済んでいたがそれでもフラフラの状態で立ち上がるとサードプレジデントと米国の英雄がすぐ傍にいた。

 

 

 

「ありがとうございましたわ。いい勝負でしたわね。まさかこんなにも追い詰められるとは思いませんでしたわ。そして貴女も素晴らしい走りでしたわ。また戦いましょう」

 

「……ああ、そうだナ。まさか日本に和製ビッグレッドと並ぶ存在がいるとは思わなかったナ。次はドリームトロフィーで会おウ」

 

「えっ、写真判定は見ないので?」

 

「わかるサ、そこの黒いのが1着、後は並んで2着同着だ」

 

 16分後に写真判定の結果が出てくる。その結果、ナインティギアが1着、サードプレジデントと空前絶後のウマ娘が2着同着となっていた。

 

 

 

「ナインティ、おめでとうございますわ。まさか私が負ける日が来るなんて思いもよりませんでしたが、いつか必ずリベンジしますわね」

 

「いや、あの、私は……」

 

「ではウイニングライブで」

 

 そう言ってサードプレジデントはその場から立ち去った。

 

「創也の兄さん、私やったよ!」

 

「おめでとう、ナインティ。まさかキャロ……サードプレジデントに勝つなんてな。サードをメインに見てきた俺としては複雑な気分だよ。だけどサードに勝てたのは間違いなくお前の実力であり誇りだ」

 

「ははっ、照れるな。姉さんや姉さんのファンには悪いことをしたけどこれからは姉さん達に勝った相手としてトゥインクルシリーズを牽引する立場になったんだ。とりあえず天皇賞春に出走してその後は秋のシニア三冠レースを目標にしていこうと思う」

 

「おう、頑張れよ」

 

 こうしてナインティギアが新たな目標を得て、再び歩き出す。

 

 

 

「うっ……ぁぁぁ……」

 

 控え室でサードプレジデントが泣き崩れていた。

 

「入るぞサード」

 

「ま、待って下さいまじ!」

 

 涙声でサードプレジデントが創也の入室を拒否するも創也が強引に入り込む。

 

「サード、とりあえずお疲れ様。これを使え」

 

「ゔ……はい……」

 

 涙で腫れた目の周りを拭き取り、目を瞑ったままサードプレジデントがそれを受け取る。

 

「どうだ? 落ち着いたか?」

 

「はい、少しだけ落ち着きましたわ」

 

「ならよかった」

 

「創也様。私、初めてナインティにレースで負けました。他のことで負けるのは仕方ないにしてもレースで負けるのってこんなに悔しいものですのね……」

 

「そうだろうな。ましてや本気を出したお前が負けたんだ。その気持ちを忘れずに今後のトレーニングに生かすといい」

 

「はい、それと二人きりの時にサードは辞めてくださいまし。いつものようにキャロと呼んでくださいまし、そっちの方が落ち着きますわ」

 

「わかった。キャロ、今日はどこか美味しい店でナインティの祝杯を挙げようじゃないか」

 

「そうですわね。私が負けた云々はさておき私の妹が私という壁を乗り越えた以上祝杯を挙げない理由にはなりませんわね」

 

「キャロ、そういうところがお前の好きなところだ」

 

「それじゃ慰めに私を抱いて下さいませ!」

 

「はい」

 

 創也がサードプレジデントを抱きしめるとサードプレジデントが創也の胸元に顔を埋め、創也の匂いを堪能する。

 

「ああ、落ち着きます。やっぱり創也様に抱かれるのが一番落ち着きますわ。この温もりと柔らかさが癖になりますの」

 

「そうか、それは良かった。もう少しこうしてるか?」

 

「はい……」

 

 それからしばらくの間、サードプレジデントのされるがままにされた創也であった。




前に宣言した通りこの話はナインティギアがサンデーサイレンスだけでなくサードプレジデントが出走してきたIFルートです。サンデーサイレンスに勝つことには変わりありませんがサードプレジデントがサンデーサイレンスと互角になってしまった世界線がこのルートで、ウマ娘のサードプレジデントが競走馬のサードプレジデントと同じ強さならナインティギアに勝っていますので御承知下さい。それでもクビ差ですが。

・前回の後書きに引き続き……
≫もし良ければサードプレジデントに種付けしたら活躍しそうな繁殖牝馬(史実架空問わず)がいたら名前を挙げてメッセージボックスの方に投稿してください。架空馬の場合は血統や出来れば競走成績なども記載お願い致します

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尚、次回更新は本日21時です。
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