89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・サードプレジデント産駒の募集
≫たくさんの応募ありがとうございました。応募した中から吟味して登場します。また応募した中で作者が閃き、考えた配合相手の産駒も登場しますのでよろしくお願いいたします

・タイトル詐欺
≫この小説は【89式和製ビッグレッド】なのに番外編はナインティギアとかクラフトボーイとかの話しが多くてタイトル詐欺何じゃないかと不安になる。

・文字数
≫基本的にこの作品は3000文字〜4000文字だが番外編はプロットと本編の間くらいのクオリティなのでどうしても半端に増えてしまう。本編だったら量を増やして2話くらいに分けるがそうもいかないのでこの話だけで6000文字もいくことに……マジかよ!


第53話

 皐月賞、最後の直線。

 

 

 

 昨年のサンデーサイレンスを彷彿とさせる大逃げのクラフトボーイ。その戦法が確立されたのは朝日杯だった。

 

 サードプレジデントとの付き添いでプールで心肺機能を鍛え上げられたおかげかスタミナという点ではサードプレジデントに及ばすとも既にメジロマックイーンといったステイヤー達と並び立てる存在になっていた。

 

 その豊富なスタミナと祖父トウショウボーイから受け継がれたスピードが加わり、クラフトボーイの大逃げが成立し、試しにサンデーサイレンスと同じ大逃げをしてみた所1分32秒8の大差勝利。マルゼンスキーのフリーハンデを大きく上回る評価『60』を与えられていた。

 

 しかしこの話には裏話があり、鞍上の創也は意図して大逃げをした訳ではない。むしろ新馬戦から今まで抑えていたのだが、クラフトボーイのパワーが増したことにより抑えが効かなくなり、大逃げという形になってしまった。

 

 創也との相性が悪いのかと言えばそうではなく、試しに他の騎手をクラフトボーイに乗せて走らせようとしたところクラフトボーイが大はしゃぎし、4000m全力疾走。タイムを測って見たところ3600m時点で日本レコードを上回るタイムを出してしまい常に全力疾走である。

 

 しかしそんな祖父トウショウボーイや父ミスターシービーもそうだがサードプレジデントやセクレタリアトのように特別頑丈な身体をしている訳ではない。そんな全力疾走を毎回続けていたら間違いなく故障するだろう。

 

 それを1番制御出来るのが新馬戦の頃からの付き合いである創也である。弥生賞では上手く折り合いがつき、どうにか上手くいっていた。

 

 そして皐月賞ではトウカイテイオーの素質を見抜き、最後の直線でスパートをかけさせるとトウカイテイオー以外が脱落していった。

 

【さあクラフトボーイとトウカイテイオーの一騎打ちだ、トウカイテイオーが差すかクラフトボーイが逃げ切るか、後続を突き放しトウカイテイオーだ、トウカイテイオーだ!】

 

 トウカイテイオーに騎乗している休田騎手に限らずクラフトボーイを警戒していた。

 

 朝日杯や弥生賞で歴代2位のタイムで駆け抜けたクラフトボーイはサードプレジデントがいなければどちらも歴代1位の記録保持者となっていたからでこの時点でマルゼンスキー以上の評価を受けていた。トウカイテイオーが自らの父シンボリルドルフに挑むくらいの覚悟でこのレースに出走していた。

 

「(唯一の勝ち目があるとしたら、ここしかない!)」

 

 トウショウボーイに似たのがいけなかったのか併走すると若干加速力が落ちてしまい、クラフトボーイもその傾向があり減速してしまう。

 

【クラフトボーイは勝てそうにない! トウカイテイオー皐月賞父子制覇! 2着にクラフトボーイ! 後は離れてシャコーグレイドが入りました。シンボリルドルフの子がミスターシービーの子を薙ぎ払いました!】

 

 クラフトボーイが後続を9馬身引き離し、半馬身まで詰め寄るも結果はトウカイテイオーの勝利に終わる。

 

 

 

「顔でも負け、レースでも負けるか……でもこれからもっと頑張って笑顔にしてくれよ」

 

 ──うん! 頑張るよ! 

 

 クラフトボーイが創也によって鬣を撫でられたことにより機嫌が直り、創也とキスをする。

 

「こら、さあ今度はダービーだぞ。日本ダービーに向けて特訓だ」

 

 ──今度は負けないよ! 

 

 そうクラフトボーイがトウカイテイオーに宣言するがトウカイテイオーは小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

 ──やってみなよ、次もギッタギタのけちょんけちょんにしてやるよ! 

 

 

 

 そんな皐月賞を終えると5月に入り、天皇賞春が開催される。

 

 クラフトボーイやトウカイテイオーは4歳馬なので出走することはないが、代わりに昨年からイケイケのナインティギアや菊花賞馬メジロマックイーン等がここに揃っていた。

 

 

 

「(胤先輩、前走の阪神大賞典はマックイーンの乗り替わり直後だったから力を発揮出来なかったでしょうが、今回はそうじゃない。胤先輩がメジロマックイーンに騎乗するのは二度目になる。メジロマックイーンの素質を十二分に発揮してくるだろう。そうなれば阪神大賞典ならまだしも春天の舞台ではナインティといえども厳しい勝負になる)」

 

「(月城、昨年の京都大賞典とは違って前回の阪神大賞典はマックイーンが負けた訳じゃない。僕の騎乗ミスで負けたんだ。だけどあんな騎乗ミスはもうしないし、僕とマックイーンは一心同体、二度と負けるつもりはないし、負けたとしてもこのレースじゃない)」

 

 創也と胤が互いに意識し合うのは無理もなく彼らは所謂天才と呼ばれる人種であり、共に能力を秘めている。

 

 そんな2人が騎乗するのはナインティギアとメジロマックイーンだ。

 

 ナインティギアは【日本のサンデーサイレンス】等ととにかく気性難で有名だがその実力は本物で連対率はほぼ100%の上にGⅡ以下なら勝率100%、勝ったGⅠ競走もサンデーサイレンスのいるJCだ。2000〜2400前後の中長距離においては現役最強と言え、日本の歴代でもその名を連ねることが出来得る存在である。

 

 メジロマックイーンは昨年の夏まで鳴かず飛ばずの成績だったが、菊花賞でナインティギアを破り一気に名を挙げ、ステイヤーとして有名になった。前走の阪神大賞典で敗れはしたもののその強さは健在で、騎乗ミスさえなければメジロマックイーンの勝利となっていただろう。

 

 そんな2頭の鞍上が天才と呼ばれる創也と胤であるのだから実質騎手達の頂上決戦ともいっても過言ではない。そんなレースである。

 

 

 

【さて、ここで各馬のパドックを見ていきましょう。まずはメジロマックイーンと同じ芦毛馬ホワイトストーン。前走産経大阪杯を勝利し、今日も好調といったように見えますね】

 

【素晴らしい馬体ですね。つい数年前まで芦毛の馬は走らないなんて言われていましたが、数年前にこれを見せられたら一目惚れしていたでしょうね】

 

 かつて芦毛の馬は走らないと言われていた。しかしタマモクロス、オグリキャップが活躍し、そのジンクスを塗り替え、更にはメジロマックイーンが菊花賞を勝ち今となっては芦毛の馬はオグリキャップの人気もあってかかなり人気を集めていた。ホワイトストーンもその例に漏れず3番人気に支持されていた。

 

【そして2番人気に支持されているのはメジロマックイーン。春の盾を手にするべくこの舞台に戻ってきました】

 

【いやー、いいですよ。仕上がりは完璧ですし、これは期待出来そうですね】

 

 メジロマックイーン陣営はナインティギア対策の為に全てを尽くした。それでも阪神大賞典で負け、敗因は騎手のせいだと責めていた。

 

 だが根本的な原因こそ騎乗ミスをした胤騎手だがそれだけではない。繊細な起こってしまったメジロマックイーンの調整不足、鞍上を乗り替わりを決断した陣営、様々な要因が重なってこの結果になったのだ。

 

 だが陣営は今回の天皇賞春に向けて万全に仕上げ、乗り替わりの不安も消えている。陣営からすれば何故メジロマックイーンが1番人気でないのか首を傾げる程だ。

 

【さあ、いよいよ1番人気の登場です! クラシックの皐月賞、日本ダービー、菊花賞の3つのレース無冠でしたがJCでサンデーサイレンスを破り、阪神大賞典ではメジロマックイーンをも仕留め長距離不安をも弾き返しました。おそらく世界一に最も近い馬と言えるでしょう】

 

【スタミナでもメジロマックイーンに劣らないことが阪神大賞典で判明しましたし、スピードでも世界屈指のレベルに到達しています。これは本当に楽しみな一頭ですね】

 

 ナインティギアの黒く輝く馬体に誰もが魅了され、サードプレジデントの現役時代にも劣らない馬体の仕上がりだった。

 

「凄い……!」

 

「メジロマックイーンも大概だが、今のナインティギアの仕上がりは神懸だ」

 

 観客のほとんどがあまりにも美しい馬体をしているナインティギアに目を奪われる。それ故にナインティギアが1番人気に支持されるのは無理もなく、得意距離であるはずのメジロマックイーンは2番人気にされてしまった。

 

【メジロルイスがこの場にいないのが惜しまれますね。もしいたなら三強対決になったと思いますが】

 

【そうですね、日経賞後の調教中に故障しましたからねぇ……宝塚記念後に復活するとのことでしたので函館記念か、札幌記念、あるいは高松宮杯あたりでさらっと勝ってくれると思いますよ】

 

 メジロルイスは日経賞を勝った後の調教で故障し、天皇賞春や宝塚記念といったレースには出られないがスーパー重賞と呼ばれるレベルの高いレースに出走予定を決めていた。

 

 

 

【さあ、各馬ゲートに入りまして……1991年初の天皇賞スタート!】

 

 各馬が好スタートを切り、先行争いが始まる。

 

 メジロマックイーンとナインティギアはいつも通り、それぞれ先行と追込の位置につき様子を見る。

 

 メジロマックイーンのレーススタイルはシンボリルドルフやスーパークリークが得意とした先行である。

 

 この先行は序盤は2番手から5番手あたりでレースを進み、最後の直線かそれまでに逃げ馬を捉えてそのままスピードを維持してゴールするというものだ。その先行というレーススタイルは弱点が少なく最も勝ちやすいものである。それ故にその勝ち方は横綱競馬と呼ばれることもある。

 

 しかしながら1番強いレーススタイルが先行というのはどの馬にも当てはまるものではない。当てはまったならば誰もが先行馬になっているだろうし、逃げ馬や差し馬、追込馬などもいない。

 

 ナインティギアは追込以外にも逃げ、先行、差し全てこなせるが基本的に追込である。それは何故か。その戦法がナインティギアにとって最も強い勝ち方であるからだ。ナインティギアは良くも悪くも賢いことで、偶に格が違い過ぎて圧勝することもあるが基本的にレースでは僅差で勝つように調整している。

 

 その為最後の直線で手を抜き過ぎてしまうこともあり、普段は追込にしておいて他の脚質に切り替えた時に手を抜く癖を出来る限り減らしているのが現状だ。幸いにも一瞬の切れでも勝負出来る末脚の持ち主であり、追い込み馬としては間違いなくトップクラスだ。

 

 

 

 そんなこんなで残り600mとなりナインティギアが仕掛けるとメジロマックイーンが動き後続を引き離す。本来であれば淀の坂の鉄則を無視してコーナーを曲がりきれず距離ロスすることになるがそれよりもナインティギアの末脚の方が恐ろしい。

 

 それにメジロマックイーンは本来スピードでごり押しするタイプの馬ではなく、スタミナで勝負するタイプの馬である。悪く言えば加速力に欠ける。その為距離をロスしてでも加速させる必要があり、そのスピードに乗らせてしまえばナインティギアと言えども差し切ることは出来ない。それが鞍上の胤の考えだった。

 

「(まあそう来るだろうな)」

 

 創也もそれを見抜けないほどバカでもない。創也とてメジロマックイーンに騎乗していたならそのように対策を取っていただろうしそれがメジロマックイーンの良さを最大限に引き出せるからだ。

 

「(ナインティが負けた菊花賞で何も学んでいないとでも思うか? ただ同じように繰り返すのは愚の骨頂だ)」

 

 ナインティギアが淀の坂を物凄い勢いで下るのはこれが初めてではない。菊花賞でも同じだった。それにも関わらずメジロマックイーンに負けたということは同じことをやっても負ける可能性が高い。馬自身の能力が上がればそれに越したことはないが、メジロマックイーンは胤という新しい相棒を迎えて更にパワーアップしている。そんな相手にナインティギアだけが相対的に強くなれるかと言われたら無理だろう。

 

 しかし騎手は別だ。騎手の良し悪しで結果は大きく変わる。その騎手が優れた騎乗をしていれば勝ちに大きく貢献出来る。いくら天才と呼ばれていても創也とて万能ではない。しかし創也が天才と呼ばれる所以はその馬の限界を引き出すことにある。

 

「(とりあえずこれでいい。あとはナインティがどれだけ食らいついていけるか、だな)」

 

【さあ、早くも先頭が代わってメジロマックイーン! メジロマックイーンだ、メジロマックイーンが突き放す!】

 

 メジロマックイーンの表情に余裕はない。その顔からは必死さが滲み出ているようで見ているだけでも苦しい。だがそれでもメジロマックイーンの走りは豪快と言わざるを得ず、一頭を除いて後続を置き去りにしていた。

 

【さあ来たぞ来たぞ! 1番人気のナインティギアが飛んできたぞ!】

「うおおぉおーっ!!」

 

 ナインティギアが後ろから一気に追い抜き先頭に立つ。

 

「よし、いけっ!」

 

 決して創也は油断しない。何故ならいつもナインティギアは肝心な所で失速する。JCでサンデーサイレンスに勝てたのが奇跡と言っていい程にソラを使う悪癖があり、それさえなければ朝日杯、日本ダービー、宝塚記念と言ったGⅠ競走を全て勝利していたし、皐月賞にしても落馬さえなければ圧勝だった。

 

 勝ちを確信した所で必ず何かが起こる。だから創也は絶対に気を抜かないし抜ける余裕もなかった

 

【メジロマックイーン逃げる! メジロマックイーン逃げる! そしてそのすぐ後ろにナインティギア!】

 

 メジロマックイーンとナインティギアの一騎打ちにホワイトストーンもメジロライアンも太刀打ち出来ない。

 

【いやマックイーンが差し返す! マックイーンだ、メジロマックイーンが差し返した!】

 

 メジロマックイーンがオグリキャップと同じ走法に切り替えるとナインティギアを差し返す。

 

「(早仕掛けだと思うか? だとしたら甘いっ!)」

 

 創也がナインティギアの首の振りを利用し、腕を使い更に加速させる。昨年であればこんなことは出来ずむしろ不快に思ったナインティギアが創也を振り落としただろうが、今はそうではない。

 

「(こいつは俺を信じるようになったんだ!!)」

 

 だからこそ創也はこんな無茶な加速をさせてもナインティギアはついてこれる。

 

【何とナインティギアが再加速! ナインティギアかメジロマックイーンか!】

 

「(いってやれ! お前が最強だってな!)」

 

 ナインティギアが更に加速する為にメジロマックイーンと同じ走法を取る。この走法は残り50mでしか使えないが、その分爆発的な加速力を生み出すことが出来る。

 

【ナインティギアだナインティギアだ! ナインティギアが差し切った!】

 

 ──降りろオラァっ! 

 

 ナインティギアの差し切り勝利。誰もがそう思ったが、ナインティギア鞍上の創也とメジロマックイーン鞍上の胤はそうは思っていなかった。

 

 

 

 

 

「どうした創也、そんな浮かない顔をして?」

 

「テキ、すみません。最後の最後で斜行しました」

 

 そう、これまでナインティギアが切り札として取っていた走法はリスクがある。あまりの加速にナインティギアと云えども斜行するなどの欠点がある。それが今回裏目に出てしまった。

 

「じゃあ、今審議になっているのはその事か……」

 

「ええ。ただナインティは勝ったと思いますよ。きっと大丈夫です」

 

「……そうだな。創也、ナインの事頼むぞ」

 

「勿論ですよ」

 

 しかしそんな創也達の願いも届かずナインティギアの斜行が認められ2着に降着し、メジロマックイーンが1着に繰り上がる結果となった。




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尚、次回更新は本日18時です
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