≫たくさんの応募ありがとうございました。応募した中から吟味して登場します。また応募した中で作者が閃き、考えた配合相手の産駒も登場しますのでよろしくお願いいたします
・インブリード
≫5代遡った先祖に同じ馬が存在すること、あるいは存在する馬。インブリードの目的は主にその馬の強みを強く出す為に行われエルコンドルパサーなどは強いインブリードを持っている
≫1代遡る毎に50%、25%、12.5%、6.75%……と血の濃さは薄くなり、その合計がちょうど18.75%だとインブリードの安全基準であり、さらに3代前の先祖と4代前の先祖が同じ場合の18.75%だと奇跡の血量と呼ばれる
≫例を挙げると無敗で欧州三冠を制したラムタラはノーザンダンサーの2×4(2代先の先祖と4代先の先祖)のインブリードを持っている。
・奇跡の血量
≫同一の馬の血が18.75%になりかつ、3×4や4×3であるインブリードの特別な名称。主に英国で第17代ダービー伯の影響で大流行していた
≫奇跡の血量は【フィッツラックの18.75%理論】とも呼ばれ、インブリードの安全基準の一つでもあり、それを超えてしまうと能力を引き出す傾向よりも虚弱体質になってしまう傾向がより強くなり、メリットよりもデメリットが上回る
≫一応3×4や4×3でなくても18.75%であれば奇跡の血量と呼ぶ場合もある。しかし余程その同一馬が大種牡馬だったり意図しない限りはならない
≫日本で広まったのは2つ説があり共にその説は無敗の二冠馬である。その馬はトキノミノルとコダマ。トキノミノルはザテトラークの3×4のインブリードであり、コダマもブランドフォードの4×3のインブリードである。おそらくだがトキノミノルの時に奇跡の血量の概念が広がり、コダマで確証したと言ったところだろうか?
≫近年ではエフフォーリアやデアリングタクトがサンデーサイレンスの奇跡の血量持ちの競走馬として活躍した。
≫因みにノーザンテースト産駒は皆レディアンジェラの4×3のインブリードで18.75%確保しているが、ノーザンテースト自身がレディアンジェラの3×2を持っている為なので奇跡の血量と呼んでいいのかは微妙なところである
春の天皇賞から数週間後、とある繁殖牝馬がサードプレジデントに種付けしに来ていた。
その馬の名前はハギノトップレディ。華麗なる一族と呼ばれる名牝系の馬であり、彼女自身も桜花賞とエリザベス女王杯を制した優れた競走馬だ。
血だけでなく実力で証明した良血馬そのものであり、そんな牝馬をサードプレジデントに種付けしにきたのは至って単純。
サードプレジデントの価値がそれだけ高かったからだ。
サードプレジデントの種付け条件は条件が色々と付与されているがそれを乗り越えれば無料になっている。美亜の方針でサードプレジデントに種付け出来るのは100頭までとなっているが、各牧場に最低一頭以上は種付け出来るように中小牧場には優しい仕様にはなっている。その為どうしても種付けしたいという馬の為に申し込んでも抽選漏れして出来なかったという心配はなかった。
ハギノトップレディを管理している牧場も例外ではなく、抽選に外れることなく無事に種付けが出来ることとなった。その後その産駒はハギノブローと名付けられ、いくつもの重賞を勝つようになる。
そしてもう一頭、サードプレジデントに種付けしてきた牝馬がいる。その馬の名前はキャンペンガール。この馬は華麗なる一族とは異なる名牝系であり、かつて無敗で春の二冠を制したコダマを輩出したシラオキにたどり着き、キャンペンガール自身も後の日本総大将の名称で知られるスペシャルウィークの母となる。
キャンペンガールの管理している牧場がサードプレジデントに種付けした理由はバックパサーの奇跡の血量を狙えるからだ。
奇跡の血量は父親と母親の配合により特定の馬の血の濃さが丁度18.75%になる特殊なインブリードのことを指し、インブリードのメリットとデメリットのバランスが最も優れた配合であるとされている。主に3×4や4×3の配合でその条件を満たすことが多く、無敗で二冠を制したトキノミノルとコダマはそれぞれザテトラークの3×4、ブランドフォードの3×4のインブリードで奇跡の血量を持っている。
つまりトキノミノルやコダマと言ったような名馬が誕生する可能性に賭けてこの配合を考えているのだ。
しかしキャンペンガールを管理している牧場には奇跡の血量の他にももう一つ狙いがあった。それはサードプレジデントの頑丈な身体と気性。奇跡の血量はバランスこそ整っているがインブリードであり、アウトブリードに比べて虚弱体質になったり気性難になったりすることが多い。その欠点を補えるのがサードプレジデントやバックパサーと言った頑丈な身体と穏やかな気性だった。
バックパサーはサードプレジデントに比べたら頑丈という訳ではないが完璧な馬体とその大人しさは業界の中ではあまりにも有名である。
故にキャンペンガールを管理している生産者からすればサードプレジデントとバックパサーの良さが出ればインブリードの欠点などあってないようなものである。
ここでそのキャンペンガールの子供を貰えれば上出来だったのだが、美亜が賭けに勝ってしまい、生産者達は泣く泣く手放すことになり、キャンペンガール自身も一年間の期限付きで月夜牧場で管理されることになる。
さらにもう1頭サードプレジデントの種付け相手にやってきたのはパシフィカスという繁殖牝馬だった。このパシフィカスはビワハヤヒデとナリタブライアンを生み出した名牝であるのだがビワハヤヒデがデビュー前ということもありこの当時は無名の存在だった。しかし20世紀を代表する大種牡馬ノーザンダンサーを父に持ち、牧場からは名馬が生まれるだろうと期待されている。
しかし何故パシフィカスを同じ牧場にいる種牡馬ブライアンズタイムではなくサードプレジデントに種付けしたか?
それは様々な条件下はあれどサードプレジデントの種付けが無料であったことや、ブライアンズタイムはまだ産駒がデビューすらしておらず、未知数という同条件下では競走成績で優れたサードプレジデントの方が魅力的であったことが主な要因だった。
牧場は美亜の賭けに勝利しパシフィカスは無事に牧場に戻りその産駒は牧場の生産者となった。
その一年後、サードプレジデント産駒を見に来ていたアルツ氏がパシフィカス92を1億5000万円という値段であったにも関わらず即座に購入。兄のナリタブライアンですら2500万円前後なのだから相当吹っかけられたはずだがよりによってそのパシフィカス92はフルハートと名付けられ、ケンタッキーダービーを制してしまうのだから世の中何が起こるか分からないものである。
そして時は流れ、日本ダービー当日。
1番人気にトウカイテイオー、2番人気にクラフトボーイが推される中、ダービーは始まった。
無敗で皐月賞を制したトウカイテイオーが父シンボリルドルフと同様に無敗で三冠を制する所を見たい──そう考えるファンは少なくなく、またクラフトボーイは皐月賞以外無敗でありトウカイテイオーさえいなければ皐月賞を制していた馬でもある。ミスターシービーがシンボリルドルフに全て先着を許していたこともあってか、このダービーは父と息子のリベンジレースでもある。
「(封印を解除しておくか、仕方ない)」
クラフトボーイはスピードとスタミナに関しては世界トップクラスのものを持っているが、兄達に比べ身体はそこまで丈夫ではない。その為全力疾走で身体を壊さないように創也が抑える必要がある。しかしクラフトボーイはナインティギアの弟とは思えないほど走りたがり屋であり、走るなと言っても聞かない。一度手綱を緩めればドクターフェイガーのように大逃げ。誰も手がつけられない状態となってしまう。
その上身体が丈夫ではなく、そんな走りをすれば故障することは間違いない。その為創也は必死に抑える必要があった。
だがそれも負けてしまえば意味がない。皐月賞の敗北を振り返り、このダービーに勝つ為にどうすべきかを徹底的に分析した。
その結果として、故障覚悟で最初の800mのみ抑えて残り1600mで一気に飛ばすという作戦を考えた。それならば少しぐらい身体を壊してもまだ間に合うからだ。
【さあここでクラフトボーイが一気に先頭に躍り出て1000mの通過タイムは58.9! 速い! 速すぎるぞ月城!】
800mまで抑えていたと思えないタイムで1000mを通過し、一気に差を広げる。この時各騎手はある3つのレースを思い出す。一昨年の弥生賞、皐月賞、日本ダービーだ。いずれもサードプレジデントがレコードタイムを出したレースで、今回もそれを塗り替えるのではないかと皆感じた。
1200mを通過した時点で後続との差は約25馬身、このまま逃げ切られてしまうと感じた騎手達が鞭を入れペースを上げていく。その中で最も冷静だったのはトウカイテイオー鞍上の休田だ。
この休田は創也や胤のような天才ではないが昨年リーディング上位に食い込み、勢いが最もある騎手である。
そんな彼がトウカイテイオーに騎乗していると何故か冷静になり、常に最善の手を打ち続けられる。
だからこそ彼は無敗の三冠馬の誕生を信じて疑わず、クラフトボーイがどれだけ加速しようがトウカイテイオーのベストを尽くせば勝てると信じていた。
その考えは正しかった。
1600mを越えた辺りから仕掛け、鞭を入れると周りの馬が止まって見える。次々と追い抜き、クラフトボーイまで12馬身差というところまで迫る。
【さあトウカイテイオーが来た、トウカイテイオーだ! クラフトボーイが意地で逃げるかトウカイテイオーが差し切るか!】
東京競馬場の直線は500m以上あり、あまりにも長く、逃げ馬にとっては不利で逆に差し馬にとってはかなりの有利となる。
兄達から受け継がれたスピードとスタミナが売りのクラフトボーイ、類まれなる瞬発力を持つトウカイテイオー。前者は中山競馬場や京都競馬場といった直線が短い競馬場で力を発揮し後者は東京競馬場で力を発揮する。日本ダービーは後者が有利になる舞台であり、それはまさに今のトウカイテイオーの状況を示していた。
「逃げ、切れぇぇぇっ!」
クラフトボーイ鞍上の創也が鬼の形相で叫び、それに呼応するように休田が鞭をさらに入れるとトウカイテイオーが伸びる。
──負けないっ!
──それはこっちのセリフだよ!
トウカイテイオーとクラフトボーイの一騎打ち。お互い譲らず、最後の50mに差し掛かったところでクラフトボーイが僅かに後退する。それは父と同じ末脚を持つトウカイテイオーが一歩先んじた結果だった。
──勝った。
誰もがそう思った。
【おおっと!? トウカイテイオーに故障発生か!?】
しかしトウカイテイオーが失速しふらつき、クラフトボーイが並びかけそのままゴールし、写真判定に持ち越される。
だが休田にとってはそんなことはどうでもいい。トウカイテイオーからすぐに降りてトウカイテイオーの様子を見る。
「テイオー、お前……」
──大丈夫だよ、この程度ならさ
休田が不安そうにトウカイテイオーの足を見るとトウカイテイオーが休田の顔を舐めて落ち着かせる。
その後、トウカイテイオーが骨折したことが判明し秋シーズンを棒に振るうことになる。
それから数分後、トウカイテイオーが1着、クラフトボーイがハナ差の2着という判定が出て創也が落ち込む。
「また、2着か。何回やっても勝てないのは俺に覚悟が足りないからか?」
痛々しい姿のトウカイテイオーと罪悪感に駆られる休田の姿を思い出し、創也は呟く。
「嫌だ、馬を犠牲にして掴む栄光はいらない。俺の身体が犠牲になるならともかく、俺の騎乗ミスで死なせたら二度と立ち直れなくなる」
創也のスランプがここから始まり、しばらくの間どの馬に騎乗しても勝てなくなってしまう。
「──という訳だ、加東。宝塚記念には創也を乗せず君を乗せたい」
そのスランプを間近で見ていた旭川は、ナインティギアの宝塚記念の騎乗を加東に任せようと連絡を取った。
「お断りします」
「なぜだ?」
「宝塚記念は月城騎手は乗れるでしょう? 物理的に乗せられないのならともかく、それをスランプだのといった理由で乗せさせずに私に託すのは不義だからです」
しかし加東は即答で断った。加東は主戦騎手である創也が騎乗出来る状態であるにも関わらずそれを無理矢理抑えて自分に任せようとしていた。少なくとも加東にとってはそれは不義そのもので断る理由としては十分にあった。
「そういうところだぞ他の調教師から嫌われる理由は……まあそういうことなら仕方ない。ナインティギアに乗れる奴はいないから宝塚記念は回避する」
「テキ!?」
「仕方ないだろう、このまま創也に乗らせても負けるのは目に見えるし、加東も加東で乗りたがらない。このまま宝塚記念に行っても勝てる可能性はゼロだ」
その後、ナインティギアはレースを回避し、クラフトボーイと共に放牧に出されることになる。
このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。
尚、次回更新は本日21時です