≫メジロのおばあちゃんことゴットマザーが出てきただけで感想は大歓喜ってどういうことなの……?
≫ウマ娘ではそれらしき人物がいるが、マックイーンが「御婆様」と敬意を示していることや白髪にしては染まりすぎていることから彼女はメジロアサマと推測されている。
・メイズイ
≫シンザンの一世代前の二冠馬。ミスターシービーとは親戚関係にあたり、三冠馬とは何かと縁がある馬。
≫例としてはメイズイが成し遂げなかった三冠をシンザンが翌年制覇。ミスターシービーがメイズイほどではないにせよ無謀な走りで三冠制覇などと、シンザンとミスターシービーはメイズイと結び付けられることが多い
「ナインティ、今回のレースは勝確と言っていい程のレースだがお前次第で変わる。手を抜くにしても程々にしてくれよ?」
──俺を誰だと思っている? 俺とアイツらを一緒にするな
ナインティギアのそっけない返事に創也が苦笑する。
「言っておくが
──なぬっ!?
いつぞやのやり取りを再び繰り返し、創也は既視感を覚える。ただこれでナインティギアがやる気を出してくれるのだから創也自身の方が油断してしまわないか不安になってしまう。
【さあいよいよ秋の天皇賞が始まります。今スタートしました!】
特に出遅れもなく始まった天皇賞秋、大外枠のメジロマックイーンが胤を鞍上にして強引に先行する。
「(おいおい胤先輩、そんなことをしたら……!)」
メジロマックイーンが強引に先団に取り付こうとしたことで斜行し、メイショウビトリアが躓き、ムービースターが進路を失い、プレジデントシチーが危うく転倒しかける事態となる。
「(あーあ、胤先輩やっちまったな。ナインティに影響がないから良かったが影響があったら間違いなくナインティが胤先輩を殺しに行っただろうな……まあ引かずにいた衣田先輩にも責任はあるだろうがね)」
幸いにもナインティギアはそれに影響を受けない場所にいた為に無事だったが一歩間違えれば悲惨な事故となっていただろう。
──そこまでして勝ちに拘るか。上等だ、徹底的に叩き潰してやる
ナインティギアが闘志を燃やし、メジロマックイーンを標的にした。
そしてレースは進み、メジロマックイーンが最後の直線で抜け出した瞬間、それはやってきた。
【ナインティギアが物凄い勢いでやってきたぞ! 黒い弾丸が芦毛の名優を弾く!】
「(は、速いっ! だけどあんな強引に先団に取りついたんだ! このまま負けてたま──)」
胤が次にナインティギアを見た時には尻を拝んでいた。
「(ば、化け物か!? くっそ、俺のマックイーンが最強なんだ! だから負ける訳には──)」
鞭を取り出し、加速させるもその比率はナインティギアには到底及ばない。
【ナインティギアがメジロマックイーンを置き去りにして千切る千切る! もう後続との差は12馬身、13馬身、まだまだ広がる! これはもう勝ちました!】
──見える、見えるぞ、ニンゲン! あの青いのと、あの兄の姿が!
ゾーンに入っていたナインティギアがはしゃぎまくり、創也が何もしていないのに関わらず勝手に捲り勝手に加速。創也はナインティギアの邪魔だけしないように誘導するのに精一杯だった。
──これが俺様だ。よく見ていろ愚民どもめ!
嘶きと共にナインティギアがゴールインする。2位入線のメジロマックイーンとは18馬身差、不良馬場であるにも関わらず1分59秒9というとんでもないタイムでゴールインしていた。
「サードプレジデントでも持ってこないとナインティギアに勝てねえやあれ」
あまりの強さにその場にいた騎手が頭を抱えながらそう呟き、全員が頷いた。
──なあどんな気持ちだ? 図体だけデカくて走行妨害までしたのにあんなに差をつけられて負ける無様なお前の気持ちはどういうもんだ?
──さあな? 俺はただ人間の指示に従っただけ。そもそもレースすらあまりしたくないんだ。
──レースをしたくねえ気持ちはわかるが、どちらにせよ貴様が雑魚である事実は変わらねえ。
──あ?
──心が折れた負け犬君にはわかるまい。俺は貴様らよりも遥かに強い奴らを見てきた。その意志を間近で見ている。そいつらの為にも負ける訳にはいかねえんだよ。わかったら引っ込んでろ
──……なんなんだあいつは?
ナインティギアがメジロマックイーンを煽るだけ煽って立ち去るとメジロマックイーンが唖然とする。
天皇賞秋勝者、ナインティギア。2着には3位入線後繰り上がりでプレクラスニーが入った。メジロマックイーンは18位入線のプレジデントシチーの進路妨害をしたと見なされ18着に降着させられていた。
【ナインティギア圧勝! ポスト・サードプレジデントに偽りなし!】
【ナインティギア18馬身差の1着、メジロマックイーンは18着!】
【ナインティギアの圧勝の裏でメジロマックイーン鞍上胤やらかす!】
そのような記事が飛び交い、胤は世間からは白い目で見られることとなった。
だがこれは胤だけが悪いとは一概に言い切れるものではない。内枠を取った馬がややアウト寄りに走っているのにも原因があるのと、東京競馬場のコースの特性上の問題である。前者はともかく後者の問題は天皇賞秋はスタートしてからすぐにコーナーがあり、外枠の馬がコーナーまでに先団取り付こうとすると否応なしに斜行してしまう。メジロマックイーンも例外ではなく、その犠牲者である。
逆にナインティギアは最内枠を引けたこともあり、メジロマックイーンの斜行に巻き込まれることなく、楽に最後方から様子見することが出来た。もしメジロマックイーンの内隣であった場合、その影響を露骨に受け、切れたナインティギアに胤は追われることになるだろう。
「……」
「胤先輩、どうしたんですか?」
「月城か……お前だけだよ、リーディング上位で話しかけてくれる騎手は」
天皇賞秋の後、胤は騎手から総スカンをくらい村八分の状態となっていた。その為精神的に参っていて調教で馬に乗っても冴えないことが増え始めていた。
「まあ、印象が悪くなるのは当然でしょうね。明らかに胤先輩が悪かったですし。それより、まだ諦めてないんでしょう?」
「ああ、有馬記念までには立ち直れるように努力はしているよ。それに次のレースもあるしな、そこで名誉挽回してみせる」
「次のレース、JCですか」
「ああ。マックイーンに秋天は短すぎた。だけど2400mならまだ勝ち目はある」
「京都大賞典でナインティに負けたのに?」
「うぐっ」
「それでもメジロマックイーンに乗りたいなんて、胤先輩は本当にメジロマックイーンが好きですね。でも、僕はナインティに乗るのが一番いいと思いますけどねぇ」
「……ああ、そうだな。ありがとう、参考になった」
「いえ、それじゃあ失礼します」
少しずつではあるが胤の調子も戻り始めJCになる頃には前の胤と同じ精神状態に追いついていた。
クラフトボーイが単勝オッズ1.5倍の圧倒的な1番人気に支持される。
そしてレースが始まり、先行策をとったクラフトボーイがハナを切り、道中最大で後続から30馬身差をつけ、そのままレースをし続ける。
ここでとある競馬民はある名馬が菊花賞で沈んた例を思い出し思わず「ペース落とせーっ!」「メイズイの二の舞いになりたいのか!」と怒鳴り込むが取り押さえられてしまう。
その名馬とは皐月賞とダービーを逃げ切った栗毛の二冠馬メイズイ。ミスターシービーの曾祖母の弟つまり
それだけに菊花賞でこんな暴走をしたら沈むに決まっている。そう思う競馬民が多数いたのも事実で騒然とし始めた。
また不安げに思う理由に祖父のトウショウボーイが絡んでくる。トウショウボーイは決してステイヤーとは呼べず3200m時代の天皇賞秋で大暴走し、7着に惨敗している
父ミスターシービーの親戚のメイズイや祖父トウショウボーイ、どちらも逃げ馬で長距離で暴走して惨敗している。その2つの要素が絡み合い、観客達は勿論創也を信頼している美亜ですら不安げにしていた。
「(こんなバカペースで潰れるって思っているんだろう?)」
創也が他の騎手を股越しに見て笑う。確かに菊花賞は3000mと長く、このペースだと2000~2400の間ぐらいしか持たない。
「(だけどな、潰れるのは身体の方でバカげたスピードとスタミナを持っているからスピードが落ちることはないんだ。こっちは身体を潰してでも勝ちにいく覚悟が出来ちまったんだ!)」
そして2回目の淀の坂を上り、残り1000mを切る辺りから徐々に失速し始める。しかし、それでもまだ他馬を突き放す程の速さであり、後続の馬たちは必死についていこうとする。
だが、先頭集団を形成する馬たちが苦しくなり始める。
「(やっぱりな、クラフトボーイのハイペースに釣られたんだ。まあ自滅するのは副産物でしかない。クラフトボーイ、自分が最強だってことを示してやれ!)」
鞭を出さずただ押していく。これが最後の直線であり、その頃には既に他の馬は減速。クラフトボーイの独壇場となる。
【クラフトボーイだ、クラフトボーイが圧倒的な大差でゴールイン! 時計は世界レコードの3分2秒7! これは恐ろしいタイムです!】
【いやぁ、これはすごい! 2着にはレオダーバンが入りました。この馬のタイムもかなりの好タイムなんですがねぇ……相手が悪すぎたとしか言いようがないですよ】
レオダーバンのタイムも3分5秒0と凄まじいものであり、このレースは今年のレースの中でも1、2を争うレベルのレースとなった。
そしてその翌日、新聞の見出しはというと
【菊花賞馬クラフトボーイに故障!?】
【無茶な乗り方で壊したか月城騎手!】
【JCや有馬記念を回避! 復帰予定は宝塚記念か?】
などと大きく書かれてしまった。
「故障はしてないっての。ったく、新聞もいい加減なことを書くんじゃねえよ」
クラフトボーイがJCや有馬記念を回避した理由は消耗があまりにも激しかったからだ。クラフトボーイに自由に走らせるとしばらく使い物にならなくなり、4歳での勝負を諦めて古馬になってから天皇賞春を狙うことにしたのだ。
「まあ、仕方ないか。さて、今日も頑張るか」
クラフトボーイが先に放牧されることになり、ナインティギアはクラフトボーイがいなくなったことを認識すると暴君となり各厩舎の馬達を牛耳ったのは余談である。
このお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。
尚、次回更新は本日18時です