【さぁ、早くも残り600mを切りました! 3頭がまだ競い合っている! 3頭のマッチレースとなっています! だがメジロパーマーは遅れたか、メジロパーマー苦しい!】
「(パーマーはGⅠを勝てるだけの実力があるのに……こいつらがいたせいで勝てない。生まれた時代が悪すぎた……!)」
鈍出が懸命に追わせるもメジロパーマーの手応えが悪く、力尽きてしまう。そして徐々に後方の馬群へと飲み込まれていった。
【残り400mを通過しメジロパーマーが先頭争いから脱落し、先頭は未だにクラフトボーイとメジロマックイーン! 後方勢の伸びも足らないか!?】
残り400mを切り、阪神競馬場の最後の直線に差し掛かる。
「(もう負ける訳にはいかないんだ!)」
メジロマックイーン鞍上の胤が気迫と執念でなんとかメジロマックイーンを食い下がらせ、クラフトボーイのスピードに付いていく。
「(絶対に負けないっ! 負けさせてたまるか!!)」
創也の鞭が飛びクラフトボーイが加速し、藻掻く後方を置き去りにするがメジロマックイーンはそれでもまだ食らいつく。
メジロマックイーンはこの歳になりレースが嫌いになっていたが何故かクラフトボーイに負けん気を発揮させている。その理由は唯一つ。
──潰してやる、潰してやるぞ! 人のスケ取った寝取り野郎はぶっ潰すっ!
クラフトボーイに自分の女だと思っていたイクノディクタスを取られたからであり、メジロマックイーンが激昂するのは無理もなかった。
「(いけっ、飛ばせッ! 絶対に先頭を譲るなっ!)」
【クラフトボーイかメジロマックイーンか、メジロマックイーンが抜けたか!? メジロマックイーンだ、メジロマックイーンだ!】
最後の200mでメジロマックイーンが先頭に立つとクラフトボーイが加速し差し返そうとするがメジロマックイーンは寄せ付けず、クビ差のままでゴール板を通過した。
【メジロマックイーンだ、メジロマックイーンやったーっ! 悲願の中距離GⅠ制覇! クラフトボーイもお見事でしたが勝ったのはメジロマックイーン! クラフトボーイにクビ差、3着のイクノディクタスに9馬身差をつけての勝利です!】
大本命クラフトボーイが2番人気とは言え中距離のGⅠ競走一つも勝っていないメジロマックイーンに敗れ、場内からは落胆の声が上がる。しかしメジロマックイーンを称える声も少なくなかったこともあり暴動が起きるようなことはなかった。
「胤先輩、流石ですね。完敗です」
「あはは、ありがとう。でも俺もギリギリだったよ。それにしても、本当にクラフトボーイは強いね。今回のマックイーンは120%の走りを見せたのにそっちは100%の走りしかいてないよ。秋の天皇賞だったら負けていたのはこっちだったかもしれないね」
「ははっ、それは無いですよ。それじゃ、俺はこれで」
「うん、お疲れ様」
胤と別れ、検量室へと向かう創也。
「(くそっ、まさかメジロマックイーンがあれほどまでに力を発揮するなんて……)」
創也が検量室から出ていき、拳を握りしめ、怒りを顕にする。
「(確かにマイル戦や中距離戦でも戦えるだけのスピードはあるが、クラフトボーイに勝てるとは予想外も良いところだよ……)」
メジロマックイーンの強さは長距離における瞬発力と持続力にあるのだが、メジロマックイーンは中距離以下になると途端にパフォーマンスが落ちる。
その理由の一つはメジロマックイーンは中距離やマイル戦においても戦えるだけのスピードを持っていてもその肝心のスピードが他の馬と同じくらいであるからで、相対的に弱体化してしまうというものだ。
故に創也はクラフトボーイの最大の強みであるスピードでゴリ押しすることで勝利するという作戦を取ったが、それが通用しなかった。
「(メジロマックイーンが勝てた理由はテンポイントのような強さがあったからか。親父曰くあの77年の有馬記念で強かったのはテンポイントだが、速かったのはトウショウボーイらしいからな。今回もそれだったということかもな)」
メジロパーマーに煽られた訳でもなければクラフトボーイが弱かったという理由でもなく創也はメジロマックイーンの強さを称え、クラフトボーイを勝たせてやれなかったことを美亜に謝りへ向かった。
その一方
──ザマァ! 見たか栗毛の女! これが俺だ! あのチビよりもずっと強いだろう?
──はいはい、強い強い
メジロマックイーンがイクノディクタスに絡むが肝心のイクノディクタスは塩対応。
──なんでそんなつまらなそうなんだよ!
──あの方との話を遮って自慢話されたら嫌になるもの。お帰りはあちらです。芦毛のお客様お帰りで〜す!
イクノディクタスが横を向きメジロマックイーンにそちらに誘導しようとするがメジロマックイーンは無視し、グルーミングを行おうとするがイクノディクタスが避けた。
──なっ……いくら今認められなくてもいずれ俺のことを認める時が来る。その時を楽しみにしているといい
──大して期待せずにいますよ。私にとって大事なのは貴方ではなくあの方の方だから
──あくまでもあいつの味方をするってことか
──そんなんじゃありません。私は常に平等です。ただ貴方がどうしようもない馬だって思っているのでそれに相応しい対応しているだけです
──覚えていろ! 少なくとも俺は覚えているぞ!
メジロマックイーンが怒りながら立ち去り、イクノディクタスが1人愚痴る。
──全く、どうして口を開けばああも残念なのでしょうか? 口を閉ざせば惹かれていたかもしれないのに……
イクノディクタスは確かにメジロマックイーンの強さに惹かれていた。しかしそれ以上にメジロマックイーンが残念な性格をしていて好感度はプラマイゼロ。むしろマイナス寄りの状態であった。
メジロマックイーンとイクノディクタスのやり取りを見ていたクラフトボーイが近寄り、鼻息を立てるとイクノディクタスの機嫌がいきなり良くなり耳をパタつかせる。
──レース、お疲れ様。君はどうだった?
──見事なまでに惨敗です。せめて姐さんと並び立てるようになりたかったんですが……
──その姐さん呼び止めない? 僕は牡なんだしさ……まあ、僕の場合兄さん達に扱かれたから追いつけないのは無理ないよ
──ナインティギアさんのことですか。確かにあの方に扱かれたなら……
──ナイン兄さんだけじゃないよ。それ以上のサード兄さんがいたからね、僕は強くなれたんだ
クラフトボーイがグルーミングを終えるとイクノディクタスが寂しそうにし、つぶらな瞳で促すとクラフトボーイが再びグルーミングを始める。
──サード……もしかしてサードプレジデントって名前の方ですか?
──よく知っているね。そうだよ、サードプレジデントこそ僕達の兄で、ナイン兄さんもサード兄さんがいるうちはボスじゃなかったんだ
──やはりあの方でしたか……
──でもサード兄さんをよく知っていたね。ナイン兄さんがボスになってからほとんどの馬が忘れていたっていうのに
──忘れませんよ。偶々あの方がボス時代の時に声をかけてもらったんてすから
イクノディクタスがクラフトボーイから離れグルーミングをやめるとクラフトボーイもグルーミングを止めて離れる。
──サード兄さんを覚えている馬もいるんだ。今はナイン兄さんのことばかりだけど、サード兄さんはやっぱり偉大なんだな。僕もしっかりしないとね
クラフトボーイが誓いを立てている一方。
──おらどかんかいコラァ!
馬運車に一足早く乗せられたメジロマックイーンが抵抗し大暴れしていた。これを見た関係者からはナインティギアの気性難が感染ったと苦笑いあるいは頭を抱える者が多数いたそうな。
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