89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・ネアルコ
≫ボワルセルを負かしたイタリア史上最強クラスの競走馬であり、ノーザンダンサー、ナスルーラ、ロイヤルチャージャーと言った現在世界を圧巻している系統の始祖でもある
≫ボワルセルが英ダービー史上最強の勝ち方をしたのは前回の更新で告げたが、ネアルコは調べれば調べるほどヤベー奴だとわかる
≫日本でフジキセキやアグネスタキオンは僅か数戦で伝説となったがそれは相手が決して弱かったからではなく、寧ろ逆でその相手がGⅠウィナーとなるほどに強いからであり、その評価は著しく高く、現在も最強馬候補に名を連ねることもある。少なくともウマ娘アニメ第一期の最終話【WDT】ではフジキセキが、JRAのCM【幻の第11レース】ではアグネスタキオンが名前を連ねていることからもその強さがうかがえる
≫しかしネアルコはそれ以上で、ボワルセルを含めてネアルコ相手に負けた相手が強いなんてレベルではない。ボワルセルを始め伝説を残すほどに強いと言っていいレベルである
≫しかしそのネアルコすらも差し置いて生産者が最強馬と評しているのがカヴァリエレダルピノというリボーの曽祖父にあたる馬でミラノ大賞典など5戦無敗の競走成績を残している。14戦14勝のネアルコに比べると大したことないように思えるが、ネアルコがスピードでゴリ押しするタイプであるのにたいしてカヴァリエレダルピノは全てを兼ね備えていたらしくネアルコの評価が低かったのはそこが要因である。ちなみにセントサイモン→(2代挟む)→カヴァリエレダルピノ→(2代挟む)→リボー→(2代挟む)→アレッジドと3代前のサイアーラインで強く覚醒する傾向があったが、イクイノックスのようにアレッジドの血は母系で活躍する傾向があり、アレッジドの血を通したサイアーラインは滅亡している
≫ネアルコの種牡馬としての功績は前述した通り種牡馬の始祖であるといえる。ノーザンダンサー(ダンジグ系、サドラーズウェルズ系、ニジンスキー系、ストームキャット系……その他一杯)、ナスルーラ(ボールドルーラー系やテスコボーイ系の始祖)、ロイヤルチャージャー(ヘイルトゥリーズン系つまりサンデーサイレンス系やブライアンズタイム系の始祖、他リアルシャダイやスピードシンボリ、シンボリクリスエスの始祖)といった種牡馬達の始祖であり、その大半は大体ネアルコにたどり着き、種牡馬入りした馬も100頭以上でセントサイモンと同じくらいの数である

・アレッジド
≫ネアルコの血を含まない競走馬ということで記載
≫カヴァリエレダルピノやリボーから続くセントサイモン系の名馬。1978年に凱旋門賞連覇を果たし、2014年にトレヴが36年振りに凱旋門賞連覇を果たすまで最後の凱旋門賞連覇馬となっていた。また10戦9勝2着1回と素晴らしい成績の持ち主であり、負けたレースも英セントレジャーでそこまで痛手ではない。関係者の評価も「ニジンスキーに次ぐかそれすらも超越していた」とのこと
≫1970年代後半の競走馬としては珍しくネアルコの血を持たないこともあり人気を集めたがサイアーラインは滅亡している。しかしアグネスデジタルやイクイノックスのようにアレッジドの血を持つ競走馬は少なくなくアレッジドの血を持つ繁殖牝馬が注目されつつある
≫一応ネアルコの記載の部分で、3代毎に覚醒すると記載したが、このアレッジドの父ホイストフラッグは6戦5勝と一度負けているがその敗北も降着によるものであり名馬なのだが、アレッジドと競走成績で比較すると微妙なところで寧ろ彼の場合は母父として有名な所があり、3代毎に覚醒すると記載した

・ニジンスキー
≫ノーザンダンサー産駒の初期の超大物で体格も父に似ず大きかった
≫愛国調教馬でありながら無敗で英国三冠馬になっただけでなくKGⅥ&QESも制し、凱旋門賞で二着に破れたものの凱旋門賞を連覇したアレッジドよりも高い。しかし彼が凱旋門賞を負けたせいで英国三冠──というよりも英セントレジャーに価値がなくなってしまった。それというのも英セントレジャーと凱旋門賞との間のローテーションがキツイのが原因で負けたからだという説が根強く出ているからで、英国三冠を目指すものは少なくなった
≫一応英国三冠自体にはまだ価値は残っているが凱旋門賞を犠牲にしてまで英セントレジャーに出走する価値があるのかと言われれば競馬関係者は首を横に振り、ニジンスキー以来挑戦者は1頭を除いておらずその1頭も英セントレジャーで負けている
≫ノーザンダンサー産駒の種牡馬としてはサドラーズウェルズやダンジグほどではないがかなり成功した部類でマルゼンスキーやラムタラといった名馬を輩出するだけでなく孫世代以降も優秀な馬が多く日本ではスーパークリークやサクラチヨノオー、ヤエノムテキ、ホクトベガ、海外ではブラックキャビア等が活躍し、母系に入ったらもっと多くなりダンスインザダーク等4兄弟、マルゼンスキーを母父に持つスペシャルウィーク、ライスシャワー、ウイニングチケット等多数存在し現在の競走馬の血統に残ることが多い1頭でもある。
≫青き稲妻の物語の主人公ことボルトの祖父でもある

・ミルリーフ
≫ナスルーラの直系の孫にあたり、史上初めて英ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞の欧州三冠を制した名馬。14戦12勝2着2回と素晴らしい成績を残しており、なんと同じ競馬場で3回以上レースしたことがないという超オールマイティな名馬。
≫三冠馬が生まれる世代は弱いと良く言われるが何故か欧州三冠馬が生まれる世代はそんなことはなく、非常にレベルが高い。史上最高クラスの2歳レーティングのマイスワロー、そしてリボーやダンシングブレーヴを上回るタイムレーティング144のブリガディアジェラードがおり低レベルではないことが伺える。尚ラムタラの時も「世代が違えばいずれの有力馬もチャンピオンホース」とまで評されているほどに世代の評価は高い傾向にあった
≫種牡馬としては大成功で子孫にミホノブルボンやイナリワンなどがおりいつぞやに解説したエルプスもミルリーフ系の1頭である。しかし現在は衰退気味で子孫を残せるか怪しいものがある。まあブリガディアジェラードに比べればまだ救いはある

・ブリガディアジェラード
≫ミルリーフに着いて触れたので記載。ミルリーフと同世代で英国史上に残る最強馬。競走成績はミルリーフやロベルトよりも高かったにも関わらず、日本ではその2頭より知られていない。多分知っているのは海外競馬に詳しい方くらいで、私ですらそこまで詳しく知っている訳では無い
≫競走馬としては18戦17勝2着1回15連勝という素晴らしいの一言。3歳時にタイムレーティング141、古馬としては最高値のタイムレーティング144を与えられており本馬とミルリーフを除けばフランケルしかいないことから本馬も相当なハイレベルな競走馬であると伺え、それはレーススタイルでも現れていて脚質が逃げや先行なのに追込馬並の末脚で走っており、重馬場が苦手であったにも関わらず重馬場だろうがお構いなしに能力差で他馬をねじ伏せていることから、その能力の高さがわかる
≫種牡馬としての生活も期待されていたが失敗に終わった。それが理由で日本で本馬があまり知られていないのもあるが一応本馬の血を継いでいる馬にロリコンことウォーエンブレムやグランドスラムを達成したアメリカンファラオがいるがそれでも影が薄い。

・ロベルト
≫ブリガディアジェラードについて触れたので記載
≫父ヘイルトゥリーズン、母はCCAオークス馬ブラマリー、母父ナシュアとかなりの良血馬でブリガディアジェラードに唯一黒星をつけた馬。競走成績の彼の1番の功績はそれなので他は省略する
≫彼の強さは種牡馬としてからで現代日本においての非サンデーサイレンス系で最も繁栄しているのはこのロベルト系の馬でライスシャワー、グラスワンダー、シンボリクリスエス、タニノギムレットなどの直系祖先がロベルトにあたる

・キンチェム
≫54戦54勝の生涯無敗記録保持者にして競馬後進国のハンガリー出身のアタオカ。戦績を聞いて首を傾げたならその反応は正しくこのキンチェムという馬は54戦もしておいて無敗。勿論世界記録である。日本でも昔ならトラツクオーや地方の馬ならそれ以上に走っている競走馬がいるがそこまで連勝出来るかと言われればおらずせいぜい29連勝で止まり、米国でも21連勝が最大であるから如何におかしいかわかるだろう。連勝記録そのものはカマレロの56連勝に塗り替えられているがそれでも2位であり、生涯無敗記録は未だにキンチェムでしかも大レースに出ていての記録である。
≫それでは子孫が活躍していないかと言われればそんなことはなくファミリーラインに限定しても近代において重賞を勝っている馬が存在している

・サンエイサンキュー
≫サンエイサンキューの馬主がニシノフラワーの馬主に対抗心を持ったあまりに酷使されまくった悲劇の競走馬。一応札幌記念なども勝ち、もっと大事に使っていればエアグルーヴよりも先に牝馬による秋天制覇も夢ではなかったかもしれないと思わせる素質の持ち主だった。
≫ロックされることを覚悟して記載するがこの馬主は育成牧場などの競馬ビジネスや92年の有馬記念で故障した後は治療を促していて少しは馬に対する愛情があるのかと思いきやそんなことはなく、その理由が「金になるから」という馬の気遣いが微塵も感じられないものであり、サンエイサンキューが治る見込みが微塵もないとわかっていたらアッサリと見捨てていたかもしれない
≫また酷使されまくったせいで見るからに体調不良となった時に、思わず騎手が「これで2着以上になったら(サンエイサンキューに敬意を表して)坊主になるしかない」と発言したら八百長疑惑を持たれた所謂サンエイサンキュー事件も発生しており、あたかも八百長疑惑のように書いた記者は又聞きしただけで本人の発言を聞いておらずしかも同社の記者から批判されまくっているのに退職すらせずずっと居続けている。この時代の記者らしいといえばらしい……
≫この小説では加東が史実モチーフにした方よりも騎乗技術が上なこともあり延命に成功している


第65話

 我々記者達は愚か者が愚かなことをしたこともあり競馬関係者から白い目で見られている。それは周知の事実であり、そんなことはわかっていた上で我々は取材をしているのだが、それでも競馬関係者からの対応が塩対応に過ぎる。

 

 だが我々は例え塩対応であっても挫けることはあってはならない。しかしそれで傲慢な態度で信頼を失ってはならない。「取材してやるから感謝しろ!」などという傲慢な記者達の常識が通じた昭和と違って平成の世は記者達が「取材させてくださいお願いいたします」と謙る時代になっている。逮捕されたアホ──もとい愚か者はそういった柔軟な思考が出来ずに捕まったのだ。それを見て学習しない輩も多くいるが我々は違う。信頼を勝ち取る為に謙ろうが我々がやるべきは競馬ファンの求める記事を書くことなのだから。

 

 そんな誠意を見せてきたおかげか、取材対象であるサードプレジデントの関係者、月城騎手と旭川調教師にアポが取れた。

 

 

 

「旭川先生、おはようございます。本日はお時間頂きありがとうございます」

 

 私が旭川調教師にそう挨拶すると旭川調教師が椅子に座るように誘導してきて、私も着席する。

 

「早速ですが、今日は宜しくお願い致します。まずは質問なのですが、サードプレジデントの評価についてお伺いしたいのですが、先生から見てどう思われますか?」

 

 私は事前に用意してきた原稿を渡さずにそのままの質問をぶつけた。これはあくまで事前情報なしでの取材であるからだ。

 

「一言でいうなら史上最強。日本に限らず世界の全ての競走馬の中で史上最強と言っていいよ」

 

「そこまでの評価ですか?」

 

 確かにレーティングとタイムレーティングは世界最高のそれであるが、歴史上最強かと言われるとはたまた疑問に思える。

 

 唯一抜きん出て並ぶものなしのエクリプス、54戦無敗のキンチェム、気性難と暴走の始祖セントサイモン、史上初の無敗の英国三冠馬オーモンド、仏国史上最強と名高いグラディアトゥール、伊国史上最強にして現在のサラブレッドの半分近くのサイアーラインの始祖ネアルコ、後続に100馬身差をつけたマンノウォー、ベルモントSで伝説的な着差を生み出したセクレタリアト……他にもいるだろうが有名所でサードプレジデントに敵うとすれば彼らしかいないだろう。

 

「少なくとも全盛期のサードプレジデントに敵う馬はそれこそ米国史上最強馬と名高いセクレタリアトとサードの現役時代のライバルのサンデーサイレンス、あとは今自分が管理しているナインティギアじゃないかな? ナインティギア以外はダートという前提条件はつくし、ナインティギアも創也──月城騎手が乗ってかつ体調が万全という前提条件があるがね」

 

「あのシンザンやシンボリルドルフよりも上だと?」

 

「シンザンやシンボリルドルフも強いけど、サードプレジデントは全てにおいて上回っている。はっきり言ってあの馬には勝てる気がしないよ。シンザンやシンボリルドルフに脳を焼かれた人間でも同じ評価をすると思うよ」

 

 私の想像を絶するような評価であった。連対率100%でGⅠ級相当レースでは無敗のシンザン、無敗で三冠馬となったシンボリルドルフがまるで敵わないという評価だ。

 

「まあ強いてシンザンやシンボリルドルフにハンデを与えるなら良馬場で時計が出やすい競馬場で走らせることだね」

 

「それはまたどうしてですか?」

 

「サードプレジデントは重馬場がかなり得意な馬なんだ。良馬場とほぼ変わらないタイムで走れてしまうからシンザンやシンボリルドルフが勝つのは厳しくなってしまう。だから時計の出やすい良馬場でしか他の馬に勝ち目はないんだ」

 

「なるほど……」

 

「まあ良馬場だったとしても勝ち目は薄いのはわかり切っていることだし、脚質的にも現役時代に天敵といえるサンデーサイレンスに勝ちこしている上に一度だけ引き分けているからシンザンやシンボリルドルフが勝つのは無理といえる。シンザンやシンボリルドルフも決して弱い訳ではないのは百も承知なんだが……」

 

 旭川調教師がそう言葉を濁すくらいにはサードプレジデントが強いというのはわかる。しかしここで疑問に思ったことがある。

 

「サンデーサイレンスが天敵?」

 

「サンデーサイレンスとは相性が最悪も最悪。通常のハイペースがマイペースで走れるほどの逃げ足、しかも末脚もある上に勝負根性もある。創也だからこそなんとか負けることを避けれたが、仕掛け所を一つ間違えればまんまと逃げ切られただろう。勝てたのはサードプレジデントだけじゃなく創也の力も大きい。もしも他の騎手に任せていたらサンデーサイレンスが最強馬として名を馳せていたかもしれない」

 

「それほどまでに強いのですか……」

 

「まあそんな創也でも仕掛けをミスしたことが二度もあったが、それは全てナインティギアのレースでその事を責める気もない。何故なら私を含めても納得のいく理由だからね」

 

「その理由とは?」

 

「その前に一度クッションを置こう。菊花賞と一度目の春天を見てわかると思うが創也はその場面で早仕掛けをしている。それが原因で負けたと思っていた」

 

「違うのですか?」

 

「実際には遅すぎた。淀の坂の鉄則とは逆のことをするべきだった」

 

 淀の坂の鉄則、坂をゆっくり上りゆっくり下る。それが京都競馬場の攻略法であり、競馬関係者なら口酸っぱく言い続けるほどには守るべき鉄則だ。それとは真逆のことをしなければならないとは一体どういうことなんだろうか? サードプレジデントの話から逸れるがそれはそれで聞いておきたい。

 

「ナインティギアは兄のサードプレジデントほどではないにせよスタミナが豊富で、それが出来るだけの実力を持っていた。サードプレジデントのタイムを超えることが出来たし、もしかしたらサードプレジデントの時にそれをやっていたら春天のレコードは未だにサードプレジデントのままだったかもしれない」

 

「では何故それをしなかったんですか?」

 

「そこら辺は創也に聞いて欲しい。本人の口から聞けばより信憑性は増すはずだ。しかし私の憶測でしかないが天才騎手月城創也もまだ若かったということだ」

 

 ──それを見抜けなかった私達はもっと間抜けだがな

 

 そう自傷気味に苦笑する旭川調教師。これだけ聞くとサードプレジデントよりも月城騎手の才能の方が目立ってしまい、話が逸れてしまう。確かにこういうネタはあるに越したことはないが、今はサードプレジデントの取材だ。

 

「では旭川先生、サードプレジデントの1番の魅力は何でしょうか?」

 

「そうだな、気性といった内面的な能力、身体能力や柔軟性といった外面的な能力、そして創也と出会えた豪運といった不確定要素を味方につける能力……全て持っていたことだ」

 

「つまりどういうことですか?」

 

「日本のクラシック三冠はそれぞれ最もはやく、最も運が良く、最も強い馬が勝つと言われている。サードプレジデントはそれを体現した馬だということだよ」

 

「……確かに」

 

「ただこれはあくまで自分の考えであって必ずしも正しいとは限らない。人によってはシルキーサリヴァンを彷彿とさせる末脚と答えるものもいるし、バックパサーから受け継がれた勝負根性と答える者もいるし、セクレタリアトから受け継がれたスタミナと答える者もいる。様々な意見があるだろうが、私が思うにサードプレジデントは全ての答えを持っている馬だと思う」

 

「全ての答え……ですか……」

 

「ああ、だから1番の魅力はと言われても答えられるものじゃない。どれか一つでも欠けていたらサードプレジデントではないんだ」

 

 旭川調教師の言う通りかもしれない。圧倒的なスピードがありながらも、強さを併せ持つ一方で優れた賢さを持つ。これ程までにバランスの取れた馬などいるはずがない。

 

「まあ、こんなところかな。何か質問はあるかい?」

 

 旭川調教師の意見は聞けた。そうなると気になるのは月城騎手の意見だ。だがここで焦って終わらせるほど愚かでもない。そこでサードプレジデントと質問とは関係なさそうでも意外と関係のある質問をする。

 

「サードプレジデントの相棒である月城騎手についてどう思われますか?」

 

「そうだね、一言で言うなら怪物だね」

 

「怪物? 天才ではなく?」

 

「そう、怪物だ。馬を見る目も、乗り方も、指示の出し方も、全てが完璧。勝てなかったとしてもかなり順位を上げてくれるし、オマケに故障率も他の騎手を乗せた時よりも低いから我々調教師からすればもう妖精のような存在だ。何故独立しないのかが不可解なくらいだ」

 

 確かにそこまで優秀なら疑問に思う。我々記者の間でも何故月城騎手はフリーにならないのか首を傾げていたほどだ。

 

「先程旭川先生は月城騎手のことを怪物と仰られましたが今度は妖精と仰られていますがどういうことなんですか?」

 

「それは騎手としての評価をすれば怪物というだけで調教師という立場から見れば妖精のような有り難い存在だ。ただし妖精というのは気まぐれであり、機嫌を損ねたりしたら二度と恩恵を受けなくなる。だから創也の場合は馬の為に尽くす人格だから馬を思いやることで創也を味方につける事ができるということだ」

 

「なるほど、サードプレジデントが月城騎手を信頼していたのは月城騎手が馬を思いやる性格だとサードプレジデントがわかっていたからなんですね」

 

 先程の言葉とはかすりもしないが無理やり纏めるしかない。どうか察して欲しい。

 

「まあそういうことで。サードプレジデントと創也の絆が深かったのはこういう理由がある」

 

「それでは旭川先生、この辺で失礼します。本日は取材に答えて頂きありがとうございました」

 

 旭川調教師の取材が終わったら次は月城騎手か。

 

 

 

 サードプレジデントと月城騎手のいる月夜牧場の育成牧場へ飛行機を使い向かうとそこには現役馬と並ぶサードプレジデントとそれに跨がる月城騎手を見かける。

 

「嘘だろう……何でサードプレジデントがあの馬と併走出来るんだ!?」

 

 思わずそう呟くのには理由がありその現役馬とはナインティギア、秋古馬三冠を2度も制し、今年の春天も制した現役最強馬であり、現地で調整しているかと思えばまさかこんなところでしているとは……これはナインティギアが衰えたと見るべきなのかサードプレジデントが凄いのかわからない。この時点でここに来た甲斐があったものだ。

 

 

 

「サードプレジデントの評価をして欲しい?」

 

 サードプレジデントを引き連れた月城騎手がそう私に尋ねる。

 

「ええ、月城騎手から見てサードプレジデントとは一体どういう馬なのか教えて頂きたいのです」

 

「一言でいうなら相棒。こんな馬は二度と現れることはないでしょうね」

 

 月城騎手がサードプレジデントを撫でるとリラックスした顔になり思わず私も顔が緩む。なんて愛嬌のある馬なのだろうか。

 

「触ります?」

 

「え? よろしいのですか?」

 

「ええ。サードプレジデントに触りたいのでしょう?」

 

 ここで私は迷った。今の私は消毒こそ済ませているがそれだけで十分なのか? そう思わざるを得ないくらいには色々なものを触っておりサードプレジデントに害をなすような雑菌がついていると自覚している。しかし触りたい、触ってサードプレジデントを撫でてあげたい。

 

「わぷっ!?」

 

 そう思っているとサードプレジデントが私の顔を舐め始め尻もちをついてしまう。

 

「こらっ、止めっ、ゔぇっ!」

 

 人懐っこい馬で知られるのはクラフトボーイと聞いていたがまさかサードプレジデントもそうだとは……

 

「ははっ、サードプレジデントに気に入られましたね。サードプレジデントに懐かれる人間はいくらでもいますがここまで気に入られる方も中々いませんよ。サードプレジデントは人が善人か悪人か見破る能力を持っていますから、それだけ貴方が信頼に足る人物だということもわかりましたし、中に入りましょう」

 

 私はサードプレジデントに善人として認められたのか? まあ特にサードプレジデントに悪いことを企んでいる訳でもないし、間違いではない。何はともあれサードプレジデントに気に入られたのは有り難い。後で身体を綺麗にしたら撫でよう。

 

 そんなこんなでサードプレジデントとナインティギアを馬房にいれた月城騎手がソファに座り、私も対面する形で座る。

 

「それでサードプレジデントの評価はどうするんですか?」

 

「はい、それにつきましては月城騎手の目から見た評価を教えて欲しいです」

 

「自分目線ですか……」

 

 月城騎手は少し考える素振りを見せながら紅茶を飲む。

 

「まあ先程も仰った通り2度と現れることのない馬。全戦全勝全てレコード勝利、超重馬場でも関係なく良馬場を上回るレコードを更新しています。弥生賞や皐月賞、日本ダービーの記録はこれから塗り替えられることはあってもそれはあくまで良馬場でしか塗り替えることが出来ないでしょうね。サードプレジデントはどんな馬場でも適応し、走ることが出来ますから。現に芝とダートの両レースを世界レコードで勝ったのはサードプレジデントの前がヌーアくらいな訳ですからね。自分が知らないだけで他にもいるでしょうが、そのくらい遡らなければならないほどに偉業なんですよ。芝とダートでレコードをつくるというのは」

 

 後で調べて発覚したがヌーアは芝でレコードを出したことはなく、芝でもレコードで出してしまうくらいの快速馬だったという話しが芝でレコードを出したと誤って日本に伝わったのだろうとわかる。もちろんこの部分は後で編集で誤魔化しておこう。日本が誇る天才騎手が馬のことを正確に知らないのは問題あるし。

 

「つまり月城騎手からしてサードプレジデントの強みは万能性だと?」

 

「主な強みはそうですね。なんなら競泳でも世界トップクラスですし」

 

「競泳ってもしかして、泳ぐことも出来るんですか!?」

 

 サードプレジデントのプール好きは知っている。しかしこういう風に驚いたように言わないと記事にならないからだ。自分が無知と思われようとも記事になるならそれでいい。

 

「サードプレジデントに限らず馬は走るだけじゃなく泳ぐことも出来ますよ。サードプレジデントは特に泳ぐのが得意で普通にプールを使っていたんじゃ練習にならないこともあってこの育成牧場の流れるプールを使っていました。またサードプレジデントがプールが大好きなこともあって厩舎にいた時はプールを独占することもありましたよ」

 

「そんなにプールが好きなんですか……」

 

「ええ。一度入ったら満足するまで出ませんよ」

 

 

 

 さてこの辺でもう一度聞いておこう。

 

「話を戻しまして、月城騎手はサードプレジデントの強さは万能性にあるってことですね」

 

「まあそういうことですね。しかしながらそれだけではなく追込を得意としていましたが逃げも出来る自在脚質、スピードやスタミナなどの圧倒的なフィジカル、そして健康面や精神力といった内面的な能力……全て兼ね備えているのがあのサードプレジデントです」

 

 旭川調教師と違うのは万能性を強調しているだけでほとんどが似ている。やはりサードプレジデントという馬はどこまでも全てを兼ね備えているというのが最大の強みなのだろう。

 

「しかし月城騎手。もし仮にですが、月城騎手がもう一人いてサードプレジデントに乗っていたら月城騎手は誰に乗ったらそのサードプレジデントに勝てると思いますか?」

 

「自分が乗った馬に限らないならサンデーサイレンスですかね。ただしサンデーサイレンスに最低でも一ヶ月付き添う必要がありますが」

 

「それは一体何故ですか?」

 

「若い頃のナインティギア以上の気性難だからですよ。乗ったりするのはナインティギアよりかは簡単ですが問題は斜行したりレース中の問題解決をする為の最低限の時間が一ヶ月というだけで、それで初めて勝算が生まれます」

 

「じゃあ確実に勝つとしたらどのくらいの時間が必要ですか?」

 

「いくらあっても足りないですね。半々に持ち込むとしたら半年くらいは必要ですが」

 

 私は猛省する。かつてシンボリルドルフ関係者である男はこう告げた。

 

 ──競馬に絶対という言葉は存在しない。しかしシンボリルドルフには絶対がある

 

 それだけその男がシンボリルドルフに信頼を寄せていたのは周知の事実である。

 

 月城騎手もその男がシンボリルドルフに信頼を寄せていたようにサードプレジデントに信頼を寄せている。その為月城騎手の前でサードプレジデントに確実に勝てる馬を聞くというのは無礼そのものでしかない。

 

「このような質問に丁寧に答えて頂きまして本当にありがとうございます。月城騎手」

 

「構いませんよ。自分は事実を告げているだけですからね」

 

「それでも感謝します。次の取材では必ずや良い記事にしてみせましょう」

 

 そう言いながら私は立ち上がる。まだインタビューは残っているし、月城騎手も忙しい身だ。これ以上の長居は無用。

 

 最後に私は月城騎手に握手を求め、それに快く応じてくれた。

 

 そして私はサードプレジデントを撫で回した後別れを告げ、サードプレジデントの隣りにいたサンデーサイレンスの故郷である米国へと向かった。

 

 

 

「サードプレジデントの魅力? それはもちろん私の脳みそを焼き尽くした破壊力のあるレースさ」

 

 私が次に訪ねたのはサンデーサイレンスの馬主だったアルツ氏だ。このアルツ氏はサンデーサイレンスの馬主であるとともにサードプレジデントの大ファンでありその認知度は余りにも高い。

 

「アルツさん。あなたはサードプレジデントのどの辺りが魅力だと考えますか?」

 

「そりゃあやっぱりあの破壊力抜群のレースさ。アレを見れば誰だって魅了されるに決まっている。ああいうレースを何度も見れるのならいくら払っても構わないくらいだよ。実際私の牧場に2年に1年置きのリースをする為にこちらに滞在する1年につき10億円という多大な額を支払っているんだから」

 

 流石米国人、考えることが違う。1年のリースで10億も支払うなんて誰が出来るんだろうか。だが割りと理に叶っている。

 

 サードプレジデントを種牡馬として購入するなら50億円は下らず、下手したら100億円にもなるだろう。しかしこのリースなら14歳までなら50億円、24歳まで種付けしたとしても100億円使うことになるが現実的に考えてそこまで種付け出来るかと言われたら難しい。その理由についてはサードプレジデントの血統にある。

 

 サードプレジデントの父セクレタリアトは19歳、父父ボールドルーラーは17歳、父父父ナスルーラは19歳、父父父父ネアルコは22歳とネアルコを除き20歳以下で亡くなっているサイアーラインであり、母系の血を辿ると母父バックパサーが12歳、母母父シルキーサリヴァンで22歳、母母母父の馬が25歳。4代遡って1番長生きしている牡馬ですら平均寿命であり、とてつもなく短命な血筋であると考察される。尤も事故だったり、種付けのし過ぎだったりと様々な要素はあるだろうがそれを抜きにしても短命と言えてしまう。

 

 そんな短命な血筋の下で生まれてきたサードプレジデントが長寿な訳がない。長く生きたとしても22歳くらいで90億円になるが、果たしてサードプレジデント産駒はそこまで活躍出来るのかと言われたら否だろうし、活躍出来たとしても老いたサードプレジデントの種に10億円出す価値はあるのかと言われると否定的な意見しかない。あのセントサイモンとて自身の産駒のパーシモンにリーディングサイアーを奪われて以降はリーディングサイアーに輝くことはなくなってしまった。それでもリーディング上位にいたのはセントサイモンが大種牡馬たる所以だろうが。

 

 つまりある程度の期間はサードプレジデントに頼るが暫くしたら自国のサードプレジデント産駒か他の種牡馬に投資した方が余程合理的というものだ。アルツ氏はそこまで見越しているに違いない。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

「ではサードプレジデントのファンになった瞬間はどのレースからですか?」

 

「サードプレジデントを最初に見た時、つまりトラヴァースSだね。あの時は敵情視察でイージーゴアを見に来ていたんだけど……いやぁあれは凄かったよ。何せこのレースに勝ったのは他でもないサードプレジデントなんだからね。しかも鞍上は当時新人の月城騎手。正直なところあのレースを見て私の中で何かが変わったような気がしたよ」

 

「それほどまでに衝撃的だったということですね」

 

「それからさ、私がサードプレジデントの追っかけになったのは。それまでのレースの映像を購入して狂ったように見出して、サンデーサイレンスが出ないかつサードプレジデントの出るレースの応援にもこっそりと行った。その時の馬券も取っているし、私が所要でサードプレジデントのレースを見れない時は動画を見ていたものだ」

 

 想像以上の追っかけだ。これほどまでになるとは予想外であったが、ここまで追い求めるファンがいるということはそれだけ素晴らしい馬だったということだ。

 

「ではサードプレジデントを超える馬が現れた場合どんな馬だと思いますか?」

 

「サンデーサイレンスの子孫かつサードプレジデントの子孫だろう」

 

 サードプレジデント産駒はかなり馬体が良いからわかるとしてもサンデーサイレンス産駒はそれほど評判はよくない。まあ母系に入って活躍するという意味なのだろう。

 

 そう思っていたが数年後サンデーサイレンス産駒が大活躍し、サードプレジデントの血は母系に入ってから活躍する馬が多くなることはこの時の私には知る由もない。

 

「それはなんとも……」

 

「サンデーサイレンス自身ほどではないにせよサンデーサイレンス産駒は動きの良い馬ばかりで瞬発力に秀ている。サードプレジデント産駒の競走馬と交わることで力を発揮することになる」

 

 そしてこの予言も当たり、とあるサンデーサイレンス産駒とセカンドサルサビルとの間に産まれた産駒が競走馬として、そして種牡馬として大活躍することになる。ここまで予言出来るアルツ氏は本当に何者なんだろうかと疑問に思うことになる。

 

 

 

 それからアルツ氏の取材を終え、次に取材したのはイージーゴアと晩年のサンデーサイレンスの主戦騎手であるD.P騎手に取材する。

 

「サードプレジデント? ああ、忌々しい宿敵だよ」

 

 当初苦虫を噛み潰したように顔が歪む。当たり前と言えば当たり前なんだろう。彼からすれば米国が誇る最高傑作の2頭に騎乗しておいて何度も負かされた上に最後まで勝つことは出来なかったんだから。

 

「だけど、皮肉なことに彼がいなければサンデーサイレンスはあそこまで活躍することはなかっただろうし、自分も乗ることはなかった。その点は感謝している」

 

 そう答える彼の姿はどこか満足していたかのようだった。

 

 

 

 米国での取材を終え今度はドバイと欧州へと向かった。

 

 流石にサルサビルのオーナーであるアラブの財務大臣本人に話を聞くことは出来なかったが手紙を貰う事ができた。その内容は一言でいうならこうだった。

 

「サードプレジデントは馬体、気性、レーススタイル、どれをとっても完璧であり、後10年ほど早く我々が馬主業に手を付けていたら間違いなく購入しただろう」

 

 月城騎手のことも記載しているが長ったらしく説明しているのでそれを省かせて貰った。勿論月城騎手の項目を載せる際は月城騎手のことも記載するが、今回は省略する。

 

 次の取材場所は欧州。日本や米国でも高い評価を得ていたサードプレジデントだがKGⅥ&QESは英国の大レースでありその舞台で40馬身差というものすごい大差で勝利した上に、ダンシングブレーヴ以来KGⅥ&QESと凱旋門賞を同年で勝ったということもありサードプレジデントに対する欧州の競馬関係者の評価は非常に高く、史上最強とまでレベルが高い。

 

 だが史上最強級であるのか本当に史上最強であるのか、私は気になる。つまり、史上最強級と呼ばれた歴代の競走馬と全盛期の状態でレースをすると仮定してサードプレジデントは何番人気になると思うのかということである。

 

 そこで私が厳選した欧州のGⅠ競走で勝鞍がありその中でも最強級と名高い歴代の競走馬達とサードプレジデントがKGⅥ&QESや凱旋門賞の舞台でレースをすると仮定して誰に支持するか競馬関係者達に聞いてみた。

 

 

 

「やっぱサードプレジデントかな。確かに他の馬も強いけど、サードプレジデントの強さは飛び抜けているよ」

 

 欧州の競馬関係者に尋ねた結果、サードプレジデントが勝つと予測した人間が多数でその中には欧州でGⅠ勝鞍のないサンデーサイレンスを入れろと言う声もあったほどにはサードプレジデントが支持されていた。

 

 しかし絶対にサードプレジデントを支持していたかと言われるとそうではなくシーバード、リボー、ダンシングブレーヴ、ニジンスキー、ミルリーフ、ネアルコ、キンチェム、セントサイモン、オーモンド、エクリプス……とにかく疎らに支持する意見があった。

 

 だがそれでもサードプレジデントを支持する声が最多となり、支持した理由は近年の馬だからというのもあるが、やはりKGⅥ&QESでの圧勝──特に仏ダービー等数多くのレースを制したオールドヴィックを競り潰したのが印象的だろう。

 

 オールドヴィックの逃げ足はかなりのものであり仏ダービーでは2着に7馬身差、3着に15馬身差をつける圧勝、愛ダービーでもゴルフボール2個分の腫れ物が出来ていたにも関わらず4馬身差で圧勝。例え相手が競りかけようがお構いなしに競り潰してしまう。それがオールドヴィックという馬だった。しかしその戦法を奪うようにサードプレジデントが逃げ、それを追いかけようとするがオールドヴィックはベルモントSでセクレタリアトに競り潰しされたシャムのように後退し、惨敗している。それだけサードプレジデントのスタミナが異常であり最も評価されている部分だろう。何せスピードを求めるようになったとはいえ未だにスタミナのある馬が評価されている。何故ならKGⅥ&QESや凱旋門賞といったビッグレースは2400mと長く、それらのレースを勝つにはスタミナも求められるからだ。

 

 そんな予想をしながら記者達に問い合わせてみると意外にもそうではなかった。

 

 

 

「父セクレタリアトから受け継がれたスタミナもそうだがやはりスピードやパワー、芝ダート馬場問わない万能さ、母父の気性、そしてサードプレジデントを制御出来る鞍上と上積みまで鍛え上げた調教師、競走馬として大成するのに必要な全ての要素を極めているのが1番のサードプレジデントの強みである」

 

 日本や米国の競馬関係者と同じく一つの要素を評価していたが、それ以上に、並外れた身体能力、競走馬として必要な熱血と冷静さといった気性、超一流の騎手による騎乗技術、そして父セクレタリアト母父バックパサーというサラブレッドとして最高の血統、レースセンス、更には調教師の腕までも含めた総合力が最大の武器だと答えた。

 

 

 

 そしてサードプレジデントを支持した彼らはこう答えた。

 

「もし仮に全盛期のシーバードやダンシングブレーヴがサードプレジデントにレースをしたとしてもサードプレジデントは10回行って9回は圧勝し、残り1回は僅差になるだろう」

 

 また他の馬を支持した関係者はこう答えた。

 

「このレースをしたならサードプレジデントは必ず上位に食い込んでくるだろう」

 

 そして私は確信する。サードプレジデントは間違いなく史上最高の名馬であり、今後どんな名馬が現れようとも決して超えることの出来ない、最強の馬なのだと。例えサードプレジデントのレコードを更新したとしても、ナインティギアやクラフトボーイがそれを証明している。

 

 

 

 

 

 一週間後、記事を纏め終え提出した私は早々に編集長に呼び出された。

 

「おいお前何勝手にあんなことやってんだよ!」

 

「え?」

 

 開口一番怒鳴りつけられてしまった。一体何を怒ってるんだろうこの人? 

 

「何ってそりゃあサードプレジデントの特集だよ!」

 

「ああ……」

 

 なんとなく察してしまった。サードプレジデント陣営とマスコミは犬猿の仲で、記者達はサードプレジデントの取材が出来ない。それにも関わらずサードプレジデント特集などという記事を提出すれば怒られるのも無理はない。

 

「なんで俺が事前に止めなかったと思ってんだ! 俺はなあ、あいつらの機嫌損ねたくねえから止めたのによぉ……お前が調子乗るせいでこれじゃあ俺がクビになりかねないんだぞ!?」

 

 実際にはそんなことは思っていないだろうこのボケカス編集長。サードプレジデント特集なんて記事を書いたことに対して嫉妬しているに違いない。

 

「まあまあ落ち着いてくださいよ」

 

「これが落ち着けるかぁ!」

 

 宥めようと思ったのだが逆効果だったようだ。

 

「何故ナインティギアがいたのにそっちの写真がこんな小さいのしかないんだ!」

 

「あ、そっちですか」

 

 確かにナインティギアとサードプレジデントが併走している写真しかないし、なんならナインティギアに関しては取材すらしてない。

 

「全く本当に使えねえな!」

 

 そのナインティギアを見つけることすら出来ないお前に言われたくない。

 

「それでどうしろと?」

 

 もうこのボケカス編集長は上司とも思えない。なんでこんなのが管理職になれたんだろうか。

 

「とにかくナインティギアの周りについて密着取材だ!」

 

「密着取材はもう出来ませんよ」

 

「何故だ!? 法律で決まっていないだろう!?」

 

「記者の暗黙の了解って奴ですよ。社長から競馬関係者には懇切丁寧な対応をするように言われているじゃないですか。それを破ったら会社が競馬関係者に潰されますよ」

 

「う、うるさい! 俺が責任を取る!」

 

「責任を取るってどういう風に? まさか自分の首を差し出してはい終わりって訳じゃないでしょう。会社が倒産しかねないんですから最低でもこの会社員全員分の退職金を用意するくらいのことをしないと無理ですよ。それに競馬関係者と揉めたら碌なことにならないのはこの業界に務めている人間なら存じていますよね? 特にあなたは競馬関係の仕事に就いたことがない。それなのにそんな無謀なことをしようとしている。そんな人にどうやって責任を取れるのか教えてください。あと私の給料も上げて下さい」

 

 一気に捲くし立てた。ついでに昇給の要求もしておいた。

 

「ぐっ……」

 

 ぐうの音も出ないようだが知ったこっちゃあない。ぐっ……とは言っているが。

 

「とにかく密着取材は現時点で無理です。他に代案を用意するとするなら向こうの関係者に迷惑がかからないかつ誠実なものでお願いいたします。以上、私はこれで失礼させていただきます」

 

 そう言って私は踵を返した。

 

「待て! それを考えるのがお前の仕事だろうが! それを放棄するならサボりと見做してクビにするぞ!」

 

「代案ならありますよ。尤もそれは貴方には言えませんが」

 

「なんだと!? 言え、言わなければクビだ!」

 

「クビ、クビと貴方はそれしか言えないんですか? まあ言ったら言ったで仕事が無駄に増えるのは貴方だけですし関わらない方が賢明ですよ」

 

「き、貴様……」

 

「では、お疲れさまでした」

 

 そう言い残して私は会社を出る。

 

 恐らくだがあのボケカスは納得する記事を持ってきても来なくても私をクビにするつもりだろう。そして良い記事であればそれを自分の手柄にするクソ野郎でボケカスはそれで成り上がっていった。だがこっちにも考えがある。

 

 そして一週間後、そのボケカスはそれまでの悪事が露出され、それに怒った社長がボケカスを窓際族にして、代わりに他の社員は一個ずつ序列が上がっていったとさ。後、サンエイサンキューの馬主も横領と詐欺で逮捕されたらしく、サンエイサンキューを酷使しまくっていたことに怒りを覚えていた関係者からは何故か感謝されることになった。




・今回の話
≫サードプレジデントの評価を第三者が評価したらどんなものかというのを記者が取材を通して理解するというものですね。

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