≫ビワハヤヒデ、ナリタブライアン兄弟の母。産駒に栗毛が生まれていないことからホモ鹿毛と推定され、この小説の架空馬産駒のフルハートはヘトロ鹿毛(ヘトロ鹿毛と交配したら25%、栗毛と交配したら50%の確率で栗毛になる。ただし芦毛などの他の優性遺伝や白毛といった突然変異を考慮しないものとする)である
・オペラハウス
≫史実の93年のKGⅥ&QES馬。他にもGⅠ競走を勝利しているが、日本ではテイエムオペラオーやメイショウサムソンの父として有名。自身は鹿毛であるが産駒のテイエムオペラオーが栗毛であることからヘトロ鹿毛で確定している
・コマンダーインチーフ
≫ダンシングブレーヴ産駒の競走馬。ニジンスキー、カヤージに続いて英ダービーと愛ダービーを無敗で勝利した名馬である。しかし日本の知名度は競走馬としてではなく種牡馬としての方が高いが競走馬としての成績ほど優れていた訳では無いが、その次の年に現れたラムタラがコマンダーインチーフよりも優れていただけでなく、種牡馬としてのコマンダーインチーフがそこそこに成功してしまったが故の知名度だと思われる
≫主な産駒にアインブライト、マイネルコンバット、レギュラーメンバーと一応GⅠ競走やそれ相当のレースを勝った馬を輩出しているがホワイトマズルに比べるとどうしても劣る
・ホワイトマズル
≫コマンダーインチーフと同じくダンシングブレーヴ産駒の競走馬。競走馬としては伊ダービーとドーヴィル大賞典を勝ち、KGⅥ&QESを2年連続で2着とそこそこで、コマンダーインチーフに比べると劣るが種牡馬としての成績はこちらの方が優れている
≫主な産駒にイングランディーレ、アサクサキングス、スマイルトゥモロー、シャドウゲイト、ニホンピロアワーズとGⅠ競走を勝った馬だけでもこれだけいて産駒の重賞勝利数もコマンダーインチーフ産駒よりも多い
・遺伝の法則
≫グレゴール・ヨハン・メンデルが発見したことからメンデルの法則ともいい、この法則は遺伝子学の基本となっている。しかし近年では数を誤魔化していたことが発覚し、信憑性が薄くなっている
≫独立の法則、分離の法則、優性の法則の三つ全てのことを総称したのが遺伝の法則であり、例を出すとABO式血液型がこの法則に当てはまる
≫競馬で遺伝の法則が用いられるのは主に毛色の部分が多く、優性順は白毛>芦毛>鹿毛≒黒鹿毛>青鹿毛>青毛>栗毛となるが、白毛は突然変異で現れる為一概にそうとは限らない場合もある
6月も終わり7月を迎え、ナインティギアがいる場所は育成牧場どころか日本ではなかった。
──ようやく着いたか
その地こそかつて兄サードプレジデントが伝説を残したKGⅥ&QESの舞台、アスコット競馬場。ナインティギアはその舞台──KGⅥ&QESに出走する。
しかし今日ここに来ていたのは所謂下見であり、本番ではない。アスコット競馬場の中に入り、コースを下見するとそこにあるスタンドに目を向ける。
「ナインティ、ここはお前にとって因縁の場所だ。何せお前の兄サードプレジデントが40馬身差でぶっちぎった場所だ。それくらいとまでは言わずとも圧勝くらいしてやろうな」
──くだらねえ。俺は俺のやり方でやる
ナインティギアがそう言ったかのように鼻を鳴らした。
「お前らしいといえばらしいな。まああのダンシングブレーヴ産駒の馬も出てくるが、余裕で勝てるだろう」
ダンシングブレーヴはサードプレジデントがレーティングを更新するまで一位だった馬でその数値は141と非常に高く、世界最高水準の馬とされていた。
しかしナインティギアが産まれた年である1987年にマリー病と呼ばれる病気に蝕まれてしまい、88年産まれつまりクラフトボーイの世代が走らなかったことや体調管理の関係で91年に日本に売却されているが、ダンシングブレーヴを所有していた関係者達はその数年後に後悔することになる。90年産まれから覚醒し始めていたからだ。3頭の馬が欧州の国々のダービーやオークスなどクラシック制覇を果たしており、2歳*1GⅠを制覇している馬もおり、大活躍していた。今サドラーズウェルズが種牡馬として欧州を席巻しているが、ダンシングブレーヴも上位帯の馬のみならサドラーズウェルズに劣らないレベルまで迫っていたこともあり、元の所有者達は激しく後悔していた。
そんな競走馬としても種牡馬としても優れたダンシングブレーヴの産駒、コマンダーインチーフとホワイトマズルがKGⅥ&QESに出走登録しており、本来であれば油断出来る相手ではない。
しかし創也は確信していた。その2頭は当然、他の馬達をもぶっちぎり、ゴール板を駆け抜ける姿が見えていた。
「ナインティ、勝ちにいこう」
創也がそう一言ナインティギアに呟く。それをナインティギアは頷く訳でもなく、ただじっと見つめるだけだった。
そしてKGⅥ&QES当日を迎えた。
「へい、あのサードプレジデントの弟が出走するんだって?」
「ああ、あいつがどんな走りをするのか楽しみだよ」
KGVI&QESが行われる日、多くの人達がレースを観るために訪れていた。その中にはもちろんこのレースを観戦するために英国に来た者も多く、中にはわざわざ日本から応援しにくる者もいた。
この場にいる日本人が渡英した理由のほとんどがナインティギアのことをよく知っていたからでナインティギアに悲願達成をその目で見ようとしていたからであるが、英国人やその他の国々のミーハーな人間からはナインティギアのことをどう評価していたか言われるとやはりサードプレジデントの弟であることが大きかった。
しかし競馬関係者の評価は違い、ナインティギア自身を高く評価していた。米国の英雄であるサンデーサイレンスを始めとした外国馬がJCで尽く返り討ちに遭っただけでなくナインティギア自身が91年と92年の秋天で見せた凄まじい末脚が海外に知れ渡っていたからである。その末脚の凄まじさは全盛期のダンシングブレーヴやそれ以上とも評され競馬関係者からは【極東の勇者】とまで言われ、その実力を期待されている。
だが他の陣営も負ける訳にはいかない。確かにサードプレジデントの弟でありナインティギア自身も優れた実力馬であることは事実だが、競馬の発祥地である欧州から日本は地方でしかない。サードプレジデントという馬は偶々優れていた競走馬でしかなく、その弟がどれだけ強かろうと海外での実績がない以上、そこまで警戒される存在ではない。精々例年の1番人気と同レベルの競走馬の実力くらいと見なしていた。
【さあいよいよKGⅥ&QESが今、スタートしました!】
そして遂にKGVI&QESが始まった。ナインティギアは相変わらず後方で脚を溜め、追込の戦法を取っていた。
──ちっ、何をモタモタしてやがる。もう少しスピードを出しやがれ
ナインティギアの耳が絞り、不機嫌さを露骨に表すとその巨体の馬格が合わさってかナインティギアの前に走る馬が委縮し、掛かると他の馬も掛かり始めてしまう。
【おっと、600mを過ぎて各馬ここでペースが上がり始めました】
【これはナインティギアにとっていい展開ですね。この展開から出される末脚は凄まじいですよ】
【さて先頭はどの馬が行くか、まだ分からない状況です。おっと、ここでホワイトマズルが動いたか!? ホワイトマズルが先頭に立つとコマンダーインチーフも続いていく。ホワイトマズルは逃げの体勢に入ったか?】
そしてダンシングブレーヴ産駒の2頭が先頭に踊り出ると後続の馬達が一斉に動き出す。
──ふん、ようやくか。遅いんだよ
ナインティギアはまるで待っていたかのように鼻を鳴らす。
そして最初のカーブを曲がる寸前で各馬のペースが露骨に落ちる。カーブを曲がる際にペースが落ちるのはよくあることであるが露骨に落ちるというのは殆どない。しかし日本の競馬場とは異なりこのアスコット競馬場ならではのコースの形状がその理由である。アスコット競馬場のコースの形状は三角でありコーナーもその分キツめに出来ている。そのコーナーをスムーズに曲がるためにもペースを落とさなければならなかった。
──うぜえっ! ペース落とすんじゃねえよっ!
【あーっとこれは大変! ナインティギアが外ラチへ一直線だーっ!】
それを不満に思ったナインティギアが加速し、コーナーを曲がり切れずに外ラチへ一直線。このまま曲がり切れずにいたら落馬事故どころの話ではない。
「くそっ、そうはいくかっ!」
バイクのハングオンの要領でナインティギアを無理やり曲がらせる。あわや落馬寸前の所で元の体勢に戻り息を荒げる。
「(し、しんどい……二度とナインティギアやそれ以上の気性難をアスコット競馬場に連れていかせてたまるものか!)」
創也の決意はともかく後方2番手から6馬身まで遅れてしまった差をどう取り戻すか。それを考えているとナインティギアが動いた。
「(……普通だったらいかせないが心拍数的にも余裕がある。いかせるか)」
ナインティギアを外に持ち出し残り1000mを切ったタイミングでスパートをかける。本来であればもっと遅めにスパートをかけるがここでスパートをかけることによりナインティギアの強みが活かされる。ナインティギアの強みは中距離以下であればスピードに任せてゴリ押しでき、長距離であればスタミナでゴリ押しできる圧倒的な身体能力にある。その身体能力の兄サードプレジデントにも決して劣るものではない。
「はあっ!!」
そしてナインティギアが加速し一気に先頭に躍り出て、リードを広げると他の騎手が唖然とし観客からは悲鳴が上がる。それもそのはずで仕掛け所はそこではないと明らかに素人の目から言ってもわかる位置から仕掛けていったのだ。それを不安に思わない観客などどこにもいない。
「おい、あれ大丈夫なのか?」
「何考えてんだ?」
「あんなところでスパートかけてたら最後までもたねーぞ」
しかしそれも最初のうちだった。観客の騒然とする声がナインティギアに対する不安からいつしかナインティギアが加速し続けて差を広げることに対して驚愕するどよめきへと変わっていった。
「なっ……嘘だろう!?」
「本当にサードプレジデントの再来だとでもいうのか!?」
あまりにもナインティギアが2番手集団を置き去りにして加速するものだから騎手達が動揺してしまう。
──見える、あの
「わかる、わかるぞ。お前の言いたいことはよく分かる。だから悠々といこう」
そしてナインティギアが後方に18馬身差をつけながら2つ目のカーブを曲がる。元々外で走らせたこともあり先程とは異なりスムーズに曲がる。
【いくぞナインティギア、いくぞナインティギア! サードプレジデントの後を追って先頭はナインティギアだ! ナインティギアだ! もはや独走体勢にかかった!】
「あんな無茶をすれば絶対にどこかで垂れるに決まっている! 行くぞ!」
他の騎手達が鞭を振り、スパートをかけるとナインティギアが呆れた表情をしていた。
──わかっていねえな。勘違いしているようだが俺が前に出たのは俺のベストを尽くせるペースがお前達のノロノロペースよりも速かったから前に出ただけ。俺はあくまでも直線に入ってからの末脚で勝負するタイプなんだよ!!
【あーっと、これは凄い! 凄すぎる! ナインティギアが更に加速! 藻掻く後方を更に置き去りにする!】
「そ、そんなバカな! あれで本気じゃなかったとでもいうのか!?」
騎手達が絶望し、他の馬達も戦意喪失していく。そして後続に30馬身差をつけゴール板を通過した。
【アスコット競馬場に日本の伝説再来! 先頭はナインティギアだ!】
2分24秒3と兄サードプレジデントが出したタイムに0.3秒遅れる形ではあったがそれでも歴代2位のタイムであり、1993年時点でサードプレジデントを除いた他の優勝者に25秒台にたどり着いた馬がおらずかなり優れたタイムであるとわかる。
【2着は、えー、ようやくオペラハウス、3着争いにホワイトマズルとコマンダーインチーフが入りました】
「違う……あれはサードプレジデントと同じタイプだ。スピード、スタミナ、パワー、瞬発力……そんなものじゃない。競馬が嫌になるほどの絶対的な強さだ!」
同競走出走馬の騎手達が絶望しそのうちの一人がそう呟く。ナインティギアの凱旋門賞出走登録は既に済ませていてそれは競馬関係者なら誰もが知っている。こんな競馬に絶対的な強さを持つナインティギアが出走するとなれば凱旋門賞を諦めるしかないだろう。
「……」
そんな競馬関係者が絶望している中、創也はナインティギアに対して違和感を覚えていた。
「どうした創也?」
「テキ、もしかしたらナインティはここで引退させた方がいいかもしれません」
旭川に創也がそう告げると旭川が首を傾げる。今日のナインティギアは間違いなく絶好調であり後方に30馬身差もつけている。そんな乗りに乗った馬を引退させようなどという発言が旭川にとって理解出来なかった。
「何故だ? 故障でもしたのか?」
「脚の故障じゃないんです。身体そのものの病気です」
「病気だと? 喘息炎やノド鳴りは起こしていない!」
「今日、ナインティギアを走らせてわかりました。今日以上のベストレースは出来ないでしょう。しかしそれは競走馬なら誰にでも起こります。問題はこれからナインティギアは著しく競走能力が落ちるということです」
「どういうことだ?」
「それは検査すればわかります。自分は獣医ではないので詳しい病状はわかりませんが、ナインティは病に犯されています」
「!」
それを聞いた旭川が慌てて周りを見渡すと口元に指一本をあてて黙るように指示する。
「ええ、詳しい話しは移動してからにしましょう」
創也と旭川はその後表彰式を終えた後ナインティギアを連れて行き、星崎を交えて話し合うことになった。
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尚、次回更新は未定です