89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・携帯電話の登場
≫度々星崎が電話しているので解説。1970年代後半〜1980年代前半にかけて車載電話が登場し、その後持ち運びが可能な電話──所謂ショルダーフォンが登場したが、1990年代に入りようやく小型の携帯電話が登場した。しかし現在我々が知るスマホとは大きく異なり、トランシーバーより少し小型化した物である。その後日本で携帯電話を発展させていったのがガラケーであり、特に超薄型の折り畳み型のガラケーは有名。
≫しかし日本がガラケーという特殊な携帯電話を開発してきたのに対して海外、特に米国は携帯電話にモバイル向けオペレーションシステムを搭載し、開発し続けていた。それこそが我々の知る携帯電話──スマホ。しかしスマホが出た当初は日本ではカメラやメールといった機能を優先した為に日本では流行らなかった。しかし2007年になってスマホが日本で有名になり、アプリやSNSがスマホ中心になった現在ではガラケーを持つ方の方が少なくなってしまった。
≫ガラケーの長所は何よりも電池が長持ちすることや利用料金が安価であることで、電話機能などしか使わない社用電話に使うなど使いこなせればかなり便利なものである。しかしアプリやSNS等は使用が難しいのでアプリ等を使用を考えているならスマホが有利となる
≫因みに作者はガラケー派ではなくスマホ派なのでガラケーを使うとしたら仕事でしか使わなくなる


第68話

「して創也君、ナインティギアが病に侵されているとは本当かね?」

 

「はい、お義父さん。まだ初期病状なので検査で見つかるかどうか怪しいんですがこのまま放置すれば凱旋門賞に出走する頃には競走能力喪失しているでしょう」

 

「なんてことだ……」

 

「オーナー、まだ検査結果は出ていません! 創也の戯言に付き合う必要はないです!」

 

「そうだな……ただそれが本当なら引退も視野に入れなければならない。だがその病が感染症の場合、ナインティギアは日本に帰れずこっちで種牡馬生活を送ることになる。ノーザンダンサーの血が濃い欧州でナインティギアがやっていけるのか?」

 

「その点は心配ないかと。ノーザンダンサーの血が大流行しているからこそナインティギアは成功すると思います」

 

「それは何故だ?」

 

「生産者もバカではないので流石にノーザンダンサーやバックパサーの肌馬をつけるような真似はしないと思います。血が濃くなったとしても奇跡の血量の程度のインブリードで済ませるでしょう」

 

「なるほど。確かに近年サドラーズウェルズ産駒の馬が活躍している。そのサドラーズウェルズの肌馬とナインティギアであればノーザンダンサーの4×3の配合になるということか」

 

「幸いにもナインティギアはKGⅥ&QESでレーティング141とダンシングブレーヴと同じ数値になり、高い評価を得ています。欧州の地で血を紡ぐのも悪い考えではないと思います」

 

「うーむ……」

 

 星崎は悩む。ナインティギアをこのまま引退させて治療に専念させて種牡馬生活を遅らせるのが良いのか、あるいは治療しながら競走馬生活を送らせて有終の美を飾るのが良いのか……KGⅥ&QESでナインティギアが圧勝してなければ前者を選んだが、ナインティギアは圧勝してしまった。

 

 星崎はかつて「ノーザンテースト産駒は三度成長し、その血を受け継いでいるナインティギアにもそれが当てはまる」と発言していることからナインティギアに対する期待は非常に高い。それ故にKGⅥ&QESだけで終わっていいものかと悩んでしまう。

 

「オーナー、僕はナインティギアを引退させるべきだと思います。彼はもう十分に走りました。これ以上無理をすれば彼を殺すことになります」

 

「……そこまでいう程か。だが検査結果次第では……」

 

 その瞬間、着信メロディが流れ始め、星崎以外のその場にいた人間の身体が震え出してしまう。

 

「む、失礼。私の電話だ」

 

 そう言い放ち、星崎が手のひらサイズの四角い何かを手に持ち席を外すと創也達がそれを見て話し始める。

 

 

 

「おいどういうことだ? あんな小さいのが電話だっていうのかよ?」

 

「そうですよ、テキ。お義父さんは電話事業に手を染め始めていて、今ではあの機械──携帯電話と呼ばれている電話を開発したんですよ」

 

 それまでの電話といえば黒電話から進化したFAX付きの電話機であり、とてもその外に持ち出せるものではない。持ち出せたのは自動車に取り付けられている車載電話くらいであった。しかしナインティギアが初めて秋古馬三冠を制した年である1991年に230gと軽量の携帯電話が登場し、サービスが始まったがまだ遠い存在だった。しかし星崎の会社は車載電話の時代から電話に目をつけてショルダーフォンを自力で開発し、更に携帯電話までも開発していた。その最先端の技術を持つことで収入を得ていて馬主の資格を得ていた。

 

「はーっ……俺達にも分けて貰えるかな? あれがあればだいぶ便利になると思うんだがな」

 

「あと数年しないと無理だと思いますよ。それにあれはお義父さんの会社にとって最重要機密ですからね。そう簡単に外部には渡しません」

 

「ああ……それもそうか」

 

「そろそろ戻ってくるんじゃないですか?」

 

 創也と旭川がそんな会話をしていると、星崎が部屋の中に入ってくる。

 

 

 

「申し訳ない。話しに戻ろうか。これ以上現役を続ければナインティギアを殺すことになるという話しだったな」

 

「ええ。現状ですとそうなります」

 

「私の意見を述べると検査結果次第で何も異常なければ現役を続行させるし、異常が見つかったら引退させてこの欧州で種牡馬生活を送らせる」

 

「わかりました」

 

「ただしどちらにせよ創也君が異常を感じ取った以上、これまで以上に体調管理に注意して欲しい。私は医者ではないが馬のことに関しては素人よりはわかるつもりだ」

 

「はい、わかりました」

 

「それとこれを旭川さんと創也君に渡そう」

 

 星崎が渡してきたのは最先端の技術の結晶とも言える携帯電話であり、使い方の説明を受けると2人は驚いた。

 

「まさか携帯電話を預からせて頂けるとは……」

 

「まだ改善の余地はある試作品だが、これでいつでも連絡出来るようにしておく。それとナインティギアの今後についてだが、BCターフを取り消して凱旋門賞のみに絞る」

 

 2人に星崎がそういうと、意外そうに旭川が目を開く。

 

「そりゃ構いませんが一体何故?」

 

「余計な雑念は消して圧勝して欲しいからだ。凱旋門賞とBCターフ両方僅差で勝つよりも凱旋門賞をかつてないほどの差で勝てば種牡馬価値は高まる。特にこの欧州ではな」

 

「そういうことですか。サードプレジデントが米国だけでなく欧州で高い評価を受けているのはKGⅥ&QESで圧倒的な大差あってのものでそれが僅差であればそこまで評価されていない。欧州の馬産地に向けてのアピールをより上げる為に凱旋門賞一本にするということですか」

 

「そういうことだ。旭川さん、創也君、後は任せたよ。私は本業に戻るとしよう」

 

 そう言って星崎が立ち去っていった。

 

 

 

 ──ようやくここに戻れたか

 

 一時的に預かっている厩舎にナインティギアが戻ると周囲が騒然とする。

 

 ──ボス、お帰りなさいませ! 

 

 それもそのはず、ナインティギアは渡英してから僅か数日で馬達のボスになり、他の馬を委縮させていた。

 

 ──出迎えご苦労。異常は無いな? 

 

 ──はっ! 服務中異常ありません! 

 

 ──よろしい。ではこれからも異常をなくすよう努力しろ

 

 ──サー、イエッサー! 

 

 ナインティギアが他の馬を退けさせ、寝藁が多めの馬房につくと厩務員が納豆とバナナをバケツに入れそれをナインティギアに手渡すとナインティギアがあっという間に食べ尽くした。

 

「相変わらず慣れねえな……なんでこいつは食えるんだ?」

 

 厩務員がそう愚痴を零す。納豆は日本人ならともかく外国人は受け入れ難いものであり、それを別の食べ物がついているとはいえ平気で食べるナインティギアの気持ちはわからないらしい。

 

「まあしょうがないさ。誰だって得体の知れないものを食べるのは怖いだろう」

 

「一度食べてみろ。口の中はネバネバするし臭いしで最悪だったよ」

 

 ──貴様、納豆をバカにしたな? 

 

「あっ、ヤバッ!」

 

 ナインティギアが納豆を口に含んだ状態で睨みつけ厩務員に近づき噛みつこうとするがそれを察知した厩務員が避ける。この厩務員は納豆をバカにしたことがあり、それを聞いていたナインティギアが納豆を含んだ状態で噛みついて臭いを全身に染み込ませたことがある。納豆単体の臭いだけでなくナインティギアの唾液などが混ざったこともあり臭いは染みついてしまいその服は処分せざるを得ず、未だに体に臭いが染み付いている。その経験があってか厩務員はナインティギアの殺気を察知するようになった。

 

 ──小賢しい! 

 

「Noooo!?」

 

 バケツを器用に振り回し、そしてそれを納豆をバカにした厩務員に投げつける。それは見事に顔面に命中し、鼻血を出しながら倒れた。

 

「おい、大丈夫かよ……って臭っ、なんだこれ!?」

 

「お、お前……なんてもん投げつけてんだよ……」

 

「またやられたのか。全く、納豆をバカにするからこうなる」

 

「そういうテキはおかしい。なんで俺達と同じ英国人なのに納豆が好きなんだよ」

 

「そりゃ最初は受け入れられなかったとも。だけど食べていくうちに癖になってね。今ではソウルフードだよ!」

 

「うわぁ……」

 

「さて一応運んでやらんとな。救急車を呼んでくれ。でないと多量出血で死ぬぞ」

 

「あっ、はい!」

 

 ナインティギアに納豆を投げつけられ、倒れている厩務員が心配され急いで病院に搬送された。

 

 

 

 ──まったく、ふざけやがって。次はないと思え

 

 ナインティギアがそう言い放ち、他の馬達が震え上がる。

 

 ボス馬というのは総じてプライドが高い。その為人間を利用することは多々あり召使いのように扱う。実際にそのように扱えれば人間達にこき使われている馬からすればそれだけでも畏怖の対象となる。

 

 ナインティギアが今回厩務員にやったことは他の馬にナメられないようにする為の本能による行動であり、手を抜かせばナメられてしまう。ナメられたら馬社会にとっては死も当然の世界なのだからナインティギアの妥当な判断と言えるだろう。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 二週間後、ようやく検査結果が発表され、旭川達の元に通知が届く。

 

「異常なし、か……」

 

「ほら言った通りじゃないか」

 

 複雑な表情をする創也と満面の笑みの旭川が対照的だった。

 

「それじゃテキ、ナインティギアを一度帰国させましょうか?」

 

「そうだな。いつまでもクラフトボーイ達を放置してられないし、何よりもナインティギアは遠征に強いからな。見慣れない土地に行っても十分すぎる結果を出してくれたことだし、帰って様子を見ながら凱旋門賞まで調整しよう」

 

 ナインティギアが帰国する理由はそれだけではない。サードプレジデントとは異なり創也や加東と言った人物しかナインティギアを制御することが不可能だからだ。試しに他の騎手をナインティギアに乗せたらナインティギアが伏せ、頑なに動かなくなってしまう。無理に動かそうとすれば騎手を振り落とす上に踏み潰すか肝臓に蹴りを入れるかのどちらが待っていた。

 

 それでもナインティギアが共に走ることを認めた騎手はいなくはないが、鞭を入れた瞬間にナインティギアが大暴走。その様子はまるでセントサイモン──制御不能となった機関車そのもので、手綱が一瞬でも緩み隙を見せようものなら放り投げられてしまう。一応一定の距離を走ると止まり伏せるのでそこまで我慢すれば乗ること自体は出来るがスピードを制御する調教となると創也抜きだと不可能と言って良いという有様だった。

 

 そんなナインティギアを置いて帰れるかと言われると無理と言え、ナインティギアごと日本に一時的に帰国するのが望ましかった。

 

 

 

「さあ帰ろう、ナインティ。共に一緒に鍛えて勝ちにいこう」

 

 その言葉を受け止めたナインティギアが素直に馬房から出ていくと他の馬達に挨拶する。他の馬達はナインティギアに畏怖も敬意もあり、別れを惜しむかのように鳴き声を上げる。

 

 ──世話になったな。もしまた会う機会があればその時はよろしく頼む

 

 そう言ってナインティギアが別れを告げた。




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