89式和製ビッグレッド   作:ディア

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ウマ娘3

 JC当日、オグリキャップとタマモクロスの再戦に沸き上がる観客達だがもう一人注目しているウマ娘を見ていた。それはサードプレジデント。人当たりもよく、レースも強いという完璧な存在に多くのファンが付き、彼女のレースを見るために地方からも訪れる程であった。

 

 衝撃のデビュー戦の再現を見ようとサードプレジデントのファン達はオグリキャップとタマモクロスのJCと同じくらいの価値観で見に来ていたと言っていいほどだ。

 

【さぁ始まりました、東京レース場OP戦。本日のメインレースのGI競走JCの前座に相応しいこのレースに注目のウマ娘が出走します】

 

 サードプレジデントが現れると大歓声がその場に響き下手な重賞競走よりも盛り上がりを見せる。そんな状況にサードプレジデントは苦笑いを浮かべながら手を振る。

 

「人気者、というのも困りますわ。だってこんな大歓声を聞かされたら燃えざるを得ませんもの」

 

「さ、サードプレジデント?」

 

「あら、トレーナーいましたの?」

 

「君は一体何をしようとしているんだ!?」

 

「何って、いつも通り走るだけですよ?」

 

「創也君に口酸っぱく言われているんだよ、必ず先行させるようにって!」

 

「知りませんわ、そんなこと。トレーナー試験勉強で忙しいからって創也様がいないのが悪いんですわ」

 

 つーんと頬を膨らませ、顔を背けるサードプレジデント。それというのも彼女のサブトレで幼馴染の創也が現在トレーナー試験の猛勉強をしておりサードプレジデントにかまっている余裕がなく、彼がいないことで寂しさを募らせていた。

 

「そ、それでもだね」

 

「私は私の走りたいタイミングで走りたいんです。それを邪魔しないで下さいまし」

 

「ぐっ……た、確かに君の走りたいタイミングで走らせるべきなのはわかっているけど……」

 

「それに私にはこの脚がある。だから追込でも問題ありませんわ」

 

 そう言ってサードプレジデントはパドックで自分の足を見せつけるように前へ出した。

 

「ほら、見てみなさい。この美しい足を。こんなに綺麗で細いのに筋肉はしっかりとついている。こんなに素晴らしい身体を持っているのにどうして先行にこだわるのかしら」

 

「それは君が強いからだよ。それに君は一気に加速するのを好むから追込を好む。だけどね、追込だとリスクも消耗も激しい。だからこそ君はリスクも消耗も少ない先行で勝たないといけないんだ」

 

「あら、心配してくれてありがとうございます。ですが大丈夫ですわ。何故なら私は伝説の名バの娘ですから」

 

「あ、あのねぇ……!」

 

「さて、そろそろ時間ですわね。では行ってまいります」

 

 そう言うと彼女はターフへと向かって行った。その堂々とした姿に思わず感嘆の声を上げそうになるが、今はレースに集中させなければならない。

 

 

 

 数分後、やはりというべきかデビュー戦同様追込で走り、道中物凄い加速でぶっちぎったサードプレジデント。素人からすればこれ以上ないほどわかりやすい展開で圧勝した。

 

 レースが終わった後、トレーナーは思わず膝をついてしまった。その顔は絶望に染まっており、もう二度とサードプレジデントを止めることは出来ないことを悟ってしまった。

 

「創也君、僕はどうしたら……」

 

 サードプレジデントを唯一制御出来る創也に泣きを入れるがこの場に創也はいない。

 

 サードプレジデントがその場を颯爽と立ち去りウイニングライブに向かうがトレーナーはそのライブを見る気分ではなく陰でこっそりと泣いていると芦毛のウマ娘が近づいてきた。

 

「何や自分、こんなところで泣きおって」

 

「タマモクロス?」

 

「せや、ウチがタマモクロスや」

 

 タマモクロスは関西弁を話すウマ娘であり、オグリキャップと共に現在のトゥインクルシリーズを盛り上げているウマ娘の一人で、オグリキャップとは同級生である。

 

「どないしたん? なんやったら話聞くで?」

 

「い、いやこれは僕自身の問題なんだ……」

 

「そんなもん関係ないわ。なんならオグリと一緒に聞いてやるさかい、話しぃ」

 

「うぅ……実は……」

 

 トレーナーはこの日あった出来事を涙ながらに語った。そしてそれを黙って聞いていたタマモクロスは呆れたような表情をする。

 

「自分アホちゃうか?」

 

「な、何だって!?」

 

「ウチは元々追込のウマ娘やった。せやけど秋の天皇賞で先行して勝った。何で追込ウマ娘のウチが先行したかわかるか?」

 

「それは君が天才だったからだ」

 

「ちゃうわボケ! ウチが先行したのはただ勝ちたかったからじゃ! オグリと勝負するために先行を選んだんや! なのに自分が先行を強要してそいつが本来の走りが出来へんかったら元も子もないわ! サードの気持ちを考えぇや」

 

「そうか、そうだよな」

 

「そもそもアンタはサードの何を知っとるんや! まだレースに出て一ヶ月しか経ってへんのに何をわかっとるんや!」

 

 タマモクロスの正論に何も言い返せない。確かに自分はサードプレジデントのことをよく知らない。彼女がどんなレースが好きなのか、何を楽しみにしているのか、そういったことは全然わからない。

 

「すまない、タマモクロス」

 

「わかればええんや。とりあえずはサードと話し合ってみることや」

 

「わかった、ありがとう」

 

「気にせんとき、それよりもほれ」

 

「これは?」

 

「ハンカチや、これで目拭き」

 

「あ、ありがとう」

 

 トレーナーは言われた通りに目をハンカチで拭くと、再びタマモクロスに感謝を述べる。

 

「本当にありがとう。おかげで少し気が楽になった」

 

「そか、そら良かったわ。そんかわし、次のJCウチのこと応援してな」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「それじゃあウチはこれで失礼するわ」

 

 そう言ってタマモクロスがその場を去っていった。

 

「本当に俺は無能なトレーナーだったな」

 

 ──でも今度は違う、サードプレジデントと向き合ってみよう。

 

 そう決意すると、トレーナーはサードプレジデントの元へと向かった。

 

「あら、どうしましたの?」

 

「サードプレジデント、これからは君の走りたいタイミングで走っていい」

 

「あら、ようやくわかってくれましたのね」

 

「ただし、条件がある」

 

「何でしょうか?」

 

「僕も君についていく。君のトレーニングメニューを考えたりレースの展開を読み取るのは得意だからね。それに君のことを理解したいという気持ちもあるからね」

 

「まぁ嬉しい。では早速帰りましょう」

 

「ちょ、ちょっと待った。今すぐ帰るのは……」

 

「ダメですか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……その、まずはJCを見た後にミーティングをしてだね」

 

「わかりましたわ。では行きますわよ」

 

「あ、うん」

 

 こうして二人は一緒に観客席へ向かっていく。その様子を遠くから見つめていたタマモクロスは呟いた。

 

「なんや、上手くいったみたいやないか」

 

「タマ、どうかしたのか?」

 

「いや何でもあらへんわ。オグリ、今度もウチが勝つで」

 

「負けないぞタマ」

 

 タマモクロスとオグリキャップ、2人がJCの舞台へと向かう。そして彼女達は……

 

【決着! 惜しくもタマモクロスは2着、オグリキャップは3着に破れました! これが世界の壁!】

 

「はっ、はははははは!」

 

「タマ、残念だったな」

 

「うるさいでオグリ、ウチは悔しいわ」

 

「私もだ」

 

 2人とも勝てなかった。だがこの敗北は決して無駄ではない。なぜなら2人の実力は確実に世界に届いていた。それでも負けたのはタマモクロスとオグリキャップを知り尽くしたウマ娘に敗北したからである。

 

「オグリ、今回のレースウチが先着したけどノーカンや。有馬記念で決着つけんで!」

 

「当然だ。絶対に勝ってみせる」

 

「その意気やで!」

 

 タマモクロスとオグリキャップは次の目標に向かって歩き出す。その背中には確かな闘志が宿っていた。

 

 

 

 数週間後、デビュー戦と1戦はさみ迎えた朝日杯FS。前走レコード勝利を収めた名門サクラ家のサクラホクトオーなど実力のあるウマ娘が揃い、注目のレースとなった。

 

「こ、これで勝ったら僕はGⅠトレーナー、サードプレジデントはGⅠウマ娘……」

 

「もう! 貴方が走る訳じゃないんだからしっかりして下さい!」

 

 自身が出走する訳でもないのに何故かガチガチに緊張するトレーナーとそれにツッコミを入れるサードプレジデント。立場が逆である。

 

「そうは言っても……」

 

「それなら今日は私だけを見て、レースラップ、ストライドの幅を計測して下さい! それが出来なければ解約しますよ!」

 

「そ、それだけは! やる、やるから! ごめんなさいっ!」

 

 前人未到の記録を叩き出せるウマ娘に関わる機会を些細なことで見逃したくない。それ故にトレーナーはサードプレジデントに謝りチャンスを貰った。

 

「全くもう!」

 

 怒ってこそいるがサードプレジデントの緊張は感じられずむしろ余裕があり、トレーナーとしては安堵せざるを得なかった。

 

 レースが始まり、各ウマ娘がゲートから飛び出すと共にトレーナーはサードプレジデントのタイムやストライド幅を計測していく。

 

 先頭争いをしているウマ娘の中、サードプレジデントはいつもの位置、最後方──追込で走っていた。

 

「やっぱり追込なんだな、まあいいさ。僕は僕にしか出来ないことをやるだけだ」

 

 そう自分に言い聞かせながらトレーナは再びサードプレジデントのラップとストライドを計測していく。そして一気に加速した瞬間を見て目を丸くする。

 

「す、凄い……! あれからまだ成長しているっていうのか!?」

 

 加速度、そしてストライドの大きさも出会った当初よりも速くそして広がっており、サードプレジデントの成長を実感出来ていた。

 

 その後もサードプレジデントはぐんぐんと後続を引き離すと、そのままゴールインした。

 

「トレーナー、私の走りどうでしたか?」

 

「おめでとう、サードプレジデント!」

 

「ありがとうございます。流石サードプレジデントだよ」

 

「ふふっ、その様子ですと何か閃いたようですね?」

 

「ああ! 君のおかげでね」

 

「それなら安心しましたわ。創也様もね」

 

 サードプレジデントがそう言って創也を呼ぶと、彼はすぐにやってきた。

 

「創也君、メイントレーナーの勉強は終わったのかい?」

 

「ええ、量よりも質ですからね。トレーナー過程の課題もつい先週終わりましたし、サードプレジデントのことが気になってレース中のラップ、ストライド、ピッチ、後はコーナーにおけるスピードとかも計測してしまいましたよ」

 

「そ、そんなに?」

 

 自分よりもトレーナーらしいことをしており、トレーナーが落ち込むが創也はそれを無視した。

 

「キャロ、お疲れさま。どうだった? 初めての重賞レースは?」

 

「中々楽しいレースでしたわ。デビュー戦は私を無警戒の状態で侮ったウマ娘が絶望し、前走と今回の朝日杯は必死に逃げても引き離すどころか追いつかれた時の焦る顔……ああ、何て最高なんでしょう」

 

「サードプレジデント、もしかしてだけど君が追込で走る理由ってそれ?」

 

 立ち直ったトレーナーが顔を引きつらせながらそう尋ねると笑顔で答えた。

 

「ええ、私は確かに偉大なる米国のウマ娘の血を継いでいますが走る理由は使命とかそんなものではありません。レースを楽しむ為に走っているんですもの」

 

「創也君、もしかしてこの娘……」

 

「察している通りかなりのドSです。小学生時代の話なんですが、わざと赤点ギリギリのラインとっておいてバカにしてきたクソ餓鬼どもを学力でねじ伏せ、泣くまで煽り続けたことがあります」

 

「あれはいつ思い出しても快感ですわ……バカにしていたウマ娘にテストで完膚無きまでにねじ伏せられ顔を真っ赤にするイジメっ子がもう可愛くて……!」

 

 サードプレジデントはレースを勝った時よりも嬉しそうに笑顔を見せる。

 

「だからトレーナーさん、これからも私を楽しませて下さいね?」

 

「あ、うん。頑張らせていただきます」

 

「そして創也様、来年の4月以降よろしくお願いいたしますね?」

 

「言われるまでもないさ」

 

 こうしてサードプレジデントは朝日杯FSを制すると、いよいよクラシック三冠へと駒を進め、続く有馬記念ではタマモクロスとオグリキャップが激突し、僅差でオグリキャップが勝利した。

 

 そして翌年、ついにサードプレジデントのクラシック級の年が始まった。




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尚、次回更新は本日21時です

番外編は何が見たいか

  • サードプレジデント産駒の活躍
  • サードプレジデントのその後
  • ナインティギアとクラフトボーイの活躍
  • ウマ娘サードプレジデント転生者疑惑
  • アニメ版ウマ娘世界のサード達
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