89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・芦毛
≫少し前の更新で芦毛は優性遺伝と話したが、芦毛の長所と短所について語る
≫芦毛は海外であれば灰色、つまりGrayと表記され、黒混じりの白である。齢を重ねる毎に白く染まっていく為競走馬によっては現役中ずっと青鹿毛のような見た目のままだったクロノジェネシスのような馬もいる。逆に若いうちから白く染まる競走馬もおりゴールドシップなどは皐月賞時点で灰色混じりの白と言って良い程だった。またベンドア斑で有名なザテトラークも有名で、競走馬の個体によって様々な違いが出るだけでなく白く染まることで見栄えも良くなる。それが芦毛の魅力であり、白く染まった個体は人間だけでなく馬にもモテるのでそこが長所と言えるだろう
≫一方で芦毛の欠点は齢を重ねる毎に白く染まっていくということはメラニンが作られなくなるということで、紫外線を身体から防御できないので日差しに弱く、その影響か長生き出来る馬は他の毛色に比べて少ないという欠点がある。
≫そんなサラブレッドの芦毛の起源についてだがオルコックアラビアンというアラブ馬にたどり着く。この馬は父系始祖として三大始祖以外で唯一クラシック馬であるエイムウェルを輩出しており、三大始祖以外では最も父系始祖として成功した。また主流とされていない毛色である河原毛の著名な競走馬を最後に輩出したのも彼の直系子孫である。
≫因みにホモ芦毛という芦毛しか産まない・産ませない馬も理論上存在するが、現在は繁殖牝馬は不明だが種牡馬はヘトロ芦毛しか日本には存在しないだろう。その理由として芦毛そのものが鹿毛に比べて個体数が少なく競走馬としての数も少ないので芦毛の馬が活躍することは少ない傾向にあること(ゴールドシップ等の例外あり)、そもそも両親が芦毛である芦毛の競走馬がホモ芦毛とは限らずヘトロ芦毛であることの確率が高い(ホモ芦毛約33%、ヘトロ芦毛約66%)ことが主な要因である。一応昔はホモ芦毛の種牡馬が存在しており、セダーンやメンデスは芦毛しか産ませないことで有名だった

・ザテトラーク
≫芦毛の解説をしたのでこちらも解説
≫ここまで読んでくれた読者の皆様はトキノミノルについて存じていると思うのでトキノミノルの詳細についてはここでは省略する。トキノミノルはザテトラークの奇跡の血量持ちであり、トキノミノルがあれだけ速かったのはザテトラークの血を引き出したからとも言われている。
≫そのザテトラークはデビュー前は芦毛の身体に斑点がいくつも目立つ上に骨太かつ馬格が大き過ぎて見栄えが悪い。更に周囲から去勢し障害競走に出走させることを勧められるという散々な言われようである。しかしそんな周囲の声とは裏腹に2歳戦で7戦無敗の優れた成績を出し、中には十数秒遅れたのに勝ったなどという伝説が残る程にスピードに優れた競走馬だった。勿論この伝説は誇張表現であるがそれでも致命的な出遅れであったことに違いなく、本馬の現役時代を知る者からは「2歳という括りを超えて史上最強馬」とまで評されている
≫3歳以降は故障により出走せず種牡馬入りを果たすが、馬にしては珍しく種付け嫌いで11世代で僅か130頭という数で種付け技術が発展していない当時といえどもこの数はあまりにも少ない
≫しかしその数少ない産駒からムムタズハマム(ナスルーラ、ロイヤルチャージャー、マームードの牝系の祖)、テトラテーマ(セフトの父)など日本は当然、世界に多大な影響のある産駒を生み出しており、特にマームードに関しては芦毛馬として史上3頭目の英ダービー制覇&ラムタラに更新されるまで59年間レコードを保ち続けていた名馬であると同時にノーザンダンサーやヘイローの祖母の父であり、その影響力は競走馬としても種牡馬としてもあまりにも大きい


第72話

 それから無事に帰国したナインティギアは欧州で捨てられたなら、と舎太の方で種牡馬入りの打診が入った。その理由はただ1つ、サードプレジデントやサンデーサイレンスに対抗する為である。

 

 歴史的な名馬であり産駒たちの動きも良いサードプレジデントとサンデーサイレンスに対抗するにはナインティギアの血を取り入れるしかないと舎太グループは判断し、星崎達から25億円で購入する。

 

 しかしその後舎太グループはナインティギアの扱いに悩み続けることになる。

 

 種牡馬入りを果たしたナインティギアだが種付けを嫌がり、特定の相手しか種付けしようとしないのだ。その特定の相手以外と種付けしても受胎率は悪く、その産駒が産まれたとしても気性難によって競走馬になることすら出来ずデビュー率は脅威の10%、勝ち上がり率は当然0%である。しかし特定の相手ならば受胎率及び競走馬デビュー率は100%という質の悪い種牡馬であった。しかも年度毎にその相手が変わるのだからやりづらいとしか言いようがない。

 

 その後、その特定の相手から産まれた産駒達が次々と勝ち上がり、初年度時点で脅威の勝ち上がり率100%、重賞馬が3頭、更に海外GⅠ競走を制するものまで現れたのだから舎太グループとしては頭を悩ませる要因となる。

 

 しかし舎太グループもただ黙って見ている訳では無い。数多くの牝馬を取り寄せその中からナインティギアに選ばせるという手段に出た。この方法は間違いではなく年間10頭前後と数少ない産駒から毎年GⅠ馬を出し続けることになる。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 1993年、天皇賞秋当日。

 

 オールカマーで3着と敗れたものの春の天皇賞でナインティギアに粘る2着、昨年はダービー2着、そして無敗の二冠馬ミホノブルボンに菊花賞で金星をあげたライスシャワーが1番人気に支持された。

 

 2番人気はブロンズコレクターでお馴染みのナイスネイチャ。有馬記念2年連続3着と勝ちきれない印象があるがムラっけがなく決して侮れない。

 

 3番人気は七夕賞、オールカマーで連勝中のツインターボ。ライスシャワーのいるオールカマーで逃げ切った印象は記憶に新しく、この中で最も勢いのある馬だろう。

 

 そして創也が騎乗する馬、メジロルイスは4番人気。最近は白星から遠ざかっているがその素質は確かなものであり、創也が騎乗することもあってか人気も高まった。

 

 だが上位3頭以外はほとんど誤差みたいなものでメジロルイスを含め4番人気以下の競走馬はほとんど勝ち切れない馬ばかりでライスシャワーの他にGⅠ競走を勝っているヤマニンゼファーにしても今年は重賞1勝止まり*1で前走毎日王冠に至っては掲示板を外す結果となり人気を落としていた。

 

 

 

「(それにしてもまさかメジロマックイーンが繋靱帯炎になるなんてな。これだから競馬に絶対はないなんて言われるんだ)」

 

 そして本来出走するはずだったメジロマックイーンは京都大賞典を前人未到の大レコードを更新し絶好調であった。しかし数日前に繋靱帯炎により天皇賞秋を回避。この衝撃はあまりにも大きく一般ニュースにも報道されるほどであり競馬界だけでなく日本国民全員に知れ渡った。

 

 この繋靱帯炎は治療に半年以上かかる上に、治療が終わったとしても万全の状態になるとは限らない。一応オグリキャップという馬が治って勝った例もないことはないが、例外過ぎるだけで通常は引退する程の故障である。

 

 シンジケートを組んでいたこともありメジロマックイーンは引退することになった。

 

「(あれだけの雰囲気の中でそれを大荒れの殺気を出す相手を見極められずにいたのは騎手として恥としか言いようがない)」

 

 そんなことを考えながら創也はパドックを見て回る。凱旋門賞の時に感じた妙な殺気は大荒れする時の殺気であり、創也はそれを感じていたが誰がそれを引き起こすかわからずナインティギアを走らせてしまった。その結果ナインティギアに凱旋門賞を勝たせることが出来ずに悔やんでいた。

 

「(だが今回は違う。ヤマニンゼファー、お前から殺気がただ漏れだ。本来ならツインターボも警戒しなきゃいけないがあいつはやりすぎた。おかげで楽に出来る)」

 

 創也が注目している馬、それはヤマニンゼファー。何故この馬が毎日王冠で惨敗したのか不思議な程にこの秋天の舞台で激走する。そう感じさせる程に創也の評価は高くなっていた。

 

 そもそもこの時点の世間一般のヤマニンゼファーの評価はネタ馬である。安田記念で1番クラフトボーイに発情した馬として知れ渡りトキノミノルの3本脚走法ならぬ5本脚走法で2着と激走している。その為かヤマニンゼファーは「ホモ馬」だの何だのと酷い言われようである。しかし逆に言えば発情した状態でヤマニンゼファーはクラフトボーイに迫る2着であり、クラフトボーイさえいなければ安田記念連覇を楽々としていた実力者と言えそのスピードを創也は高く評価していた。

 

 

 

【さあいよいよ始まります秋の天皇賞!】

 

 実況アナウンサーの声が響き渡り、ファンファーレが鳴り響く。

 

【さあスタートしました。やはり行ったのはツインターボ、ツインターボがハナに立ちました】

 

 ツインターボがハナに立つと2番手を更に突き放すと大歓声が湧く。

 

 ツインターボが3番人気に支持された理由は大逃げという珍しい脚質の持ち主でもあるからで、もし彼が普通の脚質の馬であればここまで注目を集めなかっただろう。

 

「(好きにするといい。俺は大人しくヤマニンゼファーを見るから必要以上に追いかける訳にはいかないからな)」

 

 創也がメジロルイスを操りヤマニンゼファーを警戒する。その判断は間違いではなく、ツインターボは未だに大逃げをしスタミナを無駄に消費していき、2番手にヤマニンゼファーがつく形でレースが進んでいく。

 

「(後ろにライスシャワーがいるが春天の時は仕上がり方が尋常じゃなかったからな。ナインティギアでなければ勝てなかったが今は距離も相まってか一介の重賞馬くらいにしか見えない。このレースの展開は理想的そのものだ)」

 

 ライスシャワーの実績は主に2400m以上から格段に成績が上がるがそれよりも短い距離だと走らなくなる。そしてメジロルイスは2000mを得意としているのだから、この展開になるのは必然であった。

 

 レースは終盤に差し掛かり、残り1000mの標識を通過する。

 

「(思った通りだ。ツインターボは限界、ライスシャワーはスピードに乗り切れない。後はメジロルイスの仕掛け所を間違えないだけだ!)」

 

 ヤマニンゼファーが仕掛けた所を見計らい、メジロルイスを上げさせる。あまりにも徹底的なマークにヤマニンゼファーの騎手がウンザリとした顔を見せるが創也は気にしない。

 

 メジロルイスが加速してヤマニンゼファーの前のポジションに付くと、ツインターボが垂れ始めてくる。

 

【先頭はツインターボ、しかしここでメジロルイスが上がってきた。ツインターボに襲いかかる! ツインターボの逃亡劇はもう終わり!】

 

 ツインターボが失速していくと、メジロルイスは後ろを一気に引き離していく。その後ろからはヤマニンゼファーが猛追してくるが、創也による仕掛けが神がかりっていたこともあり、後方との差を縮めさせない。

 

【さあメジロルイスだ、ヤマニンゼファーもやってきている! ライスシャワー、ナイスネイチャは全く伸びない!】

 

 上位人気馬3頭が馬群の中に沈み、悲鳴の声と共に馬券の紙吹雪が舞う。

 

「(運の悪い奴らだよ。ライスシャワーは明らかに絶不調、ナイスネイチャもそこまで勢いはない。ツインターボも攻略法が分かれば怖くない。俺が本当に恐れているのはヤマニンゼファーだけだ)」

 

 創也は冷静に分析しながらメジロルイスを勝たせるべく鞭を振るいラストスパートをかける。

 

【メジロルイスが更に1馬身突き抜けた! 先頭はメジロルイス! メジロルイス逃げ切ったーっ! メジロルイスが悲願のGⅠ制覇! やりましたメジロティターンとの兄弟秋の天皇賞制覇となりました! クリピロ・クリヒデ兄弟制覇以降の快挙です!】

 

 春の天皇賞で兄弟制覇を果たしたのはモンテプリンスとモンテファストの一組がある。しかしクリピロ・クリヒデ兄弟は1960・1962年、モンテプリンス・モンテファスト兄弟は1982・1984年と割りと年齢が近い兄弟。しかしメジロティターン・メジロルイスは異例であり距離もそうだが、メジロティターンが1982年であるのに対してメジロルイスは1993年と親子程の年齢差がある。これ程年齢が離れた兄弟が同じGⅠを勝つ例はないだろう。

 

 

 

「いやはや流石だね、創也」

 

 メジロルイスの表彰式が終わり、創也に声をかけたのはナリタチカラに騎乗していた胤だった。

 

「胤先輩ありがとうございます。それよりもメジロマックイーンの件、残念でしたね」

 

 本来胤はメジロマックイーンに騎乗して秋天に挑む予定だったが前述の通りメジロマックイーンが故障し、急遽ナリタチカラという馬に騎乗することになっていた。

 

「そっちこそナインティギアのことは残念だったね。京都大賞典の時点でナインティギアにも勝てるって確信していただけにあんな形で互いに引退するなんて……」

 

「確かに互いにライバル関係にあった馬ですから余計に因縁染みたものを感じてしまいます」

 

「それにしてもまさかナインティギアが凱旋門賞で負けるとは思わなかったよ。症状を聞けば負けるのも納得するけどそれでもナインティギアが勝ってしまうと思わせるあたり、俺もナインティギアに脳味噌を焼かれた人間になったんだなと思ったよ」

 

「みたいですね。でもメジロマックイーンもかなり強いですよ。でなきゃ宝塚記念でクラフトボーイに勝てませんし、今日いたらめちゃくちゃキツかった」

 

 それから創也と胤が自分が騎乗してきた馬達について語り続ける。そして数日後、JCに招待された馬が発表されるとナインティギアを破ったアーバンシーの名前が入っていて創也は燃えざるを得なかった。

*1
尚、史実では安田記念を連覇している




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尚、次回更新は明日0時です
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