89式和製ビッグレッド   作:ディア

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【注意!】今回のお話しはとある理由で不快に思う方がいらっしゃるかもしれません。そういった方はブラウザバックするか、見なかったことにして下さい。

それはそうと前書きにまた思いついたシリーズが記載されているのでそこもすっ飛ばしても結構です

・この小説で思いついた派生小説2
≫派生小説1では海外だったが日本の古い名馬の血統が時代に逆らって活躍するというのも考えた。因みにグリーングラスやミスターシービー、シンボリルドルフ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、オグリキャップ、サイレンススズカ、アグネスタキオン、フェノーメノについては同作者が別の小説で救済しており、他にもウマ娘二次創作や競馬小説、漫画などで救済している競走馬は割愛している

・父は狂気の逃げ馬、母父は元祖アイドルホース
≫父カブラヤオー、母父ハイセイコー。狂気(的な逃げ足)と狂気(的な人気)を誇った配合。狂気の度合い100倍!
≫因みに父ツインターボ母父カブラヤオーや父オグリキャップ母父ハイセイコーという配合も考えたがそれだと短絡的過ぎるのでやめた

・父は緑の刺客、母父は名勝負師
≫父グリーングラス、母父タケホープ。どちらもステイヤーとして知られ、菊花賞や天皇賞を制した夢の配合
≫なおグリーングラスについては同作者や優駿の門が救済しているがこれ以外に思いつかなかったのでそうしている

・父は犯罪皇帝、母父はカミソリの切れ味
≫父クライムカイザー、母父コダマ。かつてダービーを制し一時頂点に立ったものの近い世代に最強馬がおり、それに巻き込まれてしまった2頭。その2頭の執念と呼ぶべき競走馬が競馬界を席巻する……
≫当初は母父をコダマではなくシンザンにすべきかと思ったがシンザンだと嫌味にしかならないので没にした。逆に父シンザン母父コダマでも面白いかもしれない

・父はサイボーグ、母父はスーパーカー
≫父ミホノブルボン、母父マルゼンスキーと逃げ馬による血統。母父マルゼンスキーは既にその強さが証明されている中でミホノブルボンにロマンを求めて配合した……
≫マルゼンスキーは現実で救済されているが時代的な部分を考えてこうなった

・父は日本史上最強マイラー、母父はマイルの皇帝
≫父タイキシャトル、母父ニッポーテイオー。最強マイラーと最強マイラーの組み合わせ。ニッポーテイオーはハルウララの父としても知られ、その不名誉を削ぐ為に誕生した

・父は世紀末覇王、母父は自由自在の戦闘機
≫父テイエムオペラオー、母父マヤノトップガンによる栗毛コンビ。競走馬オペラオー救済は結構見かけるが競走馬トップガン救済は見かけないのと、奇跡の血量になるので良いのではないかと

・父は世界を照らした満月、母父は波乱の奇跡
≫父アドマイヤムーン、母父ヒシミラクル。アドマイヤムーンの距離適性を伸ばす為の配合だと思って貰えれば。


第75話

 1年最後のGⅠ競走、有馬記念。

 

「え? 自分をテイオーの鞍上に?」

 

 偶々中山競馬場にいた創也に急遽騎乗依頼が来る。それというのも昨年有馬記念でトウカイテイオーに騎乗していた久宝崇也だが、今年もトウカイテイオーに騎乗予定だったが有馬記念当日に落馬してしまい代役として創也が選ばれた。

 

 

 

「頼むっ! 君しかいないんだ!」

 

「確かに有名所でいないのはそうですけど本来自分はメジロルイスに騎乗予定だったんですよ? まあ故障した関係で回避しましたけど」

 

 有名所──つまり、かつてのトウカイテイオーの騎手だった刑部は菊花賞馬ビワハヤヒデに騎乗し、休田は引退している。天才胤もベガに騎乗しており誰もが有馬記念騎乗を抱えており、中山にいてかつリーディング上位の騎手で空きがあったのが創也だった。

 

「そもそも久宝さんが落馬したってこと自体が信じられないんですよね。胤先輩が参考にしているだけあって落馬なんてのは本当にあり得ないというか、なんというか……」

 

 創也がそう言い放つのには理由があり、久宝は騎手としての腕はトップクラスに優れており、天才と呼ばれている胤ですら参考にしている部分が多い。そんな騎手の見本とも言える久宝が落馬するとは思えなかった。

 

「モンドソロンにやられたんだ」

 

「なるほど納得しました」

 

 創也は一瞬で納得する。

 

 

 

 そのモンドソロンは父モガミ、母父パーソロンの月夜牧場出身の凶暴な馬で気性難かつ落とし屋として有名であり、ナインティギアを差し置いて最も人を落馬させた素質馬として有名な馬である。

 

 モンドソロンが凶暴な理由の1つに血統が強く影響している。

 

 父モガミ、母父パーソロンと言えばシリウスシンボリと同じ配合であるがモガミもパーソロンもどちらも産駒が気性難になりやすいとされている種牡馬である。

 

 モガミは祖父にノーザンダンサー、父にリファールを持ちこの2頭は共に気性難で知られておりモガミ自身も気性難であり気性難の産駒を生みやすいサイアーラインである。モガミ産駒であるメジロラモーヌは例外的に大人しかった*1がとある評論家曰く「血を汚す」とまで揶揄されるほどに気性難が多い。

 

 パーソロンに至ってはその気性難が産駒だけでなく子孫まで受け継がれる傾向にあり、パーソロンの曾孫にあたるメジロマックイーンはパーソロンの血を受け継いでしまったから我儘になったと言われるほどにはその遺伝力が高く、同じくパーソロンの直系の子孫でシンボリルドルフとトウカイテイオーが気性難であることにもこのパーソロンが由来していると言われている。

 

 また同じく気性難で知られるタマモクロスも父母父がパーソロンであり厩務員ですら心を開かなかったとまで言われている。

 

 

 

 その配合の代表例であるシリウスシンボリもかなりの気性難で加東が厩務員の如く付き合ってようやく人の言うことを聞けるようになったほどだ。

 

 そんな配合の馬で生まれたモンドソロンは最悪と言っていいほどで、去勢しようにも出来ず、創也と創也の父の二人がかりでどうにか手懐けて人間不信をなくし、旭川の手腕により競走馬デビューにこじつけたが、初見で騎乗すれば騎手の見本例と呼ばれる久宝と言えども落馬するのも納得である。

 

「とにかく騎乗してくれるね?」

 

「そういうことなら仕方ありません。その代わり条件がありますが、そのことを含めて久宝さんにもよろしくお願い致します」

 

「条件?」

 

「自分が乗ってトウカイテイオーが勝ちましたら今後のトウカイテイオーの調教には自分が乗ることです」

 

「うーむ……わかった。やむを得ない」

 

 トウカイテイオーの調教師が頷き、その条件を受け入れる。

 

 

 

「マッチポンプを疑われても仕方ないが、久宝さん。これもトウカイテイオーの為だ、悪く思わないでくれよ……」

 

 創也が引き受けた理由は2つある。

 

 1つ目は久宝を怪我した原因たるモンドソロンが元々は創也を主戦騎手にしていた馬で、久宝に対して引け目があったからだ。

 

 何故主戦騎手であったにも関わらず創也ではなく久宝が騎乗することになったのかというと、そのレースに本来モンドソロンが出走する予定ではなかった為に起きてしまったからだ。創也は事前にメジロの競走馬に騎乗することを伝えていたがその事を忘れていた旭川がうっかり登録してしまい、代打として加東に乗せようにもモンドソロンとは別の気性難の馬に騎乗しており無理だった。もちろん、胤や柴太といった気性難を巧みに操れる面子も全滅。久宝のみが引き受けられる。そんな状況だった。

 

 しかしそのレースが始まる前に久宝が騎乗したら大暴れし、落馬。これを聞いたトウカイテイオー陣営は顔を青くし、有馬記念に出走する馬がいない創也に声をかけ、創也の承諾を貰った。

 

 これをマッチポンプと言わずしてなんというだろうか。

 

 しかしこれでは逆に罪悪感を感じ過ぎてしまい創也が引き受けないのではないかと思うが、もう1つ目の理由が創也を動かしていた。

 

 

 

 もう1つ目の理由はトウカイテイオーにある。トウカイテイオーの身体はこの時点では万全ではあったがこのまま放置しておけば走れる状態ではなくなると見込んでいたからだ。創也はナインティギアやクラフトボーイの身体を何度も気遣っていたからこそ理解しており、トウカイテイオーは有馬記念を完走したとしてもその次のレースで走れなくなるだろう。そう言い切れる自信が創也にはあった。

 

 その問題を解決するには1つしかない。創也自身がトウカイテイオーに付き沿い、治療していくしか手段はない。創也にその技術があるのかと言われたら恐らく全員があると答えるだろう。事実その技術を見てきた加東はサンエイサンキュー*2という昨年有馬記念で予後不良になりかねない骨折をした馬をなんとか生き延びさせることに成功している。もし加東がその技術を持っていなければサンエイサンキューは亡くなっていただろう。

 

 因みにその馬主はサンエイサンキューの症状が治った直後に横領と詐欺のWパンチで逮捕され馬主資格を失っており、サンエイサンキューのことを見ず使い潰そうとしていたので因果応報としか言いようがない。

 

 

 

「よし、行こう」

 

 こうして、創也は有馬記念へ挑むことになる。

 

【さあ、今年の冬のグランプリは一体誰が制するのか!? 各馬綺麗なスタートを切りました!】

 

 中山競馬場のファンファーレが鳴り響き、年末の大一番の有馬記念が始まった。

 

 

 

 有馬記念というレースはつい近年創設されたJCとは異なり1955年から続く大レースでその歴史は日本ダービーなどには劣るが深い。それまでは中山大障害という中山競馬場で行われる大レースはあるにはあったが、日本ダービーや天皇賞秋が開催される東京競馬場や菊花賞や天皇賞春などを受け持っていた京都競馬場に比べ明らかに劣っていたのを理由に中山グランプリという名称で創設され、その後日本競馬委員会*3の理事長だった有馬氏の功績を称え有馬記念と名称を変え、現在に至る。

 

 そんな有馬記念の特徴は八大競走の中で唯一外国産馬も参加出来るという点があまりにも大きい。

 

 1993年現在でこそ、GⅠやGⅡといったグレード制という格式があるが1984年よりも前の時代はグレード制ではなかった。1983年までは皐月賞、日本ダービー、菊花賞、桜花賞、オークス、天皇賞春、天皇賞秋、有馬記念の8つのレースが最高の格のレースであり八大競走と呼ばれ、現在もその名残で呼ばれている。

 

 しかしこの八大競走のうち春天、秋天、有馬記念を除いたレースはクラシック登録をしていなければ出走出来ず、オグリキャップなどがその被害に遭い、更にその春天、秋天も外国産馬は出走出来ないという規則になっている。

 

 唯一有馬記念のみが完全に実力のみを認められた馬が出走出来るレースで、日本のレースに満足に出走出来ない不遇に泣いた外国産馬達の救済措置のレースであり、またそんな外国産馬達を大舞台でねじ伏せることが出来る唯一の大レースともいえた。その為一時はその年に現在のGⅠ競走に相当するレースの中で有馬記念のみを制した馬が年度代表馬になることもあった程でその格式の高さが伺える。

 

 

 

 そんな有馬記念に創也は1989年にサードプレジデントに騎乗して以来3勝という素晴らしいを通り越して前人未到の快挙を成し遂げており、その人気は凄まじく、トウカイテイオーの代打騎手が創也に変わっただけで一気に3番人気まで押し上げられた。

 

 だが創也が騎乗しただけで3番人気に支持されるほど競馬民や馬券師は甘くない。それでもトウカイテイオーを支持した理由はあった。

 

「凄い馬体だ……今なら全盛期のナインティギアにも勝てそうだ」

 

 トウカイテイオーの馬体の仕上がり方がかつて無いほどに仕上がっていたからであり、競馬民や馬券師はその仕上がり方を見て馬券を買うかどうかを決める。

 

 しかしそれでも馬券を買う理由にはなり得ない。トウカイテイオーは昨年の有馬記念から一度もレースに出走することなくこの有馬記念に出走してきた。長期休養明けGⅠ競走制覇はサクラスターオーとクリヒカリの中202日があるがそれが最長記録で中363日で制覇するなど無謀と考えられていた。少なくとも複勝式では6番人気に落ち着いていた。

 

 だがそれでもトウカイテイオーが人気になったのはパドックでの出来事だった。

 

「あっ、あれは!?」

 

「テイオーステップだ! どけ! トウカイテイオーの馬券を買わせてくれ!」

 

 トウカイテイオーが出す独特の仕草、テイオーステップはトウカイテイオーが絶好調の時にしか出さない仕草で、昨年の春天からテイオーステップをやらなくなったから負けるようになったと吹聴されるくらいには縁起が良く、これを見た観客は慌ててトウカイテイオーの馬券を求めるが既に時遅く、時間切れとなり単勝の人気のみが上がりゲートインしてしまった。

 

 

 

【ここで抜け出したのはビワハヤヒデとトウカイテイオー! えっ、トウカイテイオーが来た!?】

 

 そして最後の直線、ビワハヤヒデが先頭に立ちそれを追走するトウカイテイオー。

 

「嘘だろうっ!?」

 

 それに気づいたビワハヤヒデの鞍上刑部が驚愕し、鞭を振るうとビワハヤヒデが更に後方を千切る。

 

 ──逃がさないよ! 頭でっかち! 

 

 だがそんなビワハヤヒデの加速をものともせずトウカイテイオーが残り150mの地点で捉えた。

 

【トウカイテイオーが捉えた、トウカイテイオーが捉えた! ビワハヤヒデが苦しいか、ビワが粘るがトウカイテイオーが完全に抜け出した! トウカイテイオーだ! 1馬身、2馬身、3馬身! 突き放すトウカイテイオー、トウカイテイオーだ! 奇跡の復活! 1年ぶりの復活!】

 

 創也が鞭を振るうまでもなくビワハヤヒデに4馬身差をつける圧勝。そのビワハヤヒデが3着のナイスネイチャに7馬身も差をつけ、しかもその差がほとんど縮まらないままゴール。ビワハヤヒデが決して弱い訳では無いということを証明しており、それを楽々とトウカイテイオーが上回った。このレースはまさに伝説の名勝負として語り継がれることになった。

 

【月城騎手、乗替であるにも関わらずお見事でした】

 

【いやー、あれは私が乗らなくてもビワハヤヒデに乗った刑部さんは当然、落馬で怪我をした状態の久宝さんでも事故らない限り勝てたと確信してます。2着に食い込んだビワハヤヒデも弱い訳では無いのにただ乗っていれば勝てるまでに仕上げたテイオーの関係者に感謝していますよ。でもあの強さはズルいですね。時代によっては無敗で三冠馬になれたクラフトボーイがクラシックで2度も負けた理由がようやくわかりました。脱帽です】

 

 トウカイテイオーに創也がそう恭しく頭を下げる。

 

【月城騎手ありがとうございました。それでは元松調教師、トウカイテイオーが1年ぶりに勝利しましたが心境は如何でしょうか?】

 

 トウカイテイオーの調教師である元松にインタビューアーがそう尋ねると涙を豪快に流しており聞けそうにない雰囲気で他の調教助手や厩務員、馬主も同じようなものであった。

 

【もうね、凄いですよ。こんな奇跡はないと思います。私達は確かに万全に仕上げましたがそれでも勝てるかどうかは半信半疑でした。しかし月城騎手は私達のことは当然、トウカイテイオーも信じてレースに挑んだ結果があのような圧勝に繋がったと思います】

 

 早口で喋りその場を退出する元松調教師の目からは涙が止まらず、後にこの時のインタビューは伝説となった。

 

 

 

 そんなことがありながらもトウカイテイオー陣営はその後、創也をトウカイテイオーの主戦騎手にして活躍し始めた。

 

【やはり関西は強いビワハヤヒデ! トウカイテイオーは惜しくも2着に敗れました!】

 

 当初陣営は産経大阪杯から出動しようとしたが身体の調子を見て創也がストップをかけ宝塚記念のみに絞るが、宝塚記念でビワハヤヒデにハナ差の2着と敗れ信頼を失い、凱旋門賞遠征を取りやめ秋の天皇賞に出走することになる。

 

【トウカイテイオーだ、トウカイテイオーだトウカイテイオーが5馬身、6馬身、突き放して圧勝! なんとビワハヤヒデは6着に破れました!】

 

「やったなテイオー、あの白いのに勝ったぞ」

 

 ──もっと褒めて褒めて! 

 

 秋の天皇賞でビワハヤヒデにリベンジを果たし信頼を取り戻した創也とトウカイテイオーのコンビ。創也が降りるとトウカイテイオーが創也に顔を擦り付けて甘えると創也もそれに応え撫で返す姿は微笑ましいものであった。

 

「やっぱり強いなあのコンビ、テイオーに月城が乗っているんだから当たり前なんだけどね」

 

「でもテイオーも本来は気性難って聞くよ。あれを見ている限りとてもそうには見えないけどね。案外名コンビかもしれないな」

 

 

 

「ヘイ、ソーヤ。久しぶりダネ」

 

「ミスターD.P。お久しぶりです」

 

 そして運命のJC、このレースにはかつてイージーゴアとサンデーサイレンスに騎乗したD.Pが来日。

 

「サードプレジデントのコトハ今でも忘れないヨ。よくもイージーゴアとサンデーサイレンスに勝ってくれたネ。屈辱だったヨ」

 

「あれは勝負ですからね。恨まないで下さい」

 

 D.Pは名馬とも言えるこの2頭に騎乗して置きながら日本の競走馬に負けたということが屈辱でサードプレジデントに対して好意的ではなかった。

 

「デモネ、あれからミーはサードプレジデントみたいな理不尽モンスターが現れても負けないヨウにしてスキルを磨いてキタヨ。今度のJCはミーの乗るパラダイスクリークが勝たせて貰うネ」

 

「こっちこそ負けませんよ」

 

 しかしそれも騎乗していく間に自らの騎乗技術を上げる技術に昇華し、パラダイスクリークをBCマイルとBCクラシックの他にGⅠ競走4勝した名馬に育てあげ、JCに出走登録してきた。幸いなことに日本競馬委員会が騎手の旅費を持ってくれることもありD.Pはこのパラダイスクリークの鞍上になることが出来、因縁の相手である創也に勝負しに来ていた。

 

【トウカイテイオーだ、トウカイテイオーだ! トウカイテイオーが抜け出した! トウカイテイオーが4馬身差をつけてゴールイン! これで父仔JC制覇の偉業を成し遂げました! 2着にパラダイスクリーク、3着にマーベラスクラウン!】

 

 結果はトウカイテイオーの圧勝。トウカイテイオーもクラフトボーイに勝てるだけの実力は持っており、特に関東ならばその強さを無類に発揮する。関東の中距離のトウカイテイオー相手に勝てる相手は歴代でも5頭もいないだろう。そんなトウカイテイオー相手に遠征で弱っているパラダイスクリークが勝てる道理はどこにもなかった。

 

「ソーヤ! コングラッチュレーション、オメデト」

 

「サンキュー、ミスターD.P。パラダイスクリークも強かったですよ」

 

「負けちゃ意味ナイネ。勝てば何も言うことなかったヨ」

 

「そりゃそうですよ。でも今度はそっちにいきますよ。何せアルツさんから年が明けたらケンタッキーダービーでフルハートって馬に乗るように依頼が来ていますからね。その時に顔を合わせることになるかもしれません」

 

「楽しみにしているヨ。こっちはティンバーカントリーで迎え討つネ」

 

「確か今年のBCジュヴェナイル馬でしたね。でもダービーで勝てないんじゃないんですか?」

 

「そのジンクスはディンバーカントリーで破ることになるヨ」

 

「じゃあ大人しくフルハートでそのジンクスを守らせましょうか」

 

「守れるといいネ。それじゃ失礼するヨ」

 

 D.Pが去り、創也がトウカイテイオーの様子を見に戻ると、脚に違和感を感じ取り触れる。そして創也の顔が曇る。

 

 

 

「どうした月城君?」

 

「もしかしたら有馬記念まで間に合わないかもしれません」

 

「そうか……」

 

「とはいえ検査でも引っかかるか分からないレベルの軽い屈腱炎なんですが、それでも無理をすれば重くなり、引退することになります。すみません」

 

「いや君が謝ることじゃない。むしろ鞭をほとんど使わないで馬なりでよくここまで勝ってくれた。他の騎手だったらもっと負けていた──いやそれどころか出走すら出来なかったかもしれないから感謝の言葉しかない」

 

「恐縮です。しかしまだ走れるとかそのようには思わないのですか?」

 

「確かに思う部分はある。しかし出来ることは全てやり尽くした上での屈腱炎発症なんだろう? なら仕方ないし、馬の体調に関してはどの調教師や厩務員、獣医よりも君の方が上だ」

 

「誠に恐縮です。しかしいつ引退式を行いますか?」

 

「今しかない」

 

「ええっ!?」

 

 馬主がそう告げると創也だけでなく調教師や厩務員が驚きの声をあげる。

 

「今は流石に……」

 

「わかっている。しかしこのJCをラストランと明確にすればテイオーが屈腱炎が理由で引退するという理由にはならないし、今日引退式をやらなければ不自然に思うだろう? 何、私が伝え忘れていたことにすればテイオーではなく私にヘイトが向くから君たちは安心したまえ」

 

「……はい」

 

 

 

 その後トウカイテイオー陣営が急遽JCをラストランで引退式も行うと発表すると、日本競馬委員会は大騒ぎ。トウカイテイオーの馬主に抗議する役員や競馬ファンが殺到する。しかしそれでもトウカイテイオー陣営は引退式を強行し、種牡馬入りを果たす。

 

 その後トウカイテイオーはGⅠ馬を輩出するがSS(サンデーサイレンス)3P(サードプレジデント)という最強種牡馬達が君臨していたこともあり波に飲まれる。しかし3Pを母父に持つトウカイテイオー産駒フジミエンペラーが米国で活躍しサイアーラインを繋げることになるのは今はまだ誰も知らない。

 

 またトウカイテイオーの馬主は干されかけるが創也がシンボリ軍団やメジロ軍団、舎太と言った大グループに頭を下げたことで収まりを見せ、引退してから約5年後の1999年7月にようやくトウカイテイオーが引退した真実を関係者全員で語ることで収拾がついた。

*1
そもそもメジロラモーヌという馬が異質過ぎる。モガミ自身やその産駒に似るどころか正反対なのだから

*2
馬主が起こした胸糞事件の被害馬。史実では馬主のめちゃくちゃなローテーションで潰され予後不良という悲惨な結末を送っている

*3
史実のJRA(日本競馬会)




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尚、次回更新は明日0時です
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