≫フルハート編が終わったらどうするかっていうと……まだほとんど手を付けていないのが現状なのでしばらくお待ち下さい
【ホクトベガとシガーが今並んだーっ!】
ホクトベガがシガーと並び、ホクトベガ陣営は勿論、日本のファンから大歓声が湧き上がる。
ホクトベガはサードプレジデント、ナインティギアに続いて世界のGⅠ競走を獲れるだけの素質があり、彼らはその強さを確信していた。しかし相手が米国史上屈指の実力を持つシガーでは無理なのではないか?という気持ちもあった。その不安を掻き消そうとホクトベガが追走し、観客達が歓声を上げるのは当然のことだった
「(何がなんでも勝ってやる! 俺が誰かの劣化だと言われても良い! だけどホクトベガに乗るレース、このレースに限っては誰の劣化とは言わせねえ!)」
加東は創也を始めとしたリーディング上位の騎手達──特に近くにいる創也やシリウスシンボリ騒動の一因となったもう一人の騎手刑部とは比較されている。
その理由はナインティギアとシリウスシンボリに原因がある。どちらも稀代の気性難であり、まともに調教することすら難しいとまで言われた癖馬で加東は辛抱強く寄り添い、その馬達と奇跡的に良好な関係を築くことが出来、成績を残したが世間一般的な評価はそうではない。
二回目の春天のナインティギアに騎乗して勝てるはずなのにメジロマックイーンに負けてしまった。これが加東が創也よりも劣ると言われる理由である。その前年で創也が騎乗した際は優勝こそ出来なかったがメジロマックイーンよりも早く入線したし、3回目の春天で創也が騎乗したナインティギアはメジロマックイーンやライスシャワーを打ち負かしている。あの場で加東ではなく創也が騎乗していたならナインティギアは2回目の春天を勝てたと何度も言われ続け、比較され続けている。
そしてもう一人の騎手刑部と比較されるのはシリウスシンボリに騎乗した際に騎乗ミスが目立っていたのが余りにも大きい。シリウスシンボリ騒動を起こした馬主も加東を降ろそうとした際に「一度ならまだわかるが二度もやられると任せられない」と供述しており、「その点刑部は日本で一番優れた騎手だと思っているし、ミスをする、加東を降ろそうとするのは馬主として当たり前の主張」と正当性を主張している。
これらのことから加東は常に創也や刑部を始めとした騎手と比較されては嘲笑われていたのだ。
だが加東もいつまでもやられっぱなしな訳ではない。彼はホクトベガでエリザベス女王杯を勝ち、そしてダート重賞で10連勝を飾り世間の見る目が変わり、「劣化月城」や「癖馬用騎手」などという異名から「ホクトベガの相棒」へと変わっていった。
そんな期待の目もあり加東は何がなんでも負けられない。シガーを追い詰め、ホクトベガはシガーを引きちぎっていく。
【シガーが粘るがホクトベガが一歩抜けたか!?】
「このままでいいのか!? フルハート!」
──よくないに決まっているじゃん!
加東の奮闘に創也が奮い、フルハートを奮い立たせるとそれに応えるようにフルハートはシガーに追いつき、そして追い抜いた。
【フルハートか、フルハートだ! さあ日本人騎手のワンツーか!?】
「創也ァァっ!」
「加東ぅぅぅっ!」
互いにメンチを切り合い、互いの馬を奮い立たせる二人。互いに日本で活動していただけに騎手としてのライバル意識があった。
「(ここで勝てばもう阻むものはない! だからフルハート、勝ってくれ!)」
「(絶対にお前には負けん! 今度ばかりは俺が勝つ! ホクトベガ、俺達で勝とう!)」
フルハートとホクトベガの一騎打ち──誰も彼もがそう見えた。
1頭内側から鹿毛の馬が抜けだし、内側を見ていた創也が目を丸くする。
【シガー! シガーが差し返したぁぁぁっ!!】
「(馬鹿な……! 何故お前がココにいる!?)」
その鹿毛の馬──シガーがフルハートらをあっさりと差し返しゴール板を通過した。
【今ゴールイン! 恐ろしい勝負根性! 恐ろしい強さ! これが世界最強のシガー!】
「なんて奴だ……」
誰もがフルハートとホクトベガの一騎打ちになったと思ったその瞬間、シガーが加速しゴールまで押し切った。
「あの状態でフルハートやホクトベガを差し返せるのはサンデーサイレンスかサードプレジデントくらいしかいない。そんな馬と巡り会えた私達は最高に運が良い」
そのシガーの強さは創也や加東は勿論、シガーの関係者ですら目を丸くする程で、レース関係者はシガーの強さにただただ驚くばかりだった。
「世界は遠いなぁ……ホクトベガ。乾坤一擲の騎乗をしたと思っても届かないなんてな」
レースが終わり着順掲示板が点灯すると、シガーはそのまま1着でありフルハートは2着、ホクトベガは3着であった。
そんな加東がホクトベガにそう愚痴るとホクトベガの関係者達は暖かい声で迎えてくれた。
「よくやったよ加東君! あわやというところまで迫ったんだ! これで君の腕を疑う者はいないよ!」
「どうせなら勝てば何も言うことはないんですが、あの2頭は強かった。私もホクトベガも全力を尽くしたんですが彼らには届きませんでした。勝たせてあげられなくてすみません」
「いやいやいや、十分! 十分良くやってくれた! 後は環境を整えるだけで勝てる! それでも勝てなかったら彼らが強すぎただけのこと。だからこのまま遠征して勝ち捲ろう!」
「ええ、そうですね。本当に良い馬ですよ、ホクトベガは」
「エクスキューズミー? 少し良いですカ?」
加東がそうやってホクトベガの関係者と話していると創也とフルハートの馬主であるアルツが声をかけてきた。
「ご紹介します先生。こちらがフルハートの馬主のアルツ氏です」
「以後お見知り置きを。ミスター」
「どうも。私は日本で調教師をしています能仲と申します」
「私はホクトベガのオーナーの滋賀森です」
「騎手の加東です」
「加東については存じているヨ。ナインティギアのもう一人の騎手ッテね」
「恐縮です」
「それでミスターアルツ、私達に一体何の用でしょうか?」
「それは勿論、ホクトベガの引退後についての交渉をしニ」
「引退後ですか……引退したら産まれた牧場で繁殖牝馬となるでしょう。牧場側は何としてでもホクトベガを譲らないと思いますよ」
滋賀森がそう告げたのには理由がある。
ホクトベガが産まれた牧場はかつてリボーの全妹ロアー等を輸入したもののその子供が全く走らず億単位で損害を受け一時期は低迷していた。そんな最中に現れたのがマックスビューティで桜花賞とオークスを勝ち、立て直したがそれでも繁殖牝馬の質はマックスビューティのみに頼ることになっていた。そしてその初子マックスジョリーと同時期に産まれたホクトベガ(ロアーと同時期に輸入されたシャークスキンのひ孫)がクラシックを賑わせ、牧場としては何としてでもホクトベガを基幹繁殖牝馬にしたかった。
「300万ドル(約3億円相当)と言ってもですカ?」
「300万ドル……!?」
創也がその値段に目を丸くする。幼駒で3億円というのはいくらか聞いたことはあっても繁殖牝馬で3億円はあり得ない。幼駒の方が値段が高い理由は競走馬としても繁殖馬としても見込まれての価値があるからで繁殖牝馬は自身の繁殖のみにしか期待出来ない。その上年に50〜100頭近く産ませる種牡馬とは違って1年で1頭しか生み出せないという背景がある。
そんな繁殖牝馬を300万ドルで購入するとアルツは言っている。その誘惑に滋賀森が負けそうになると創也が口を開いた。
「ミスターアルツ、滋賀森オーナーに言ったところで良い返事は得られませんよ。私の妻みたいに牧場と癒着している訳じゃありませんから」
「Really? それジャその牧場に交渉しよウ。一応滋賀森オーナーからも口添えお願いしたい」
「わかりました。しかしあまり期待しないで下さいよ。何せホクトベガを生み出した牧場のGⅠ勝った名牝はホクトベガ以外にマックスビューティしかいないんですから」
「そこは私の交渉次第ダヨ。とりあえずはそんな訳デ、これからよろしく頼むヨ」
アルツはそれだけ言うと創也と共に去っていった。
後日、アルツはホクトベガの交渉に来日し牧場と交渉するがやはり良い返事は得られなかった。しかしホクトベガの牡馬の産駒をアルツが割高で購入するという契約を交わし、ホクトベガとサードプレジデントとの間に産まれた牡馬ホクトミザルとナインティギアとの間に産まれた牡馬ナインティフォースが米国のダートと芝で大活躍することになるが、それはまた別の話しである。
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