89式和製ビッグレッド   作:ディア

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第82話

【フルハートが強い強いっ! フルハート圧勝っ!】

 

 ハギノブローを突き放しフルハートが圧勝という結果に終わったJC。日本勢が世界の壁を再び実感すると共に3P産駒かつ日本生産馬であったことやフルハートに創也が騎乗していたことから、馬自体のレベルは日本とそう大差ないと競馬関係者は見込んでいた。

 

 だが同時に厩舎等の所謂馬の環境が海外に比べてレベルが低いという声が多数挙がりその認識は間違っていなかったと改めざるを得なかった。

 

 

 

「やはり向こう(海外)は騎手や馬よりも調教師の方が称えられているようだ」

 

 独自に馬主の一人が日本国外の調教師の実態について調査をすると騎手や馬自身よりも調教師に名誉が高くなる傾向があるという結果になり、その話しが広まっていき、いつしか馬主達は日本の調教師よりも海外の調教師達を個人で雇い、外厩で調教を行わせるといった手段を取る。

 

 実際のところ日本に限らずに調教師の方が名誉を称えられているのは欧州等の地域に限定されており、フルハートの所属する米国等では騎手や馬自身の名誉の方が称えられている。

 

 しかし話しが広まり過ぎた上に平成に入ったとはいえ昭和気質な雰囲気から抜け出せないこともあり、馬主の方針で外厩をすることが増えてしまった。坂路がまだ充実している栗東トレセンはまだマシだがそうでない美浦トレセンは悲惨と言わざるを得ず、ほとんどの厩舎から馬の姿が消えることもあった。

 

「流石にこれは無視出来ませんな」

 

「さっさと予算を組みましょう」

 

 その事態を重く見た日本競馬委員会は腰を上げ、速やかに予算を出し各トレセンの施設を充実させることを発表。坂路以外の調教施設のグレードを上げることに成功するのだが、それはまた別の話しとなる。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 JCに出走した日本の有力馬達は激走によりほとんど有馬記念を回避。有力馬はマヤノトップガンが頭一つ抜けており、次点にヒシアマゾン、他はどんぐりの背くらべのような状態だった。

 

【さあサクラローレルだ、サクラローレルだ! サクラスターオーの無念を晴らすっ! 先頭はサクラローレルぅぅぅっ! マヤノトップガンもヒシアマゾンも捻り潰したのはサクラ軍団のエース、サクラローレルです! 2着にマーベラスサンデー!】

 

 伏兵サクラローレルがヒシアマゾンもマヤノトップガンも抑え、見事に優勝する。ハギノブローに春天に敗れたとはいえナリタブライアンに先着しており、実力は確かにあったのだがハギノブロー等の存在もあり影が薄くなっていた。そんな中での有馬記念優勝に観客はどよめき、騒然とする。

 

 

 

 そんなこんなで日本競馬の年末も終わり、賞の選考会となったのだがかなり荒れた。

 

 何せ例年であれば年度代表馬になると思われる芝中長距離で活躍した馬は古馬も4歳もその年内に皆GⅠを1勝しかしておらず似たような成績の為投票しても収拾がつかない。その為別の路線で決めることになり2頭の馬に決めることとなる。

 

 高松宮杯*1とスプリンターズSを勝った短距離路線のフラワーパーク。

 

 海外ダートで実績を出したホクトベガ。この2頭が年度代表馬の座を争っていた。

 

 日本競馬委員会が定めたGⅠの勝利数のみならフラワーパークに軍配が挙がるが、国内ダートレースは格付けをしていなかっただけでホクトベガ自身の実績はそれ以上である。三冠馬ナリタブライアンのいる高松宮杯を勝ったフラワーパークか、世界最強馬シガーの連勝記録を止めたホクトベガかのどちらかを選ぶことになったがシガーが適性内であったのに対してナリタブライアンが適性外ということもあり、ホクトベガに軍配が挙がり年度代表馬の座を獲得した。

 

 これは勿論例年には見られない年度代表馬の選考の仕方だった。何せこれまでの年度代表馬といえばクラシック三冠や古馬中長距離で活躍した馬から選抜する。サードプレジデントやナインティギアはこれに該当し、年度代表馬に選抜されている。

 

 しかしホクトベガはそのどちらでもない上に牝馬である。牝馬が年度代表馬に選抜されるだけでも異例でありトウメイ以来の快挙となったのだが、それ以上にダートの実績のみで年度代表馬になる例は初である。

 

 サードプレジデントもかつては最優秀ダート馬となったが、芝での実績もあってこそのものでありホクトベガのように完全にダートのみの戦績で認められた訳ではない。

 

 しかし牝馬だろうとダート馬であろうと実績さえあれば認められる。この出来事がその後のダート路線や牝馬路線に大きな影響を与えることとなる。

 

「いやー、ホクトベガが年度代表馬か。うちの地方も盛り上げていかないと」

 

「いっそのこと地方と中央の交流レースにするんじゃなくて国際レースにした方がよくないですか? そうすれば地方のレベル上げにもなりますし」

 

「それだ!」

 

 地方競馬委員会の委員達が会議した結果、川崎記念やかしわ記念、帝王賞、マイルCS南部杯、東京大賞典と言った既存のレースを国際重賞競走にするように呼びかけ、翌々年には国際重賞及び国内GⅠ競走として認められることになる。国際グレードと国内グレードが一致しないのが玉に瑕であるが、それでもダート競走を中心にしている米国や韓国などには人気であり、特に韓国は日本競馬の賞金も格も韓国競馬よりも上なこともあり招待された場合はほぼ毎年必ず遠征するくらいには人気が高かった。

 

 

 

 その一方で短距離路線はというとこちらも充実しつつあった。フラワーパークが年度代表馬に選ばれなかった代わりに特別賞を受賞した為、日本競馬委員会は短距離路線に力を入れ始めようとしていた。しかし動きが地方競馬委員会ほどではなかった上に国際グレードのズレなどの観点からかなり時間を要し、結局国際GⅠ競走になるには21世紀まで待つことになる。

 

 

 

 そんな日本競馬の世の中だが、同時にある課題が出てくる。

 

「3P産駒に対抗するにはどうするか?」

 

 サードプレジデントを父に持つ馬が余りにも活躍しており、リーディングサイアーこそサンデーサイレンスが2年連続で保持したが質で言えばダントツでサードプレジデントの方が上でありJCを制したのもサードプレジデントを父に持つフルハート。おまけに血統面でもノーザンダンサーの血を含まず、程よいところにバックパサーの血があるおかげで意図的にアウトブリード、インブリードの調整が可能。しかも馬場状態や距離も問わない産駒が多い。日本ではサンデーサイレンスが活躍したこともあってか数字に現れていないが欧州では愛ダービーを勝ったゴールデンルーラー(母ダリア)等各国で3P産駒がダービーを制し、ステークス勝利も多数おり、国によってはリーディングサイアーとなった地域もある。

 

 しかしながら本当にサードプレジデントによって国が侵されているのは米国である。初年度産駒のフルハート、その次年度に現れたエルグレード(母グレードレディエム)はケンタッキーダービーを制し、サードプレジデントはリーディングサイアーとなり、その翌年も日本生産馬の3P産駒のケイエフジョン(母トウカイナチュラル)がケンタッキーダービーを制し最早「3P産駒にあらずんば競走馬にあらず」と言わんばかりに栄えた。米国の競馬関係者がケンタッキーダービー馬を重視することもありその影響からか馬主や生産関係者から大人気でミスタープロスペクターやシアトルスルー、ダンジグと言った大種牡馬達が一時見向きもされない異常事態が出来てしまった。

 

 

 

【さあフルハートが世界制覇へ向けて独走態勢に入った! 千切る千切るっ! 完勝! 日本で産まれ米国に渡り育ったフルハートが兄ナリタブライアンを彷彿させる強さを見せました!】

 

 そんな米国馬の筆頭、フルハートは創也と共にドバイWCを圧勝。その勢いのままKGⅥ&QESでもスウェインを抑え、世界制覇へと近づいていく。

 

 

 

 その一方で日本では宝塚を勝ったマーベラスサンデー以外SS産駒の大物が現れないこともあり3P産駒が絶好調。我が世の春と言わんばかりに活躍し始めていた。

 

【先頭はマスタプレジデント、そとからシルクジャスティス、メジロブライトも飛んでくる。しかしマスタプレジデントだ! マスタプレジデント、堂々二冠達成! ミホノブルボン以来無敗の春二冠制覇! 後は父仔三冠の偉業を見るだけとなりました!】

 

【大外からチュールレース、チュールレースが勝ちました! 樫の女王はチュールレースです!】

 

 これだけ勝てばサードプレジデントのリーディングは貰ったも当然──そう思われたが、肝心のマスタプレジデントがダービーの後故障し9ヶ月の長期休養に入ったことや圧倒的に産駒の数が足りないこと、他に重賞を勝った馬が少なかったこともあり、またしてもリーディングサイアーの座を逃してしまう。

*1
後の高松宮記念で距離は現在と一緒




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