≫心理学ではそれまで周囲に与えていた強い印象をポジティブに裏切るゲイン効果のこと
≫ウマ娘でギャップ萌えの代表例はメジロライアンが該当し、スポーツを嗜むボーイッシュな少女なのに少女趣味だったりと昔のギャップ萌えをこれでもかと言わんばかりに詰め込んでいる。というかだいぶメジロ家はギャップ萌えだったりツンデレだったり、野球&スイーツ大好き面白お嬢様だったり、ギャルだったりと個性がてんこ盛りでキャラの渋滞が起きていないのが半数以下な気がする
「これからどうするべきか……」
夏も終わりを迎え、舎太グループはある1頭の馬について悩ませていた。その馬とはナインティギア。ナインティギアの実績はGI競走10勝。秋古馬三冠を2度も制し、JCを三連覇、英国が誇る最高峰のレースKGⅥ&QESも制した凄まじい偉業を成し遂げた名馬である。
「あの気性でまさか種付け嫌いだとはな……」
そんな名馬が舎太グループ全員の頭痛の原因となっている理由、それは種付け嫌いという種牡馬にあるまじき欠陥の持ち主であることだ。
「結局我々が用意した馬で積極的に種付けしたのって数頭くらいしかいませんでしたよね」
「ああ……」
「結局無理矢理種付けさせるしかなかったとはいえ、あそこまで嫌うとどうしようもないですよ。最後の方なんかスタッフを殺そうとしましたし」
「何故ナインティギアは他の兄弟とは違うんだ? あの2頭は大人しいはずだろうに」
「やはりノーザンダンサーの血が影響しているんじゃないですかね?」
あの2頭とは他所の牧場にいるサードプレジデントとクラフトボーイのことであり、彼らは種付けが上手くスムーズに済ませる為か種付けされた牝馬は大人しくなる上に受胎率も共に95%を越え非常に高い。特にクラフトボーイは1日に10頭こなしたとまで言われるほど絶倫な上に、当て馬としても非常に優秀でクラフトボーイが側にいるだけで牝馬だけでなく一部を除いた牡馬も発情し、種付けで発情しない場合はまずクラフトボーイを側に置いてから種付けさせるというとんでもないことをしている。
話しは逸れたがサードプレジデントもクラフトボーイも非常に大人しく種付けもスムーズにいくのに対してナインティギアはまるで選り好みするかのように繁殖相手の牝馬を定め、それに逆らうと凄まじい暴挙に出る。
「牝馬だろうと構わずに蹴り飛ばすわ噛み付くはで暴れ出すからなあ。よくあんな馬を旭川先生は預かっていたな……」
ナインティギアの気性が荒いのは牧場内では周知の事実であり、それ故に細心の注意を払っているのだが、その嫌がることに種付けが含まれているのは思いもよらず舎太グループの関係者が頭をかかえる。
「試しに目隠ししても触れた途端に違う馬だと認識して暴れましたし、選り好みする牝馬の共通点もないですし、もう手のうちようがないですよ。今年も何とかやれましたが来年はどうします? 売り飛ばしますか?」
「初年度の産駒で結果を出せなかったら月夜牧場に返品しよう。それまでは我慢してくれ」
「てことは今年の成績次第で決まるのか」
「仕方ないだろう。これも舎太の為だ」
そんなこんなで舎太グループはナインティギアの処分を決めたがナインティギア産駒が大暴れ。数少ない産駒から新馬戦を勝ち上がるのは勿論のこと重賞ウィナーを輩出しナインティギアは保護されることになるのだがこの時はまだ知らなかった。以降舎太グループから畏怖の対象となり、ナインティギアの機嫌を損ねないようにと細心の注意を払われることになる。
そして種牡馬としては同期かつナインティギアの半弟にあたるクラフトボーイはどこの牧場に所属していたかというと意外なことに産まれ故郷の月夜牧場ではない。シンボリ軍団の牧場にいた。
何故クラフトボーイが月夜牧場ではなくこの牧場にいるのかと言うとトウカイテイオーが深く関わってくる。当初こそクラフトボーイは月夜牧場に在籍しておりそこで余生を過ごす予定であったのだが、1994年のトウカイテイオーの電撃引退によりトウカイテイオーの馬主が干されかけるという事案が発生した。創也はトウカイテイオーに騎乗させて貰った恩から馬主を救うべく舎太グループやメジロ軍団、シンボリ軍団と馬主の中でも影響力のある人物に頭を下げ、舎太グループはナインティギアが頭を悩ませていたものの創也のおかげで購入出来たという借り、メジロ軍団も創也との繋がりがあったこともあり、快諾したがシンボリ軍団はそうではなかった。
シンボリ軍団の要求の当初は「サードプレジデントの種付け権利を優先して欲しい」というものであった。ここまでなら緩いと思われるがサードプレジデントの種付け条件は通常とは異なり緩くはなかった。無料ではあったが、一つの牧場につき種付けする相手の数の制限があったのと月夜牧場との賭けに負けたらその受胎した牝馬は出産するまで月夜牧場で預かり、それによって産まれた仔馬は美亜に所有権が移るというものである。
シンボリ軍団はその条件の一つである数の制限を緩くして欲しいと創也に持ちかけた。勿論それを快諾する訳にはいかない。そもそもこの条件は各生産牧場の発展の為につけた条件であり、一部の牧場にその制限を緩くしたら負担は他の牧場に負担が来ることになる。
理由を説明し条件を受けられないことを話すと月夜牧場で繋養しているクラフトボーイをシンボリ軍団に譲って欲しいと交渉を持ちかけられ、創也は金銭譲渡という形で受け入れ、クラフトボーイは故郷を離れ現在に至る。
「しかしあそこまで安価でクラフトボーイを手に入れられたのは幸いでしたねオーナー」
「そうだね。でもクラフトボーイだけに頼り切りというのも問題だし、外国産馬にも目を向けてそこから繁殖馬を見つけよう」
「まああの気難しいライオンとも仲は良いみたいですし、それだけでも価値はあったと思いますよ」
このオーナーの判断は正しくクラフトボーイの産駒は兄達とは異なり走らないものが多い上に走ったとしても故障しやすい傾向にあり、シンボリ軍団を悩ませることになるが早めに外国産馬に目を向けていたおかげでシンボリ軍団の衰退はあったものの緩く、シンボリインディやシンボリクリスエスといった外国産馬達のおかげでいつでも一発逆転が狙える状況までにあった。
更にサードプレジデントが国内だけでなく外国でも活躍したこともあり、父サードプレジデントや母父サードプレジデントの競走馬ばかり購入されるようになりそれで成功したものだから、いつしかクラフトボーイは月夜牧場へと売却され、繁殖入りした産駒達も別の牧場へと売却されていった。
しかしながらクラフトボーイは父や母父としてではなくそれよりも先の代に入ってからが本番であったのだが、それはまた別の話となる。
そんな種牡馬事情が動いている中、ナインティギアは舎太グループの牧場でトウカイテイオーに絡まれていた。
──黒いの! 今日こそは僕の力を思い知れ!
──全く煩いガキだ。また負けるくせに
──ムキィィっ! 煩い! 今度こそ僕が勝ってやるんだから!
そんなやり取りが聞こえそうな舎太グループの放牧地ではナインティギアとトウカイテイオーによる争いが始まろうとしていた。その争いとは如何に一度に人間を自分の近くに寄せられるかという遊びだ。
ナインティギアに勝ち目がない勝負かのように思えるが意外にもナインティギアの人気は高い。その理由が自分を害する人間に対しては徹底的に容赦なく痛めつけるが無害であれば大人しい。それどころかこのような遊びをしている間は人間がカメラを構えるとポーズを取ったりと非常に愛嬌のある姿となる。
気性難と聞いて度胸試しに近づいてみたら全然そんなことはないし、なんなら写真も取らせてくれる。そんな口コミが広まり、ナインティギア目的に放牧地を訪れる人間も少なからずいる。
そして今回ナインティギアとトウカイテイオーはどちらがどれだけ多くの人間を自分の近くに寄せられるかを競う勝負をしており、愛嬌を振りまいているナインティギアに対してトウカイテイオーは何もしなかった。
トウカイテイオーは馬からは不評だが人間の目から見れば容姿端麗な馬で歴代で最もグッドルッキングホースとまで呼ばれ、更にシンボリルドルフの血統を継ぐ者でもあり、そのロマン性は高い。それ故に写真をとっても普通に様になるし、愛嬌を振りまかなくても渾名が【帝王】ということもおりそういうものだと人間は納得し、寄ってくる。
そんな放牧時間も終わり、観光客を呼び寄せる遊びも終わりを迎えようとしていた。
──それで白いの、どっちが一杯いたと思う?
──当然僕だよね!?
第三者であるメジロマックイーンにそう尋ねるとメジロマックイーンがナインティギアの方へ向き、鳴く。
──そんなもんボスの勝ちだよ。どっからどう見てもこのチンチクリンよりも人は集まっていた
メジロマックイーンがそう告げるとナインティギアがトウカイテイオーを馬鹿にし、トウカイテイオーがギャンギャンと抗議する。
──ちょっとちょっと! 嘘言わないでよ! 僕の方が上でしょ!? ボスだからって身贔屓してない!?
──ボスの人集りが凄すぎて見えなくなったのに対してお前は精々5、6人程度だろう? 明らかにボスの方が上だ
──ま、当然だな。今日もお前の負けだ
──くっそーっ! 次は絶対に負けないから!
トウカイテイオーが負け犬の遠吠えを吐きながら放牧地を去っていく。
──さ、俺達もそろそろお迎えかね。突き合わせて悪いな白いの
──大したことじゃないさボス。こうして見るだけでも楽しいからな
ナインティギア、メジロマックイーンと続いて放牧地から連れ出され、馬房へと戻っていった。
その一方、クラフトボーイはというと。
──おっちゃん、今日も話し聞かせてよ!
──構わんぞ
クラフトボーイは隣の放牧地にいる馬に話しかけ、武勇伝を語らせ、クラフトボーイも「凄いね!」や「おっちゃんと走ってみたかったな」などと相槌を打っておりその光景は何処かほのぼのとしている。
「しかしよくシンボリルドルフと仲良く出来るなクラフトボーイは」
その相手──シンボリルドルフとクラフトボーイを見て思わずそう呟くスタッフ達。シンボリルドルフと言えば【皇帝】の渾名で知られ、サードプレジデントが現れるまで日本史上最強馬として知られており、現役時代は厩舎のボスでもあった。
しかし実際のシンボリルドルフはナインティギアの性格と良く似ており【暴君】や【ライオン】などと言われる程に気性が荒く、周囲の馬を怯えさせ、その力で厩舎を束ねていた。
そんな気性の荒い馬と仲良くなるなど無理な話であると思っていたのだがクラフトボーイは平気で話しかけてくるばかりかいつも話し相手になっているのだ。シンボリルドルフも満更ではなく、スタッフフィルターで笑顔を見せていた。
──そういえば坊主、お前には2頭優秀な兄がいると聞いたことがあるが一体どんな奴なんだ?
──どっちも凄く強かったよ。一番上の兄はサードプレジデントって言うんだけど一緒のレースで走ったことないけど無敗だったんだって
──無敗、つまり全て一着と言う事か
──多分そうだと思うよ。走り辛い馬場でも走りやすい馬場と同じくらい走れたし、加速に関しては誰にも負けないと思う
──なるほど……もう1頭の兄は?
──僕が2回以上負けた相手は3頭いるけどそのうち一番強いのは二番目の兄だね。中距離以上だったら勝てる気がしないよ
──面白い
──おっちゃんにも兄弟はいたの?
──いるらしいが一緒にレースをしたことはない
──へぇ……じゃあさ、ライバル的な存在はいたの?
──我を負かした馬はいるがライバルと言っていいものかどうか迷う。負ける数も少なかったし2回以上同じ馬に負けたことはないがな
その後もクラフトボーイとシンボリルドルフが話し合いをしていると放牧時間が終わり、迎えが来る。
──じゃあおっちゃん、またね!
──あぁ、また明日な
そんなやり取りをし、クラフトボーイはスタッフに連れられていく。そんな様子を見ていたシンボリルドルフも同じく馬房へと引かれていったのであった。
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尚、次回更新は未定です