89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・フルハート編
≫前回の更新で終わると言ったが今回もやる。てか今回の更新で終わり

・ジャスティファイの薬物疑惑
≫2023年12月初句。2018年に史上2頭目の無敗米国三冠を達成したジャスティファイの薬物疑惑に新たな進展があった。サンタアニタダービーで失格処分を受け無敗米国三冠馬とはならなくなった……ジャスティファイカワイソス。おかげでシアトルスルーの無敗米国三冠が更に偉業となってしまった。それでも米国三冠馬ということには変わりないが……不正を正当化(ジャスティファイ)するという皮肉なことになってしまった
≫種牡馬としての活躍は現時点ではGⅠ馬を輩出するなどまずまずの滑り出しといえる。競走成績が優れていても種牡馬として優れていない馬なんてのはザラで、史上3頭目の米国三冠馬オマハは子孫に英国三冠馬ニジンスキーを輩出こそしているが父としては致命的なものであり、英国の名マイラーであるブリガディアジェラードも子孫に米国三冠馬アメリカンファラオを輩出しているが父としては致命的なものであり、それらに比較すればジャスティファイは大成功と言える

・イクイノックス電撃引退
≫当初これを見た時は「嘘だろ?」と思わず口にするくらいには驚いた。当初の予定通り4歳で引退するし、疲労の関係で有馬記念に出走出来ないのなら仕方ないと言えば仕方ないが……GⅠ競走連勝記録を伸ばして欲しかったのが本音。これを見て秋古馬三冠はクラシック三冠以上に速さ、運、強さを全て兼ね備えないと無理と感じさせられた。というかイクイノックスで無理なら他でも無理そう

・2023年有馬記念の覇者は……
≫スターズオンアースやタイトルホルダーは良く頑張ったよ。特にスターズオンアースは勝てないとされる16番で2着に食い込んだから内枠なら勝っていたと思わせるレースだった。とは言え勝ったドウデュースも大概おかしい。鞍上が元に戻ったとはいえ、普通に考えれば鞍上の怪我とか、ダービー単冠馬が有馬記念を勝つ事例がダイナガリバーまで遡らないといなかったし、そのダイナガリバーですら旧4歳時で制しただけに勝ったことに驚いている。また凱旋門賞で惨敗した馬はその後走れなくなるというジンクスもあるから余計にドウデュースは外していた

・ラムタラ
≫同作者の【青き稲妻】シリーズで史実馬として出番が多数あるので解説。父ニジンスキー、母父ブラッシンググルームという血統で一見すると問題無さそうに見えるが父父と母母母父がノーザンダンサーというもう濃すぎる血統の持ち主。ノーザンテーストやメイワパッサーもそうだが2×◯って配合を考える奴は絶対馬鹿ってレベルで血が濃い。この後は長いので読まなくてもいいぞ!
≫話しを戻してラムタラ自身の競走成績だが僅か2戦で英ダービーを制し、その後もKGⅥ&QES、凱旋門賞と連勝し、史上2頭目の欧州三冠馬にして史上初の無敗欧州三冠馬……なのだがレーティングも低いし、年度代表馬にもなれなかった不遇の名馬。しかしこれには理由があり、レーティングは何回も勝ち続けるよりも一回のレースで着差をつけた方が評価されラムタラは着差をほとんどつけずに勝利してしまった為であるのと、年度代表馬になれなかったのは他の馬が活躍しすぎたせいでなれなかっただけであるから。レーティングも絶対ではないという証明にラムタラの事例を取り出されるくらいには有名になってしまったのは皮肉なことである
≫種牡馬になってからは欧州で1年間種付けを行った後、3000万ドル(約44億円)で譲渡され来日。日本の初年度産駒はそこそこ優秀で重賞馬を輩出するもそこで全盛期を迎え、散々な結果に終わった。種牡馬失敗の一因にノーザンダンサーの血が濃すぎるというのもあるがラムタラが種付けした相手は海外ではアーバンシーなど繁殖の質の高い牝馬もおり、繁殖の質が悪い訳ではなかったことからやはり父として優秀ではなかったことや、SSなどの大種牡馬がいたこと、日本に致命的なまでに合わなかったこと等の要因が絡み合った結果そのような事態を招いた。どこまでいっても不遇な馬だ……一応母父として春天を勝ったヒルノダムール等を輩出している。2006年に僅か24万ドルで英国へと再輸入されると共に種牡馬引退し2009年までは母親と共に余生を過ごした。その後2014年に22歳で亡くなった
≫そんなラムタラだがマキバオーでは彼をモチーフとした馬が最強キャラ(ただし一般的な話であり、作者のつの丸氏曰く最強キャラは100%力を出せることを前提とするなら別の馬になる)として君臨していて高い評価を得ている


第84話

「もう止めましょうよ! これ以上買ったら流石に赤字ですって!」

 

「止めるな!」

 

 日高市、速田牧場にて。そう言い争う光景がある。この牧場はビワハヤヒデやナリタブライアン等を輩出し、中小牧場が集結する日高市の最大グループにまでのし上がった牧場である。

 

 しかしこの牧場で対立意見が出ていていた。それというのもフルハートを購入するか否かの揉め事であった。

 

「何故わからん! ブライアンズタイムは大成功を収めたし、ラムタラ*1も成功する! フルハートを輸入するのが何が悪い!」

 

 ラムタラは無敗で欧州三冠馬となり英国で種牡馬となり当初は凱旋門賞馬アーバンシーなどの名牝が集まり、順調な滑り出しをしていた。しかしフサイチコンコルドが僅か3戦でダービーを制しニジンスキー系の種牡馬が流行ると見込んだ日高市の中小牧場などは輸入を計画し、金をかき集めた。当初は2000万ドルで提示し、その後もどんどん提示額は増え続け最終的には3000万ドル(約44億円)で輸入された。

 

「だからこそですよ! 現状フルハートはこの日本には求められていません! そんな金があるなら別の種牡馬を輸入して下さい!」

 

「もういい話しにならん!」

 

 輸入を提案した代表、速田がそう告げるとともにスタッフが項垂れる。

 

 

 

「何故速田さんはわかってくれないんだ?」

 

「そりゃサードプレジデントの血を自分達のものにしたいからだろう。後パシフィカスの血を継いでいるのもあるしな」

 

 ビワハヤヒデ、ナリタブライアン、そしてフルハートの母でもあるパシフィカス。その三兄弟を生み出したパシフィカスは間違いなく名牝そのもの。米国では種牡馬入りする際に如何に良血であるかが重視され、イージーゴア等は大人気種牡馬であった。それは日本でも変わらない。パーソロンが実績を出すとパーソロンの兄弟が輸入され、他にも優秀な種牡馬の兄弟が日本に輸入されている。

 

 何故このような背景が出来たのか? 日本の場合はセントライト、トサミドリ兄弟が大きく関わってくる。セントライトは史上初の三冠馬であり、種牡馬としても当時内国産馬としては大成功で八大競走馬を3頭輩出しており、その兄弟であるトサミドリは競走馬としても優秀だが種牡馬としてはセントライトを超えていた。

 

 世界ではファラリスの産駒であるファロス・フェアウェイ兄弟、シックル・ファラモンド兄弟。伝説的名牝プラッキーリエージュの子供にあたるサーギャラハッド、ブルドッグ、アドミラルドレイク、ボワルセル。そして古くはセントサイモン産駒のパーシモン・ダイヤモンドジュビリー兄弟。

 

 これらの実例を始め多くの種牡馬や繁殖牝馬の良血馬=繁殖馬として優れているという考えに落ち着き現在に至る。しかしあくまでも極論であり全てが正しいとは限らない。例外中の例外もおり日本でリーディングサイアーとなったサンデーサイレンスなどは幼少期の評価は酷評されており血統面でもかなり酷評されている。

 

 

 

「しかし今回は絶対に失敗します。明確な根拠もあるのに……」

 

「明確な根拠?」

 

「フルハートを輸入して失敗に終わる理由は二つ。1つ目はサードプレジデント産駒だからですね」

 

「それは一体どういうことだ?」

 

「サードプレジデントは条件さえ満たせば種付け料が無料というとんでもないことをしています。その恩恵を受けているのは舎太グループといった大グループではなく中小牧場。牧場の規模に比例して種付け可能な数を増やしているとはいえ上限があり逆にどんなに小規模でも1頭は確実に種付け可能な種牡馬がサードプレジデントなんです」

 

「それの一体何が問題なんだ?」

 

「フルハートを無理して輸入したとしても、競走馬としても種牡馬としても結果を出しているサードプレジデントに比べて種付けする繁殖牝馬の質は劣り、結果を出せない馬を無駄に生み出すことになります。それこそフルハートがサードプレジデントを上回る歴史的な大種牡馬でもない限りは無理でしょうね」

 

 至極真っ当な意見に思わずたじろぐもう一人のスタッフ。だがそれでも反論した。

 

「それは確かに言えているが、その歴史的種牡馬だったらどうするんだ?」

 

「それはその時でしょう。しかしそれこそがもう一つの理由にも繋がります。フルハートがそれほどまでの種牡馬なら今度はナリタブライアンやラムタラが腐っていきます」

 

「どういうことだ?」

 

「ナリタブライアンはフルハートの兄弟なので当たり前ですが、ラムタラも血統面ではノーザンダンサーを含んでいて強いインブリードになるんですよ」

 

 スタッフが告げたラムタラはノーザンダンサーの血を31.25%(2×4)も含めている。これはかなり強いインブリードでノーザンダンサーを含む肌馬は数多くおりほとんどが強いインブリードとなり、特にラムタラと同じ父を持つマルゼンスキーやそれと同じ配合のヤマニンスキー、同じく祖先にニジンスキーを持つスーパークリーク等の肌馬は実質種付け不可能という事態に陥っていた。

 

 しかしそれでも出来る限り優秀な繁殖牝馬を集めていたのは事実であり翌年生誕した産駒は見映えがかなり良く評判も高かった。

 

「インブリードは強い方が良いんじゃないのか? 特にノーザンダンサーなんて名馬の血を強く出来るんだから」

 

「あまり強すぎても気性難を起こしたり虚弱体質になるんですよ。特にノーザンダンサーなんてナインティギアの気性難の一因とも言われている程気性難でしたし、出来れば薄めた方が良く、それは他の生産者達も同じです」

 

「つまりナリタブライアン、ラムタラ、フルハートは互いが互いにパイを取り合うってことか……」

 

「その通りですね。フルハートがサードプレジデントを上回る大種牡馬だとしても今度はそれにあった繁殖牝馬を紡ぐか輸入しなければならないんです」

 

「そういうことか……繁殖牝馬を紡ぐにせよ繁殖の質は中小牧場の種牡馬の関係上高望み出来ないし、仮に父フルハート、母父ラムタラの競走馬が出来たとしてもノーザンダンサーの血量は奇跡の血量よりも僅かに多いし、望ましいものではないのか」

 

「はい。サードプレジデントは血統面だけ見ても競合相手が自身の産駒くらいしか存在しません。その上ノーザンダンサーを含まないことによる幅広さが強みで種付け料や実績から見てもサードプレジデントの方が断然得な訳です。輸入するメリットの方が少ない上にフルハートの競合相手はサードプレジデント自身だけじゃなく、3P産駒のハギノブローとリボルバーマンがいます」

 

「!」

 

「ハギノブローに種付け出来る繁殖牝馬は多い。リボルバーマンも余程意図的な物でなければ軽いインブリードで済みます。少なくともナリタブライアンやラムタラ、そしてフルハートよりも選択肢は多いです」

 

「じゃあ無謀だというのか?」

 

「ええ。金額の割に合わないんですよ。それこそ捨て値で購入して種牡馬としてはようやく割に合うと思います」

 

 

 

「しかしそれでも舎太に輸入されたら元も子もないぞ。それこそフルハートが大種牡馬ならこの日高は本当に駆逐されてしまう」

 

「仮にそうだとして、フルハートを輸入する目的は何だと思いますか?」

 

「それはサードプレジデントの後継種牡馬として見込んでいるからじゃないのか?」

 

「それもあります。しかしサードプレジデントの代用種牡馬としての価値が高いと思われます」

 

「代用種牡馬? 後継種牡馬ではなく?」

 

 

 

 代用種牡馬とは任意の種牡馬が種付け出来ないと言った事情などからその種牡馬の代用となり得る種牡馬のことであり、その国に本命の種牡馬がいると繁殖の質が落ちる傾向にある。速田牧場が管理しているブライアンズタイムも当初は3/4兄弟にあたるサンシャインフォーエヴァーの代理として輸入された。

 

 一方後継種牡馬は任意の種牡馬の後継者となる種牡馬のことであり、元々は代用種牡馬だったのが任意の種牡馬が亡くなった、あるいはその種牡馬以上に優れた成績を出したことによってなった種牡馬のことであり、勿論繁殖の質は代用種牡馬よりも高い傾向にある。セクレタリアトの後継種牡馬はサードプレジデントと言えてしまうのはこれが理由である。しかし後継種牡馬として輸入する場合はその定義が覆り、その繁殖の質を任意の種牡馬よりも上回る種牡馬と言えてしまう。

 

 

 

「本来輸入される種牡馬はその国に存在しないでかつ確立されたばかりの系統の種牡馬、競走成績で価値のある種牡馬、それらの代理となる種牡馬が輸入される傾向にあります。フルハートを輸入する場合、代理となる種牡馬として輸入することになるということなんです」

 

「うーん? つまりどういうことだ?」

 

「サードプレジデントは種牡馬として優れた成績を持っていてしかも生存している。つまり本来ならフルハートを輸入する必要はないんですよ」

 

「それでも輸入するには理由……あっ、そうか! フルハートはサードプレジデントの代用種牡馬としての価値がある!」

 

「サードプレジデントの種付け状況として挙げられるのは種付け無料、各牧場が必ず1頭以上種付け出来るような環境、そして1年の平均種付け数は約100頭。これらを見て大グループはサードプレジデント産駒の種牡馬を代用種牡馬として輸入する可能性があるということです」

 

「つまりこういうことか。サードプレジデントにはノーザンダンサーの血を含めた繁殖牝馬を、そうでない馬をフルハートに種付けさせることでサードプレジデント系の馬を大量生産出来るってことか!」

 

「概ねその通りですね。後はハギノブローなんかにも種付けすれば手軽に出来ます」

 

「なるほど、サードプレジデント系はそっちに任せてこっちは別の馬に集中すれば良いと言う事か」

 

「ええ。確かにサードプレジデント系が流行るという速田さんの予想は正しいかもしれません。しかしフルハートを何が何でも輸入する価値はありません。例え種牡馬で遅れをとっても我々が勝てるようになるにはファミリーラインを考えなければなりません。そうすれば必ず名馬は生まれ、舎太グループやシンボリ軍団、メジロ軍団を超えることが出来ると私は信じているんですよ」

 

「だと良いがな……」

 

 その後、日高市の中小牧場はラムタラ等をはじめとした血統を紡いでいくことを決意する。しかし繋養しているラムタラやビワハヤヒデが種牡馬としてGⅠ馬を出すほど優秀ではなかったことやナリタブライアンの早逝が響き、名種牡馬ブライアンズタイムの助けも虚しく約60億円の負債を抱え速田牧場は倒産。更にシンジケートの金を横領したことが発覚し速田は塀の中へと消えた。

 

 

 

 そして遠い未来。

 

【さあインパクトブレスが今一着でゴール! インパクトブレスが無敗で三冠を制しました! 父はディープインパクト、母父サードプレジデント、母母父ナリタブライアンという三冠馬の血統をこの馬が証明してくれました! 強いっ!】

 

【父と母父の意志をついで欧州三冠達成なるか!? 先頭はサードミステリアス、サードミステリアスだ! サードミステリアスが父の偉業、そして母父の偉業を達成しました! 本当に強い!】

 

 速田牧場の馬から生み出されたナリタブライアン産駒の牝馬が無敗三冠馬の祖母となり、同じくラムタラ産駒の牝馬が無敗欧州三冠馬の母となる。日高の生産者達はそんな栄光を支えることを出来るのを今は誰も知らない。

*1
無敗で英ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞の3大レースを制した名馬




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尚、次回更新は本日21時です
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