89式和製ビッグレッド   作:ディア

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・米国古馬三冠
≫ホイットニーH、ウッドワードS、ジョッキークラブ金杯の3つのレースのこと。それらを完全に制覇した馬はケルソ、スルーオーゴールド、イージーゴアの3頭のみ。尤も本来はそんな称号なく、どちらかというとこの場合の三冠は【特定の三つのレース】のことである上に、現実ではウッドワードSがGⅡになったのでそう呼ばれることはないだろう。ただこの小説で三つのレース名を一々書かないといけないので面倒になったので今後はそう略する

・マニラ
≫本編で解説不足になりがちなので記載。簡潔にまとめると米国が誇る最強の芝馬で、純粋な芝馬だと米国史上初の殿堂入り馬。記者曰く「芝中長距離路線においてはジョンヘンリーを抑えて最も優れた競走馬」と高い評価をしており、ジョンヘンリーとマニラのどちらが最強馬か度々論争が行われる。戦績も芝の戦績のみでも14戦14連対、ダートを含めても18戦17連対という変態染みたことをやっている。しかし日本ではBCターフでダンシングブレーヴを破った馬としての知名度が高過ぎるので戦績自体はそこまで知られていないし、個人的な感想になるが種牡馬としての彼の成績のこともあってか一発屋という印象が強い。これも長くなるので飛ばしてよし!
≫父リファール、母父ルファビュリューという血統だがこの名前を聞いてもピンと来ない方もいるので解説するとリファールの産駒はダンシングブレーヴ、ニッポーテイオーの父リイフォー、日本でリーディング上位に君臨したモガミ、ディープインパクトの母父アルザオと80年代から出始めて以来日本競馬を支えているすんごい大種牡馬。母父ルファビュリューは日本の名種牡馬フジキセキや米国の大種牡馬アンブライドルドの母父と言えばわかるだろう
≫マニラの種牡馬としての成績はビエンビエンという大物を輩出するが、それだけで後はイタリアのGⅠ1勝馬を2頭輩出するだけに留まり、日本に輸入されたマニラ産駒の外国産馬キングオブケンも重賞1勝するだけという有り様で、フジキセキやアンブライドルドと比較したら悲惨なものである。その後はトルコに渡り、トルコのBMSとなるほどに活躍したが直系子孫が滅亡の危機に陥っているのも事実である
≫一応彼の名誉の為に言っておくがフジキセキやアンブライドルドと比較したらマニラが悲惨に見えるだけで同じ母父に持つルグロリューやジルザルはもっと悲惨なことになるので比較対象が悪いのは明らかだが、ビエンビエンという大物を出したからそのくらいの被弾は許して欲しい
≫ちなみに父リファールの種牡馬という括りで見ても一発屋という印象が強い。モガミやダンシングブレーヴはリーディング上位に来るほど種牡馬成績が良かったので割愛するがリイフォーはニッポーテイオーの他にもGⅠ馬を輩出しているし、アルザオも父としてGⅠ馬を複数輩出しているがマニラはビエンビエンの他の代表産駒が伊国GⅠ1勝馬2頭と評価に困る。筆者個人の感想になるが「競走成績や他の互換性のある種牡馬と比べたら微妙だがその馬単体で見たら成功」というのがマニラの種牡馬としての評価である



第85話 フルハート編終話&フジミキセキ編初話

 そして場所は変わり、月夜牧場。

 

「ふぅ……やはりあの仔を見ていると落ち着きますね」

 

 美亜が眺めている馬は今年生まれた当歳の牡馬で、父フジキセキ、母セカンドサルサビル、母父サードプレジデントという血統書を持つ良血馬である。そんな美亜が眺めているとそのセカンドサルサビル97が美亜の視線に気づき近くへと寄る。

 

「ふふっ、まるであの時のことを思い出すわね」

 

 美亜は余りにもセカンドサルサビル97の言動がサードプレジデントの当歳時に酷似しており、思わずサードプレジデントと重ねてしまった。

 

「フジミキセキ、立派に育って下さいね。お腹にいるこの子も貴方を見守ってくれるから」

 

 ポン、と美亜が腹を叩き笑みを浮かべる。その腹の中には創也との愛の結晶が詰まっており、この仔が無事に育ってくれればと美亜は心の底から願う。

 

「ふぅ……そろそろ帰りましょうか」

 

 ──お姉さん、もう帰るの? 帰らないで欲しいな〜

 

 そんなセカンドサルサビル97改め、フジミキセキを見守りながら立ち去ろうとするとフジミキセキが視線で訴えかける。

 

「そんな目をしても駄目よ。でも立派な大人になったら構ってあげるから、ね?」

 

 ──約束だよ! 必ず立派な大人になって見せるから構ってよ! 

 

 鼻息を鳴らしフジミキセキがそう視線で答える。

 

「それじゃ、またね」

 

 美亜が別れを告げ、しばらくすると今度は創也が現れた。

 

 

 

 ──あっ、ニンゲンのお兄さんだ! 遊んで、遊んで! 

 

 フジミキセキが創也の側に寄り、引っ付く。

 

「こら、ミキ。離れて」

 

 ──ヤダ! お兄さんのところ気持ち良いんだもーん! 

 

 グリグリと頭を創也に擦り付けると創也が頭をかかえる。

 

「(全く、本当にキャロにとことん似ているよな。そこが良い点であり悪い点でもあるんだが、大丈夫かな?)」

 

 創也は成長したフジミキセキがどんな性格になるか想像する。

 

 フジミキセキのこのような性格がプラス面で成長すればサードプレジデントのような性格になり、創也からすれば非常に乗りやすい性格となるがマイナス面だけが成長した場合はどうなるのか、想像したくなかった。

 

 創也が騎乗した中でのこれまでの気性難で最悪と言えたのはモンドソロンとナインティギア、サンデーサイレンスが挙がる。

 

 サンデーサイレンスは現役でこそ騎乗していないが運動させる際にサンデーサイレンスに騎乗することが度々あったが創也ですら制御不能となるレベルの気性難であった。

 

 そんなサンデーサイレンスに似てしまったらと想像するだけで寒イボが立ち、身震いしてしまう。

 

「(ま、流石にそこまでは……いやでもあり得ない話でもないんだよな……)」

 

 そんな心配をよそにフジミキセキとのふれあいを終えた創也は美亜と合流し共に帰路につく。

 

 

 

 その日の夜、布団の上で寝ていると隣に横になっていた美亜がふと口を開く。

 

「ねぇ……あなた、そろそろ子供の名前決まりました?」

 

「美亜が考えた名前じゃ駄目なのか?」

 

「私の場合、はっちゃけ過ぎてとんでもない名前をつけそうで、怖い」

 

「具体的には? 流石にトンヌラとかサトチーとか変な名前じゃないよな?」

 

「流石にそこまで変な名前じゃないの。男の子ならサードプレジデントから因んで大統領(プレジデント)とか、女の子ならサルサビルに因んで沙流佐尾琉(サルサビル)とか」

 

「英語読みを止めて短略するだけでも少しは良いんじゃない?」

 

大統領(だいとうりょう)から削って(ひろし)あるいは、大統(ひろむね)沙流佐尾琉(サルサビル)を……うーん……」

 

 美亜は指を折りながら名前候補を思考すると、創也が思いついたかのように笑みを浮かべる。

 

「それならさ、美亜。美亜の名前とフジミキセキの愛称に因んで美紀(みき)って名前はどうかな?」

 

「美紀……いいですね」

 

「男の子なら俺の名前に因んで大也(ひろや)ってつけられる。それで良くないか?」

 

「美紀と大也……うん、良い。それでいきましょう」

 

 その数ヶ月後、創也と美亜の間に一人の女子が生まれる。生まれた子供は時の運はあれど、この子供にどんな素質が眠っているかわからない。しかし幸先の良いスタートを切ることになるのだけは確かであった。

 

 

 

 そして凱旋門賞当日、創也は出産に立ち会えずにいたがその代わり、ロンシャン競馬場にいた。

 

 その理由は勿論フルハートの騎乗があったからで決して観光目的ではない。

 

「(それにしてもサクラローレルがあんな形で競走生命を終わらせるなんて……ホクトベガのことといい横浜さんのメンタルがボロボロになっているんじゃないか? 加東さんがやられたことが自分に返ってくるなんて死神か何かが取り憑いているんじゃないのか?)」

 

 昨年有馬記念を制し、今年の春天でも2着に食い込んだサクラローレルは凱旋門賞に向けて仏国に遠征していたのだが、主戦騎手である横浜は海外遠征の経験のなさから降ろされ、代わりに創也の名前が挙がったが創也はステップレースであるフォワ賞ならともかく凱旋門賞当日はフルハートに騎乗する為にサクラローレルには騎乗出来ないことを伝えるとその代打に海外遠征の経験もあり、リーディングジョッキーを獲得した経験もある胤がフォワ賞、凱旋門賞の二つのレースに騎乗する事になった。

 

 しかし胤を乗せたサクラローレルはフォワ賞で転倒し、故障。予後不良も止むなしと診断され、その処置をしようとしたが他のスタッフが憤慨し取り消し、現在も治療中である。

 

「(それでもまだマシなのかもそれないな。横浜さんは自分を責めずに済む。もしあそこで横浜さんが騎乗していたら自分を責めまくっていたかもしれないからな。それに誰が乗ろうと今回の馬場は最悪だったから胤先輩も責めることは出来ない。ならせめて俺は無事に走らせてみせよう)」

 

 創也はここにいないサクラローレルと横浜、そして胤の無念を引き継ぐように気合を入れた。

 

 

 

 閑話休題

 

「(さてと、今回の有力馬はやはりパントレセレブルか。エリシオは……微妙か)」

 

 創也はある1頭の競走馬に注目する。それは昨年の凱旋門賞馬エリシオではなく、パントレセレブルという馬だ。このパントレセレブルは今年の仏ダービー、パリ大賞典を勝利し、ニエル賞では絶望的な不利があったにも関わらず2着と好走している。その絶望的な不利とは他の出走馬が邪魔をし、前も塞がり外にも持ち出せないという状況でビリになってもおかしくないほどの不利であったがパントレセレブルはその状況下から2着まで食い込んできた。

 

 成績上で見れば例年の凱旋門賞馬の最有力馬候補としか見えないが、レース内容をみるとそれを上回る実力の持ち主であることがわかる。

 

 そして何よりも創也がパントレセレブルから発せられる独特の強者の気を感じ取っていた。

 

「(俺のフルハートか、パントレセレブルか、まあどちらにせよ俺に出来ることはフルハートの実力を引き出すことだけだ)」

 

 そんなパントレセレブルを横目に見ながら、創也はフルハートのレースへと意識を向けていた。

 

 

 

【さあ凱旋門賞スタート! まず飛び出していったのは──】

 

 そして遂に凱旋門賞がスタートする。

 

 ゲートが開かれ、各馬が一斉に飛び出して行き、創也の騎乗するフルハートは先行集団から追走していく。その一方で控えるパントレセレブルと対極的なレースをしていた。

 

 

 

 ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞は追込が効きにくく、直線に入ってからヨーイドンなどというレースは通用しない。追込で勝った例と言えばそれこそダンシングブレーヴくらいのものでありサードプレジデントですら差しあるいは先行寄りの位置取りで走らざるを得なかった。

 

 その為ポジションがかなり重要となるレースで、日本であれば多少の妥協は許されるが少しでも妥協すれば絶対に負ける。それがこの凱旋門賞というレースだ。

 

「(全く、相変わらずとんでもなく熾烈なレースだ。米国で経験を積んで正解だよ)」

 

 しかしそれ以上に荒々しいのが米国競馬だ。米国競馬は直線に入ってヨーイドンなどというレースは桁違いの能力を持った競走馬しか出来ないのが実情であり、大体はポジション争いで如何にして直線に入るまでポジションを取るかにかかってくる。

 

 BCターフで世界最強馬ダンシングブレーヴがマニラに敗れたのもダンシングブレーヴ陣営がダンシングブレーヴの末脚を過信しすぎたが故の結果であり、英ダービー以前の戦法を取っていたなら勝ち負けが出来るレースであった。

 

 

 

「(とはいえかなりのハイペースだ。パントレセレブルに注意するどころじゃない。一瞬でも判断を間違えれば、馬群に呑み込まれる……!)」

 

 創也は今回、先行策を取っていた。凱旋門賞に限らずほとんどのレースで基本的に先行馬が有利になるがハイペースとなれば話しは変わり、後方で脚を溜めた差し・追込馬が有利になる。

 

 とはいえそのままペースを落とせるか? と言われれば不可能である。ポジション争いをするにあたって必要な体力は最低限しか残されていない。ここでペースを緩めればズルズルと後方に沈んで末脚を発揮することもなく惨敗するだろう。

 

「(となると、やっぱりこのまま行くしかねえよな。持ってくれよ、フルハート!)」

 

 最終コーナーを抜けて偽りの直線に入ると共に、抜け出し先頭に踊り出る。

 

 このまま一気に先頭に立ち、直線の追い比べを制そうと考えたその時であった。

 

【さあここでパントレセレブルが上がってきた! 残り400を切ってパントレセレブルが来たぞ!】

 

「(予想通りとはいえ来たか。クソッタレめ!)」

 

 パントレセレブルが上がっていき、それを他の馬が追う。しかしパントレセレブルの脚色は全く衰えず寧ろ加速していく。

 

【さあ一騎打ちになった、一騎打ちになったぞ! 世界制覇を目指してフルハート、フルハートがまだ伸びる!】

 

 創也が鞭を振るうと共にフルハートが再加速し、パントレセレブルに並びかける。

 

【だがパントレセレブルも負けない、パントレセレブルかフルハートか!?】

 

 しかしここでパントレセレブルは更に加速し、それに伴って創也が握る鞭も力が入る。

 

【フルハート、パントレセレブル! 他の馬を置き去りだ! フルハート、パントレセレブル!】

 

 フルハートの勝負根性、パントレセレブルの豪脚、どちらが勝つかまったくわからない接戦になる。

 

【先頭はパントレセレブルか、フルハートか!?】

 

「(ここで負けるわけにはいかないんだよ!)」

 

 パントレセレブルが今まで以上に加速したのを見て創也はフルハートの首を押す。するとフルハートが一歩半分脚が伸びパントレセレブルに並びかける。

 

【さあどっちだ!? 内パントレセレブル、外はフルハートが並んでいますが果たしてどちらが勝ったのでしょうか写真判定になります。今暫くお待ち下さい】

 

 パントレセレブルとフルハートは並びあってゴール板を通過し、写真判定まで持ち込む。

 

「(負けた……か)」

 

 だが創也はフルハートがパントレセレブルを差し切ったという感覚がなく、自分達が負けたということを感じていた。

 

 

 

 ──ニンゲンさん、どうしたの? 

 

 そんな創也を心配するかのようにフルハートが創也を見つめる。

 

「フルハート、良く頑張ったよ。ここまで付き合ってくれてありがとうな」

 

 ──……えいっ! 

 

「うわっ!? おいっ、こら止めろっ!」

 

 創也がしんみりと涙を流すとフルハートが創也を振り落とし、顔を舐め始める。

 

 ──ニンゲンさん、そんな悲しい表情はイヤだな。もっと楽しくいこうよ! 

 

 フルハートが創也の顔を舐め続け、遂には創也の顔に被さっていたヘルメットが脱げる。

 

「うわっ!?」

 

 ──ほら、楽しいでしょ? 

 

「……そうだな」

 

 そんなフルハートの様子を見て、創也は笑う。

 

「(俺はいつの間にかレースを楽しむことを忘れちまったらしい。フルハートにそれを教えられるなんて、騎手失格だな)」

 

 そして写真判定が終わり、レース結果が発表される。パントレセレブルが1着、フルハート2着という結果だった。

 

 

 

 その後フルハートは引退し、米国で種牡馬入りするものの、種牡馬としてのフルハートの成績は振るわず南米に移動することになり、そこでリーディングサイアーを獲得したものの、数年後に母父に3Pの血を持つジーガリレイ等の強豪が集まりリーディングサイアーの座を奪われ二度と獲得することはなかった。しかしそれでもリーディングの上位争いをしていたのは確かで母系にフルハートとジーガリレイを通して3Pの血が広まったのは間違いなかった。

 

 

 

 時は流れ、1999年。1998年にサンタアニタダービー、米国四冠*1、米国古馬三冠*2、BCクラシック、JCを制し、翌年ドバイWC、KGⅥ&QESを制した四代目ビッグレッドことザファイナル(父サードプレジデント、母パーソナルエンスン)がKGⅥ&QES制覇後、故障により引退したという世界競馬に衝撃を与えるニュースが飛び交った。

 

 日本競馬はシーキングザパールとタイキシャトル、エルコンドルパサーの海外の国際GⅠ制覇に大いに湧き上がり、ナインティギア以来閉ざされた海外遠征の波が再び押し寄せてきた。

 

 

 

 その12月、奴は現れた。黒光りし快速に動くアイツの名前はゴキ……ではなく、フジミキセキ。

 

 フジキセキ産駒の競走馬であり、セカンドサルサビルの仔でもある。

 

 

 

 父のフジキセキは4戦4勝、95世代を牽引した1頭であり、怪我さえなければ三冠は確実視されていた程の素質馬であったが弥生賞が最後のレースとなり引退し現在は父SSの代用種牡馬として活動している。

 

 母のセカンドサルサビルは言われずとした良血馬であり父は世界最強馬サードプレジデント、母は牝馬として90年振りに愛ダービーを制した名牝サルサビルと文句のつけようがないくらいの良血でありこれに勝る血統の持ち主といえば同父のザファイナルくらいしかいないだろう。彼女自身も優れた競走馬で桜花賞とエリザベス女王杯を無敗で制した牝馬二冠馬でもある。

 

 そんな2頭の仲が凄まじく良く関係者達は当初SSに種付けをしようとしたがフジキセキ以外の馬をセカンドサルサビルが拒否し、最も仲が良いフジキセキに種付けさせることになり、そのような経緯で誕生したのがフジミキセキだった。

 

 フジミキセキのデビュー前の評価は高く、父方母方両方の祖父の良さを引き出していたように見えていたからだ。サードプレジデントの馬体に気性、スタミナと瞬発力、サンデーサイレンスの持続力並びコーナーの加速力やダート適性。そして両方のスピードとパワー。それらを兼ね揃えたフジミキセキが朝日杯3歳Sに挑もうとしていた。

 

 

 

【さあ直線に入って先頭はフジミキセキ、フジミキセキが一歩抜けてらくらくと突き放していきます! 朝日杯3歳Sを制するのはやはりこの馬なのか!? 楽勝! フジミキセキが勝ちました! 勝ち時計は1分32秒8とクラフトボーイに並ぶ素晴らしいタイムです!】

 

 鞍上を創也に迎えたフジミキセキが朝日杯3歳Sを制し、創也のG1の勝ち星をまた一つ増やした。

 

「美亜、こんなもんでどうだ?」

 

「流石よ、あなた。これでダービーも夢じゃない」

 

「ダービー? もしかしてクラシック登録をしてなかったのか?」

 

「していますよ、日本と英国の両方」

 

「ってことは……!」

 

「ええ、この強さなら本場のダービー、英ダービーも狙えるわ」

 

 美亜が発した衝撃の一言に創也は思わず震え上がる。

 

 本場の英国のダービー、すなわち英ダービーは日本の競馬の歴史よりも遥か昔から存在するレースであり、歴史と名誉のある由緒正しいレースである。

 

 しかしそれまで日本馬が英ダービーに挑戦しなかった理由、それは英ダービーというだけあり開催場所が英国にあり必然的に海外遠征をしなければならず、英国の周囲にある愛国や仏国などといった欧州の国々とは異なり遠征するのが難しいこと。そしてもう一つ、本場のダービーという意識が強すぎるが故に出走したとしても負けてしまう可能性が高いと思い込んでいることだ。

 

 しかし美亜はこの朝日杯3歳Sを見て英ダービーを勝てると確信した。

 

 実際朝日杯3歳Sに出走した馬達のレベルは高く、3着までが1分34秒切という超激戦の上に2着に食い込んだエイシンプレストンは後に香港マイルで「タイキシャトル以上の日本史上最強マイラー」と評されるほどの強さを見せつけるほどの実力馬であった。その中で圧倒的な力を見せるフジミキセキを見て確信したのだ。英ダービーで勝つのはこの馬だ、と。

 

 美亜はその確信を創也に伝えるべく口を開く。

 

「日本の三冠の称号はサードプレジデントの時に味わいました。しかし本場のダービー勝利は味わったことがありません。でもフジミキセキならそれが出来る。あなた、やって貰える?」

 

「イエスマム。オーナーの言う通りにするさ。でも英ダービー以前のローテーションはどうするんだ? まさかこのまま本番直行って訳にもいかないだろ?」

 

「少し休んでから弥生賞と皐月賞、それから遠征して英ダービーに向かおうと思うの」

 

「なるほど。一応聞きたいんだが英ダービーでフジミキセキに騎乗するのはいいとしてフジミエンペラーはどうする? あいつも米国三冠に挑戦するんだろ? ベルモントSは騎乗出来ないぞ」

 

「米国に行ってからは加東さんにお任せしています。加東さんも米国でのレース経験はありますし、何よりもホクトベガで偉業を成し遂げた名騎手だから」

 

「なら決まりだな」

 

 そして創也はフジミキセキに英ダービーを視野に入れて調教を開始するのであった。

*1
米国三冠レースにトラヴァースSを加えたもの。ワーラウェイが達成。ちなみにアファームドも達成しかけているが降着している

*2
ホイットニーH、ウッドワードS、ジョッキークラブ金杯




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尚、次回更新は明日0時です
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