ちょっと変わったウマ娘ミニミニダービー   作:木口領

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第13話 ていの新しいウマ娘

閑静なおもちゃ屋の屋上駐車場に、一台の乗用車が入っていった。

ガタンと小さな段差をのぼる。後部座席にいる西ノ宮ていの身体も少し揺れていた。膝に抱えるように持つバックがその勢いで動く。中でウマ娘人形が入ったケースと、大会賞品である因子入りのケースがぶつかっていた。

 

西ノ宮ていは俯いたまま、小声でひとりごとを言っている。

 

「安直だよねやっぱり、捻らないと。西、北、南、東……」

 

大会会場から小道真白の車でおもちゃ屋に来るまで、ずっとぶつぶつと考えが口から漏れていた。

隣では母親である西ノ宮梓がなごやかに見ていた。

運転席には車の主である小道真白がいる。助手席は山本大和だ。足元に大会で購入したウマ娘グッズが置かれている。腰にはウマ娘がプリントされたちゃんちゃんこがかかっている。ベットにするようにダイワスカーレットが膝の隙間に寝転んでいた。

西ノ宮ていがちらりと助手席を見る。短髪の頭が舟をこいでいる。後ろからでもわかる。大和は眠っていた。

 

「山か。山、川、湖……海」

 

車が静かに停まった。

 

「着いたわよ」

 

サイドブレーキを引くと真白はシートベルトを外した。隣に座る大和の頭をこつんとこぶしで叩いている。

目を覚ました大和が狭い室内で体を伸ばした。

 

「……あ、悪いわるい」

 

誰かに謝っていた。真白に謝るにしてはタイミングが遅い。自分の母親に向けてでもない。もちろん自分でもないのだ。ていには分からない。疑問には思う。しかし皆が車の外に出ていったため、気にせずバックを持って降りた。

辺りを見回しても駐車している車の姿がほとんどない。大会だったこともあり、がらんとしていた。

 

「おもちゃ屋って久しぶりね。どのくらい来てなかったかしら」

 

真白が入口に向かって歩いていく。その後ろに大和が続いた。いつのまにか短髪の頭の上にウマ娘人形の姿がある。自力で掴まっているかのように器用に乗せて歩いている。

ちらりとバックの中のアッテナを見る。ていは頭に乗っているアッテナを想像した。ありかなしかで言えばありかもしれない。しかしずり落ちる未来しか見えない。今度、特殊フィールド内で試してみようか。と考えていた。

 

「ていちゃん、どうしたの?」

「ううん。なんでもない」

 

バックを握りなおして、ていは歩いていった。

屋上入口から階段を下りてウマ娘コーナーへと進んでいく。正面に卵型のカプセルが鎮座しているのが見える。ていの身長とほぼ同じぐらいの高さだ。中に黒い繭があった。

横ではおもちゃ屋の店長が立っていた。制服の上半身がパツパツだ。歴戦を潜り抜けた傭兵じみた体格で胸に描かれている店のマークがやや広がっている。つるりと毛のない頭をしていて、目頭に皺を寄せて射貫くようにじっと見つめてくる。本人曰く、目が悪いだけらしいのだが、眼鏡は絶対にかけないようだ。

 

「来たか」

 

ぐっと押しかかる圧力を受けて、大和が一歩下がった。

気にせず、店長が続けた。

 

「コクーンの準備はできている。しかし、再稼働してから初めての使用が大会チャンピオンとはな。お前の活躍テレビで見てたぞ」

 

ていがふと首を傾げた。

 

「あれ、テンチョー営業中だったんじゃない?」

「周りを見てみろ、大会会場と離れているうちは今日は閑古鳥だ。暇つぶしがいるんだよ」

 

店長が両手を開いてみせた。周りに客の気配がない。スタッフすら少ない様子だ。貸し切りを思わせるほどに人の姿が見えなかった。

真白が物珍しくしげしげとウマ娘グッズを眺めている。

 

店長が鍵を取り出してコクーン横の鍵穴に差し込んだ。カプセルの前に張り紙がある。内容が変わっていて『コクーン稼働再開、使用には店員まで連絡を』と書いてある。

 

カプセル横の操作盤を店長がいじる。コクーン内部のライトが点灯する。中の黒い繭が静かに回転を始めた。徐々に球体から茶碗型の土台へと変貌していく。回転が止まると、ウマ娘人形が収まる小さなお椀となっていた。

丸みを帯びたカプセルのガラス面が両側に開いて裏側に収まった。

 

「生み直しの場合は、この中にウマ娘人形を座らせるんだ」

 

と店長が横に移動した。ていの前に開いたコクーンがある。

バックからウマ娘のケースと因子のケースを取り出す。バックは母親が受け取っている。

静かにケースからアッテナを取り出した。ウマ娘人形を持ち上げると、先端をまとめた長い髪がストンと落ちて、振り子のように動いた。

一度頭をなでる。そして、土台にゆっくり座らせた。

操作盤のボタンを店長が押した。ガラスの蓋が閉じる。中の土台が静かに回転したかと思うと、黒い幕が周りを覆い。元の繭のような球体へと形を変えた。

 

その様子を皆が眺めていた。真白も西ノ宮梓の横から見ていた。

続いて、大会優勝賞品である因子のケースをていはぎゅっと握った。一つ息を吐くと操作盤についている台へとセットする。

 

「おじさん、おねがいがあるんだけどさ」

「何かな」

「一緒にボタン押して欲しいんだ」

「分かった」

 

大和がていと並ぶ。操作盤ディスプレイに開始のボタンが表示されている。

指が画面より少し間を開けたところで止まった。浮いている。大和の指とていの指が互いに触れるか否かの間隔だ。暫くの間、その姿勢のままだった。大和はていの言葉を待っていたが、催促はしない。周りも同様に見守っていた。

 

このボタンを押せばアッテナとはお別れになる。同じ姿のウマ娘人形として出てくることは稀だ。天文学的数字と言ってもいい確率だった。1年前に姉から譲り受けたウマ娘人形と因子を使用して作成したアッテナとはもう二度と会えなくなる。

色々と迷い悩んだ。そのうえで、ウマ娘として走れるようにすることを西ノ宮ていは選択した。

 

「押すよ」

 

静かだが決意ある声でていが言った。

2つの人差し指がディスプレイの開始ボタンを力強く押した。

 

カプセル内にゆっくりと淡く光が満ちる。光がやや赤みがかった。コクーンという親が内部の卵を温めているような感覚を覚えた。

操作盤にセットされた因子が光の粒となり、チューブを伝ってコクーン内部に入る。黒い繭のまわりを粒が舞っている。因子の光が一つ、またひとつと繭の中に吸い込まれる。そのたびに命の鼓動に似た音が鳴った。

 

大和はウマ娘人形の新しく生まれ変わる光景を見つめながら、隣に立つていに問いかけた。

 

「名前は決めているのか」

「うん。決めている」

 

生み直しをしたウマ娘に対して、前の名前を襲名することもよくある話だった。けれど、西ノ宮ていは新しい名前にすることを考えていた。

 

「ボクね、りんりんと出会った時、こう言われたんだ。『キングたる者には相応の義務がある、力があるのなら成すことを成さないといけない』って。りんりん、キングって言葉が大好きでね」

 

大和は静かに聞いている。

 

「色々あったけど。もし、りんりんが間違っていることをしているなら止めたい」

 

ていの瞳が力強く輝いていた。

 

「だから、ボクが王になる。りんりんが目指す王に。ボクのウマ娘をボクの王にする」

 

横目でていはちらりと見た。山本大和は笑うでもなく、悲しむでもない何とも言えない表情を浮かべていた。頭の上のダイワスカーレットがクスリと笑ったようにていには見えた。

 

コクーンから聞こえる音が変わった。甲高い音がなった。全ての因子の光が繭の中に溶け込んだ。赤い光がさらに輝きを増した。

繭に罅が入る。卵を横に割るようにして静かに幕がはがれた。上半身が見える。アッテナの姿ではない。新しいウマ娘の姿がそこにあった。

カプセルのガラスが開いた。ていが両手を伸ばす。包むように抱き上げると、天井からのライトの光を小さな身体に浴びせた。

 

「テイオー。君の名前はトウカイテイオーだ」

 

生まれたてのつやのある髪が光を照り返している。もちっとした肌はきめ細やかで、包むていの両手に吸いついてくる。

やや小柄なサイズであり、見た目中等部程度のウマ娘人形だ。茶色い髪がていと同じくポニーテールでまとまっている。メッシュが1房入っている、アッテナの髪の色と同じ銀色をしたメッシュだ。

瞳は青く、活発そうにくりっと大きい。

 

「『こいつ、面白そうね』」

 

ダイワスカーレットの尻尾がビリリと反り立った。ウマ耳もぴょこりと動いている。

ていは大和に身体を向きなおした。右手を差し出した。

 

「ありがとう。おじさん」

「どういたしまして。そしておにーさんな」

 

大和も右手を差し出した。握手をする。大和にとっては小さくてぷにっとした感触だった。ていにとっては大きくてがっつりとした手だと感じている。

手を放す。西ノ宮ていはテイオーと名付けたウマ娘人形の頭を撫でた。

 

「これからよろしくね。テイオー」

 

光の加減の影響だろうがウマ娘人形が笑ったように、ていには感じられた。

 

 

 

おもちゃ屋の入口で解散となる時、大和は疑問に思ったことをていに聞いた。

 

「ていちゃん、ちょっといいかな?」

「ん、なあに」

 

ていが振り向いた。すでに入口の外に身体が出ている。彼女の手にはバックのほかに新しい袋が握られていた。トウカイテイオー用の洋服等が入った買い物袋だった。

 

「テイオーは分かるけど、トウカイってなんだ?」

 

ていの肩が一瞬持ち上がった。反動でポニーテールの先端部分が跳ねた。横では母親が頬に手を当てて笑っている。真白はにやけている。

大きく笑顔をていが作ると、舌をだして答えた。

 

「べーっだ。おじさんには教えないよ!」

 

と母親の背中に走って隠れた。

 

 

 

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