ちょっと変わったウマ娘ミニミニダービー   作:木口領

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第07話 傷ついたウマ娘

一団となって走る幻影のウマ娘集団の中に、色が2つあった。

山本大和のウマ娘であるダイワスカーレットと、西ノ宮ていのウマ娘であるアッテナだ。

小柄な身長を生かしてアッテナが内側にするりと入って好位置をキープしている。対してダイワスカーレットは外から先頭集団に位置付けていた。

 

その様子をさらに外で走っている大和が眺めていた。ジョギングよりややペースが速い。

社の裏側は走るスペースがぎりぎりで、裏手にすぐ林がある。前を走る少女のていは器用にすり抜けているが、大和はやや屈みながらでないと走れない箇所すらあった。

 

「こいつは確かにヘビーだ」

 

1周が終わったとき、大和の息がすでに上がっていた。

コース上では先頭集団の変化はない。現在4番手にアッテナがいて、その外6番手にダイワスカーレットが走っている。

 

「おじさん。もうへばっちゃったの。今から疲れてたら最後の仕掛けのタイミング間違えるよ」

「はは、安心しなお嬢ちゃん。こちとら今日は応援だけなんでな。……あれ俺何で走ってんだろう」

「そんなんじゃ、ボクのアッテナだけじゃなくて幻影のウマ娘たちにも負けるよっ」

 

そういうとていは脚を速めた。連動するようにアッテナのポジションを上げていく。神社の裏手をもう一度走り、向こう正面となったとき、アッテナが2番手になっていた。

ダイワスカーレットも仕掛ける。ぐんぐんと前を追い抜いて3番手に迫った。そのままアッテナも追い抜き、さらに先頭で走るウマ娘も追い抜いた。

対して大和はやや遅れている。

 

「ほら、おじさん。おじさんのウマ娘勝手に走り出しちゃったよ。今から仕掛けるのは早すぎるって」

「勝手に走るのは日常茶飯事だ。いつもそうだからな」

「負け惜しみしちゃって」

 

くすくすと、ていの方から笑い声が聞こえてくる。大和はやや荒い息を少し深めに吐いた。

コーナーに入り、アッテナが順位を1つあげた。先頭ダイワスカーレット。2番手アッテナだ。その差は5馬身。スキルを余すことなく全身に伝えられるアッテナにとってはまだまだ射程距離だ。

最終コーナーをまわり、直線に入る。

ていが動いた。

 

「今度こそ。ボクのアッテナが勝つよ!」

 

暖色のスキル光がアッテナに集まっていく。その光の量は前回の比ではない。膨大な量の光の粒をまとってアッテナが走っている。

西ノ宮ていから気迫が満ちる。

その後ろ姿を見て大和は目を見開いていた。

ていの姿にもう一人の少女が重なって見えた。髪型も背丈も違う。けれどその気迫に映る幻は、大和に1度引退を決めさせた少女の姿だ。ダイワスカーレットにせがまれて昔話をしたからか、それとも相手が強いウマ娘トレーナーと既に知っているレースだからだろうか、大和には分からない。

 

(未練だな。ちくしょう)

 

考えを払うように頭を2度ほど振り払った。歯に少し力が入る。

 

ウマ娘たちのレースはもはや終盤だ。ダイワスカーレットが未だ先頭を走るが、その後ろから追い上げ凄まじくアッテナが迫る。光の尾を伸ばして流星の様な脚で距離を詰めていく。

直線最後に坂がある。ダイワスカーレットが顔をゆがめている。そのウマ耳は後ろに振り向き、ウマの尻尾は静電気を帯びたようにけば立っていた。アッテナの気配にひりついた雰囲気だ。

 

ダイワスカーレットは自分が1歩走る間に、アッテナに2歩詰められていく、そんな錯覚を感じていた。

事実、5馬身あった差はすでに2馬身まで詰め寄られている。更にアッテナが加速をしている。溜めた脚は使い切っていた。ここで追いつかれても追いすがることすら厳しい。その焦りが表情に出ていたのだった。

 

「『スカーレット。悪いな』」

 

と、念で大和の声がある。続けてウマ娘人形の体に赤い光が集まり出した。スキル光だ。

 

「『ちょっと! 何する気っ』」

「『ちょっと勝ちたいって思ったら勝手にバッジが反応したようだ。何かのスキルがオートで発動したっぽい』」

「『何してんの!』」

 

迫る足音がすぐ後ろだ。もう数歩と掛からず並ばれる。まだゴールまで200m残っている。

このままでは勝てないと意識する。直感した。ダイワスカーレットにとってトレーナーに操られる走りは嫌だった。だが、それ以上に負ける方が嫌だった。

ぎりっと歯を一度強く食いしばると、吐き捨てるようにスカーレットが続けた。

 

「『あーん。もう。しょうがないわね。その代わり、勝たせなさいよ。アタシを』」

「『任せろ。あとしょうがないついでにここにマニュアルスキルを重ね掛けしようと思う。ていちゃんの連続スキルに対抗できるかもしれない。どうなるか初めてだからな。ちゃんと姿勢制御しろよ』」

「『アンタ、大バカモノでしょーが』」

 

大和の言葉が終わるや否や、今度は青い光が螺旋を描いてダイワスカーレットの脚に集まっていく。集まりきったとき、アッテナが横に並んだ。

スカーレットの目に光が宿る。左目に赤い光を灯し、右目には青い光が幽艶に輝く。

 

「いくぞっ、スカーレット!」感情をぶつける様に、山本大和が口に出した。

「アッテナは負けない!」大和の声に反応して、西ノ宮ていが答える。

 

スキルの光が激突している。あと100m。両者一歩も引かない。互角に並んで走っている。

その時、不意に誰かの声が聞こえた。この場にいる人物の声ではない。腕輪から電子の声がする。しかし、その綴る話し方は人のそれであった。

 

「そんなレースじゃダメですわ。庶民は満足させられてもキングの心には届きませんわよ」

 

と腕輪から聞こえると同じくして、あたりが一瞬にして真っ赤に染まっていった。地鳴りが響く。

環境の急な変化にウマ娘とトレーナーたちが足を止めた。

 

「なに、これ」

 

空が赤い。芝が暗い。特殊フィールドの中は先ほどまでとは打って変わった様子だ。西ノ宮ていが顔をやや青ざめさせていた。

腕を胸に引き付けている。そのていの左腕につけられている腕輪から黒い靄が出てきた。

 

浸食するように西ノ宮ていの腕を這って行く。

そして頭を覆うとていの膝ががくりと折れ、身体を支えきれずに地面に崩れ落ちている。ていは俯いていた。

 

「ていちゃん!」

 

大和が近付こうとした。しかし、近付けない。幻像の地割れが起きて、彼女との間に崖ができたためだ。

レース場がせり上がる。浮いている。大和の身長よりも高い位置にゴールが上がっていた。ゴール板までの直線が更に急な角度のついた坂になった。

コース以外が崩れていく。崩れた先に虚空が広がっていた。

大和が地割れに落ちないように神社の賽銭箱付近の地面に飛び移った。今までいた地面はすでに虚空になっている。

 

視線を黒い靄に包まれた西ノ宮ていに向ける。靄はゆっくりとていの体に吸収されていった。

すべての靄を吸い込むと、すくりと立ち上がる。その眼が大和に向いた。今までの元気が溢れる熱意ある視線が一転、冷淡な気配がにじみ出ている。

 

「お待たせ致しました。では、勝負の続きを始めましょうか。おじ様」

「君は誰だ」

「ふふ、嫌ですわ。どこから見ても西ノ宮ていではありませんか」

 

雨合羽のすそを両手でつまんで、ていは艶やかな笑みを浮かべた。

その顔から一度笑みがなくなると「う、あぁ」と声が漏れていた。すぐに表情が戻る。

 

「ふむ。安定しませんね。フィールド内の色も好みじゃありませんし。年齢が近くても思念のノイズが酷いです。やはりリモートで制御するのは厳しいものですか」

 

頬に人差し指を当てて肘を組み、少しの間考え込んだていは、落胆したように肩を落とした。

 

「思念ログの収集もめどが立たず、立体幻像と思念誘導を合わせた携帯型もだめ。色々問題が山積みです。このシステムはダメでしょうか」

 

仕込みを入れた西ノ宮ていの体を使ってさえ、腕輪を介してウマ娘のように操ることは困難だった。法上院凛の年齢より2歳ほど年下であり、素体としては申し分ないはずの少女でこの成果だと、先は思いやられる。システムを見切るかどうか悩んでいる。

視線をちらりと大和を見ると口角をやや持ち上げた。目的の一つは潰えたが、もう一つ、本来の目的が目の前にいたからだ。

 

「まあいいでしょう。貴方が本当にオリジナルの因子を持っているのか。試させていただきますわ」

 

両手を胸の前で合わせると、ぺろりとていの下唇を舐めた。

 

「さあ、幻像で再現させていただきましたが、この裏レース。貴方の因子で見事破ってみて下さいな」

 

 

 

「裏レース?」

 

初めて聞く言葉に大和が聞き返していた。

大和の質問を受けたていを操る法上院凛はやや目を見開いた。

 

「ご存じありませんか。因子持ちなら知っていると思ったのですが。嘘をついているわけでもなさそうです。どうやら外れみたいですわ。残念です」

「残念ついでにこの可笑しな空間とていちゃんを解放して欲しいな。おにーさん的には」

 

相手の真意がわからない大和は、向こうの出方を伺うしかないといった風に、西ノ宮ていの一挙手一投足を観察していた。

地面の浸食は収まっている。ウマ娘たちが走っていたコースは大和よりも高い位置に浮かび上がり、石階段までの間には大きな空洞ができている。社の周りが浮島のように地面がある状態だ。

跳んでいけるとしたら、今西ノ宮ていが立っているところしかない。

更に奥には妖しく光るアクションフィールドの壁がある。この空間から出られる術があるとしたら、今のところていに憑依している誰かの意志だけだ。

 

「でも大会で邪魔をされてはかないませんので、そのまま、レースを続行しますわ」

「なるほど、大会の出場者たちを先回りして倒している、っていうのはあんただったか」

「あらあら、それは異なことを申しますわね。わたくしはただ単に因子保持者かどうか確認するよう指示しただけですわ」

 

感情的になりそうな気持を歯に力を込めて抑え込む。問題を解決する方法に、感情にゆだねるのは悪手だと今までの経験から大和は判断していた。

頭を落ち着かせるために素早く課題を整理する。

 

まずは、この地面の穴は幻像で投影された質量を持つ空間だ。質量分足場が増えることはあっても減ることは考えにくい。しかし、五感に刺さる気配は本物の穴と見間違うレベルだ。下手に落ちる選択はできない。

つぎは西ノ宮ていの変化だ。変化が起きたタイミングは明らかだった。腕輪型の投影機が異常作動を起こし、黒い靄がていの体に入ったときから変化が起きた。

彼女はリモートと呟いた。遠隔操作で何かをしている可能性が高い。

 

「一つ聞くが、幽霊じゃないよな?」

「ふふっ、おかしなお方ですねおじ様は。さぁどうでしょう」

「やめろよな。神社で幽霊とか洒落にならん」

 

不敵に笑うていの顔は、そんな質問をされるとは思いもしなかった節がある。操っている人間が他にいる。

つまり、あの腕輪を何とかできれば解決しそうだ。と大和は足に力を込めた。

 

「『ヤマト』」

 

ダイワスカーレットの念が頭に響く。

ゴールの坂を見上げると、ボロボロとコースが崩れ始めていた。

 

「申し忘れていましたが、あのコース。時間経過で崩落いたしますわ」

「なんだと」

「抜け出せるのは時間内にゴールしたもののみ。それ以外はあの空間に落ちてしまいますわ」

「落ちるとどうなるんだ」

「さぁ」

 

ふふふと、凛はていの表情のままで笑っている。

 

「ろくなことにならなさそうだな」

「もう一つ。先ほどまで仲良く一緒に走っていらっしゃったので、あのウマ娘たちはロープで互いを結ばせて頂きました」

「至れり尽くせりだな、ちくしょう」

 

課題が増えた。緊急なのはダイワスカーレットとアッテナの救出だ。

 

「『ちょっとアンタ、落ち着きなさい。落ちるわよっ』」

「『スカーレット、どうした』」

「『あいつのウマ娘がコース関係なく走ろうとしているのよ』」

 

西ノ宮ていの手綱が離れた今、ウマ娘の本能である走ることをアッテナが行い始めた。暴走である。

腰に括り付けられたロープを力強く引っ張って、ダイワスカーレットはコースアウトしそうなアッテナをギリギリのところで踏みとどまらせている。

 

「『もう。言うこと聞きなさい。このじゃじゃウマ娘が』」

「『……今の言葉、録音しておきたかったよ』」

 

ダイワスカーレットが一手また一手と引き寄せる。スキル光は互いにすでに纏っていない。純粋な力比べであればアッテナよりダイワスカーレットのほうが高い。

手がアッテナの腰に届いた。同時に、2人のウマ娘がいたコースが崩れた。

 

「『きゃあっ』」

 

大和は咄嗟に賽銭箱の横に立てかけてあった傘をとると、そのままやり投げの要領で思いっきり投げた。

 

「『こいつに飛び移れ。スカーレット』」

 

ダイワスカーレットがアッテナを抱え込むと崩れた地面のかけらを蹴って傘に着地し、3歩駆けて助走をつけると浮いているコースに飛び移った。

傘が虚空に消え去った。

 

「お見事です。う~ん。因子持ちなのでしょうか。判断が難しいですわ」

 

凛が顎に手を当てて考える。オリジナル因子はその因子ごとに性質が異なっている。ただ例外なく思慮外の力を持っていることは間違いない。

今大和が行ったことは、確かに難易度が高い技術だ。しかし中央トレーナーたちであれば可能な技術でもある。凛が今の動きについて因子の力と判断できない理由はそこにあった。

 

「『ゴールが遠退いたわ』」

 

アッテナを抱きかかえたままダイワスカーレットが見上げている。坂になる手前まで下がってしまっていた。道は所々穴が開いている。アッテナが懐で藻掻いている。

暴れるウマ娘を抱えたまま、ダイワスカーレットがゴールを目指して傾斜を這うようにして進んでいった。

 

「『大丈夫かスカーレット』」

「『大丈夫、じゃないわよ。足も重い。スタミナも使い切ってる。こんな斜面をこんなじゃじゃウマ娘抱えてゴールしなきゃいけないなんて。辛いに決まっているじゃない』」

 

愚痴をこぼすダイワスカーレットではあったが、その眼はゴールを捉えて離さない。諦める気はさらさらなかった。

淡い青い光がダイワスカーレットの体に満ちた。スキル光だ。這うようにしていた足に力が入る。

 

「『スタミナ回復のスキルだ。俺が今使える手札はこれしかない。それもレースで一回だけだから次は無理だ。何とか頑張ってくれ』」

「『アタシを誰だと思っているの。天下のウマ娘、ダイワスカーレットよ。1番以外目指さないんだから』」

 

法上院凛にも異変が起きる。時折ていの苦悶の表情が見え隠れし始めた。その自分の様子にはぁとため息をついている。

 

「予想よりも稼働時間が少ないです。もう時間切れですか」

 

西ノ宮ていの体から黒い靄が抜け出した。それをみて大和がていの元まで駆け寄った。ていの体から力が抜け、仰向けに倒れていく。大和が両手で抱えた。ていの両手がだらんと揺れた。

そのままゆっくりと地面に下ろした。

 

「おじ、さん」

 

と掠れた声がある。

ていの頭を優しくなでる。

 

「その腕輪、不良品だったみたいだな」

 

努めて自然を振舞った声で大和は答えた。

 

「全部聞こえてたよ。ボクのほうが悪者だった、ね」

「おにーさんもていちゃんも、誰も悪くないだろ。ただ遊んでいただけだ。おにーさんとしては、妹と遊んでいるみたいで楽しかったぞ。君みたいな元気な妹欲しかったんだ」

 

震えながらていは左腕を持ち上げる。

 

「これを、壊して。それで終わるはずだよ」

「……わかった」

 

腕輪を大和がつかんだ。両手で思いっきり引っ張る。ぴしりと罅が入った。

 

「『うわっ!』」

「『どうした!』」

 

腕輪に罅が入るのと等しくして崩落が早まった。裏レースに設定された時間切れが訪れていた。

コースが一度大きく揺れた。拍子にアッテナがスカーレットの手から離れた。そこには既に地面が無い。

ロープに吊るされた状態でアッテナがいる。ダイワスカーレットがうつ伏せ状態になって、片手でロープを掴んでいた。

アッテナが中空で暴れている。ゆっくり、だが着実にダイワスカーレットの上半身が引き摺られていく。落ちかけていた。

 

そのウマ娘たちの動きを、霞む目で見ていたていは、右手を力なく持ち上げた。

 

「悪いのは全部ボクのせいだ。お姉ちゃんからもらったアッテナに悪いことはさせられない」

 

力なく親指から順に握っていく。

合わせてアッテナが動きを止め、腕を曲げて指を伸ばして構えた。

 

「ごめんね。アッテナ」

 

全ての指を握り、西ノ宮ていのこぶしになったとき、アッテナが動いた。手刀一閃。ロープを切断した。

アッテナの表情が柔らかく微笑んだように、ダイワスカーレットには見えた。

 

「こんの、大バカモノー!」

 

とダイワスカーレットが叫んでいた。

アッテナが堕ちていく。脚が地面の虚空に吸い込まれていく。

同時に腕輪が壊れた。アクションフィールドがたちまちのうちに消え去り、石畳から伸びる雑草にアッテナが倒れていた。

ダイワスカーレットが駆け寄った。上半身を抱きかかえるもアッテナは動かない。特殊フィールドの外ではアッテナは人形だった。

 

西ノ宮ていも意識を手放していた。大和が抱えている。

ぽつぽつと雨がまた降りだしていた。

 

それから一週間が経った。

 

病院のベットの上で窓の外を眺める西ノ宮ていの姿があった。その表情には寂しさが宿っている。

病室に山本大和が入っていった。手にはアッテナの入っているケースがあった。

 

「やっぱり、ダメだった。原因不明だと言われたよ」

「そっか」

 

ケースに入っているウマ娘人形を受け取ると、西ノ宮ていはやさしくなでる。

あれから、アッテナが特殊フィールド内でも動かない事態となっていた。病院内にもリハビリの一環として特殊フィールドが存在していた。

医学用の技術から転用のため、病院のフィールドは本家ともいえる。

しかし、そこでアッテナが動けないのだった。正しくは脚が動かない。走れない。そんな状態のウマ娘人形にアッテナはなっていた。

 

大和が知り合いを頼って原因を特定しようとしたが結果は不発だった。ウマ娘と縁が続いている友人を訪ねても分からないといい、おもちゃ屋の店長にも確認したが芳しくない返事だった。

 

「おじさん、ありがとね。悪者と勘違いしてボク迷惑かけたのに、ずっと来てくれて」

「今月は暇だったんでな。ていちゃんのお母さんが今日、日本に到着するって話だし、この程度何でもないさ」

 

ていは大和の肩に乗っているウマ娘人形に目をやる。

 

「その子の名前、教えてほしいな」

「ダイワスカーレット」

「いい名前だね」

 

そういうと、手元にあるアッテナに視線を移した。

 

「ボクのアッテナも、お姉ちゃんからもらったウマ娘を素体にして、因子を使って生まれたんだ」

「生み直しか」

「うん。お姉ちゃん凄いんだよ。ボクより10才年上なんだけど、15才の時には中央トレーナーとしてレースしてたんだ。そのお姉ちゃんがくれた一番強いウマ娘の生まれ変わりがアッテナなんだ。だから一番強くて、かっこよくて、ボクの正義のヒーローだったんだ」

 

なでる姿を大和は静かに見守った。そのまま考える。

アッテナをまた走らせる術はもうない。狭い範囲ではあるが知りえる限りの手は尽くした。

だけど、一つだけ、まだ手がある。アッテナのままでなければ、もう一度走ることのできるウマ娘として蘇れる。

その手を打つかどうかは西ノ宮てい次第だ。だが、打てるための準備ならしておける。

 

「一か月待ってくれないか」

「一か月後。あ、大会」

 

ていが気づいた。大和はただ静かにうなずいた。ていの目には肩に乗るウマ娘も頭を縦に揺らしたように見えた。

 

「待っている」とていが本当に小さな声で答えた。

 

大和が病室のドアを静かに閉める。廊下に出た。人の姿がまばらにある。

 

「『で、どうするの。ヤマト』」

「『約束しちゃったからな。守らないと。久しぶりにやるか。トレーナーを』」

「『そうこなくっちゃ。アッテナをあんな目に合わせた奴をギッタンギッタンにしてやるわっ』」

 

こつこつと廊下を大和は音を立てて歩いていった。

 

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