クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった   作:緑茶わいん

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【番外編・後日談】未来と過去を目指して

 『闇』との最終決戦は熾烈を極めた。

 世界を覆い尽くす寸前まで迫ったそれはまさに最強の状態。複数体のドラゴン、さらには魔王の姿までも象り、無数の配下までも含めて具象化し、レンたちに戦いを挑んできた。

 呑まれるか打ち払うか、二つに一つの戦い。

 転移してから十年目。開発した転移装置を使って日本への帰還を果たしてからさらに五年。百階に到達してから数か月の時間と数度に及ぶ撤退を経てようやく、レンたちは『闇』との戦いに勝利した。

 

 レン、フーリ、アイリス、メイ、シオン、ミーティア。

 妹たちとエル。

 友人パーティにショウたちパーティ。

 アイリスの母とメイの母。

 コスプレショップの店長、その他街の人たちやベテラン探索者の面々。

 さらには十三歳になった賢者とケントまで日本から来てもらい、戦える者、戦う意思のある者フルメンバーによる犠牲者ゼロの勝利だった。

 

 『闇』との戦いには七十五階までを攻略していなくとも参加できる。

 気づいたのは百階を攻略するために試行錯誤していた最中のことだった。八十階くらいで訓練をするか、と階段に入ったレンたちにとある若手転移者がついてきてしまったのだ。彼のことはきつく叱った上で「これってどうなるんだろう?」と試しにそのままダンジョンへ出てみたところ普通に八十階へ行けてしまった。

 もちろん入ってすぐ出て若手は帰したが、この気づきは大きかった。

 『闇』相手の戦いにおいては通常の戦闘力だけでなく希望を捨てない強い意志が必要となる。子供を得て守るべきものができた者──街の年長者たちはこの点においてレンたちを上回っている。彼らの一撃は闇で形作られたオークを粉砕し、ドラゴンの鱗を剥がし、ゴブリンやオークをまとめて吹き飛ばした。

 

 勝利の後、世界には光が満ち──下り階段は現れなかった。

 

「終わった、の?」

「うん。終わったんだ。……これで、ダンジョンはクリアした」

 

 階段の代わりに現れたのは鍵の形をした神器。

 ドロップ品は物凄い量の世界の欠片。

 解析の結果、鍵には日本へのゲートを開く効果があることがわかった。開いた時点で異世界召喚──神隠しも停止され、日本に帰属する全ての者は『祝福』を失う。

 神器を使えるのは一度きり。

 レンのように種族を固定化した者はそのままだが、そうでない者はスキルもレベルも失い、「召喚された時の姿に戻る」。

 日本でもう一度やり直せるのだ。

 

「でも、死んだ人は生き返らないんだ」

「当然でしょう? 神だって完全に死んだ人間を蘇らせることはできないわ。過ぎた時が戻らないのと同じようにね」

 

 フーリの呟きにミーティアがそう答えたが、レンとしても少々不満な結末だった。

 ダンジョンをクリアすれば全てがうまくいく、そんな結末があってもいいじゃないか。

 

「……時間を戻せればなんとかなるのかな?」

 

 思いつきのままに呟けば、メイがどこか面白がるような雰囲気で首を傾げて、

 

「ご主人様。異世界転移の次はタイムスリップですか?」

「うん。それができたら滅んだ世界も死んだ人たちも助けられるんじゃないかな」

「……机上の空論ですが、もし可能なら助けられる可能性はありますね」

 

 百階の戦いで、レンたちは亡国の王子と王女と出会った。

 神殿を作り世界の残滓を守った者たち。

 彼らにも一緒に来ないかと誘いをかけたが、断られてしまった。奇跡を目の当たりにし救済を受けて、これ以上望むことなどない、と。

 別れ際まで彼らは笑顔だったが、レンたちとしては複雑だった。

 

「私は、助けられるなら助けたいです! 聖女様も、陛下も、みんな!」

「エルちゃん……。私だってもちろんそうですけど、でも、もし過去に戻れても救えるかどうかはわからないと思います。タイムパラドックスが解決できませんから」

 

 読書家のアイリスは日本の図書館に一ヶ月通い詰め、帰る時もストレージに本を詰められるだけ詰め込んだことでより博識になった。

(メイも似たようなことをしていたが言動には特に影響が出ていない。メイはメイである)

 その成果を発揮しての発言には説得力がある。

 

 過去を改変すればレンたちにとっての現在にも影響が出る。

 例えば召喚自体が起こらなかったことにすればレンたちはここに来なかったことになり、そうするとレンたちが過去に干渉した事実さえもなくなる。

 これに説明をつけた理論がパラレルワールドや世界の枝分かれである。

 過去に戻って何かを救っても「救われた世界」が別に生じるだけで未来は変わらないという説だ。もしこれが正しければ過去を変えてもレンたちの前に死んだ人が現れるわけではない。

 

「いいじゃないですか! 別の世界でも、みんなが救われてくれれば!」

「そうだね。わたしもエルと同じ意見」

「じゃあ、レン。今度はタイムスリップの研究をするんだ?」

「わたしはサキュバスのままで確定だしね。エルも手伝ってくれるだろうし」

「もちろんです!」

 

 この世界で生まれた子たちはゲートを開いても力を失わない。もしかすると追加で得た祝福はなくなるかもしれないが、そんなものがなくても彼らは剣も魔法も使うことができる。

 娘たちも多くが異世界に残るだろうから母親が一人は必要だ。

 

「わたしはこっちで頑張るよ。そのほうが性に合ってそうだし」

 

 別に帰れなくなるわけではない。

 ゲートは一度しか使えないが、自前で行う異世界転移がある。たまには帰ることもできるので今生の別れにはならない。

 

「また会えるんだし、みんなも気楽に決めたらいいよ。もちろん、向こうであらためて誰かと結婚するならそれも──」

「しょうがないなあ。なら、私も一緒にいてあげる」

「フーリ」

「あんなに可愛い子放り出せるわけないし、前にも言ったでしょ? レンのこと、そんなに簡単に忘れられるわけないんだから」

「せっかくやり直せるのに?」

「二人で高校生できるなら考えたけどねー」

 

 笑って前から抱きついてくる彼女。首に回された腕がなんとも心地良い。ここにいてほしい、と、深く思った。

 

「それとも、私なんか必要ない?」

「まさか。……一緒にいて欲しいよ。フーリにも、みんなにも」

「でしょ? なら最初からそう言えばいいのに」

 

 ね? とフーリが後ろを振り返ると、ハーフエルフの少女とダークエルフの姫が笑って、

 

「私のふるさとはもともとここですから」

「私にはあなた以外の結婚相手はいないのよ。忘れたのかしら?」

「アイリス。ミーティアも」

 

 次いで、ゴーレムの少女が頷いて、

 

「向こうのネットやゲームはとても興味深いですし、メイドロボとしてちやほやされるのにも心惹かれますが。私の産んだ娘は一人でもなんとかなるだろうとも思いますが」

「うん。メイちゃん、行ってくれば?」

「止めておきます。ご主人様以上のご主人様は見つかりそうにありませんので」

「ありがとう、メイ」

 

 最後に、シオン。

 みんなの視線が集まる中、少女は迷うような表情でしばし間を置いてから、

 

「わたくしは日本に戻ります」

「……そっか」

「はい。娘が向こうに行きたがっていますし、向こうでやりたいこともありますので」

 

 シオンは前に帰還した際、日本のお稲荷様から接触を受けていた。

 神社という意味ではなく妖狐という意味だ。いたんだ妖狐、とみんなして盛大に突っ込んだが、末裔的な者たちがひっそりと存在していたらしい。

 彼ら彼女たちから手伝って欲しいと言われていたので向こうでも楽しくやれそうである。

 シオンは申し訳無さそうに微笑んで、

 

「ですので、役目を終えたら戻ってきてもよろしいでしょうか? 五年か十年か、その程度で戻ってまいります」

「シオンちゃん。いいの?」

「ええ。娘もその頃には十分大きくなります。妖狐にとってのその時間はあっと言う間でしょう」

 

 ゲートを開くタイミングは選べる。

 日本にいる転移者たちにまで能力喪失の影響が及ぶか心配なので一度戻ってきてもらう必要があるし、使う前までに種族を固定化すれば能力は残せる。

 シオンは妖狐として戻り、また帰ってくる道を選んだ。

 

「わたくしだって、レンさまの腕の中は恋しいのです。わかってくださいますか?」

「もちろん。……みんなで待ってる」

「はいっ!」

 

 異世界の人口も再び増え始めている。

 先の不安が減った以上、これからはどんどん増えていくだろう。

 となると問題は神殿か。

 

「神殿はなくならないんだよね?」

「うん。だけど、この世界を守っていた結界はなくなるみたい」

 

 闇は新しい世界を侵食できない、と、王子たちは言っていた。ただ絶対ではないし、こちらから干渉すれば反撃くらいはしてくるかもしれない。

 世界を飲み込めなくても人に無害とは限らないのだ。

 

「神殿も一種の神器になったみたいだし、解析してコントロールできないか試してみようか」

 

 十分な欠片が集まったらダンジョンは封印した方がいいかもしれない。

 代わりにこの世界にダンジョンを作ってもいい。世界の欠片で洞窟を作ればそこにモンスターが湧き出す可能性はある。ここはみんなとよく話し合うべきか。

 それから、祝福の機能を変えられないか。

 物語でよく見るような「何歳になったらスキルを授かる」みたいな機能ならきっと暮らしやすくなるだろう。

 

「やることいっぱいだなあ」

「シオンちゃんが帰ってくるまでに終わらないかもね」

「終わってしまっては困ります。むしろ、過去へ旅する際はわたくしも呼んでくださいませ」

「うん。シオンがいてくれたら百人力だよ」

 

 これで方針は決まった。

 あとは色々頑張るだけだ。子育てと後進の育成、街の発展に神器の解析とタイムスリップの方法探し。

 まだまだレンの役目は終わらないけれど、戦いはここでひと区切り。

 過去での戦いに備えて腕をさらに磨きながら励んでいこう。

 

「一緒に頑張ろう、エル」

 

 最後に、すっかり立派な聖女となった彼女に問いかけると、笑顔で左手を差し出してくれた。

 

「はい。連れて行ってください。この先まで、ずっと」

 

 あの王子と姫を本当の意味で救える日も、案外、遠くはないかもしれない。




【補足】
今話でダンジョンへの挑戦として世界の終わりを救済
→タイムスリップを思いつき方法を模索
→前話ラストの描写に繋がる形となります

ダンジョンで戦った『闇』と実際の『闇』が同じ戦い方をするとも限りませんし、人数がだいぶ減っているので決して楽な戦いではありませんが、レンたちもさらにパワーアップしているのでなんとかするでしょう
【補足終わり】


書きたいこともだいたい書けましたので、ここで一区切りとさせていただきます
ここまでお読みくださいましてありがとうございました

何か思いつけば追加で話を書くかもしれません
そうでなければ次は何か新作の投稿になると思います(内容未定)
もしお目に触れる機会がありましたら読んでみていただけますと幸いです
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