クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった   作:緑茶わいん

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やんちゃな少年たち

 美人とお近づきになりたいとレンたちのところへやってきた少年、ショウとケン。

 空になった食器を前にどこか切実な表情を浮かべる彼らは、男だった頃のレンとは二、三歳差。異世界では実年齢より精神が若くなりがちなのもあってかなり年下に感じられる。

 無駄な自信に満ち溢れていたタクマたちに比べると好感が持てるし、助けてやりたい気持ちもなくはないが──。

 

 レンは軽く咳ばらいをして話を戻すと二人に告げた。

 

「悪い。やっぱりうちのパーティには入れられない」

「なんでだよ。変な事しないなら別にいいだろ!?」

「そこはいったん置いておくとしても定員オーバーなんだよ」

 

 パーティの適性人数は四人から六人とされている。

 通路を二人ずつ並んで進むとして二列か三列。部屋では前衛後衛で半数ずつ分かれるとちょうどいい。多すぎるとごちゃごちゃして逆に連携が取りづらい。

 

「あいつらならちゃんと指導してくれるだろうし、頑張ってみろよ。別に同じパーティじゃなくても彼女は作れるんだし」

「そうそう。あんまり強引じゃなければ街で声かけても話聞いてくれると思うよ」

 

 レンの台詞にフーリが合わせると、大人しい方の少年、ケンが「なるほど……」と頷いた。

 これは説得できそうかと思ったところで、

 

「そんなこと言って俺達を追い払う気だろ!」

 

 なかなかてごわい。

 ショウの方がしぶとく抵抗を見せるとケンも黙ってしまった。

 そこまでレンたちのパーティにこだわるということは、

 

「……ひょっとして、うちのパーティに好きな子でもいるのか?」

「なっ!? な、ななな、なんでそうなるんだよ!?」

「いや、めちゃくちゃわかりやすいなお前」

 

 真っ赤になって慌てている。

 レンだってこっちに来るまで女子とは縁がなかったわけで、そう考えるとショウの方が将来有望とも言えるわけだが……ここは自分のことを棚に上げて可愛い弟分のように思っておく。

 こうなると彼らの内心に興味が出てくるわけで。

 軽く身を乗り出し、テーブルに肘を載せながら少年たちを見つめた。

 

「ここだけの話、誰が好きなのか教えてくれよ」

「だ、誰って」

 

 目を泳がせ、ちらちらとレンたちの方を窺ってくるショウ。視線の先にいるのが具体的に誰なのか、レンは判別しようとして、

 

「言えるわけないだろアホか! レンさんはどっちの味方なんだよ!」

「……なんだよ。男の気持ちならわかってやれると思ったのに」

 

 なんだか仲間外れにされた気分である。

 椅子に背を預けて不貞腐れると、フーリがくすくすと笑って、

 

「まあまあ。この子たちだって本人のいる前では言えないでしょ」

「早いとこ伝えた方が後に退けなくなって良くないか?」

「レンだって好きな人に『好き』って言うの恥ずかしい癖に」

「俺はもうそのくらい言えるぞ」

 

 耳に顔を近づけて「好きだ」と囁いてやると、少女は「ばっ……!?」と頬を染めた。

 

「今言わなくてもいいの! ……私も好きだけど

「っ」

 

 なんだかレンまで恥ずかしくなってきた。変な雰囲気になりそうなので慌てて姿勢を正す。

 なお、アイリスは恥ずかしそうにこちらをちらちら見てきており、メイは黙って真っすぐにレンたちの様子を観察していた。

 少年二人はぽかんと一部始終を見守った後、

 

「お、女同士とか駄目だろもったいない!」

「で、でもショウ。女の人同士で付き合ってるなら僕達にもチャンスがあるかも」

「え、そういうのもあるのか……?」

 

 どうなんだ? とでも言いたげにこっちを見てくる。

 そんなことを言われても。

 

「……どうなんだろうな? 彼氏持ちよりはまだチャンスあるのか?」

「私に聞かれても」

「ドロドロの人間関係ですね。興味があります」

 

 とりあえず結論が出ないことはわかった。

 

「なあ、ショウ、ケン。一緒のパーティになったからってそれだけで付き合えるわけじゃないぞ。結局は頑張ってその子の気を惹くしかない」

「それはレンさんの体験談?」

「まあ、そんなところだ。だから、こうやって我が儘を言うくらいならあいつらのところで成果を挙げる方がいいんじゃないか?」

 

 最終的にはアドバイスめいたことを言って説得することに。別に嘘は言っていないし、これでやる気が出れば実際にダンジョン攻略でも頑張れるだろう。

 ショウたちもこの話には興味があるのかこくりと頷いて、

 

「レンさんも俺たちが強くなったら見直してくれるか?」

「ん? ああ、ちゃんと先輩の話を聞いて、命を大事にしながら冒険を続けられる奴は格好いいと思うぞ」

「……わかった。じゃあ、頑張ってみるよ」

 

 ゴネまくったのが嘘のように少年たちは納得して帰っていった。

 二人の去った後、入れ違うようにリビングへ顔を出したマリアベル(騒がしくて起きてしまったらしい)はレンを見て、

 

「若い男の子を二人も惑わしましたね?」

「別に騙したつもりはないんですが」

 

 若干不本意なレッテルを貼られてしまった。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「でもさ、レン? 実際のところどうなの?」

 

 朝食の片づけを終え、細々した用事を片付けたら後は部屋でごろごろする。

 このところ休日もやることが多かったので今日はほぼまるまるオフである。

 フーリも買い物に行くつもりはないらしく、マンガを片手にレンの部屋へやってきて我が物顔でベッドに座りこみ始めた。

 まあ、特に問題はない。

 こっちで流通しているベッドは「規格を共通にした方が手間が省ける」と大きめサイズだ。女二人なら並んで寝たとしても手狭にはならない。ちょくちょく体験しているのでそれはよくわかっている。

 ……それはともかく。

 

「どうって、なんの話だ?」

「男の子。なんか思ったりするのかなって。美味しそうとか」

「人を化け物みたいに言うなよ」

 

 人間の生命力を餌にしているわけなのであながち間違いでもないのが困りものだが。

 ごろん、と横向きに寝転がったまま、座るフーリの横顔を見上げて、

 

「まあ、なんか全般的に嗅覚が鋭くなった気はする」

「え、私汗臭い?」

「いい匂いだから安心しろ。そうじゃなくて、男子と女子の違いがわかりやすくなったってこと」

「ふーん」

 

 ページをめくる手が一瞬止まって、

 

「どっちが好きなの?」

「嗅いでて落ち着くのは女だな。男のは……なんだろうな。客観的には別にいい匂いじゃないんだけど癖になることってあるだろ?」

「猫とか犬の匂いつい嗅いじゃうような感じ?」

「あー。近いかも」

 

 止められない止まらない、となるかどうかは怖いから試していない。

 

「つまりレンは匂いフェチってことかー」

「なんか嫌だなその言い方。……でも、間違ってはいないか」

 

 間近に行かなくてもその人の存在を強く感じられるのは悪くない。

 

「俺は好きだぞ。フーリの匂いも」

「だから、そういうこと急に言うの禁止」

 

 ぱたんとマンガを閉じた少女が振り返って顔を近づけてくる。

 触れ合った唇は数秒間、離れることはなかった。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 ボス部屋に入った途端、豚に似た鳴き声が大きく響き渡る。

 十一階のボスはオークウォーリア。さらに一回り大きな巨体とそれに似合うサイズの手斧を持った戦士である。

 さらに通常のオークが二体。

 遠距離攻撃の手段を持たないが故になにも考えず突撃してくる彼らを止めるのは至難の業だ。

 

「マジックアロー!」

「ファイアボルト!」

 

 十八番となった魔法+矢の攻撃で接敵前に少しでもダメージを与えたら、前衛であるメイに進行を阻んでもらう。

 とはいえさすがに三体を相手にするのは厳しいため、

 

「ほらほら、こっちも気にしなさい!」

 

 フーリにすばしっこさを活かして挑発を行ってもらう。

 心臓や首を狙いづらいので急所狙いはできないが、腕や足を浅く裂くだけでも注意を惹くことはできる。

 一体が気を取られて離れた隙にメイと対峙する通常オークへと攻撃を集中。

 

「マナボルト!」

 

 新スキル「魔法増幅(マジックブースト)」。

 個々の魔法へMPをつぎ込むのとは別にさらなるMPを消費、威力を強化するスキルだ。目いっぱいまで威力を上げたマナボルトはゴブリンのHPを一撃で刈り取る。当然、オークにもかなりのダメージを与えることが可能。

 敵の攻撃をかわしながらメイが繰り出す拳も着実にヒットし、そこへアイリスの矢とファイアボルトが加われば、一体が沈むのに時間はかからなかった。

 

「よし! メイ、しばらくボスを引き付けてくれ!」

「挑発が優先ということであれば恙なくこなさせていただきましょう」

 

 次いで狙うのはフーリを攻撃しているオーク。それが終わったらようやくオークウォーリアを袋叩きして、

 

「……はあー。終わったあ。やっぱこいつらしぶとすぎでしょ」

 

 ボスが消滅すると部屋にはドロップ品と下り階段が残された。奥の石碑は既に書き写しているため、内容が変わっていないことを確認するだけで良い。

 世界の欠片は二十二個。増加ペースはこのまま一個ペース(アイリスたちは二個ペース)ということだが、なかなか馬鹿にできない。十一階での獲得個数は一階から四階までの獲得個数の合計を上回る。二十二階まで行けばこれがさらに倍である。

 

「MP最大値増やして良かったよ、ほんと」

「うん。知ってる? レンのMPって他のみんなと比べてもかなり多いらしいよ」

「MPが俺の取り柄だからな」

 

 なんとなく胸を張ってみると「頼りにしてる」「これからもよろしくお願いします」と真面目に返されてしまった。

 

「メイもありがとな。敵を引き付けてくれるお陰で各個撃破がやりやすい」

「当然のことをしたまでです。……ただ、やはりボディの強化は継続すべきですね」

「一発殴られたら俺たちもメイも無事じゃ済まないもんな……」

 

 異世界に来る前のレンだったら即死しかねない。今でも骨の一本や二本は軽く持って行かれるだろうし、もしそれでレンが気絶したらヒールもかけられなくなる。

 攻撃魔法を撃ちながら「マジックシェル」も使う、というのもタイミング的に厳しい。

 

「私たちも成長しているはずなのになかなか楽になりませんね……」

「残念ながら、下層を目指し続ける限り待っているのは苦境です。前線にいる方々の話を聞いても『楽になった』という声はありません」

「うわあ、もうちょっと手加減してくれてもいいのに」

 

 とはいえ、レンたちの同期の中には既に十六、七階まで攻略しているパーティもある。

 タクマたちといた頃は最速攻略組だったレンたちだが、何度も一階からやり直しているうちに出遅れてしまった。賢者曰くこれは仕方のないことだそうで、

 

『ネイティブ世代を多く連れている以上、転移者のみのパーティより苦境を強いられるのは当然だ。スキルの数がその分だけ減るのだからな』

 

 アイリスもメイもネイティブ世代としては破格の実力だ(精霊魔法やボディ改造という独自の強みを持っている)が、これが転移者なら攻撃用のスキルでさらに強くなれる。実質四人パーティであるうえに半分が異世界生まれというレンたちはかなりのハンディを背負っている。

 もちろん、だからと言ってアイリスたち除け者にするつもりもなければマリアベルに「抜けてください」と言うつもりもないが。

 

「あいつらもショウたちを連れて一階から潜り直しなんだよな」

「うん。命の危険まではないだろうけど、ちょっと大変かもね」

 

 見たところショウたちは剣士系と魔法使い系のようだった。

 アイリスのように獣相手の実践を積んでいたり、メイのように物怖じしない特性を持っているかは微妙だ。彼らを活躍させつつ大けがをしないように注意して見守るというのは骨が折れるだろう。

 話しながら階段を下り、神殿に戻って。

 

「やっと来た。けっこう粘ってるんだね、お疲れ様」

「あれ? どうしたの二人とも。……ショウくんにケンくんも?」

 

 石造りの神殿に足を載せたところで声をかけられた。

 いたのは件のパーティの女子二人。元クラスメートなのでレンたちとも当然顔見知りだ。彼女らに寄り添われるようにして立っているのはこの前会ったばかりの少年たち。

 あの時は生意気な態度だった彼らは見る影もなく気落ちしており、顔には涙の痕らしきものも見える。着衣にも傷や汚れが見えることからダンジョン探索の後だろう。

 

「どうしたんだ?」

 

 尋ねると、相手パーティの少女たちはレンと視線を合わせて、

 

「久しぶり。また可愛くなってない、レンちゃん?」

「ちょっとね。トラブル、っていうほどじゃないんだけど、この子たちが落ち込んじゃって」

「攻略、上手くいかなかったのか?」

 

 レンの声にショウたちがびくっとする。叱られた子供のよう、というか、ほぼそのままか。

 

「一階はきっちり攻略したよ。途中までは二人とも順調だったし、欠片も二個ずつもらったから神様? も満足だったみたい」

「ただ、ボス戦で怖くなっちゃったみたいで……」

「なるほどな」

 

 事情はなんとなくわかった。

 レンは少年たちに近づくとそれぞれの肩に手を置いて、

 

「今日はこいつら預かってもいいか? そのために待ってたんだろ?」

「お願いできる?」

「二人ともレンちゃんたちに懐いてるみたいだから、その方がいいかなって」

「ああ。俺も知らない相手じゃないからな」

 

 今日のところは二人を連れて帰ることになった。

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