クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった   作:緑茶わいん

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落ち込む少年たち、とクリスマス

「で、なにがあったのか詳しく聞かせてくれるか?」

 

 洋食店で祝杯を挙げながら、といきたいところだが、少年たちがこの様子だと落ち着ける場所の方が良さそうだ。

 ショウたちを連れて家に戻ったレンは、夕食の支度をフーリ、アイリスにお願いして、ひとまずお茶を淹れた。温かいお茶を飲むと二人も多少は落ち着いたらしい。

 言いづらそうにしながらもぽつぽつと話をしてくれた。

 

「……怖くなったんだ」

「戦うのが、か?」

「ああ。最初は大丈夫だったのに、なんか……」

 

 二人は今日が初ダンジョンだったらしい。

 最初に感じていたのは強い緊張。初めての戦闘をなんとかこなすと、自分たちでもゴブリンを倒せることに喜びが生まれた。

 二度、三度と戦闘を繰り返し、モンスターの死を積み重ねていく。

 順調に探索を続けながら、彼らはふと思ってしまった。

 

 生き物はこんなにも簡単に死ぬ。

 なら、一歩間違えれば「死ぬ」のは自分たちなのではないか?

 

 疑問に気づかない振りをしながらボス部屋へと到着。パーティリーダーからの注意事項を聞きながら「これが終わったら帰れる」という安堵と共に「今までよりも強い敵が来る」と認識した。

 今までのゴブリンは倒せたが、ボスも同じようにいくのか?

 

「今までと同じようにやれば大丈夫。そう言われてたのに、戦おうとしたら身体が動かなくなって……」

 

 リーダーが守ってくれたため怪我は負わなかった。

 結局、ボス戦はレンのクラスメートたちが痛めつけたゴブリンにとどめを刺しただけ。

 ショウたちの脳裏には「やらなければやられる」「やられたらああやって世界からいなくなる」という認識が強く残った。

 

「そう、か」

 

 ショウたちは話すうちに涙を滲ませていた。

 涙も枯れていただろうに、水分補給した途端にこれだ。よっぽど悔しかったらしい。

 しかし、レンは二人が不甲斐ないとは思わなかった。

 

「頑張ったな、二人とも」

「え……?」

 

 驚いた顔の少年たちに歩み寄り、ぽん、と頭に手を置いてやる。

 

「まだ若いのに、あんな奴らと戦うなんて怖くて当たり前だ。ボス戦まで一気にこなしたんだからむしろ大戦果じゃないか」

「でも、みんな普通に戦ってるのに」

「俺たちは『元の世界に帰りたい』って事情があるからな。『祝福』をもらってるからお前たちよりは安心だし。……それに、戦える力があるからって怖くないわけじゃない」

「そう、なのか?」

「当たり前だろ。ここに来る前は殴り合いなんてしたこともなかったんだ」

 

 こっちに来てからも攻撃は魔法なのだが、それはともかく。

 

「正直、今だって怖い。ゲームと違って死んだら終わりだからな」

「じゃあ、どうして戦えるんだよ」

「慣れかな。あとは、どうしても戦いたい理由があるかどうか」

 

 しばしの沈黙。

 

「女にモテたい、格好つけたいってだけじゃ駄目なのか?」

「別にいいんじゃないか? ただ、死ぬ思いしてまで女にモテたいかどうか。それはお前たちが決めるしかないよな」

「………」

 

 これで彼らが「ダンジョン攻略は止める」と言ってもそれは仕方のない話だ。

 命には代えられない。賢者だって犠牲が出ることは望んでいないはず。

 狭い世界だ。別に命を張って活躍しなくても結婚相手くらいは見つかるだろう。近所の女の子と自然にそうなるか、あるいはお見合いでも始まるか。

 

「なあ、レンさん」

 

 しばらくして顔を上げたショウはレンを見上げて、

 

「頑張ったらデートしてくれよ」

「え?」

「ずるいぞ、ショウ。レンさん、僕もお願いします」

 

 妙なことを頼まれてしまった。

 冗談かと思えば二人とも真剣な顔つき。

 元男のレンとデートして楽しいのだろうか。どうせならアイリスとかの方が良いと思うのだが……アイリスが彼らとデートするところを想像したら若干モヤっとしたので口には出さないことにする。

 そのうえでしばらく考えて、

 

「じゃあ、十階まで攻略できたらデートしてやるよ」

「本当か!? 嘘つかないよな!?」

「ああ。……ただし、命は大事にしろよ? 死んだらなんにもならないんだからな?」

「わかってる!」

 

 一転して表情を輝かせる二人。

 まあ、死ぬのが怖いとあらためて実感した後なのだし無茶はしないと思うのだが、果たして「レンとのデート」のどこにそれほどの効果があったのか。

 その後、ショウたちにはフーリとアイリス特製の夕食を振る舞ってからパーティの家まで送り届けた。

 パーティリーダーはわざわざレンに頭を下げて「ありがとう」と言ってくれた。「気にするなよ」と笑って答えたら彼女に引っ張られて家の中へと後退していってしまったが。

 

「ちゃんとデートしてあげなよ、レン」

「約束は守るよ。デートって言っても街ぶらぶらしたりなんか食べたりするだけだろ? 頑張ったならそれくらい付き合ってやるって」

「うーん……そうだけどそうじゃないっていうか。まあ、いいや」

 

 もしかしたらショウたちはこれから大きく成長していくかもしれない。

 若い少年たちを潜らせることにしたのにはそういう理由もあるだろう。ダンジョン探索に堪えられる期間が長く、伸びしろも多い。

 身体も精神も出来上がった者だと転移者より年上になってしまい指示を聞いてくれないかもしれないし、かといって転移者の方を二年目以降の者にすると今度はパワーレベリング扱いされて世界の欠片を減らされてしまうかもしれない。

 なかなかままならないものである。

 

「ショウたちが成長したら独立させるのかな」

「あー、どうだろうね。その場合、アイリスちゃんとメイちゃんと一緒に組むとか?」

「え、私、レンさんたちと一緒じゃ駄目なんですか?」

「ご主人様と別のパーティに行くメリットが私にはないのですが」

 

 当のアイリスたちは新パーティ結成に反対だった。別にショウたちが嫌いなわけではないだろうが、慣れた仲間と離れるのに抵抗があるのはわかる。

 

「ああ。俺もできれば、アイリスたちとこのままやっていきたいな」

「レンさん……!」

 

 笑顔になったアイリスが腕を取ってくる。するとフーリが自然な動作で逆の腕を確保。

 一瞬フリーズしたメイがどうするかと思えば、

 

「ご主人様。抱きついてもよろしいでしょうか」

「歩けなくなるから止めてくれ」

 

 まあ、デートにしてもパーティ再編にしても、話が持ち上がるとしてもまだまだ先の話である。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 ダンジョン探索の翌日は再び休日。

 アイリスは朝食の後からさっそく山の件で絵の製作を頑張っており、筆記用具と紙を片手にうんうんうなっていた。

 

「レンさん。これ、やっぱり年内には絶対終わりません」

「もうすぐ年明けだもんなあ」

 

 湖の作成だって大変だったのに、長い川+山の絵なんてどう考えても終わるわけがない。

 むしろ簡単に終わるなら会のメンバーは今まで何をしていたんだ、という話になってしまう。

 

「メイも言ってたけど、急いで終わらせなくてもいいよ。気になるならちょっとだけ川伸ばしとくとかでいいんじゃないか?」

「そんなのでいいんでしょうか……?」

 

 言って見上げてくるアイリスの青い瞳には不安の色がある。

 真面目過ぎるのも考えものだ。とはいえ、レンだって街規模のプロジェクトを任された経験なんてない。責任を感じてしまうのも当然と言えば当然なのだが。

 経験がないからこそ安請け合いできる、という面もある。

 

「いいって。文句言われたら『今年は河原から月見でもしてろ』って言おう」

「実際、あの方々はそれでも満足するのではないでしょうか」

 

 お気に入りになったらしいメイド服姿で掃除をしていたメイが立ち止まって言う。

 

「平地から立って見渡せる地平線はせいぜい4~5km程度先でしかない、と本で読みました。であれば、山に登らなければむしろ近場で日の出が見られるでしょう」

 

 もちろん、それだと日が昇る瞬間は見られないわけだが、街から見るよりは川から見る方が障害物の関係でまだマシだろう。

 時計がないので0:00にあけおめコールもできないわけで、きっちりにこだわっても仕方ない。

 さらにメイは少し考えるようにして、

 

「大まかなプランはアイリスさんが作成し、実際に川を具現化するのは他の方に任せても良いと思います。何人かで分担すれば個性が出て逆に面白いかもしれません」

「それはいいかもな。一人でやるとえんえん似たような感じになりそうだし」

「今のところ大した文句は来ていませんが、もし変ないちゃもんをつけられた場合にはご主人様に宥めていただきましょう」

「任せろ。いざとなれば『魅了の魔眼』を使えばいい」

 

 あまり積極的には使いたくないスキルだが、もめ事の時は不可抗力だろう。

 ここまで来るとアイリスもほっとしたのか笑顔になって、

 

「やっぱり、レンさんは頼りになりますね」

「そんなことないって。むしろ頑張ってくれてるのはアイリスとメイだし」

「もっと褒めていただいても構いませんよ」

「メイはちょっと図太すぎるかもしれないけど、アイリスも自信持っていいぞ」

「ふふっ。はいっ、そうします」

 

 次の日。レンたちは前日までに描けた分の絵──5kmぶんあるかないかをリーダーに提出して「川の作成自体はお任せします」と丸投げした。

 これで「早くしろ」と急き立てられるのはアイリスではなく会のメンバーの方になる。ついでに川の出来も連帯責任だ。

 人選で揉めた場合は今回の日の出もナシになるかもしれないが、レンたちはそこまでこだわっていないので特に問題ない。

 若者にとって重要なのはむしろお正月の数日前、

 

「メリークリスマス!」

 

 チキンとケーキとプレゼントの日ことクリスマスである。クリスマスの由来? そんなもの大多数の若者にとっては割とどうでもいい。

 レンたちパーティも我が家でささやかなパーティを開いた。アイリスの家で一緒に、という手もあった(実際、アイリスの妹たちから誘われたりもした)のだが、他でもないアイリスの母から「仲間同士での思い出作りも大切ですよ」と言われ、一年目くらいは仲間だけで……ということになったのだ。

 食卓に並んだのは今のレンたちなりのご馳走。

 一羽分丸ごと買ってきてじっくり焼き上げた鶏肉に、いつもより具材が多めのスープ、たっぷりのパンに、ケーキの代わりとして用意したクッキー(数種類のジャム添え)、ちょっとお高めのワイン。

 

「メイちゃんがご飯食べられないのが残念だけど……」

「お気遣いなく。私も素敵なご馳走をいただきましたので」

 

 メイの席の前には鍛冶屋から格安で譲り受けてきた鉄くずが積み上げられている。金属はボディの強化に重要、ということで、表情はあまり変わらないもののご満悦の様子。

 

「チキンは私とフーリさんで頑張りました!」

「アイリスちゃんのお陰で火加減ばっちりだからきっと美味しいよー」

「めちゃくちゃいい匂いしてるもんな」

 

 料理ができない分、主に買い出しを担当したレンは思わずごくりと唾を飲み込む。こういう時は「料理上手なメンバーがいてくれて本当によかった」とあらためてしみじみ思う。

 パーティを早抜けして娼館の方へも顔を出す予定のマリアベルはいつもの微笑みを浮かべて、

 

「ワインは私たちからです。多めに買い込みましたのでたくさん飲んでください」

「あはは。これは明日きっと二日酔いだねー」

 

 笑いながらチキンにナイフを入れて切り分けていくフーリ。四分割とはいえ、皿に盛られた肉はかなりの大きさ。

 

「去年のクリスマスは家族とフライドチキンだったぞ。下手したら今年の方が豪華なんじゃないか」

「そこまで言ってもらえると作った甲斐があるよね」

「はい!」

 

 いただきますを言って、待ちに待ったご馳走を食べ始める。チキンを一口食べたらパンを口に放り込み、合間にスープを挟む。もちろんマリアベルと娼館のみなさんからのワインもありがたくいただく。

 

「美味い」

 

 ほう、と、恍惚の吐息が漏れた。

 

「あそこの洋食も美味いけど、フーリたちの料理も最高だよな」

「えへへー。これからもずっと食べたい?」

「ああ、食べたい」

 

 こっちに来てからこういうことを素直に言えるようになった気がする。サキュバス化の影響か、それとも女子と過ごすようになったせいか。

 マリアベルがにこにこしながら「試しにもっと酔っていただきましょうか」と不穏なことを呟いて、

 

「アイリスさん。レンさんにお酌をして差し上げては?」

「あ、はいっ。どうぞ、レンさん」

「ありがとう、アイリス」

 

 酒のせいか表情筋が緩くなっている。だらしない笑顔になっていないといいのだが、レンの顔を見たアイリスは目を逸らしてしまった。駄目だったかもしれない。ちょっと気を引き締め直した方がいいかと思ったところで、

 

「レン、私にも注がせて」

「いや、まだグラスにいっぱい入ってるから。むしろ俺にも注がせろ」

 

 わいわい騒いでいるうちに自重するのを忘れてしまった。

 今夜は他の家も似たようなものだ。少しくらい大きな声を出したところで文句を言ってくる者はいない。楽しむべき時にめいっぱい楽しんで英気を養わないとダンジョン探索なんてやっていられない。

 

「さて、適当なところでプレゼント交換もやっちゃうか」

「賛成ー」

 

 レンはフーリ、アイリスへ本人の希望通りマンガと歴史本を。マリアベルにはこれまた本人の希望で女性同士の恋愛小説を贈った。

 フーリたちからのプレゼントはと言うと、

 

「はい。可愛い服と下着のセット」

「私たち四人で選んだんですよ」

 

 絶対にダンジョンには着ていけない黒のドレスに同色のブラとショーツ。背中は大きく開いたデザインになっているため翼があっても窮屈ではない。

 確かに可愛い。可愛いが、

 

「これ、パーティとかに着ていくやつだろ?」

「パーティなら今やってるじゃない」

「まじか」

 

 今着替えて来いと促され、さっそく袖を通すことに。

 結果、フーリたちからは大好評。可愛い可愛いと連呼されるとレンも満更ではなかったものの、ご馳走をこぼして服を汚してしまわないか注意を払うのが大変だった。

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