クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった   作:緑茶わいん

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四十階攻略と新たな悩み

 二年目の転移者からも女子グループがひとつ、レンたちの近所に住みたいと希望してきた。

 同期の男子が覗き騒ぎをやらかしたことで警戒心が強まったらしい。

 覗かれたのが他でもないレンたちなので、同様の手口──超能力による覗きには無力なのだが、街中(というか世界中)の人々に「スキルでエロいことをしました」と知られてしまった彼らが再度やらかすことはおそらくないだろう。

(万が一、再犯がバレたら「どんな罰を受けてもいい」と宣言しているようなものである。女子全員から袋叩きにされ、その結果命に支障が生じても文句は言えない)

 

 毎年少しずつ人口は増えていて、六月の時点で千二百人を突破したらしい。

 初めての召喚から三十二年。

 ネイティブ世代同士の結婚・出産もそろそろ増えてくる頃である。ここからは人口の増加率がどんどん良くなっていきそうだ。

 そうなると家もたくさんいるし、家を建てる土地も必要になる。世界の欠片の需要がまた高まってくるかもしれない。

 

「欠片のためにもダンジョン攻略を頑張らないとね」

 

 レンたちは三十六階からの「オーガの山」を飛行作戦で攻略している。

 飛んでいてもオーガの投擲攻撃には気をつけないといけないし、頂上に到達しても殲滅能力がある程度ないと登ってきたオーガたちから袋叩きに遭いかねない。意外とスリリングな攻略になってしまったものの、クリア階数自体は順調に増えた。

 そして。

 

「いよいよ、次で四十階」

 

 三十九階をクリアしたところで恒例の作戦会議を開いた。

 情報についてはあらかじめみんなにも確認してもらっている。そんな中、まだまだ日本語練習中で攻略本が読めないミーティアが軽くワインなどを嗜みつつ尋ねてきた。

 

「三十五階同様の激しい戦いがあるのよね。……でも、今度の階は少し毛色が違うのでしょう?」

「うん。今回は三十六階から三十九階までが屋外で、四十階がダンジョンなんだ」

 

 位置づけとしては山の中に存在する広い洞窟ということになるらしい。

 通路の広さはオーガが二体並べるくらい、ということで人間が通行するにはかなり広い。ただ、敵の脇をすり抜けて突っ切ったり上を飛んでいくのはほぼ不可能。

 

「厄介ね。接近戦を挑もうにも空間に限りがある中、リーチの違う得物で襲われるわけでしょう? 距離を離そうとしても移動できる範囲は少ないわけだし」

「マリアさんでも厄介、っていうか、マリアさんみたいなタイプじゃないと本当に大変なことになりそうだよね」

 

 身のこなしに優れたマリアベルはまだマシなほう。耐えるタイプのメイにはかなりきつい。

 

「敵の数も多いのですよね。各個撃破できるのはありがたいですが、それだけに厳しい戦いを何度も何度も強いられることになります。肉体的疲労よりも精神的疲労が問題になるかと」

 

 シオンの発言にアイリスが「じゃあ、やっぱり」と口を開いて、

 

「あの作戦で行くしかないでしょうか」

「うん。たぶん、それが一番かな」

 

 この階なら前にも使った「あの作戦」が効果を発揮しそうだ。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「トンネル」

 

 四十階のスタート地点は洞窟の入り口だった。

 本来なら外と繋がっているはずの場所に階段がどん、と口を開けているため、実際に外へは出られない。

 ただ、ステージ的に「外」が用意されている可能性は高いのでは?

 レンたちはその推測を基に通路へと穴を空けた。その穴を上へと伸ばしていって洞窟の外、山の表面へと繋げると、

 

『出られたわね』

 

 呼吸を我慢していたように大きく息を吐いたミーティアが表情を緩めてテレパシーで呟く。

 

『でも、こっちにもオーガがいるね』

 

 出た先はこれまでのステージと同じような荒れた山。そこらにオーガが徘徊しているのも同様だ。洞窟が外と繋がっているのであれば当然と言えば当然なのだが、そんなところまで作りこまなくても良いのに、と言いたい。

 ひとまず全員で大きく飛び上がって襲われるのを避け、

 

『やはり、目指すは頂上ですね』

『今回はそこにボスはいないけどね』

 

 ボスがいないからこそ、頂上が一番腰を落ち着けやすい場所のはずだ。

 案の定、そこに居座っているオーガはいない。これなら、と、レンたちは地上へ降り立つと魔法を全開。追ってきたオーガたちを迎え撃った。

 しばらくしてあたりが静かになったところで休憩を取りつつ様子を見る。

 

『外から追加が出てくる様子はないか』

『繋がっているようで繋がっていないんでしょうか』

『相手側だけ出たり入ったりできるんじゃ不公平じゃない。私はこれでいいと思うわ』

 

 敵が来ないのならこちらから行くまで。

 攻略本の地図を頼りに「この辺りかな?」とあたりをつけ、ボス部屋へと直接穴を空ける。二度ほど失敗した後、なんとかうまくいった。

 最奥の部屋の入り口あたりにすとん、と降り立てば、ニ十体近いオーガたちが侵入者に対して怒りの咆哮を上げた。

 洞窟全体に響き渡るような大声。

 

『多すぎませんか、いくらなんでも』

『アイリスちゃん、ミーちゃん。他のところから増援が来ないように落とし穴掘れないかな?』

『やってみます!』

『いいけど、その間、奴らの相手は任せるわよ』

『うん。そっちはわたしとシオンでなんとかするよ』

 

 素早くテレパシーでやり取りをしつつ動きだすレンたち。

 

「マジックアロー!」

「狐火!」

 

 成長に応じて数が増える光の矢はついに最大数に達し、最大までブーストをかけた時の本数は二百本に至った。

 九発×五連発の狐火と合わせれば目くらましとしても十二分。ついでに前の方にいたオーガへと痛烈な痛手を負わせることに成功する。

 その間にフーリは非実体化して物理攻撃への耐性を上げ、メイはメイスではなく腕の鉄球砲を使って狙撃を敢行した。

 オーガたちは基本的に接近戦型だ。

 通常のオーガに加えて強い個体のハイオーガ、戦いに長けたオーガウォーリア、さらに強力なグレートオーガ、最強にしてボス格であるオーガチャンピオンまですべて、優れた体躯を武器にしてくる。洞窟の中であり、投げる岩の落ちていないここでは手持ち武器を簡単には投げてこない。

 近づかれるまでに牽制も兼ねて最大魔法を連発、一体でも多くの敵を葬ろうとして、

 

「早っ!?」

 

 敵の足の長さを馬鹿にしていた。

 思った以上の速度で肉薄してくるオーガたち。悲鳴じみた声を上げたレンは再度マジックアローを放ちつつ、慌てて飛翔。

 フーリとメイが移動する時間を稼ぎつつ敵を攪乱する。

 

『駄目だ。これ、通路に逃げた方がいい』

『え? 思いっきり落とし穴作っちゃったわよ?』

『その方がいいよ。敵には簡単に越えられない』

 

 飛べないメイだけは他のメンバーで運び、落とし穴地帯と化した通路の上空から魔法を連発。

 なんとか四、五体までは葬るも、業を煮やしたオーガが手にした武器を振りかぶって、

 

『やば!』

 

 フーリの風魔法とレンの土属性変換魔法をぶち当ててなんとか防ぐ。

 

『ちょっとレン! いったん退却した方がいいんじゃない!?』

『うん。もう一回トンネルで外に出よう!』

 

 大慌てで頂上まで戻ってくると、一行は安堵の息を吐いた。

 

『……きつい。HPが馬鹿みたいに高いからなかなか数が減らないし、こっちは一発もらっただけで大ダメージだから』

『敵がここまで追ってこられないのが幸いですね。正攻法で戦っていたらどれだけ大変だったことか……』

 

 これは簡単にはクリアできそうもない。

 

『こうして休憩している間に敵のHPは回復するのかしら?』

『回復魔法や再生能力でもない限りはそう簡単に回復しないはず。もちろん、多少の疲れは取れるんだろうけど』

 

 レンたちはヒールなどで回復できるのでそのぶん有利だ。

 

『これ、あれかなあ。わたしとシオンで削っては戻ってくる、っていうのが一番いいかも』

『わたくしがレンさまを乗せて、ですね。それでしたら攻撃を受ける可能性も低そうです』

『大丈夫? それでもけっこう危険だと思うけど』

『フーリたちはMPかなり使っちゃったはずだし、しばらく休んでて。他の方法が必要になったらまたお願いするから』

 

 ボス部屋へ繋げて掘った穴は縦穴に近いため、自由落下の感覚で突っ込んでいける。

 シオンに乗った状態で突入したレンはオーガチャンピオンと視線を合わせた。敵もレンたちがもう一度来ることは予想していたのか。何体かが武器を投げようと構え始める。

 

「穴から出た瞬間を狙われなかったのは良かったけど……!」

「次に同じことをしたら狙われるかもしれませんね……!」

 

 シオンに空中を駆けてもらいつつ、何度か魔法をバラまいて再び撤退する。逃げる時は小さくなったシオンをレンが抱いて飛べば速い。

 

『お帰りなさい。どうだった?』

『んー……倒せたのは五体くらいかな。やっとこれで半分になったと思う』

『敵が増えていないのは幸いでしたね。作っていただいた落とし穴が効いているようです』

 

 加えて、突入はできてあと一回。

 これは全員で行ってフルパワーで叩き潰すしかないかもしれない。出費は覚悟でフーリたちにMPポーションを飲んでもらい、十分に回復したうえで、

 

「トンネル」

 

 念のためにもう一工夫。

 さらに二本ほど穴を作り、どこから出てくるのかわからなくしたうえで突入。これが効いたのか、穴を抜けた瞬間になにかが飛んでくることはなく、

 

「マジックアロー!」

「狐火!」

「ウインドスラッシュ!」

 

 数を減らしたオーガたちはフルメンバーでの魔法攻撃にさすがに耐えられなかった。

 最後に残ったチャンピオンはメイに相手をしてもらいつつ他のメンバーで遠巻きに囲み、ランダムに攻撃を浴びせて翻弄した。

 恨みがましそうにボスが消滅していった後、ほっとひと息ついたところ、部屋の外からなにやら大きな音。見れば落とし穴の向こう側、本来なら通り道で戦うはずだったオーガたちが通路の落とし穴を埋めようと土木作業を始めていた。

 

『やば。レン、早くここから撤退しよ!』

『うん。ドロップ品だけかき集めて──』

『石碑の文言がいるんでしょう? 私が見て覚えるから文章に起こすのは後にしなさい!』

『ありがとうございます、ミーティアさん!』

 

 大慌てで戦後処理を終え、出現した下り階段から神殿へと帰還。

 戻ってこれたと思った瞬間にみんなして床に座り込んでしまった。

 

「さすがに今回はきつかった……」

 

 今度こそ本気で、しばらく新しい階には行かないほうがいい、と思った。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「……それで? 今回はどんな報酬を得たのか教えてもらおうか」

「おっさん、さすがに慣れてきたね」

 

 翌日、賢者の元へ報告へ向かうと、彼は「待ってました」と言うようにレンたちを出迎えてくれた。

 慣れてきた、と言ってもその目は爛々と輝いており、部屋の掃除から始められてはたまらないとばかりに部屋の中もいつもより片付いている。

 遠足前日の小学生のような有様であり、要するに慣れたのは「五の倍数ごとになにか新しいことが起きる」というジンクスについてであり、それを期待し喜ぶのはなにひとつ変わっていない。

 それはそれとして、レンは彼に告げた。

 

「ようやく、アイリスとメイにクラスレベルが増えたよ。これで二人もほぼフルパワーだね」

「やはりか……!」

 

 ぐっ、と拳を握って喜ぶ中年賢者。

 がたん、と音を立てて椅子から立ち上がった彼は興奮を抑えきれないとばかりにそのあたりをうろうろし始める。

 嬉しいのはわかるが、ここまでのパターンからだいたい予想はしていただろうに。

 

「さすがに喜び過ぎだってば」

「何を言う。これで戦力増強の目途が完全に立ったのだぞ!? 四十階まで到達すればネイティブ世代も我々と同等の戦力となるのだ!」

「それはそうだけど、四十階攻略がきつすぎだよ」

 

 あれは生半可な実力でクリアできるところではない。

 ベテランが引率するにしても正攻法では難儀するだろうし、レンたちがやった攻略法はメンバーのほとんどが飛べる前提だ。

 

「それに、四十階まで来てやっとわたしたちと同じって、子供たちに厳しすぎじゃないかな?」

「いや。それは仕方なかろう。異種族で固めたパーティの強さは君達の活躍でよくわかった。これまでは転生アイテムに限りがあったし、戦力増強のためとはいえ人を辞めることに忌避感がある者も多かった。しかし、祝福さえ受けられるのであれば異種族を増やす方法は他にもある」

「それって、もしかして」

 

 前々からの賢者の言動を思い出したレンは「うわあ」という顔になって、

 

「そう、異種族の子供だ。彼らは強力な戦力になる。ダンジョンをクリアすれば強くなれるとわかれば挑戦する者も増えるかもしれない。……これは、子育て支援的な援助を検討するべきかもしれないな」

 

 異種族の血が入った子供を作るとお金がもらえる的なプランらしい。

 レンたちのように両方が異種族の場合は二倍もらえるのだろうか……って、そうではなく。

 

「前にアイリスの妹たちには強制しない、とか言ってなかったけ?」

「強制はしないさ。しかし事情が変わった。拝み倒して検討してもらう価値は十分にある」

「ああ言えばこう言うなあ、本当」

「仕方なかろう。君達だって激化する難易度の恐ろしさを味わったはずだ。すぐにクリアできないのであれば次善の策を練っておかなければならない」

「……確かに、ね」

 

 四十階の戦いを終えてみて、レンは脳内の攻略プランを大幅に修正しなければならなかった。

 なんならこのまま百階(仮)まで戦い続けるのではなく、先に子育てした方がいいかもしれないとすら思った。

 二年。

 長いようで短かったが、ここからさらに十年先を見据えるのであれば、決断が必要な時なのかもしれない。

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