あれらは何の前触れもなく、唐突に現れたと言われている。
そうして我々が数多の恵みを得ていた海を瞬く間に制圧したあれらの事を【深海棲艦】と呼称した。
当時の各国の軍や我が国の自衛隊(現世界防衛軍)は、人々の暮らしを守るべく深海棲艦へ攻撃を開始をした。
と言っても、最初に攻撃をする前には警告をしていた様だがあれらは聞き入れることなく、襲い掛かってきたため反撃をしたと伝えられている。
しかし兵器の尽くがほぼ効果なしであり、当時の大国が核兵器を使用したが駆逐イ級を一隻轟沈させることが出来たという散々な結果であったそうだ。
人々は絶望した。海を封鎖され、空ですら高々度を飛ばなければ対空攻撃にて落とされるのだから、輸出入どころか支援すらまともに行えずに正しく命がけであった。
海を忘れるしかなく、陸に引きこもり緩々と数を減らす人口。
世界の終末へ向かっていると人々が諦めかけたその時、彼らと同じく、彼女らも唐突に現れた。
恐れ多くも、遥か過去、護国の為に海を往き、戦い、未来を残る者に託し役目を終えていった軍艦。
その名を、魂を継いだ、麗しの女性。
【艦娘】と呼ばれた彼女らは、深海棲艦とまともに戦うことの出来る唯一の存在だった。
当初は我が国でのみ生まれていった艦娘は、人間の領域を拡大していくと共に他国でも生まれていったと聞く。
彼女らは軍艦の頃の魂のせいか、【提督】という存在を求めた。
そこで我が国は当時の自衛隊を自衛軍、現在の世界防衛軍とし、陸の支援、復旧を陸軍、海域の防衛や奪還を海軍と分け、海軍の中で艦娘を指揮する為に特別な教育を
受けた者を提督として各地に配備した。
しかし艦娘には、妖精と呼ばれる整備や開発、果ては彼女らが装備する艤装を操る補助をする存在がいる。
その妖精は普通の人々の目には見えず、しかも彼ら彼女らは気まぐれな性格をしているらしく、艦娘のためならば助けてくれたとしても人間のためには動かないこともあった。
けれどその妖精を見え、言葉を交わすことが出来る人も極々稀にいる。
その確率は数万、数十万分の一とも言われ、妖精を見える人物は何故か皆が聡明であり、優しい心を持っている。
妖精という存在がその様な人物にしか見えないのか、はたまたその様な人物の前にしか姿を現さないのかは定かではない。
そこで国の首脳陣は全国にて一斉検査を行い、妖精とコミュニケーションを交わすことが出来る者を軍へと勧誘した。
当時は世界が疲弊しており、今では考えられないが勧誘とは名ばかりの招集であった。
しかしそんな国の対応にも真摯に向き合い、艦娘の命を預かると決めた当時の提督に就任した人々には頭が下がる思いである。
(中略)
何故深海棲艦が現れたのかは今でも定かではない。
しかし当時は環境の汚染や破壊が酷かった。
陸でもそうであったそうだが、海では特に酷く数多の廃棄物が海底に海面にと廃棄されていた。
筆者が思うに、あれらは世界からの人類への警告のために現れたのではないだろうか。
海を汚すのであれば、海に人類が出ることが出来なければ汚れることがないと思い、海を制圧した。
当時の人々は、便利な生活のために犠牲にしていたものが多くあった。
そうして我々が生きる地球への、自然への感謝を忘れ、恩を仇で返す人類へのアンチテーゼ。
そう思わずにはいられないほど、当時の環境は悪かったと伝え聞く。
それと同時に何故艦娘は現れてくれたのか。
深海棲艦大戦の資料には深海棲艦を撃滅した際に、艦娘が見つかることがあったとある。
深海棲艦を撃滅した時にのみにしか見つからなかったそうだが、それが何を意味しているのか。
未だに否定派も肯定派もいる話ではあるが、今現在で一番に有力視されているのが深海棲艦と艦娘というのは同じ存在である、ということである。
さて筆者の考えでは深海棲艦は人類への警告だったのではないか、ということだが艦娘が深海棲艦と戦ってくれたのであれば両者を同一と見るのは無理があるのではないか、という声もあると思う。
しかし我が国には八百万の神々、また付喪神という観念がある。
八百万の神々とは、この世には森羅万象、この世一切の物事には神がおわすという観念である。
また付喪神とは、長い年月を経たものには魂が宿るという観念である。
それに加え、船舶とはよく女性として例えられている。
そのような観念を持っている人類の切なる願い。
徐々に減っていく人口、その先にある未来。
深海棲艦が世界からの警告、世界の願いであれば、艦娘とは人類の希望、人類の願いであるのではないか。
そしてかの大戦を人類と艦娘の勝利で終えることが出来たのは、世界が我々を認めてくれたのではないだろうか。
我々が世界への、艦娘への感謝を忘れたその時、次こそはかの大戦を超える、結果として人類の存亡が待ち受けているのかもしれない。
(中略)
今現在でも艦娘は世界の海を守るために活動を続けている。
大戦以前ではあった国同士の戦争も、彼女らの抑止により久しく起こっていない。
彼女らにはどの国にも指揮権がなく、各国から選出された提督のみが彼女らを指揮することが出来る。
選出基準は妖精とコミュニケーションを交わすことが出来る、そして出生国や特定の国へ肩入れすることのない、世界のことを第一に考えることが出来る者のみである。
たとえ偽って提督として選出されたとしても、そのような者には妖精とそれまでコミュニケーションを取れたとしてもそれ以降姿を消すとのことだ。
彼ら彼女らには我々では分からない何かを感じ取ることが出来るのかもしれない。
それにより各国からは軍隊というものが事実上消滅し、各国は世界防衛軍へ協力し、世界防衛軍は世界各地に拠点を持ち、紛争が起きた際には世界防衛軍が直ちに集まり鎮圧している。
(中略)
かの大戦の終戦記念日前後では艦娘による観艦式が各地で開かれている。
式には各国の首脳やその代理も参加しており、また一般の市民にも開放され彼女らの雄姿を見ることが出来る。
その中でも横須賀鎮守府での観艦式は規模が大きく、なんと世界各国に普段散らばっている空母艦娘の全てが集まるほど。
その理由とは横須賀鎮守府横のとある元居酒屋(現在は深海棲艦大戦資料館となっている)にある石碑である。
全空母艦娘の母とも言われる伝説、軽空母艦娘鳳翔。
彼女と、そして彼女と共に戦った妖精たちの功績は比類なき素晴らしいものであった。
大戦を終結へと導いた数多の艦娘の中でも一際輝く武勲艦娘。
その彼女が現役時代に過ごし、そして終の棲家ともした居酒屋鳳翔。
彼女が逝った後、気付けばその石碑は立っていた。
そして彼女の艤装の補助をしていた妖精は二度と人の前に姿を出すことはなかった。
観艦式を終えた空母艦娘たちは石碑の前で整列し、一糸乱れぬ敬礼を捧げる。
艦娘直属の妖精すらも共に敬礼するその姿は式での雄姿とはまた違う雄姿で心を揺さぶるものがある。
そして彼ら彼女らは母とも言える彼女に向け、石碑に刻まれている言葉を己の心に刻み、今までも、そしてこれからの世界の平和を守り続けることを誓う。
その石碑に綴られ、彼女たちが刻み込む一文を紹介したいと思う。
〈共に海を往き、空を駆け、そして共に未来を生きる。それが我ら鳳翔直属航空隊。〉
かれこれ10年ちょいぶりにSSなるものを書きました。本文考える前にオマケから書くスタイル。