ある日、未来の自分と夢の中で会えるようになった過去の吹雪は、自分が十日後に沈む運命であることを知る。果たして、過去の吹雪は運命を乗り越え、生き延びることが出来るだろうか?

初投稿です。

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海色

 夢を見ている。

 

 

 夢の中の「私」が、今まさに独りで沈もうとしている。

 

「ごめんね…私、運命を変えられなかったみたい…」

 

―そんな。どうして。私はあなたを助けられる筈だったのに…

 

―運命に抗えないなんて…

 

 「ううん…違う!そんなことはない!今の私は、あなたに思いを託せる!ひとりぼっちで死ぬわけじゃない!

 前を向いて進んで、私!静かな海を守って!」

 

 

 

 夢を見た。

 

 

「私」は、深海棲艦の艦載機から空襲を受けていた。

 

 

「初雪の舵が不調!?白雪、旗艦の交代をお願いします!」

 

 所々傷んだ艤装を付けた夢の中の「私」がそう言うと、手に装備している連装砲と機銃を全力斉射し、こちらに押し寄せてくる爆撃機の大群を迎撃していく。

 

 他の皆も敵の機銃掃射を素早く避け、どうにか揚陸地点に向かい、敵の攻撃を切り抜いて行った。

 

 凄い。

 

 現実の自分とは比べものにならないほど練度が高い。

 

 でも、ここ周辺の海域は全く見覚えが無いように見える。

 

 

 彼女は本当にただの夢の中の自分なのだろうか?

 

それともそっくりなだけの別の人物なのだろうか?

 

 そう考える私は、届くはずが無いのに、聞いてしまう。

 

―あなたは誰?私なの?

 

 「…?頭の中で何か…」

 

 聞こえてしまった。

 

が、それと同時に敵の戦闘機らしき音が響き、「私」はそれっきり答えなかった。

 

 

 

 戦闘が終わり、「私」が泊地に帰投したので、私は彼女にまた質問をすることにした。

 

―あなたは誰?私は吹雪。あなたは?

 

「やっぱりさっきのは幻聴じゃな…って吹雪!?私と同じ名前じゃない!」

 

 こうして、未来と過去の吹雪の、とりとめも無い会話が始まった。

 

「未来の私の僚艦って、誰がいるの?」

 

―睦月ちゃんと夕立ちゃん。二人とも大切な友達なんだ!

 

「睦月ちゃんか…そっか、私は白雪、初雪、叢雲が僚艦なの。

 

皆可愛い妹だけど、最近はうざがられちゃって」

 

―そっかぁ、こっちの三人は相変わらず仲良くやっているから、意外だなぁ…

 

―そっちの日付は?

 

「今は一九四二年十月一日。

 

ここ最近は輸送任務ばかりで、皆やさぐれちゃっているの…

 

未来の私もそんな感じなの?」

 

―それはっ…

 

 意識しか無いはずの私に、冷や汗が走る。

 

 かつての私が沈んだのもその時期のはずだ。

 

 それが彼女もそうだとしたら…

 

 

 そのとき、突然後ろから、深雪がかける総員起こしのラッパが聞こえた。

 

 それと同時に過去の吹雪の世界が急速にぼやけていく。

 

『総員起こし!総員起こし!みんな、早くおっきろ~!』

 

 目が覚めてしまった。さっきの夢は何だったのだろう?

 

 

 

 夢を見る。

 

 

 私は小綺麗な布団で寝ていたみたいで、睦月ちゃんと夕立ちゃんを起こしている。

 

 腹を空かせたのか、早く行っちゃうね、朝ご飯が待ちきれないっぽい、なんて口走りながら、寝間着のまま制服に着替えもせずに、食堂へまっしぐらに向かっていってしまった。

 

(これはもしかして、さっき頭の中で聞こえた、未来の私の世界では?)

 

呆気に取られながらも、少し遅れて朝の支度をしている私に声をかけてみる。

 

「あの~もしかして未来の私…ですかね?」

 

―え!?

 

 どちらかが寝ると、夢の中でもう一人の世界に行けて会えるようだ。

 

「昨日の夜に何か言い淀んでいたのは、一体何だったのでしょうか?」

 

 そう言うが早いか、未来の私は手に持っている…板?らしきものに指を動かし、そして愕然とした表情を見せ、やりきれない顔を見せながら呻く。

 

―これって…

 

 そうしてその板に映った文字列は、「私」の命日が十日後であることを、残酷にも示していた。

 

 

 かつて存在していた実在の艦。

 

 艦娘はその名前と魂を受け継いだ存在…であるようだ。

 

 少なくとも未来の吹雪の世界ではそうであるらしい。

 

そして、駆逐艦・吹雪の艦歴と、「私」の戦歴が大筋で一致しており、それによると「私」は一九四二年十月十一日、サボ島沖で撃沈してしまうとのことだった。

 

 頭の中で思いが渦巻く。

 

 確かに、この大戦は激戦で、いつ何時死ぬかなんて分からないし、実際に仲間も、憧れた先輩も沈んでしまった。

 

 だが何故、どうしてその死が「私」に、そしてもうすぐ襲いかかると言うのだ!?

 

「嫌だ…死にたくないよ」

 

 弱音が零れる。

 

 未来の私も、顔が暗い。でも、何かを決断したようだ。

 

―私が、あなたを助けるんだから!

 

 そう言うと、未来の吹雪は居ても経っても居られないのか、部屋を飛び出して鎮守府内にある資料室に向かう。

 

 未来の私は今日は非番らしく、時間を忘れて、「サボ島沖海戦」、その場に居た艦船―重巡・青葉、古鷹、衣笠、駆逐艦・吹雪、初雪の当時の行動を必死に調べ、ノートに書き写す。

 

―心配しないで、過去の「私」。

原因が分かれば大丈夫。

必ず、戻って来られるから。

 

 そう言って励ましてくれる未来の私は、どこか祈りながら言っているように見える。

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 

 

 休んでいる青葉さんの顔を、「私」は複雑な表情で見つめていた。

 

 駆逐艦・吹雪が沈んだ理由が、青葉に乗艦していた第六艦隊司令部が十分な索敵を怠り、敵艦隊を味方部隊と誤認したことであるからだ。

 

―青葉さんにこのことを伝えたら、もしかしたら助かるかもしれないんじゃないかなって。

 

 未来の私が言っていたことを思い出す。

 

 でも、どうすれば自分の忠告を信じてくれるだろう?

 

 

 

 夢を見ている。

 

 

「私」は予言者になることにした。

 

―つまり、これから起きることを予言という形で伝えることで、青葉さんのミスを回避しよう、ということですか?

 

 そういうことだ。

 

 調べてみると、重巡・青葉は10月3日にショートランドに来襲してきた三機の爆撃機のうち、一機を撃墜したらしい。

 

「これだ!」

 

 

 

 夢を見た。

 

 

 真夜中、警戒に当たっている青葉に、「私」が声をかけた。

 

「どうです?電探に何か?」

 

「うーん、青葉の電探には特に何も…」

 

「多分、そろそろ敵の爆撃機が現れるはずなんですけどねぇ」

 

 青葉は訝しんだ。

 

 確かに自分の電探が初期型で感度があまり良くないことは承知しているが、そもそも吹雪は電探を装備していない。

 

 勘で言っているのだろうか?

 

 「吹雪ちゃん、それってどこ情報?」

 

「予言です。夢の中で、○三三○に敵機が現れる、と誰かが言っていたのを聞いたんです」

 

「なんだぁ、夢の話?吹雪ちゃん、冗談はあんまり…」

 

 

 そう言いかけた青葉は、次の瞬間、自分の目を疑った。

 

 正に○三三○に、電探が南西から接近する三機の敵機を感知したのだ。

 

 慌てて対空戦闘を行い、なんとか一機を撃墜した青葉。

 

「これって…マジってこと…?」

 

「私」は無言で頷いた。

 

 

 静寂が戻った泊地は、いつもと少し違う空気に包まれている。

 

 

 

 夢を見た。

 

 

 次の日、「私」は輸送任務を終えた後、青葉さんに、七日後に起こる夜戦について詳細を伝えることにした。

 

 即ち、ガダルカナル島近辺には駆逐五、軽巡二、重巡二の計九隻が第六艦隊を待ち構えていること。

 

 司令官が敵艦隊を味方の水上機母艦隊と誤認して、敵に先手を取られてしまったこと。

 

「このまま進んでしまえば、私だけで無く古鷹さんも居なくなってしまうんです…

どうか、どうか信じていただけないでしょうか!」

 

「わ、分かったから、そんなに土下座までしなくても」

 

 青葉は全く事態を飲み込めていなかった。

 

 急に予言を言い出した吹雪が、今度は来週に決行される予定の作戦を喋りだしたかと思えば、青葉のミスで吹雪と古鷹が沈み、自身も大破してしまう結果に終わるなどと語り出す。

 

 流石に直ぐに信じることは出来なかったものの、吹雪の必死な懇願は、自分の記憶から長らく離れることが無いような、そんな気がした。

 

 

―青葉さん、これで分かってくれたのかな?

 

 未来の私が不安そうに独りごちる。

 

 運命の女神は、その舵を良き方向へと回すのだろうか?

 

 それは、過去の吹雪も、未来の吹雪にも分からない。

 

 

 

 夢を見る。

 

 

 次に「私」が起きた日、それが「私」の運命の日だ。

 

 大丈夫。青葉さん、古鷹さんにも伝えるだけは伝えた。

 

―確かに史実の私はあの夜沈み、そして歴史の中に埋もれて消えて行ったかも知れません。

 

でも今生きているあなたは、それとは違う存在です、生き残るはずです!

 

 未来の吹雪がそう言い切る。

 

 でも、本当に生き延びられるのだろうか?

 運命は変えようの無いほど強固なもので、「私」はただの史実をなぞる幻のようなものなのかもしれない。

 

「ねえ、未来の私」

 

「もし私が死んでしまって、全て海に溶けてしまったら、それでもあなたは私を覚えていてくれる?」

 

 未来の吹雪は私の言葉に面食らったように見える。

 

 最近は気丈に振る舞っていたから、急に弱音を吐いたのを見て困惑してしまったのかもしれない。

 

―たとえ、たとえあなたが消えて居なくなったとしても、探し出して見せます!

大丈夫、大丈夫、あなたが消えるなんてことはありません!

 

 泣きながら未来の私は答えた。

 

うん、そうだよね。運命を、乗り越えて皆で帰るんだ!

 

 

 意識が遠のく。

 

 

 

 夢を見ているのだろうか。

 

 

 運命の日の終わり際、何度目とも知れない夜戦が始まろうとしていた。

 

 

 一九四二年十月十一日二一四三、青葉が艦影を発見する。

 

「左十五度、艦影三、進路南西、距離100!

 

 吹雪ちゃんの話が本当なら、あれは敵の艦隊なんだけど…」

 

 青葉は逡巡する。

 

 あれは味方の艦隊かも知れない、と直感的に判断したものの、あの吹雪が力を込めて言っていたのだ、信じてみる他あるまい。

 

「よし、全艦、目標、左舷の艦影!砲雷撃戦用意!」

 

 青葉は迷いを振り切り、攻撃を決意する。

 

 

 重巡洋艦三隻が最大船速で突入する後を、「私」と初雪が続く。

 

古鷹が探照灯を照らし、敵艦隊の陣容を露わにさせる。

 

 駆逐イ級四隻、軽巡ホ級二隻、重巡リ級一隻、重巡ネ級一隻。

 

数では劣るけど、先手を取ってT字有利に出来たこちら側が優勢だ。

 

 でもおかしい。敵の駆逐艦が一隻足りない。一体どこに?

 

 

「艦隊、陣形移動!単縦陣に!」

 

 青葉さんの指示に「私」は雑念を捨て、目の前の敵に集中する。

 

 動揺しているのか、艦隊陣形を満足に取れない敵艦隊に向けて、全艦が魚雷を撃ち込む。

 

 数秒後、大きな爆発音と黒煙が上がった。

 

 魚雷の直撃で誘爆した二隻のホ級が欠片も残さず消え去り、リ級が四肢を無残に散らしながら水底に沈む。

 

―やった、大戦果だね!

 

 未来の私が喜ぶ。

 

 切り込んだ重巡たちが、雷跡の回避で手一杯になっている敵駆逐艦に砲撃を加え、次々に沈める。

 

 被弾、大破し、最期の力を振り絞って一矢報いようと試みたイ級の一隻も、重巡の主砲でなすすべも無く海に消えて行く。

 

 もはやこちら側の勝利は確実だ。

 「私」は運命に抗えたんだ!

 

 

 

「目標、右舷の重巡だけ!残り一隻!」

 

 衣笠さんから通信が入る。

 

「私」がそこへ向かおうとしたときだ。

 

 

―後方から雷跡…!?避けて!

 

 

 もう遅かった。

 

 

 爆発に吹き飛ばされ、「私」は宙を舞い、海面に叩き付けられた。

 

後方から、一隻の駆逐ナ級が主砲を乱射しながら突っ込んで来たのだ。

 

静止目標と化した「私」はそれを避けられない。

 

左手、右足、左耳、と次々に命中し、艤装が破壊される。出血が止まらない。

 

「こんなところで…沈んでぇ、たまるかぁぁぁぁ!」

 

 僅かに機能していた連装砲の片方から放たれた弾が、ナ級の主砲に吸い寄せられる。

 

火薬庫に引火したナ級は、あっという間に消し炭となった。

 

『キ…キサマラァァァァァァァ!!!!!!』

 

 遠くでは、奇跡的に雷撃を回避できたネ級が雄叫びを上げ、他の四隻と激しい戦闘を繰り広げている。

 

 周囲にいる味方艦は、この必死に抵抗する敵旗艦に気を取られ、瀕死の「私」に気付かない。

 

―救難信号を出して!

 

 未来の吹雪が叫ぶも、「私」の声は届かない。

 

 通信機器は破壊され、電源も回復しない。

 

 妖精さんが応急処置を施そうとしても、それが追いつかないほど浸水が止まらない。

 

 自分の体が沈み始めたその刹那、「私」は自分が助からないことを直感的に理解してしまった。

 

 

「ごめんね…私、運命を変えられなかったみたい…」

 

―違う、あなたは史実の吹雪じゃない!まだ諦めないで!

 

 

「でも、見て。

 

もう、体の半分が海に沈んで、救援も間に合わない。

 

帰れるって言葉、変われるって言葉、全部嘘になっちゃったね…」

 

―そんな。どうして。私はあなたを助けられる筈だったのに…

 

―運命に抗えないなんて…

 

 未来の吹雪が絶望に染まる。

 

 それを見た「私」は、気付いた。

 

 一つ、史実の私と、決定的に違う部分を。

 

 

「ううん…違う!そんなことはない!

 

今の私は、あなたに思いを託せる!ひとりぼっちで死ぬわけじゃない!

 

前を向いて進んで、私!静かな海を守って!」

 

そう、「私」の死は無駄じゃない。

 

こうして未来の私が見てくれているし、何より、私が命を賭して守った未来で、あなたが生まれてくるのなら。

 

「後悔は無いの。ありがとう、吹雪」

 

「私」の体が海に溶け、意識だけが沈んで行く。

 

 記憶は海に還り、光になって消える。

 

でも、不思議と悲しくは無かった。

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 

 

 波の音が、「私」の最期の言葉を、何度も繰り替えさせる。

 

 私しか知らない、二人の吹雪の記憶。

 

 その記憶の意味をまるで試しているみたいに。

 

 目に浮かぶ涙に滲んだ朝の光は、今日はことさらに眩しく見えた。

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。
この短編は、艦これ第一期のop、『海色』の歌詞の解釈に感銘を受けて執筆したものです。
久々に聞いてみるとやっぱり感動が止まらない、正に神曲です。
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