ファー・ファー・アウェイ   作:Sashimi4lyfe

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青き目の奴隷少女の一日

朝。

 

奴隷たちを起こす鐘が鳴り響く。

 

外はまだ暗いけど、私たち奴隷には起きる時間を選ぶ権利はない。

 

体をゆっくりと起こすと、頭に鋭い痛みが走る。目がまだ重いけど、早く外に出ないと朝ごはんがもらえない。

 

テントの前に横一列に列を作って座り、朝ごはんの配給を待つ。他の食事は抜いても大丈夫だけど、朝ごはんだけは食べなきゃいけない。お母さんがそう言っていたから。

 

他の奴隷たちの前を通りながら、看守が面倒くさそうにバナナの葉でくるまれた食事をどさっと奴隷の前に置いていく。隣の奴隷たちからお腹が鳴る音が聞こえてくるけど、みんな我慢しなきゃいけない。看守の許しが出るまでは。

 

食事を配り終わると、看守は自分用の食事を取り出してむしゃむしゃと食べながら私たちの前を歩く。今日の彼の朝ごはんは、ご飯にお肉、それに野菜が数種類。まだ湯気が立ってるから、きっとできたてなのね。聞いた話だと、私たちを惨めな気分にさせるためにわざとこうやって歩きながらたべるらしい。まぁ、私はどうでもいいんだけど。

 

看守が一通り食べ終わると、ようやく私たち奴隷に食べるお許しをもらえた。奴隷たちが一斉に藁の紐を解き、バナナの葉にくるまれた朝ごはんにありつく。

 

今日の朝ごはんは細切れの野菜とご飯。ご飯を少しかき分けると鶏肉の骨が混じってた。今日はついてるわ。

 

ここのご飯はいつもベタベタしてるけど、もうそんなものには慣れてる。食べる前に、私は必ず匂いを嗅いでから食べる。鼻が痛くなるような臭いがしたら絶対に食べちゃいけない。もうあんな思いはこりごりよ。

 

今日のご飯は草と土の臭いがする。少し泥が混じってるのもそのせいね。でもこれぐらいなら食べても大丈夫。お腹に入っちゃえばこっちのものだもの。

 

朝ごはんの時間が終わると、すっかり日が昇り切っていた。そろそろ今日の仕事が始まる。

 

「立てぇ!!」

 

看守の声が響き渡ると、奴隷たちは急いで立ち上がった。

 

「手を前に突き出せぇ!!」

 

言われるがままに両手を突き出すと、列の先頭から看守が手かせを一人一人に着けていった。あぁ、今日はお屋敷でのお仕事なのね。

 

手かせを奴隷たちにはめ終わると、それらを今度は鎖でつなぎ始めた。こんなもので繋がなくても、私は逃げないのに。

 

看守が他の奴隷を鎖でつなぐのを待つ間、私はぼーっと空を眺めた。何の命令もないこの時間。この時間に私は何をしたらいいのかわからない。

 

シルヴィ。それが私の名前らしい。私のお母さんが生きていた頃に私をそう呼んでいた。

 

お母さんの顔はまだ覚えてる。私と同じ白い肌と、青い目を持ってた。お屋敷の人たちはこの肌の色を綺麗だの、美しいだの言うけど、別に奴隷として生きるのならいっそみんなと同じように茶色の肌が欲しかった。

 

気が付くと、先頭の看守はもう歩き始めていた。私たちはもちろん歩いて彼をついて行くのだけど、彼は必ず馬に乗ってる。馬に乗るのってどんな気分なのかしら。

 

ゆっくり、ゆっくりと前の奴隷と足並みをそろえながら私は歩いた。地面に何か尖ったものが落ちていないかどうか確認するため、みんな下を見ながら歩いてる。ここで何か変なものでも踏んじゃったらもう大変。傷に泥が入って足が腐っちゃう。

 

お屋敷に行く際、私たちは必ず町中を通る。なんでも町の人たちに逆らったらどうなるか知らせるために私たちを見せしめとして見せるためなんだって。

 

お屋敷に着くと、看守たちは鎖を解いて、私たちを別々の仕事に当たらせる。男の奴隷たちは力を使う仕事へ、女の奴隷たちは庭の手入れと洗濯へ。でも女の奴隷の中には、お屋敷に入らされる人たちもいる。

 

私もその一人。他の子どもの奴隷は親の手伝いをさせられるのだけれど、お屋敷の人たちは私のこの肌と目の色がお気に入りらしい。

 

「シルヴィ、ヌリャさんがお呼びだ。」

 

手かせを外され、お屋敷のある部屋へと連れて行かれる私。

 

部屋はとても広く、きれいな飾り物が壁いっぱいに飾られてある。その部屋のベッドにヌリャさんは座っていた。

 

「よく来たね。おや、またそんなに体を汚して。可哀そうだ、おじさんが綺麗にしてやろう。さぁ、一緒に風呂場においで。」

 

ヌリャさんの言葉は優しいようでいつも嘘が潜んでいる。私の体が汚れているのが嫌なら、違う所に私を住まわせればいい。でもそれが狙いじゃないことはもうわかってる。ヌリャさんは私を風呂に入れる口実が欲しいのだ。

 

「どれ、綺麗にしてやろう。服を脱ぎなさい。」

 

私が服を脱ぐと、ヌリャさんも裸になった。なぜ一緒に裸になる必要があるのか、私にはわからなかった。しかしこれが彼の楽しみであることは簡単に見て取れる。私を風呂に入れる時、ヌリャさんは決まって大きな笑みを浮かべるから。

 

彼の大きく、ごつごつした手が私の体を隅々まで這いまわる。こんなことをして何が楽しいのか私にはわからないけど、畑で農作業をやらされるよりずっとかマシ。

 

ヌリャさんが気が済むまで私の体を洗うと、服を着させられてベッドに上がらされる。

 

「はぁ、はぁ、シルヴィ...」

 

別に疲れるようなことは何もしていないはずだけど、ヌリャさんはいつも息を上がらせて私の上に覆いかぶさる。そしてさっき着替えたばかりの服をなぜかまた脱がせた後、よくわからないことを私の体にする。

 

私の体の臭いをかいでみたり、色々なところを舐めて見たり、触ってみたり。気持ちがいいとは言えないけど、そこまで痛くもない。ここで逆らったらもっと痛いことをさせられるのは分かってるから、私はただじっとしたままされるがままに体をゆだねる。

 

一通り私の体を弄ると、ヌリャさんは私の横で横になる。彼の大きなお腹が息に合わせて膨らんだりしぼんだりしてる。

 

ちょうど雨がぽつぽつと落ち始めたかと思った時、ドアがガチャリと開き、野太い声で話しかけてきた。

 

「おいヌリャ、いつまでその玩具で遊んでいる。」

 

だらしなく寝転んでたヌリャさんが勢いよく起き上がった。

 

「も、申し訳ございません、ムルガ様!」

「奴隷を帰す時間だ。時計の針もろくに読めんのか、貴様は。」

 

ムルガ様はその鋭い目で私を見下す。

 

「貴様もさっさと床から出ろ。貴様のような汚らしい()()を屋敷に置いておけん。」

 

私は急いで服を着て部屋の外へと逃げるように出て行った。あのお方だけには逆らったらいけない。

 

屋敷の扉の前には、他の女奴隷たちが手かせをはめられるのを待っていた。皆、服が破けていたり白い液体が顔についたりしている。私と似たようなことをもっと大勢の人たちにされているらしい。その点ではこの白い肌も役立たずじゃないのかもしれない。

 

他の奴隷たちは手かせをはめられ、雨に打たれながら鎖でつながれるのを待っていた。

 

一人の看守が鎖を先頭の奴隷につなごうとした時、目がくらむような光と共に爆音が辺りに響き渡った。これが雷ってやつなのね。こんなに近くで見たのは初めてだわ。

 

その瞬間、雷に気を取られていた看守を突き飛ばして一人の奴隷が叫んだ。

 

「みんな、今だ!逃げろぉぉ!!!」

 

彼の勢いに押され、一人、また一人と奴隷が門めがけて走っていく。

 

「あんた、名にぼさっとしてんのさ!行くよ!」

 

隣にいた女奴隷が私の腕を引っ張って走った。何が起こっているのかさっぱりわかんないけど、とにかく行けと言われたから走った。

 

「止まれぇ!!止まらんかぁ!!」

 

看守たちの声がする。止まらないと後でもっと酷いことされちゃうよね。

 

「止まるなぁ!!今なら逃げ切れる!!」

 

どうしよう。もう誰もここに残る気はないみたい。

 

「止まれぇ!!!」

「止まるなぁ!!!」

 

二つの命令が頭の中で衝突してる。一体どっちを取ればいいの?

 

 

 

ドヒュン。

 

 

 

鋭い音が響き渡った。これは確か、銃の音。

 

バタリ、バタリと周りの奴隷たちが銃弾に当たって倒れていく。これではっきりした。もうここで止まっても生き残れる保証はない。

 

なら、精一杯走ってここから出てやる。

 

「門はもうすぐそこよ!もう少しで逃げ切れるわ!」

 

そう言ったかと思った次の瞬間だった。

 

突然私の手を引いていた女奴隷がばたりと倒れ、その勢いで私もこけてしまった。

 

背中に空いた穴から真っ赤な血が流れ出ている。もうこの人はおしまいね。

 

「行き...なさい...」

 

虫のような息で彼女は私に言った。

 

「ここまで連れてきてあげたんだから...ちゃんと逃げ切りなさいよ...」

 

その声を聞いた瞬間、私の中で何かが切れた。

 

一心不乱ってこういうことを言うのね。頭の中が真っ白になって、ただただまっすぐ走っていった。

 

足がどれほど疲れようと、息がどれほど苦しくなろうと走った。そして、気がついたら町中の大通りに立っていた。

 

ようやく意識が戻ってきたかと思うと、ある質問が思い浮かぶ。

 

(これから、どうすればいいんだろう?)

 

奴隷の私をかくまってくれる人なんているだろうか?でも、私をかくまっているとばれたらその人もムルガ様に殺される。いや、殺されるだけならまだいい方。もっとむごいことをされるかもしれない。

 

でも、このまま町の中をうろうろしてたらどのみち見つかっちゃう。どうにかしてかくまってくれるところを探さなきゃ。

 

コンコンコン。

 

とりあえず手当たり次第にドアをノックしてみる。

 

一軒目の家はドアを開けてくれさえしなかった。仕方ないよね。次を当たろう。

 

コンコンコン。

 

二軒目はどうかな。

 

ガチャッ。

 

中から女の人がドアを開けてくれた。

 

「あ、あの.....かくまって.....」

 

バタン。

 

私の姿を見るなりドアを閉められた。私が奴隷だと気付いたのね。

 

それから何軒か回ってみたけど、誰も私をかくまってくれなかった。

 

でも、あきらめるわけにはいかない。あの人が言ったように、ちゃんとあいつらから逃げ切らないと。

 

もうこれで何軒目かしら。そろそろ立っているのもしんどくなってきちゃった。

 

一軒目の家から随分遠い所まで来たけど...もうこれまでかしら。

 

最後の力を振り絞って、ドアをノックしてみる。

 

コン。

 

もうノックする力も残ってない。もうこれまでなのね。

 

でもムルガ様に捕まるよりましか。私はもう十分逃げた。

 

生まれ変わったら...お父さんとお母さんがいる家族に生まれたいな...

 

 

 

 

――――・・・・・

 

 

 

 

 

...まぶしい。

 

これはお日様の光?鐘の音なしに起きられたのなんていつぶりかしら。

 

そういえば、体の上に布がかぶってる。体の下もふわふわして柔らかい。ここはどこ?天国ってこんな所?

 

「あ、ザンジ!あの女の子、気が付いたみたいだよ!」

 

聞きなれない声がする。声のする方向を見ると、見たこともない男の子と背の高い男の人が私の方を見ていた。

 

「俺はゲンっていうんだ!君、名前は?」

 

今、私名前を聞かれているのよね。名前を聞かれたなら答えないといけないのよね。お母さんが言っていたわ。

 

「私...私は...」

 

喋り慣れてないから、あまり声の出し方がよくわからない。でも、言わなきゃ。私の名を。

 

「シルヴィ。私の名はシルヴィ。」

 

 

 

 

 

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