異形のヒーローになりたくて~シャドウレイダーDT~ 作:かつおナルド
この俺、ヒロ・イーギョウは転生者である。
何故転生したのかは然程重要ではない。
俺自身もよく解ってないし、何か死んだら転生していたという
今時珍しくも無いような一般転生者だ。
ミドガル王国のカゲノー領なる、近代ナーロッパの田舎村に生まれた俺は、当初はテンション爆上がりだった。
普通の田舎村だったら、現代オタクの申し子である俺は退屈に殺されていただろうが
なんと、この世界には魔力なる物が存在しているのだ。
魔力を操り絶大な力を持って戦う戦士、魔剣士と呼ばれる彼らは国中から尊敬の念を集め
王族の価値も、この魔剣士としての技量によって左右されるほどらしい。
そして体に魔力を宿していた俺は、前世で憧れたヒーローのような力を手に入れられるかもしれないと必死になって魔力を鍛えた。
鍛えて、鍛えて、鍛えぬいて――――そして萎えた。
まず考えてみれば当たり前だが、この国では魔力を持っている事が前提の職業が当然のように存在している。
日本で銃を持ち歩いているのは特別な人間だけだが、銃社会であるアメリカで銃持ってる人が居ても、そいつはただの銃を持っている人だ。
それと同じで、もし日本に魔剣士が居たら、そいつは何故戦うのか、それを剣に訊く生活を送っているのだろうが
ミドガル王国の魔剣士は普通のサラリーマンでしかない、戦うのは治安と給料のためである。
それが悪いという話では無いのだが、俺みたいな人間が魔力のために必死になれるのは
アニメや特撮のキャラクターみたいな、特別な存在になりたいがためなのだ。
そこに特別性が無い事に気付いてしまえば、やる気が無くなるのは当然の帰結と言えた。
あと、この世界の魔力は基本的に身体強化しか出来ず、一部の天才ならば魔力を放出できるという
どちらかと言えば、気とかオーラみたいな物みたいなもので
アーティファクトが無ければ魔法的な現象は起こせないというのも、やる気を削がれた理由の一つだった。
ちなみにアーティファクト職人になる道は即座に諦めた、金もコネも無い田舎農民では足がかりすら掴めない道だったからだ。
そんな俺に転機が訪れたのは、村の子供の中から『悪魔憑き』と呼ばれる奇病を発症した少女が現れた時だ。
魔力を操る訓練をしている時に苦しみだした彼女は、魔力を暴走させた反動だと判断されて
村の診療所に連れていかれ、診断の結果、大人たちがなんやかんや騒ぎ出し
誰も彼女に近づいてはいけないと公布されてからしばらく後、なにやら立派な(後に聞いたら教会だったらしい)馬車に連れられて行った。
その際にチラリと見えた少女は、明らかに人の形をしていなかった。
その日の夜、親から悪魔憑きの話を聞かされた俺は眠る事が出来なかった。
もし、悪魔憑きの原因が魔力暴走にあるのなら、魔力に人の肉体を変性させる力があるのなら
―――なれるのではないか、変身ヒーローに、それも人から迫害される異形系のやつ。
俺の魔力熱が再燃した瞬間であった。
とはいえ、いきなり自分の魔力を暴走させるほど俺は馬鹿では無い。
テンションのままに、ヒーローのコスプレ的な衣装を作り上げると
実験材料として、死んでも誰も困らない人間、例えば盗賊かなにかを攫おうとした。
出来ればサンプルとなる悪魔憑きも手に入れたい。
そう思いながら、魔力で強化した健脚を駆使して、毎夜治安の悪そうな場所を駆け抜ける日々。
そうしてある日、俺は彼に出会った。
カゲノー男爵家子息、スタイリッシュ盗賊スレイヤー、そして後の陰の実力者にして、俺と同じく転生者。
自称シャドウこと、シド・カゲノーに。
※※※
「しかし、変身かぁ、その発想は僕にはなかったな」
「最近、っていうか俺達が死ぬ前くらいだと、体を直接変性させるヒーローは少なくなってたからな」
「あっあっあっあっあっ」
「外見だけなら、僕のスライムボディスーツでそれっぽく出来るけど」
「ちょっと前ならそれで満足したかもしれないけど、今はな。理想を見つけちゃったから」
「あっあっあっあっあっ」
「なるほど、わかるよ。大事な所は妥協すべきじゃないよね」
「あぁ、人の心で悪魔の力を制した獣、それが俺の目指す変身ヒーローだ」
「あっあっあっあっあっ」
「ダークヒーローか、僕も好きだよ。彼らには陰の実力者に通じる物がある」
「いいだろ?闇に生まれ闇を討つ、例え人から理解されなくても……」
「あっあっあっアッ―――…」
「ん?間違ったかな?」
俺とシドが出会った、盗賊達の住処となっていた廃村。
そこは俺達の実験場と化していた。
ある日の夜、この廃村で盗賊をスレイしていたシドと出くわした俺は
危うくついでに、スライムボディースーツの実験としてスレイされそうになったが
彼が俺の姿を見て「特撮ヒーロー…?」と呟いた事で九死に一生を得た。
この世界に特撮と言う概念は存在しない、つまり、それを知ってる彼はトラックに轢かれた――かどうかは知らないが、転生者だという事だ。
そこから話はトントン拍子に進んでいった。
子供が大人になるにつれて忘れていく夢、それを今さらに本気で追いかけようとしている俺の姿は
彼の琴線に触れたらしく、盗賊に襲われた馬車から偶々、肉塊となった悪魔憑きを見つけたシドも、自分の身体では出来ない魔力暴走に関する実験をしたくなったというので
俺達は夜な夜な、盗賊を引きずってこの廃村で落ち合っては、魔力が身体に与える影響を調べてる事になったのだった。
「筋肥大と体表の硬質化には成功してるみたいだね」
元盗賊の死体を検分しながら、シドが呟く。
「あぁ、魔力で思い通りの外観にするコツは掴んだんだけど、問題は生命維持だな。悪魔憑きはあんな姿でも生きてんのに、何でこいつらすぐ死ぬかなぁ」
「うーん、魔力不足じゃない?アレの魔力、ほんとに化け物染みてるからねぇ」
「と、なると魔力持ちの検体を探すか、こいつらの身体を魔力を持つように作り変えるか、か……」
「丁度僕の方でもやってみたい実験があったんだ、上手く行ったらそっちに回すよ」
そう言いながら、シドは廃屋の中に転がしておいた盗賊に手を伸ばした。
「ひぃっ……やめてくれっ!頼む!もう誰も襲わないから!」
「あ、そこは別にどうでもいいから。というか、来世でも頑張って世界に蔓延ってくれ。その方が僕も助かるから」
シドが盗賊で実験を始めたため、代わって俺は悪魔憑きの肉塊を調べる事にする。
「本当に凄い魔力だなこれ、少なくとも、俺達が回収してからはメシどころか水だって飲んでない訳で、どっから湧いて来るんだこのエネルギー」
「それな。なんか細胞の作り?魔力を生み出すメカニズム?みたいなのが根本的に普通と違う感じがするんだよね」
「あっあっあっあっあっ」
悪魔憑きとは誰でも成り得るものではなく、生まれついて特別な肉体を持っているという事だろうか?
もし悪魔憑きが特別な細胞を持っていて、暴走した魔力がそれを活性化させた結果ならば…
「……ぶち込んでみるか、悪魔憑き細胞(仮)」
※※※
「ははははっ!よくもやってくれたな間抜けなガキどもがっ!この力でまずはてめぇらをひでぶっ!」
結果から言えば、実験は成功し、悪魔憑き怪人と化した元盗賊は元気に活動しはじめ
陰の実力者にぶち殺される事となった。
「やった…!やったぞシド!ついに研究は完成だ!」
「おめでとう、ヒロ……ところで、本当に君もこれになるの?」
シドはお前本当に正気か?みたいな顔をしてこちらを見てくるが、正直お前だけには言われたくない。
「当たり前だろ、今まで何のために頑張ってきたと思ってるんだよ」
「……僕は本来、ドーピングみたいなのは好きじゃないけど、流石にこれは尊敬するよ」
※※※
俺は悪魔憑き細胞(仮)が移植された事で黒くなった左腕を撫でながら、肉塊に魔力を流し込むシドを眺めていた。
ひと先ずの目標を達成した後の解放感と、新しい玩具を手に入れた時の高揚感。
これはワクワクを思い出すね
「さて、これから設定を詰めていかないとなぁ」
「ベースは初代ライダー的な感じでいいんじゃない?」
世界征服を企む悪の組織、そこで作られた改造人間、ベタではあるが
凝った設定にしても、この世界では理解を得られないだろうし、それでいいか。
「あとは見た目と能力だな、俺としてはパっとみで怪物というか、獣的なワイルド感じを推しだしていきたいな」
「才能とフィジカルに頼った戦い方は、僕はあんまり好きじゃないな」
シドが割と本気で嫌そうな顔をしながらそう返す。
実験の最中に彼の身の上話は聞いていたのだが、彼は前世から地道な鍛錬をひたすらに積み上げてきた努力家であり
この世界に転生したのも、努力の結果、前世でも死の直前に魔力を得たからだと思っているため
才能よりも堅実な積み重ねを重視しているらしい。
魔力云々は間違いなく妄想か思い込みだと思うが、その考え自体は素晴らしい物だと思う。
「堅実な強さを求めたら、シドと同じ戦い方をするのがベストだってのは解ってるけど、それじゃキャラ被っちゃうだろ」
「…!たしかに、キャラ被りは不味いな、そうなったら僕は君を殺す事になるかもしれない」
いきなり物騒な事を言い出すシドだが、陰の実力者は孤高なのだから、同じ戦闘スタイルで同格の相手が居れば
雌雄を決する以外の選択肢が無いのは仕方がない事だ。
「あと、変身時の服の関係で、これからは常にスライムボディスーツを着る事になるから、スーツを前提にしたスタイルも確立しないとな」
「それなら、こういうのはどうかな?君は元々獣のような戦い方をしていた、だが戦いの中で陰の実力者である僕と出会った事で、スーツと理性的な戦い方を得た。
これなら戦い方が似通っていても問題ない」
「お、それいいな、大体事実だし、その方向で行こう」
そうやって、二人で変身後の設定を練って盛り上がっていた時にそれは起きた。
シドが肉塊の中で荒れ狂う魔力の制御に成功したと思うと、腐った肉塊は金髪の美少女エルフに変化した。
突然の展開に驚いた俺達だが、目を合わせ頷き合うと、シドは陰の実力者スタイルとなり、片膝を立て木箱に腰掛け
俺は横向きにシドの隣に立ち、腕を組んで木箱に体重を預ける強者立ちをした。
美少女エルフが目を覚まそうとした瞬間、俺達の心の少年が告げたのだ。
ここが格好の付け所だと。
「私の身体が…嘘…貴方達は…?」
困惑する美少女エルフに―――いや、この世界に対して、俺達は高らかに告げる
「―――我が名はシャドウ」
「―――俺の名はレイダー」
―――この世界には、悪魔憑きを弄ぶ邪悪な奴らが居る!