自分は幸せになってはいけないと思い込んでるアイドルvsなんとか普通の幸せを与えようとしてくる事務所のみんな   作:エンゼ

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思いつき。
というか全く勝負してないかもしれない。


vs千川ちひろ

 人は誰しも、基本的に存在価値がある。それは家族だったり恋人だったり、はたまたトラックの運転手さんなんかも挙げられるかもしれない。人というのは誰かに支えられて生きている社会性の動物なのだから。

 

 でも、その基本的に当てはまらない存在だっている。蜂の群れの中に二割ほど何もしない蜂がいるように、人間にもそんな価値を出すことができない者がいる。

 

 彼女は自身をそのように考えていた。支えられはしても、誰かを支えることはできないのがわたしだったからと。原因として、彼女が学校で迫害を受けていたことがある。本来のきっかけは大したことではないのだが。さらに、両親も彼女を置いていなくなってしまった。ただ死なれては困ると判断されたのかは定かではないが、金は置いて行ってくれていた。

 彼女は、自分が価値を出すことが出来なかったからこうなってしまったに違いなかったのだと信じていた。

 

 クラスメートからのいじめや金だけ置いて消えてった両親に対して仕方がないと思う一方で、蓄積されていく痛みや苦しみの対処に困った。諦めが入っているとはいえ、彼女の器にも限界がある。生活していくためには吐き出す何かが必要だ。そう、趣味だ。

 

 彼女の場合は、それは歌だった。ただしただ歌うだけではない。今はもう行っていない学校での日々貯め込んだ理不尽、いじめ、身体的痛み、精神的苦しみなどを込めて歌う。轟かせるように、身振りもつけて。その様はもはや叫んでいるといってもいいほど。

 

 最初は人に聞かせるつもりなどなかった彼女。しかし何かの縁か、あるプロダクションのアイドル部門のプロデューサーにスカウトされ、大衆の前でそれを披露することになる。

 

 人は、それに魅せられた。圧倒されたのだ。理不尽を歌っていることに対して共感という甘いものではない。その場を彼女の歌だけで支配したのだ。誰もが彼女に釘付けになった。

 

 幸が薄そうな彼女を見た時と、歌を聞き終わった後で百八十度印象を変えたのだ。ただ一回、いつものように歌っただけで。

 

 彼女はそこで気が付く。初めて人に求められたことを。そして至る。自分の価値はこれにしかないのだと。

 ストレスを歌う姿、それが人々を魅力している。だったら、それを提供し続けなきゃならない。自らの価値を示し続けるために。

 

 だからこそ、彼女は幸せにならない。なることが出来ない。そんな姿は求められてないのだから。

 

 これは彼女──守谷桜子が、幸せから抗うお話である。

 

 

 

 ───

 

 

 

 あの日、わたしは理解した。わたしの価値はこれしかないんだって。溜め込んでたモヤモヤを吐き出して歌う、あの姿しかもう残されてないんだって。

 

 言われるがままに着いていった先でやっと見つけられた存在価値。無くしたくない大事なもの。わたしが周りに提供出来るようになったもの。

 

 今こうなっているのは一種の奇跡だ。あの日あの場所にもしいなければ、こうして価値を見つけることが出来なかったのだから。そしてきっと、もう次はない。

 

 だから、わたしは幸せになっちゃいけない。幸せになってしまえば、価値を提供出来なくなってしまうから。

 

 もっと言えば、これから先もモヤモヤを溜めていかないといけない。いじめられてた時みたいに。

 だけど学校はお姉さんがいかなくてもいいって言ってた。だったら学校の時間もレッスンをしてたほうが価値の提供に繋がるだろうから最近は事務所かレッスン場か寮にいる。だから、そこでモヤモヤを溜めていく必要がある。

 

 モヤモヤを溜めるにはどうすればいいか? それは勿論────一人ぼっちであり続けることだ。

 

「……」

 

 鏡に悪そうに映るわたしの姿。今まで以上に完璧な仕上がりだ。これで誰もわたしに近づかないはず。

 

 基本的にみんなは集まっている。少なくても一人、多くて五人くらいで。その集まりがたくさんある中で一人ぼっちの人がいたらみんなはどうするか? そう、いじめがはじまるんだ。

 今はまだ中々前みたいにいじめは始まってないけど、いつかはあの時みたいになるはずだ。変に思われるだけでもいい。

 

 ……本当はよくはないんだけど。別に、いじめられたいってわけじゃないから。でもしないといけないから、こうしてるだけ。

 

「……いこ」

 

 ドアを開けて部屋の外へ。

 今日の予定はボーカルレッスンだけ。撮影もライブもなし。さっさと終わらせて帰ろう。お昼と夜は……適当でいっか。近くに何もなかったら、食べなきゃいいだけだし。

 

 レッスン場を目指す。着替えもちゃんと忘れずに。一人ぼっちでいなきゃって言っても、関わんなきゃいけない人もいるからそれは仕方ない。話す人はできるだけ少なく。これを意識しなきゃ。

 

「……あ、いたいた。桜子ちゃん!」

「! お姉さん……」

 

 緑色の事務服を着たお姉さん──千川ちひろさんが声を掛けてきた。わたしの叔母さんで。今のわたしの保護者。

 

「どう? ここには慣れた?」

「……はい」

 

 一緒には住めてないけど、その分事務所にいるときによく気にかけてくれて話しかけてくれるし、連絡もよくしてくれる。

 

「今日はレッスンだけ? 送っていこうか?」

「……大丈夫です。一人で行けます。レッスンは午前中だけですね」

「そう? じゃあお昼一緒にどうかしら。弁当作ってきたの」

「え」

 

 親戚とはいっても、ここに来る前に会ったことがあるのは結構昔の一回だけ。ほとんど知らない子なのに、こうして構ってくれる。わたしはまだ甘えるべき歳なんだって言って、こんな感じで甘えさせようとしてくる。

 

 正直、嬉しい。だってお姉さんのお弁当美味しいし。だから嬉しいんだけど……乗っかっちゃいけない。だってここで甘えちゃったらモヤモヤが溜まらないどころか、消えちゃう。それじゃあダメだ。

 お姉さんはきっとわたしを思ってのことだと思う。でもお姉さんもここの事務所の人だから、あのわたしを求めてるはず。これに応えちゃったら、結果的にお姉さんも不幸になっちゃう。

 

 だったら、ここは断るのが正解。

 

「……いえ、だいじょ」

「実は桜子ちゃんの好きな生クリームプリンもあるんだけど」

「プリッ…………………いえ、やっぱり」

「最近私甘いもの控えててね、二個あるんだけど来てくれたら二個とも──」

「行きます」

 

 プリンには、勝てない。ずるいですお姉さん。そしてごめんなさいお姉さん。

 

 

 ──────

 

 桜子のレッスン終了後、ちひろが迎えに行き、事務所内で向かい合って昼ごはん。

 

「もっ、もっ、もっ……」

「……ふふっ」

 

 美味しそうにプリンを笑顔で頬張る桜子を優しい笑顔で眺めるちひろ。この笑顔で既にお腹いっぱいの様子であった。

 

「(いい笑顔するようになったなぁ、桜子ちゃん)」

 

 安心したように、内心呟く。なにせ、再会が酷すぎたのだから。

 

 ちひろと桜子が二度目の邂逅を果たしたのは、実はすごい偶然の重ね掛けであった。

 

 たまたまあるカラオケ店で、たまたま桜子が発散していた部屋に、たまたまこの事務所のアイドルプロデューサーが部屋を間違えて入ってしまい、たまたま桜子がそれに気が付かずプロデューサーに発散の様子を見せてしまい、そしてスカウトされた。

 その際、場所も場所ということで一旦事務所にて詳しい話をしようということで事務所に連れていかれ、その時に再会した。そんな経緯がある。

 

 久しく桜子を見た時、ちひろは最初は分からなかったが、すぐに桜子であると気が付き、親の元に返すべく連絡を取ろうとした。

 

 そこで、桜子の当時の現状を知ることになってしまう。

 

 クラスメートからはいじめられ、学校に居場所がないこと。両親は急に家に帰らなくなり、連絡が取れないこと。──これらは自分に価値がないからと、思い込んでいたこと。

 

 何より、それを桜子自身の口から平然と語られたことが、よりショックを加速させた。深く傷ついてしまったが故に、感情の出し方を忘れてしまったんだと理解せざるをえなかったから。

 

 それから色々あり、今は桜子はこの事務所のアイドルになり、ちひろはサポート兼保護者の立場にいる。そのサポートというのは主に桜子の心のケア。当然ちひろ一人ではなく多くの者の協力もあり、最初こそ無表情だったのが、今では隙のある表情になってくれている。ただし当人は無自覚だ。

 

「……お姉さん、食べないんですか?」

「──え? あぁ、そうね。食べる食べる」

 

 そこまでお腹は空いてないが、桜子にこれ以上気を使わせるわけにはいかないということで、食事を始める。ちひろは食べ始めたのを見届けて、再び頬張りを再開。さっきと同じように、満面の笑みだ。

 

 思わず、ちひろは桜子の髪を撫でる。

 

「!──お姉さん?」

「桜子ちゃん。何かあったらすぐに言ってね? 私でもいいし、プロデューサーさんでもいいわ。この二人じゃなくて誰でもいいからね? ここの皆は、桜子ちゃんの味方だから」

「…………はい」

 

 一瞬曇り顔になった桜子の表情をちひろは見逃さない。

 

「(……まだ、信じられないのかしら。……そうよね、あんなことを経験してたら、人間不信になっちゃうわよね)」

 

 ちひろ達は桜子が人間不信に陥っていると判断していた。基本的に他の人に絡みに行こうとせず、むしろ人といることを避けて行動していることに起因していた。

 

「(この子が楽しくいられるように、元気になってもらうために、そして信じてもらうために、これからもうんと構わなくちゃね)」

 

 先は長いだろう。加えてそれは茨の道だ。だけどちひろの覚悟は、桜子の保護者になるときに既に決めていた。自らの子のように大事に扱い、甘えさせ、そして導くだろう。きっと、最後まで。

 

「ところで、ここにチョコレートプリンがあるんだけど──」

「食べます」

 

 いつも不相応に大人びているが、プリンが絡むと幼くなる桜子を見て、やっぱり子どもねとほほ笑むと同時に、元気を取り戻してきているとして、嬉しくなるちひろであった。




守谷桜子。
いじめ+ネグレクト被害者。
世間から弱ってる心で歌う姿が求められてる(と思い込んでる)系アイドル(実際は言葉に感情を込めることと、歌の魅せ方がすごく上手なだけ)。
いじめやネグレクトの原因を自分と思い込むことで悲しみの大部分を諦めに変換し、なんとか心を保たせて生きてきていた。
価値提供のために不幸であり続けないとと考えている。

千川ちひろ
叔母兼お姉さん兼保護者。
事務所と協力し、桜子に平穏な幸せを与えたいと考えている。
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