自分は幸せになってはいけないと思い込んでるアイドルvsなんとか普通の幸せを与えようとしてくる事務所のみんな 作:エンゼ
ちなみに女性Pです。
微修正しました。
今日はレッスンも何もない完全にオフの日。学校に行ってないのはレッスンの時間を多くとるという理由があるのに、それさえさせてくれないのはダメなんじゃないかと、こうして休みを貰うたびに感じる。
学校での勉強を一切してないってわけじゃないから、勉強の時間を取ったというのは違うと思う。むしろ毎日ちゃんと自室でやってるし、お姉さんがたまに勉強見てくれてるしで、その辺りは問題ないはず。
そういうことで、勉強が理由じゃないのは確実。じゃあなんで休みをくれるんだろうとベットに転がり考える。わたしは他のアイドルみたいにテレビやラジオに出ることはあんまりない。だから多くの人がわたしを見るのは、歌の番組とか、イベントとかその辺り。殆ど歌って踊るくらいのことしかできてない。むしろ逆だと思うんだけどな。
そんな歌番組やイベントも、月に一回仕事があるってくらいの頻度。つまり、仕事はかなり少ないほう。
だったら、休みなんてもらっちゃいけないのでは……?
ここへの貢献度が一番低いアイドルって誰かと言われたら、真っ先に名前が挙がると思う。仕事したくないと普段から言ってるような子でさえ、わたしよりはテレビやラジオ出演、雑誌撮影とか多い。
仕事の方針を決めてるのはプロデューサーだ。だからわたしがもっと仕事をしたいと言ったとしても、最後にわたしがどんな仕事をするか決めるのはプロデューサーになる。
あの人、本当に何を考えてるんだろ?
いや頼りにはしてるつもりだけども。だってわたしをここに連れてきてくれて、わたしの価値を教えてくれたんだから。
それでも仕事がない分レッスンさせてくれてもいいのに。あでも、レッスンにもお金がかかるなら……あんまり仕事出来てない人にレッスンさせるよりは仕事ある人にレッスンさせるほうがいいかも。そういうことなのかな? でも、それなら────。
答えが出ない問題をぐるぐる頭で考え続けていると、途中で正気に戻った。気が付けば一時間くらい経ってる。
「……時間、無駄にしちゃった」
考えても何も変わらない。だったら、今わたしに出来ることをやるべきだ。ここでレッスンできないというなら──いつもの場所でやればいい。
トレーナーみたいに具体的にどこが駄目でどこがいいのかとか、詳しいことは分からない。でも、感覚で良い悪いは分かる。それくらいはできる。
いつものように人が寄ってこない格好をして外に出る。念のため変装も少々入れてみた。出ていく時に何人かとすれ違ったけど、誰も声をかけてくれないでいた。……良いことだ。
「……」
外は快晴。ちょっと肌寒いかなーって感じる程度ではあるけど、心地よい気温。こうして一人で外に出かけるのは久しぶりかもしれない。いつも事務所かレッスン場か部屋にいるし。
さて、行こう。お小遣いはお姉さんからもらってるから、お金の問題はなし。後は部屋が空いてるかどうかだけど……。
「あら、桜子さん?」
「あ、プロデューサー」
そんな時、プロデューサーと出会った。色々なところで打ち合わせしてきた後みたい。
わたしのプロデューサーは忙しい。担当はわたしだけみたいだけど、お姉さん曰く凄く出来る人みたいで、色んな人たちの手伝いとかもやってる。なのに、仕事をするのは楽しそう。すごい大人だ。
「これからどこに?」
「えっと、その……カラオケに」
そういえば、プロデューサーと初めて会ったのもカラオケだったな。めちゃくちゃ偶然だったし。運命ってああいうことなのかもしれないね。
っていうか、変装一応入れてるのに気づくんだ。すごいな。
「丁度良かった。この後私仕事はないの。よかったらご一緒してもいいかしら?」
「え」
え、着いてくるの? というか、忙しくないのこの人?
いやまぁプロデューサーとの付き合いは長くはないけど、わたし以上にわたしを知ってるところはある。だから別についてきても構わないっていうか、今のわたしの歌の状態を見てもらうって考えたらむしろ来てもらった方が個人的には助かるって思うところもあるんだけど。
本当に大丈夫なの? プロデューサーはこういってるけど、お姉さんに一回確認した方が良かったりするのかな?
……いや、でもここで嘘をついてもプロデューサー本人が困るだけだよね。それに、嘘をつく理由もないはずだし。
なら、いっかな。
「えぇ、いいですよ」
「やった! 代わりに、代金は私が持つからね」
「え、そんなの申し訳な──」
「子どもはこういう時素直に甘えておくもんなの。さ、行きましょ?」
──────
場所は移り、カラオケ店内。平日であったこともあり、そこそこ部屋は空いていたようで、すぐに案内がされた二人。
「私は聞くのに集中したいからさ、どんどん入れちゃっていいよ」
「わ、わかりました」
桜子は緊張しながら選曲する。もしここで失望されてしまえば、やっと見つけれた天職を無くしてしまうことになるからだ。
普段は人を出来る限り遠ざけて、いじめを誘発させようとしている桜子ではあるが、プロデューサーに対しては見捨てられないように出来るだけそのような行動は避けていた。
ただし、そこまで気に入られるつもりはなく、本人はともかくとして歌は利益にはつながるから置いてはおこうかな、程度の地位を狙っている。なので商品価値である歌に関してはプロデューサーの前では特に気が抜けない中で歌うことになる。
マイクチェックを数回やり、曲をマシンへ送信。大き目のディスプレイから映像、スピーカーから曲が流れ出す。
プロデューサーはその様子をじっと見ていた。プロデューサーとして、担当アイドルの実力を見るという意味でもあるのだろう。だが、明らかにそれだけではない雰囲気が混じっていた。桜子は気が付いてないようだが。
「スゥ……」
歌の前に空気を吸う。──そして、吐き出された。
「────ッ!!」
「(──あぁ、これだ……!)」
しっかりした表情とは一変、うっとりした表情で桜子を見る。さながら、ライブで推しを眺めるファンのような、優しくもあり、幸せそうな、そんな表情で。
彼女は桜子のプロデューサーであるが、それ以上に桜子の大ファンなのだ。
初めて桜子の歌を聞いたとき、心を奪われた。心に直接響くというのはこのことだったのかと痛感するくらいには。彼女がこの時ほど神様に感謝した日はないだろう。
それまでの人生は、有り体に言えば退屈なものであった。だが、桜子とその歌に出会い、変わったのだ。
ちなみにだが、彼女は桜子についていく際に今日はこの後暇だと言ったが、真っ赤な嘘である。当然ながら仕事は残っている。急ぎの物ではないが、早めに片付けておくべきという部類に入るものばかり。
しかし、それ以上に桜子と歌を優先した。──桜子のメンタルケアという、大義名分を掲げて。
「──ふぅ」
一曲、歌い終わった。あっという間であった。
プロデューサー、思わず拍手。気が付いた桜子、ほんのりはにかむ。
「──うん、よかった。流石、桜子さんね」
「え、あの、その……ありがとうございます」
「正直、言うことはないってくらいよ。レッスンの影響かしらね、前よりもよく魅せられてる。だけど──」
桜子全肯定botになりかけていたプロデューサー。全体的にパワーアップしてるのは確かだ。だが一点、わずかに以前よりも抜けている箇所があることに気が付いた。
「……だけど、なんでしょう?」
「……いえ、なんでもないわ。気のせいだったみたい」
しかし、敢えて言わない。それは、桜子には言う必要のないものであったから。むしろ、自分たちが削り取っているものであるのだから。
「(……うん、前よりも少しではあるけど、『哀』の度合いは減っている)」
今の桜子は喜怒哀楽の哀を歌っている。元々が哀を吐き出すための趣味であったのだから、そこは仕方がないのだが。
プロデューサーは見抜いていた。桜子が哀に特化しているわけではなく、感情を込めて魅せることが強みであると。今は哀を吐き出しているだけだから、そうなっているだけであると。
今は哀だけだ。しかし将来的に、喜怒哀楽全てを込めることが出来るようになれば? そう、桜子に隙が無くなる。殆どすべての世代をファンとして取り込むことも出来なくないほどになる。
派生すれば、キュート、クール、パッションなどのアイドルの属性の壁も超えることが出来るかもしれない。そうなれば、本格的に最強に一歩大きく踏み出せる。
そのためには、桜子には普通を知ってもらわなくてはならない。普通の子のように喜怒哀楽を知り、普通に生きるということを知ってもらわなくてはならない。これを学んで初めて、トップアイドルへの道を歩みだすことが出来る。
「それにしても、本当に流石ね。惚れ惚れしちゃう」
「そ、そうなんでしょうか……?」
プロデューサーとしては、桜子をトップアイドルにしたい。まず優先されることとして、桜子のメンタルケアだ。
自分に価値がないと思い込んでいたが、そうではないと。他の人と同じように、当たり前に生きてもいい存在なのだと、時間をかけてゆっくり教え込んでいく必要がある。
だから、プロデューサーは桜子にメディア露出の仕事をあまり持ってこない。見据えているのはこれからの桜子。世間の桜子のイメージが現状で固まってしまうのはよろしくないと考えての事だった。
第一歩として今行っているのが、自己肯定感向上であった。極力褒め、構ってあげ、ある程度の我儘は許容する、という三本柱でこの作戦第一段成功を図っていた。とはいえ、我儘らしい我儘は保護者のちひろ含めてまだ誰も聞いてないようなのだが。
だが哀が減ってきているというのは、目指す場所へ近づいている証拠となりえる。一旦強すぎる哀を削り、まだまだ弱い他を強くする。根気がいるし、長い年月かかる作戦だ。
しかしプロデューサーはやり続けるだろう。それが桜子を──推しを立派なトップアイドルに出来るというのならば。
「もっと聞かせてほしいわ。私、そんな桜子さんが大好きだから」
「だ、だいす!?!?!?」
守谷桜子
緊張しまくってたが、なんとか見捨てられずに済みほっとしてる。
直球で感情をぶつけられるのには慣れていないので、やられるとしばらくバグる。
せめて割り勘にしようとしたが、結局奢られた。
プロデューサー
桜子推し。
事務所と協力して桜子に普通の幸せを知ってもらい、それを基にしてトップアイドルになってもらいたいと思っている。
当然、奢った。なんならその後お菓子も奢った。